弱虫beast(中編)

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読了時間目安:37分

作者:ナキナモさん

弱虫beast 2

ちらりと横を見る。
何に疲れたのか知らないが、そいつは隣…というか私の肩に寄り添ってすやすや寝息を立てていた。
電車に乗るときに、少し周りの乗客からは避難の目が私に集中したかもしれないが、それはどうでもいい。私が一応連れていくと決めたのだ。周りの目など気にする必要は皆無である。あぁ勘違いしないでほしい。まだ今の段階では面倒をみるだけであって私の正式なポケモンというわけではない。それはこいつの意思だ。

…しかし、こいつはやはり私がイメージしたものとやはり随分違うもののようである。
一般的にルガルガンver夜となるとかなり攻撃的なのだが、驚くべきことにこいつの性格は臆病、人見知り、それと泣き虫。全く普遍的なver夜とかけ離れていたのである。
そこで私は、そのポケモンすべてがそういった性格ではないことを学んだ。

電車に乗る前に少し調べたのだが、近年ver夜に進化させるトレーナー及びその他の人間の数は減ってきているらしい。その理由は人相(?)が怖い、しっかり育てないと被害になるその他もろもろあるらしいが、やっぱり一番は今まで育ててきたイワンコが、急に攻撃的になるのが嫌だかららしい。そんなに怖ければ変わらずの石でも持たせておけばいいだろうとツッコミをいれたいのだが残念ながらトレーナー共はポケモンの進化を受け入れるしか強くなる道はないと踏んでいるそうだ。とどのつまり、それ以外の姿、昼もしくは……忘れたが、まぁなんとかの姿にさせるしかないのであろう。それらの方は誠実かつ忠実らしいからな。
じゃあ夜姿がなぜ生まれているのかと今度は疑問が生まれるが、そこまで考えていては仕方がないのでこれ以上掘るのはよそう。

ところで、今は春。午後。暖かい車内だ。
私の中の睡魔が突然目を覚ますにはちょうどいい頃合いだったようで、さっそく私に魔法をかけ始めやがった。
代わりに私を眠りに落とそうとしているが、そういうわけにはいかない。
このまだ眠っているこいつの背後を枕にすれば、夜は安眠だろうか。
抱き枕としても使えるかもしれんな。
いやいや待て待て負けるな私。寝たらこいつどころか私が路頭に迷うぞ。
というか、いつもならこんなにも暖かいのならさっさと負けてはいはい、どうせ駅に着く時のブレーキで起きるでしょうと自分に甘くするのだが、やはり今だけ踏ん張っているのはそれほど私がこいつの面倒見ることに責任を感じているということなのだろうか。それともただ私は人生上初めてとなる所持ポケモン候補として見ているだけなのだろうか。
どちらにせよ、私がそういうのに気になっているということは、この残酷な勝負に打ち勝たなければならないのである。負けるな。目をこじ開けろ。目を…




「あの…」
声。
弱々しい音が耳に届く。
それを聞いてから次に私はゆっくり目を開けた。
「ええっと、一応止まったんでお知らせを… わっ!?」
刹那。
目を開けると同時に私の脳の情報回路がその速さ0.01秒で状況把握し、ルガルガンの腕を掴み近くのドアへ走った。
間一髪。私が出ると同時にプシューとドアが閉まり、さらなる駅へ車両は走って行った。
…どうやら私はあの勝負に完敗してしまったらしい。なんという失態であることか。あ、私は山椒魚じゃないぞ。
鞄は腕にかけていたため忘れ物は免れたが…
「ええっと…下りる場所、ここで合っていたんですか?」
「…」
寝起きなので声を整えるのに少し時間がかかった。
「歩けば問題ない」
幸いなのは最寄り駅から次の駅で降りられたということだ。なんだ、宛にならんなブレーキ。いや勝手な私の仮想も悪かったよ。
急な立ち眩みが懺悔とともに私を襲った。
しかし…
「…すまん。寝てしまった」
「い、いえ…大丈夫です…こちらこそすみません…起きるのが遅れてしまって…」
「お前の責任じゃないだろう」
まずポケモンは主を起こすことがおかしいがそれはまぁいいだろう。

…ん? なぜポケモンが言葉を発しているのかって? それは突っ込まないでくれ。私にもわからない。

問題ないとか余裕をかましていたが、実質帰路は過酷だった。
何より少し離れているが未開の地だ。知っているところまで出るのにもとても時間がかかり、結局辛うじて帰ってこられたのは午後6時のことであった。
その間、こいつはおどおどしながらすみません、すみませんとばかり渋い顔をしていたので、その度に私は気にするなと言い続けたが、次第にお互い無言になった。
まだまだコミュニケーションもとらんといかんな。

母がいつもの時間帯と私の登場時間が合わず、玄関ドアを開けると同時に仁王立ちして表情を曇らせながらこちらを見たが、それも一瞬。すぐさま私の腰辺りに目線は下りた。
「…なぁに?その子」
「…拾った」
説明できるのはこれだけである。
ちなみにこいつは私の腰にしがみついてビクビクしている。
「……あらぁ!そうなの? よかった! あんた高校生にもなってまだポケモン持ってなかったもんね」
「いや、まだ候補で」
「それにしてもルガルガンか… いいんじゃない? ちょっとハードそうだけど、初めてにしてはキツめの方がいいわよね」
こいつは全然怖くないんだが。
「ほら、キノガッサ。挨拶して」
突然母がボールからキノガッサを取り出し、キノ~!とそいつが声を上げた。
と同時に肩をビクッとさせるトゥルース。そこまでビビらなくてもいいだろう。
この人もどうしてこんなにも人の話を聞かないのだろうか。まだ「拾った」だけにしか応答してないぞ。
「…まぁ、挨拶ぐらいはしておけ」
「…よろしくお願いいたします…」
トゥルースがペコっと頭だけ下げた。
言葉が相手に聞こえているのかどうかは知らないが、やはりこの光景も夜ガルガンではこいつ限定だろうね。
「まぁ! この子お辞儀するのね!」
…喋った部分に触れていないということは、もしや言葉がわかるのは私だけなのだろうか? どういうことかは知らないが、まぁ追及してもわかりそうにないものはわからなくていいか。


その後、何故か赤飯だった夕食を食い、てきとうに風呂に入り、こいつを部屋に上がらせ、てきとうに宿題を済ませてからずっとトゥルースにしたかった質問をしてみた。
「なぁ」
「はいっ!?」
…もしかしたら突然話しかけるのが苦手なのか? それとも何かを夢中に考えていたのだろうか。それについても考えてしまうほど癖が強いトゥルースは、またもや肩を震わせた。
まぁそれはいい。コミュニケーションの練習だ。
「お前のその後ろのやつ」
「え、こ、これ…ですか?」
「抱き枕にして寝ていいか?」
「フェッ!?」
今まで上げたことのないまた新しい叫び声をあげた、
「え、えっと…それはその…同じベッドで寝るということですか」
そっちか。
「まぁそうなるな」
「えぇ…」
また渋い顔をする。これも癖のようだ。
「なんだ、不満か?」
「…僕、一応オスですが」
自分を指さして言う。
「それが?」
「…や、柳田さんはオスじゃないじゃないですか」
「そうだな」
まぁ人間はオスメス言わんが
「えぇ…それって迷惑じゃぁ」
こいつは私よりも配慮に優れているのかもしれん。
「…雑魚寝でもしようと思ってたのか」
「そのつもりだったんですけど…」
苦笑いしながら頭をかく。この動作も割と見た気がするぞ。
「…で、抱き枕にしてもいいのか」
「それは…まぁ」
「そうか」
本人がそういうので、早速後ろからしがみついてみた。
「ファッ!?」
感触はぶつかったときのアレと変わらず、やはりもふもふほこほこである。これは安眠が期待できそうだ。まぁ電車内でやられてしまったからすぐに寝られるかどうかはわからんのだがな。
「な、なんで抱き枕にしたいんですか」
「心地よく眠れると思ったのだが」
「そんなに気持ちいいですか?」
「私はそう思うが」
「うぅ…」
嫌なのか別にいいのかはっきりしないやつだ。
「…寝相悪いかもしれないですよ?」
「私も割と悪いぞ。まぁどうにもならないから仕方ないんだが」
「横の岩が痛いかもしれませんよ?」
「そこまで私が気にするなら提案してない」
「そうですよね…」
始めて共感された気がする。

「お前、やっぱり私についてきて後悔してないのか?」
「それは、その… 今まで怖がられてばかりで、辛かったんですけど…でもこんなに親切にしてもらえたのは初めてなので…それに匿ってほしいこともありますし…」
そういいながらまた頭をかく。
そういえばそうだったな。えーっと…なんか変な奴らに追いかけられたんだっけか。
「でも…でも、後悔はその…えっと、してない…ですはい。 柳田さんのお母さんも、優しそうな人でよかったです」
それはよかった。トゥルース本人がそう思ってくれるなら、それだけでも一歩前進かもしれんな。
「まぁ、お前がそう思ってるなら、私は安心だな」
「そうですか…?」
「あぁ」
もうちょっと心を開いてくれてもいいんだけどな。まぁ一日目となれば仕方ないか。何事も練習だ、練習。
「じゃ、寝るか」
「え、あ、はい…」
「おやすみ」
「お、おやすみなさい」
宣告通り、私はこいつの背後を抱き枕代わりにしながら横たわった。
もともとのベッドの心地よさ+もふもふの心地よさが私を襲う。
電車内で寝たにもかかわらず、私は案外あっさり意識を奪われていった。
今夜は今までで史上最高で心地の良い睡眠になりそうだ……



翌朝。
結局母はもう完全に私の手持ちばかりだと思い込んでしまい、キノガッサ用のポケモンフーズも何の遠慮もなくトゥルースに食べさせていた。ちなみに父は早出である。
「では、気象情報です」
テレビの中のアナウンサーが言う。
『桜前線も真っ盛り。ついに春がやってきた…と、感じている方も多いと思いますが、各地では12月並みの気温が続出しております。これについて原因は定かではありませんが、今日はこの地域の皆さんは4月ですが、寒さ対策を万全にしてお出かけください。それでは一週間の天気…』
一応何気なく気温に目を通す。幸いこの辺りはまだ暖かいほうらしい。
「やぁねぇ。4月になっても寒いままなんて。お母さんあんたが羨ましいわ」
「何故?」
「そりゃこの子と一緒に寝てるんでしょ? あったかもふもふで、気持ちよさそうじゃない。みんな夜のルガルガンは物騒だっていうけど、今見てたら、お母さん気に入っちゃった」
さいですか。そりゃぁまぁ寝心地は格別だからな。
するとまたトゥルースは変なタイミングで照れだした。
と同時に、キノガッサが母に向かってぷんすか怒り出すものだから、それを母がなだめるのでニュースが聞こえない。俺じゃ不満か!と言わんばかりに暴れて胞子をまき散らすのはやめてほしい。朝食がまずくなるじゃないか。


「…で、お前も来るのか?」
「へ?」
お、ようやく話しかけられることになれてきたか。まぁそれはいいとして。
「学校。来るか? 一応ポケモンの連れ込みは自由だが…」
あ、でも一つ問題が…
「…その、奴らに見つかるリスクも高くなるが…」
「え、えっと…もしそのときは…」

「柳田さんが守ってくれますか?」

…。
初めての要求はそれか。若干恥ずかしいが…
「…できる範囲内ならな」
「…すみません」
「すみませんじゃなくて」
ポンっとそいつの頭に手を置いた。
「ありがとう、な」



「おい、柳田」
学校。正門前。
トゥルースに至ってはここに来るのが初めてなので、やはり未開の地は未開の地として相変わらずビクビクしていたもんだが、昨日話しかけられた強面教師を見るや否やその震えは強くなってしまった。
「はい?」
「そいつは、なんだ」
代名詞を使われても誰にだってわかるも同然のように、教師は私の腰に目線を落とした。
その目線も怖いのか、ビクッと肩を震わせる。
「…ルガルガンですが」
まぁ、昨日母に言ったのと同様。簡潔に答えるしかない。
「…俺は昨日お前に忠告したが、今度は別の忠告をせねばならんようだ」
「なんですか?」
私もきっとこの教師のように訝しげな顔をしていることだろう。
「…そいつは、暴れないようにきっちり世話されているんだろうな もしも、他の生徒に危害が及んだときは、どうするつもりなんだ」
その質問を聞いて私はため息が出そうになった。
またそれか。
どうして世間というものは集団の心理しか目に通せず、それだけしか信じないんだろうね。
だから私は塊が嫌いで一人でいることを好むのだ。
「…ポケモンの責任は確かに持ち主の責任ですが、私はそこまで無責任に考えたりはしていませんよ」
トゥルースが私の腰から離れようとする。その腕をバッと掴んだ。
「お言葉ですが」
私は少し声を張った。と同時に正門付近の人目がこちらを向く。
「…ポケモンの習性、性格は様々です。ですから、人に危害を加えてしまう性格もあるでしょう。そのようなポケモンを躾けなければならないのはもちろんです。ですが」
少し息を吸った。
「中には別の性格のポケモンも少なからずいます。そのポケモンに対する固定観念だけでものを言うことは、私は好みませんね」
私がそういうと、周りは静まりかえり、教師は若干驚いたような顔をする。
数秒後、わたしは昨日の電車の乗り過ごしよりも激しい後悔に襲われた。
何を感情的になっているんだ私は。それに私も昨日考えていただろう。私も夜の姿は攻撃的だとずっと思っていたではないか。そのことについての考えを改めたからといって、過去に相手が私と同じことを思っていたのを指摘するなんぞ、なんたることだ。
「…失礼します」
後悔の表情が顔にでるのはギリギリで拒まれ、私はくるっと後ろを向き、校舎へトゥルースの手を引き、歩き出した。

教室。
「…柳田さん」
「何も言わなくていい」
もうお前の言いたいことなど言わなくたってわかるものさ。
「…でも」
「今は」
私はトゥルースを見た。またビクッとさせる。
今の私は、怖いか。
「ちょっと黙っててくれ」
少しきつく言ってしまうが、今は、仕方がないことである。
どうせ、また自分の存在に疑念を感じたんだろう。
…今はお前の気持ちが、少しわかるかもな。
先程守ってくれるかと懇願されたが、今はそれどころではなくなってしまったじゃないか。守る以前の問題だ。


授業では必要時外はボールに入れておくのが一般的であるため、私はトゥルースを一旦担任に預けた。
授業は、結局あまり聞き取れなかった。

昼食時。手を洗いに行こうと廊下を通っていると、ふと目についた。
(生徒会企画 ポケモン触れ合い会 放課後 体育館にて)
その貼り紙には今日の日付と時間も明記されていた。
…若干高校生にしては幼げで、小学生中学生でももしくはトレーナースクールでもやってそうな企画だな、と一瞬思った。
しかし、これは…もしかすると、あいつの他のポケモン、人に対するコミュニケーションが、少し鍛えられるかもしれない。
私は場所と時間を手帳にメモした。

この鬱屈な気分の授業も長引くと思っていたのだが、やはりいつもと同じように時は過ぎていくだけで、今日もあっという間に放課後になってしまった。
一度だけでいいから、時が止まったりはしないかね。そうすれば私だけじっくり長時間眠ることができそうなんだがな。
なんてどうでもいい想像はいい。止まったところで何もないのはわかっていることだ。
…少し緊張がよぎるが、私はトゥルースを迎えにいった。

保護ルーム。なんらかの事情でポケモンを預けることができる場所だ。
「お前、初対面の人やポケモンにビビりすぎじゃないか」
「ふぇ…」
唐突に現れてこう言う私に表情が落ち込んだ。
…まだ怖い顔してるか。仕方ない。笑顔は苦手だ。
「え、えっと…」
「謝る必要はない」
先を読んだ私にまたビクッとし、耳を凹ませて項垂れる。
「…朝は、その…すみません」
「謝るなと言ったろうに」
「あ、…えと…」
私はため息をついた。本日二度目である。
「いや、私も悪かった。少し感情的になってしまってな」
「で、でもそれって僕が悪いんじゃ」
「やっかいなのは固定観念の方だ」
トゥルースは難しそうな顔をする。
「…まぁ、一般的、というか…決めつけの印象、ってところか。でも、お前が気にすることじゃない。といいつつ私もな、そういった考えに揺さぶられやすいんだ」
柳田さんもですか?とでも言いそうな表情になった。
私は続ける。
「だから、その…お前は、お前の種族は狂暴的だと周りに思われがちなのはもう覆すのは難しいが、お前が何も気にする必要はない。私もお前のおかげで狂暴的観念に囚われていたことに気づかされたからな」
「…そうですか」
納得してくれたようで何よりだ。それよりそろそろ本題をだな。
「ええとだな、確かに気が弱いのは仕方のないことだ。だがな、それもやはり少しは慣れが必要なんじゃないかと思ってな、今日はお前にこのイベントに参加してほしい」
私はペンで走らせた若干汚い字が書かれているメモ帳をそいつに見せた。
「…? 触れ合い…?」
「何事も練習。積み重ねだ。よし、行くぞ」
「わっちょ、ちょっと…」
緊張MAXであろうそいつを私は体育館に引っ張っていった。


思ったよりも参加人数は多いようで、会場騒めきで埋め尽くされていた。
「…人がいっぱいですね」
どうやら高校生でポケモンを初めて持ってみることが初体験なのは私以外にも割と多かったようだ。
「えー、静かに」
壇上に人が立つ。
「生徒会長の前島だ。入学式でも言ったように、高校生になってからポケモンを持つようになった生徒は多くいることだろう。我ら生徒会は、他のポケモンとのコミュニケーションや、付き合い方などをポケモンのみならず生徒諸君にも少し体験してほしいと願っている。そこでこの高校の伝統では、毎年触れ合い会が開かれている。本日は参加していただきありがとう。限られた時間ではあるが、少しでもポケモンとのあり方について学んでほしい」

そういったことは本来トレーナースクールでやることだと思うが、まぁ私にとっては好都合なので、そこを突っ込むことはやめにしよう。
私は中学では発展的なポケモンの知識や、このコースに進むための医療や解剖学を少しだけ齧ったくらいで自分のポケモンを持つまではまだ行かなかった。だから、知識はあれどポケモンとのコミュニケーション、とまでは私も正直乏しいかもしれん。

その後は、まず10分程度の基本姿勢やら機嫌を損ねた時の対処法やらを短くポイントにまとめた説明があった。そういった短くまとめるスキルは入学面接などで活かせばもっといいのではなかろうか。あぁいやあったか。
次に、進化時の対応。基本的にバトルで進化の可能性は極められるものなので、メンテナンスとまで名前につけられたこの高校ではやや必要ないのではと思い若干聞き流したが、後から思うと進化後のポケモンだけに焦点を当てたいやつはまぁ必要かな、と思い直した。
そして最後に、コミュニケーション実践。まずは自分の持ち寄ったポケモン同士を面と向き合わせ、お互いに少し話してみる。…これもよくわからなかったが、まぁポケモン同士だけで周りと馴染めるように、ということなんだろう。おおよそな。

さて、私はどうしようか。二人一組とか言う言葉は孤独を好む者にとっては少々気難しい言葉であって…
「きみ」
後ろから声がした。
ピャッっと何回目かわからない反応をトゥルースが見せた。
そこにいたのはさっきまであり方やなんやかんやを熱弁していたえーと…前島会長だったかな。
「はい」
とりあえず返事だけしておこう。
「…そのルガルガンは…聞いてみるまでもなく、人に慣れていないようだな」
目を付けられていたようだ。そりゃそうだ。話の間若干挙動不審だったからな。こいつにとっては真面目な雰囲気でさえビクビクする対象となりえないらしい。
「まぁそうですね」
「ふむ…夜の姿は好戦的なはずだが…やはり珍しいものだな。それと、朝のあの舌戦はなかなかなかだったぞ 俺も夜の姿について勘違いをしていたようだね」
ウインクをする会長。
話しかけたのはそういうことか。
「…あれは、少し感情的になってしまっただけで、別に私は大したことはしていませんよ」
若干語尾がたどたどしくなった。
「いや、君がそのルガルガンを大切に思っている気持ちが、聞いていてよく伝わってきたいたぞ」
そうか?
私が不思議そうな表情をしていたのか、前島会長も頭にクエスチョンマークを浮かべるような表情をしたが、すぐに何かに気づいた。
「あぁ、先ほど言った通り、会長の前島だ。ポケモンは昼の姿のルガルガン。よろしく頼む」
なぜだか知らないが流れ的に私の相手は会長になってしまったようである。
「1年の柳田です」
私も挨拶した。
「そのルガルガンは君のポケモンで間違いないんだね?」
「あぁ、いや、まだ仮です。それはこいつの意思です」
ちょっと言っていることがおかしいかもしれないが仕方ない。
「そうか。あんなに熱弁していたなら、もうパートナーとして存分に成り立っていると思っていたが」
私はちらりとトゥルースを見る。しかしこんなにビクビクしていては話にならない。
「……おい、しっかりしろ。今からお前はこの人のポケモンと少しコミュニケーションの練習をする。少しぐらい肩の力を抜いたらどうだ」
「…で、ででででも、不審に思われたら…」
「練習だ。失敗なんぞ気にするな」
その様子を見ていた会長は、先ほどよりも頭にクエスチョンマークを浮かべていた。
「…きみ」
「なんですか」
「そのルガルガンと、まるで本当に会話しているように見えるんだが…」
ん?
「…会長にはこいつはどう見えてるんですか」
「どう…と言われても、普通にガウガウ、としか…」

私の頭にもクエスチョンマークが浮かんだ。
やはりこいつの言葉が聞こえるのは私だけのようだ。しかしこいつは私以外の人間の言葉も聞き取ることができる。今までの反応がそれを証明している。
では、それはどういうことだろうか?
私たちには通じるが他の人は通じない…

「柳田くん? …柳田くん」
「あ、はい」
少し考えこんでいたようだ。
しかしまぁ、謎が深まったところで、どうにもならんものはどうにもならん。さっきまでもそうしていたからそういうものはほっとくが吉。
「どうかしたかね?」
「なんでもないです」
今はこう答えるしかあるまい。
「…まぁ、それだけ心が通じ合っているということだな。その美しい友情は、永遠のものであってほしいね」
随分とクサいセリフを言うものだ。
「さて、ではそろそろ俺のルガルガンも見てもらおうか」
と、言うとモンスターボールを取り出し、シュッ、とボールを投げた。
ぱぁーん。お馴染みのSEとともに現れたるは、これはまた見事に会長と目つきが似ているルガルガン、昼の姿のご登場である。
同じルガルガンといえども、その姿の違いは歴然で、別のポケモンでもいいようなきがするほどである。まぁ、二息歩行と四足歩行でもあるし。
「さぁ、あっちのお前と同じ種族のやつと少し会話でもしてみてくれ」
会話。そしたら、私は片方のルガルガン(昼)は聞き取れないがもう一方のルガルガン(夜)の方は聞き取れてしまうということになるのだろうか。なんかそれは微妙だな。
昼「ガウ、ガウガウ、ガウ? ガウ、ガガガ、ガウガウガルルル」
やはりそっちの方は何なのかわからない。いやその方が一般的なんだと思うがな。
夜「ガ、ガウ… ガガウ… ガ、ガウガウ… ガウ… ガウ?グルルル…」
ん、なんだ。ちゃんとポケモンと話すときは私でもわからないのか。よかった。言葉はわからないがこの方がしっくりくるな。それにしてもやたら「…」が多いから、どっちがどっちかはわかりやすいな。
「なんだって?」
「そんなに怯えるやつは初めてだ。何を怖がっている?そんなに怯える必要はないじゃないか…だそうです」
ポケモンですらそうなんだな。というか通訳できんのか。

その後は延々とガウガウ、ガウガウと会話が続く(一方的)ことになるので、省略させていただこう。だんだんと何をやっているかわからなくなってきたからな。
結局、このイベントでもこいつのコミュニケーションの上達の兆しは、見えないままだった。

「ふーむ…」
会長が、難しい顔をする。
「おかしいな…俺のルガルガンでも怯えが収まらないとは…」
前例があったのだろうか?
「こうなったら」
突然会長が四つん這いになる。
「ガウガウ! ガウガウガルルル…アォーン」
またも突然、会長が雄叫びをあげた。さすがに私も予想外。
「わかるか?」
「わかりません」
トゥルースが今までで最も高速で答えた。
「どうだ」
どうと言われても…
「ちょっと無理なようで」
「そうか…」
そこまで全身全霊にならなくてもいいと思うんだが… あなたの相棒も呆れていらっしゃいますよ。
シュールな会長は置いておこう。
「ならば、君もやってみたまえ!」
人として恥ずかしい。
「私は遠慮しておきます」
「そうか…」
それに、狼語(?)を使うまでもなく私はわかる。

「まぁ今回は仕方がない。だが、まだ諦めるんじゃないぞ。何事も諦めなければきっとうまくいくはずだ!」
恋はうまくいかないがあると思うが。
「はぁ」
私はそんなオトボケな回答をするしかなかった。
「また何かあったら、いつでも相談しに来たまえ。俺は授業以外は大抵生徒会室にいるからな。まぁ、今日はどうも付き合ってくれてありがとう」
「こちらこそ」
まぁ話しかけたのも何かの縁だろう。礼ぐらい言っておこう。
「それでは、失礼する!」
「ガウ」
そのままスタスタと歩いて行った。

「…すみません」
「あれぐらい慣れろよ」
そろそろ見過ごせないレベルだぞ。
「で、でも…ちょっと威圧感があって…」
普遍的な夜verならもっとあるんだが。
「別に相手はお前を怒ったり、暴力を奮ったりはしていないじゃないか」
「そうですけど…」
「けどじゃない」
ビシッとたまには私からも言ってやらんとな。
「しばらく『けど』とか『でも』とか必要時以外使うのは禁止だ」
「えぇ…」
「ため息吐くなよ?」
「うぅ…」
はぁ。言ったそばから私が吐いてしまった。
「まぁ、これからも続けられれば続けるか」
「ま、まだやるんですか?」
「お前が克服するまでやるつもりだ。私も他人に対してしつこいのはあの会長と似ているからな」
「ふぇぇ…」
悲しそうな声を聞きながら、いつのまにか人が少なくなっていた体育館を後にした。


先程までの出来事が焼きついてガウガウが離れないので、昨日のように睡魔が襲ってくることはなかった。
ガタンガタン。
またもや窓から赤い屋根が見えた。
ポケモンとの、関わり方か…。 そういや中学ではなにも考えてなかったな。やはり、看護師になるということは、相手のポケモンを責任持って保護するということだから、それなりの心構えは必要だと思った。
それとそれがどんなポケモンであろうと受け入れる覚悟も必要になってくる。
そのためには、やはり私もコミュニケーションは抑えておかなければならないのであろう。
…また生徒会室、寄ってみるか。
何かに自分からやる気になったのは、久しぶりのことだった。
それも、私がこいつと出会ってからだろうな。、まだ2日あまりだが。


昨日とは別の理由で、今日も帰りが遅くなってしまったので、またもや玄関を開けると母の仁王立ちが待ち構えていた。それと同様にトゥルースも全く同じ反応を見せる。昨日とループしてはいないだろうな。
「いや、今日は少し講習会があって。こいつのためで…」
あながち間違ってはいないだろう。
「あら、そう?」
物分かりが早い人で助かるよ。


「え、きょ、今日もですか!?」
「いいじゃないか。減るもんじゃないだろう」
私は今日もこいつの背後を安眠枕にすることを決断した。
「それともなんだ。今日は前から抱かれたいか?」
案外それも悪くないかもしれない。
「な、なんでそんなに寝るとき密着するんですかぁ…」
「お前がふわふわしているからだ」
あ、精神的にじゃないぞ。外見的に、だ。
「嫌だったらいいんだが」
…。
沈黙が流れる。トゥルースはまた考え込むような顔をした。
「…それで柳田さんがいいなら、いいです」
決心がついたようだ。
そういうわけで、私は本日もふわふわ、もこもこのこいつを枕にして誰よりも心地がよいであろう眠りを獲得した。



…ここまでは、よかった。
こいつと出会って、まぁ一般的、特に変な非日常はなかった。
少しの間だが、私はそれなりに楽しかったし、初めてのパートナーは言葉が通じて対応もしやすかった。なんとか他の人間やポケモンに対しての恐怖感だけ捨ててくれたら言うことなしなのだがな。
だが、迫りくる未来は私が今まで生きてきた中で一番想像を絶するものだった。
今安眠をとっている私は、何も考えてはいなかっただろう。
そして事件は、朝に起きる。





「柳田さん」
声。
あの電車で聞いたときと、特に何も変わらない声が、再び響いた。
「柳田さん…!」
んんぅ。
揺さぶられる。
それと同時に、私はゆっくり目を覚ました。
「……」
私の脳内が状況判断する。安眠からの目覚めだったため、あの電車のように迅速な判断は、あまりできなかった。
「…おはよう」
「…おはようございます」
挨拶するその表情には、一種の戦慄した顔があった。
? 頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
「…どうしたんだ?」
「…何か、変なんです」

………。
私は気づく。
外が、暗かった。 
その真上には、満月がキラキラと、神々しく輝いているのが見える。
最初は、私は何も変なことはないと思った。
つまり、まだ夜が明けていないだけなんだろう。
「…トイレなら付き合ってもいいが」
「そうじゃないんです」
??
ますますわからない。

そして、私は少し疑問を抱いた。
確か、満月が南中するのは、深夜0時ごろだった気がする。
私が寝たのは、11時半ごろだ。そんな短時間の睡眠で、この寝起きの脳の活発な動きは、行われないはずである。
さらに言うと、11時半ごろなら、もうとっくに満月は南中しているから、今南中しているのは少し不自然である。
トゥルースの戦慄の顔が消えない。
妙な胸騒ぎが私の心をかき乱し始めた。

時計を見た。
薄暗くて確認がしづらい。
…。
私の目はどうかしてしまったのだろうか。
目をこする。
確かあれは電波時計だったよな。
だから、絶対に狂いはない。
狂いはないはずなんだ。
私は最後まで可能性を信じた。時計が壊れた、という可能性を信じた。
その可能性も目の前の事実で、かき消されていった。


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