夢の国、そして現実。

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読了時間目安:26分

作者:ステイルさん

この作品は小説ポケモン図鑑企画の投稿作品です。

あぁ、そういえば。
ずいぶん前に『夢の国』に連れてってほしそうにCM見てたな…。そうだな、休みとるか…。

「おい、起きろって。お前が行きたいっていうから休みを取ったんだからな」
俺は目の前でスヤスヤと気持ちよさそうに寝ている彼女の頬を軽く摘まんで上下に動かしてみる。彼女の白い頬は柔らかく伸び、ビヨンビヨンと上下に動く。……出会った当初より幾分かむっちりしてきた気がしないでもない。体重管理しなきゃだめか?と悶々としていると彼女は嫌っ!と言うかのように勢いよく俺の手を振り払う。そして毛布を頭から被り直してまた眠る体制に入った。
「ほら、晴れてるんだから起きなさいっ!」
彼女が独占している毛布を引きはがし、朝日と外の温かい空気に彼女を晒す。彼女は呻いて日の光から逃げるように体を移動させると、首をできるだけ窓から遠ざけてまた眠りに落ちていく。
そんな彼女に呆れつつ、どうにかして起こそうと彼女の背中にのしかかってみた。ベッドが二人分の荷重に悲鳴を上げて軋む。そんなベッドと同じように彼女の口から小さく
「ク…」
と声が漏れた。呆れ半分、愛しさ半分で翼の下に滑り込む。そして彼女の小さな爪の間に指を絡めて、空いた片手で首筋を撫でた。するとクックックックッとリズミカルな音を気持ちよさそうに喉で鳴らした。起きてるじゃないか…と思いつつ、絡めた手を優しく握る。彼女もそれに応じて小さな爪を曲げてくれた。
今思えば、この寝坊助な彼女との出会いは突然だった。




人が寝静まった夜中、ビニール袋を漁る音がして目が覚めた。そういえば買い物した袋を出しっぱなしにしていたんだった…と、ベッドから起きだして台所へと向かう。きっとコラッタとかその辺のポケモンが入ってきて食べてるんだろうなぁ…と思いながら向かう。
シュークリーム買ったんだから仕舞っとけばよかった…とか思いながら台所に入ると真っ赤な背中が見えた。とてもじゃないがコラッタのような小さい生き物じゃない。戦闘機のような翼がついているから、飛ぶポケモンということはわかる。ただ、ポケモンの学問を学んだ身から言わせてもらうとこんなポケモンは見たことがなかった。
「なぁ…それ俺の…」
とりあえず、この場からどっかに行って貰おうと声を掛ける。
ポケモンはゆっくりと振り返ると口元のクリームを舐めとりながらこちらに体を向けた。赤と白のコントラストがぼんやりと暗がりに浮かび上がる。
「それ……俺のシュークリーム…」
ポケモンの手に握られた箱を指さしながらぽつりと呟いた。
ポケモンは持っていたシュークリームの箱と俺を交互に見て、悲しそうに床に置くとしょんぼりと項垂れた。
ちょっと可哀想なことしちゃったかなと少し後悔してると未練があるのか箱を振り返りながらポケモンは去っていった。
その手に一つシュークリームが握られていたが一つくらいいいだろうと見逃してやるとポケモンの後を追うように箱が飛んで行った。ゆったり飛んでいく箱を追いかけると廊下の途中でシュークリームが入った箱は消えた。
ポケモンだし、人間じゃできないこともできるのだろう。進化するだけで大きく質量が増える生き物なのだから透明になれるポケモンがいたっておかしくない。
「あ~…もう……。眠いからいいや。その代わり冷蔵庫に袋の中身入れといて。そしたら残りのも食べていいよ……」
大きくあくびをしてベッドのほうに向かう。ベッドに着いて倒れこむとそのまま深い眠りについた。


「う…あ、あついぃ…おもいぃ…アイロンがぁ…アイロンがやってくるぅぅうう………」
呻きながら目を覚ますと全身が石のように動かなかった。肋骨の中心あたりに重しのような『何か』が乗っているような圧迫感がある。圧迫されている場所は規則的に上下に動いているのか、ポンプで圧迫されているような感触がある。そして何より、熱い。まるで毛深いポケモンを胸に乗せているかのように、圧迫されている部分から汗がにじみ出る。鼻息が顔の近くで聞こえる。生き物が俺の上に乗っているらしい。
「ああああああああぁぁぁあッ! 重いッ!」
体を捻って『何か』を体の上から落とそうとした。米俵でも乗っているんじゃないだろうかと思うくらい重い『何か』は体を動かすだけでは動かない。
重さに苦しみながら右手でその『何か』を掴むとその『何か』の規則的に動いていた場所が大きく動いた。
「ギョウッ! ギョウッ! ギョウッ!」
地震速報のような危機感を感じる音をその目に見えない生き物は発する。それに驚いてとっさに耳を塞ぐ。
「うわっ、うるさっ」
「ギョウッ! ギョウッ…クゥッ?」
生き物は我に返ったように急に静かになると短く高い声で鳴いた。もう一度、クゥ?と鳴くと透けていた体が赤と白のコントラストに変わった。黄色い瞳に朝日が差し込んで煌びやかにポケモンの瞳が輝いて、それを俺はとてもきれいだと感じた。
開いた窓から風が吹き込んでカーテンが揺れた。春の風が温かい空気を部屋に引き込んでくる。
外から飛んできた目に入ったごみをどうにかしようと目を擦った。それを見た目の前のポケモンはずいっと顔を近づけて額の模様と俺の額をぶつけた。すると目の中に入ったごみの気配はなくなり、ついでにポケモンの重さで苦しかった体が嘘のように軽くなった。
「お前…もしかして凄いポケモンだったりする?」
聞いてみるもポケモンは何も言わずに目を閉じた。
重さをどういうわけか感じないので心に余裕が出来たのか腹の上で目を閉じて寝ようとしているポケモンに触ってみることにした。
「意外とサラサラしてんだな」
ポケモンの羽毛は短く張りのある美しい羽だった。差し込む日の光を反射してシルクのように光沢を持っている。耳のように見える長い羽毛は触られるのが嫌なのか触ろうと手を伸ばしたら薄っすら目を開けてこちらを睨んでいた。何も言わず、そっと手を引っ込める。
長い首に手を回してみると強靭な筋肉が付いていることが分かった。
「おぉ…さすがポケモン……」
ペシペシ軽く叩くとビクビクッと皮膚を波打たせた。面白いので何度もやっていると嫌だったのか眉間に皺を寄せて、ふわっと宙に浮き、天井近くまで浮かぶとぴたりと止まった。
………なんかやばい。
嫌な予感がしてそっとベッドから離れようとしたが、壁で体を抑えつけているみたいに動かなかった。
ポケモンは滑車のロープが突如切られたみたいにこちらに迫ってきた。内心慌てているが避けようがない。声も出ない。ポケモンの体が目の前まで迫ってきている。
衝撃に備えて目を固く閉じた。
けれど、いくら待っても衝撃はやってこない。不思議に思って恐る恐る目を開けるとポケモンの顔が目の前にあった。大きな瞳がこちらを見据えている。黄色い瞳の奥をのぞき込むと光の加減で瞳が光り、炎が揺らいでいるように見えた。
爆ぜていたような気もした。もしかしたら怒りの炎なのかもしれない。
「わ、悪かったよ…」
その瞳の中に揺らぐ光に怯えて、とっさに謝ると体を押さえつけていた大きな力は消え去って自由になった。ポケモンはゆっくりと俺の横に降り立つと、柔らかい笑みを浮かべて目を閉じる。
「触らぬ神に祟りなし…ね……」
はぁと震える腕から緊張感を吐き出したくて大きく息を吐き出した。




「あれ…?」
ふと目を覚ますといつもと同じように横で目を閉じて可愛らしく眠っているラティアスの顔があった。愛おしくて愛おしくて、自然と彼女の頬を優しくなでた。ククク…と小さく鳴いてピクピクと耳の羽が震えた。ぼんやりとした休日を満喫しているとなんで俺、休日とったんだっけ…と思い始めた。
「アッ、そうだ。先週、こいつが遊園地のCM見て行きたいって騒いでたんだよ…。で、うるさいから今日休み取って……」
そこでハッとして時計を見た。
現在、12時53分。
……やばくない?
隣でグースカ寝ている彼女を起こそうと耳を引っ張ってみたり、赤い翼を叩いてみたり、腕を引っ張ってみたりしたが一向に起きる気配がない。
「くそう…あんまりやりたくないけど…しかたない…」
彼女のすらっと伸びた純白の首に軽く触れる。
「怒るなよ…起きないお前が悪いんだからな?」
ちょっとイラついていたのかもしれない。首に狙いを定めて腕を振り上げる。
と、振り上げた途端に彼女の前身の羽毛が波打つように逆立ち、バンッ!と弾けるように宙に浮かんだ。赤と白の短い羽毛がキラキラと宙を舞う。俺の心臓はうるさく音を立ててどっかに飛んで行きそうな勢いで拍動している。彼女は彼女で放心したようにどこか遠くへ意識を飛ばしているのか何もしてこない。
………つかの間の沈黙。
それが怖い。
ただの沈黙なのに、いつも感じているはずの沈黙なのに、ただの沈黙なのに、沈黙に緊張と驚きが入るだけで怖い。
彼女は我に返ったのか急にビクッと震えてこちらを見た。
瞳には恐怖と驚きの光が混在していて彼女は慄いていた。
「ご、ごめん…そこまで驚くとは思ってなかった…」
彼女の逆立った羽毛がゆっくりと戻っていく。いやぁお前起きないからさぁ…と言い訳をしているとラティアスはゆっくりと降りてくる。胸ぐらでも掴まれるんじゃないかと思って覚悟を決める。
しかし、彼女は長い首をこちらに預けて抱きしめるように腕を背中に回してきた。
「あぁ~……、ごめんね。本当に…」
ラティアスというポケモンを知らなかったとき、昔お世話になった教授のことを思い出して電話で聞いた。個体数の少ない貴重なポケモンだと教授は喜々として熱く語っていた。そしてその熱く語ってくれた話の中で『ラティアスは感情を感じ取ることができる』という話があったのを思い出した。
「ごめん…ちょっとイラついただけだから…怒ってないよ。大丈夫だよ」
優しく彼女の首を撫でる。
撫でるたびに腕の力が強くなっていく。きっと必死に感情を抑え込もうとしているのだろう。
「ほら、そろそろ行こうよ。クレープとか甘いものいっぱい売ってるよ。今日は君のために休んだからいっぱい買ってあげるから…ね?」
小さくキュウ…と鳴くともう一度強く抱きしめてわざとらしく笑った。そんな彼女に急かされて慌ただしくバックを身に着けて外に出た。彼女の背中にうつ伏せに乗ると俺はゴーグルと耳あてを付けて叫んだ。
「進路は北北東、目的地はセキチクシティ コラッタの国! 楽しく行こう!」
彼女は音もなく宙に浮くと、その場で止まりホバリングする。俺はそれを合図に彼女の首にしがみ付く。しがみ付いたのを確認した彼女は急速に速度を上げた。春が来たっていうのに上空の空気は冷たい。彼女がサイコキネシスで空気の膜を張ってくれなかったらあっという間に凍傷になってしまうだろう。
……まぁ、やって貰おうとも思わないけど。
初めて乗せて貰ったときは悲惨だった。自分も空を飛ぶこと自体が初めてだったこともあり、人を乗せることが初めての彼女は『全力』で飛んだ。空気を切る音すらもしない、無音の世界が俺を待っていた。凄まじいGが俺を襲い、鼓膜は破れ、全身打撲のような痛みを一週間ほど味わった。
飛んでいるときにあの時を思い出しては不安になり、彼女の体に抱き着く。すると鼓動が聞こえてくる。力強く拍動する彼女の体は冷たい空気にも負けないくらい暖かい。密着すればするほど自分を覆う空気の膜は暖かくなる。
さて、話は変わるが彼女の背中は男には少し狭い。両手両足でしがみついていないと足がはみ出てしまう。故に最大でも10分の飛行がこの体制での限界だったりする。
限界を感じて彼女の胸を軽く叩いた。
その合図に気づいた彼女はスピードを緩め初めて次第に宙で止まる。
「そろそろ休憩」
俺はそう言って体制を変える。跨るようにして彼女の赤い翼に足を掛けて背中に座る。
「10分くらいしたら多分できるからそれまで徐行運転でお願いします」
任せろ!と言いたげに彼女は仕舞っていた腕を出して胸を叩いた。
そんなこんなで数十分の間、飛んでいると目的地が眼下に見えてきた。
「着いたよ。あの辺に降りて貰える?」
俺は大盛況な正面玄関から少し離れた人気のない場所を指さした。彼女は頷くとサイコキネシスで俺を降ろす。
こういう時エスパーって便利だよなと思う。
降ろし終わると彼女は目の前で透明になってから俺と同い年くらいの女性に変わった。
「何度見ても不思議だよなぁ…」
彼女の顔をまじまじと見ながらそう呟く。
そんな俺にベェッと舌を出すとほら行こうと手を握って走り出す。人の手を握っているのに感触はラティアスの手で、いつも混乱しそうになる。
「こんにちは、こちら夢の国へと続くゲートの門番です! 入場したいのは何名でしょうか?」
ラッタをデフォルメして可愛くした顔出し着ぐるみを来た受付の人に聞かれた。
「大人二枚ください」
そういうと受付の女性は俺とラティアスを見て、
「カップル割引を適用しておきますねぇ~」
と言った。俺と彼女は顔を見合わせてお互いに顔を赤くする。
「こちら大人二枚カップル割引のチケットです。では、夢の国へ行ってらっしゃ~い」
受付から少し離れたところでラティアスに向かってカップルだってさ、と茶化す。
彼女はさらに顔を赤くしながら俺の口を塞いだ。
俺は笑いながら彼女の頭を撫でる。ラティアスはもう一度俺の手を握りなおして行こう? と急かした。
園内に入れば子供と、大人の姿をした子供がたくさんいた。そしてそれにつき合わされて疲れ果てているポケモンと、お父さんの姿が所々に見える。そんな姿に同情しながらラティアスに道案内を任せて園内を探索し始めた。
その道中、名物の屋台を見つけた。
「ほら、ポップコーンだってさ。しかもキャラメル。食べるでしょ?」
彼女は眼をキラキラさせて指さしたほうを見る。吸い寄せられるように並ぶと二つの専用カップと一緒に購入した。
首からポップコーンをぶら下げて歩いているとポップコーンとは違ういい匂いが漂ってくる。
「あっちにレストランがあるってさ」
行く?と聞くと彼女は頷いて笑った。
少し歩いては食べ、たまにラッタをモチーフにしたキャラクターの着ぐるみと一緒に写真を撮る。その間、ずっと俺と彼女は手を握っていた。
「なぁ、いま幸せ?」
カフェでつかの間の休憩をしているとふいに口から洩れた。
パフェを口いっぱいに頬張る彼女はきょとんとした顔でこちらを見ると俺の額に手の平を押し当てて熱があるのかないのか判断し始めた。
「熱はないし、大した意味もないよ。ただ聞いてみたかっただけ」
額を抑えていた手を払いのけて言った。
ふぅん…と鼻で音を出すとまたパフェを頬張った。あんなに生クリームがかかった物をよく食べられるな…と思ったが幸せそうな笑みを浮かべるラティアスのために何も言わずにただ、頬杖を付きながらそんな彼女を眺めていた。
カフェを出ると彼女は相変わらず俺の手を引いてずんずん進んでいく。
それからはラティアスの最初に買ったポップコーンが無くなって変わり種を買ったところブラックペッパー味は好みじゃなかったらしく俺の首に掛かっていたキャラメルと交換することになったり、口の中で弾けるアイスを不思議そうに頬張っていたり、園内に隠されたトレードマークを見つけたりと夢の国を満喫していた。
ふと気づくといつの間にかあたりは真っ暗になっていた。
相変わらず彼女は俺の手を引いて進んでいく。
「まだ食べるの?」
彼女に聞くとディナーを始めたレストランを指さして手を引く。
まだ、食べるらしい。
言ってもポケモン。人とは体の作りが根本的に違う。
正直、俺はもうお腹いっぱい。
それでも彼女に付き合ってレストランに入る。
レストランはバイキング形式だった。ラティアスはケーキやらアイスやらフォンデュやらと洋菓子中心に持ってきて、俺はもう何も入らないからサラダを少し持ってきた。
お金がもったいないなと思ったけどそこは彼女のため、そして自分のため。
レストランを出ると遠くでパレードが開かれていたらしく花火が打ち上がっていた。
それを見た彼女は俺の腕と自分の腕を絡めるとうっとりと眺めていた。
「なぁ、もっと近くに行こうか?」
聞いてみるとゆっくりと首を横に振って否定された。
よく考えれば人のたくさんいる場所に行くのは得策じゃないなと思って近くのベンチに座って遠くから花火を眺めていた。
ふと気づくと彼女は人の姿を俺の肩に頭を預けているように見せていた。
「いいよ、本当の首を乗せても」
彼女は恥ずかしそうに笑ったあと、見えなかった彼女の首の重さが俺の両肩に巻き付くようにのしかかった。
人と体の形が違うから体の部位の『実際の位置と人の姿の位置』がずいぶん違ったりする。所詮、光の加減をごまかしているに過ぎない彼女の人の姿をメタモンのようには触ったりできない。本当の彼女がサイコキネシスで感触を作ることはできるだろうけどそれじゃ満足しないことも多々ある。そういう時、そっと気づいて声をかけることにしてる。
彼女の首の重さを感じながら派手に打ちあがる花火を最後まで眺めていた。フィナーレの花火が盛大に打ちあがると少しの余韻を楽しんでから彼女はスクッと立ち上がり、俺の腕を強く引いた。
「なに?」
彼女のほうを向くと目を閉じて唇を前に突き出している。
一体、どこでそんなことを覚えたのだろうか。いや、昼の再放送のドラマで学んだんだろう。そうに違いない。
「あのなぁ…俺がそれをできるほど度胸あると思ってんの?」
ラティアスは相変わらず目を閉じて待っている。
「………わかったよ。いいよ。でもその代わり、元の姿に戻ってほしい」
それを聞いた彼女はいつもの彼女の姿に戻って気恥ずかしそうに両手の爪を擦り合わせて俺と視線を合わせないようにしていた。
「お前…今更恥ずかしがるなって…。こっちまで恥ずかしくなるからさぁ…」
彼女はしばらくの間、もじもじしていたが意を決したのかぎゅっと固く目を閉じた。
それに合わせて自分の唇を軽く彼女の口に触れさせる。
触れあったとき彼女はうっすらと目を開けていた。そしてその黄色の瞳の中に顔を真っ赤に染めた俺がいた。その目の中にいた俺を見た瞬間、どうにも恥ずかしくなってそっと彼女の口元から離れた。
しばらく二人して見つめ合っていたがお互いに気恥ずかしくなり、そっぽを向く。
「そ、そろそろ帰ろうか?」
人の姿に戻った彼女はゆっくりと頷いた。
目線を反らしていても、手だけは繋いで出口へと向かう。その道中は言葉を発することもなく、ただ歩いていく。
夢の国から出ると俺たちの側を少し冷たい空気が抜けて行った。恥ずかしさで火照った俺らにはちょうど良かったかもしれない。受付から少し歩いて人の波が消えるところまで離れて、彼女に跨る。浮上するといつもと違ってゆっくりと空を飛ぶ。俺もしがみ付くけるほど心が平常じゃなかった。
「夜景…きれいだね……」
俺は誰に言うでもなく呟いた。ラティアスも前を見ながら小さく鳴いて同意した。
ゆっくりと空を飛んでいると都市部の明かりがよく見える。真っ黒な大地に星のような光の群れがたくさん見えた。その下にはきっとたくさんの笑い声が響いていることだろう。
そんな夜景に目を奪われながら23時過ぎには家に着くことができた。
「先に風呂入っていい?」
背から降りて聞くと軽く頷いてくれた。
お風呂から出ればリビングでまったりとテレビを見ている彼女の姿があった。出たよ、と後ろ姿に声をかけると眠そうに目を擦りながらあくびをひとつして風呂場に向かって飛んでいく。
とりあえず彼女の風呂上がりを麦茶片手に待っていると俺にも睡魔がやってきた。
今日はいろいろあったし、仕方ないといえば仕方ない。
重い瞼をどうにかこうにかこじ開け続けようと頑張っていると頬を突かれて我に返る。
重い瞼を持ち上げて見れば、しっとりと羽毛を濡らした彼女が眠そうに目を擦っていた。いつもならしっかりと乾かす彼女も睡魔には勝てなかったのだろう。
「……そうだね、もう寝ようか。俺も疲れた…」
二人して寝室に向かう。
途中、彼女の体力が尽きたのか俺の背中に寄りかかってきた。
「重っ…」
そんな彼女をベッドに降ろすとぼんやりした笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「なに? なんかうれしいことでもあった?」
彼女の額を撫でながらそう尋ねた。うれしそうに頷いて目を閉じて口を前に出した。
「えぇ~…またぁ?」
頭を掻いて恥ずかしさを誤魔化すと軽く唇が触れるくらいの口づけをする。
口から顔を離すと彼女は枕で顔を隠した。きっと真っ赤に染まっているはずだ。
枕の端から少しだけ顔を覗かせると彼女ははにかんだ。
「じゃあ…おやすみ」
彼女の隣に横になるとすぐに睡魔がやってきた。目を閉じればあっという間に夢の世界へと連れて行ってもらえそうな気さえする。
数回、瞬きをしたのを最後にゆっくりと眠りへと落ちていく。
その落ちる途中でラティアスの腕が俺を抱き寄せたのをなんとなく感じながら徐々に夢の中へと入っていった。


「で? この配達物の山は何かな?」
朝、筋肉痛の痛みで起きると居間に積みあがった配達物が山のように置かれていた。伝票にはテレポート運送会社と書かれていて中身の欄に『たべもの』と汚い字で書かれていた。送り主は俺の名前。驚いている俺を尻目にラティアスは喜々として配達物のクッキーを食べていた。
包装にはかわいらしくデフォルメされたコラッタとラッタが見える。袋も、クッキーの形も何から何まであの夢の国のものだった。
「お…お前、いつの間に…? そもそもどうやって……」
まさかと思い、スマホを確認するとキャッシュカード会社から
≪今月の利用上限を超過しました≫
というメールが届いていた。そもそも昨日、俺はキャッシュでしか払ってない。
ということはつまり、昨日一日で十万円が『たべもの』に消えていった…ということになる。
「お前…昨日は俺とずっと一緒にいたはずじゃ…?」
ラティアスは口の中のクッキーを飲み込むと半透明の鏡のような物質を作り出した。
そこに自身の姿を映すと鏡の中の彼女は本物とは全く違う動きをする。
あぁ…そういやそんな技覚えてたっけなと思い出す。
ミラータイプ……。
本来、相手を映して自分のタイプを変える技。彼女はこの技を『分身』を作る技として使ったのだろう。
彼女は自由に自分を反射する光や屈折する光の向きを変えられる。
鏡さえあれば自分がいなくてもそこにいるように見せることは可能…ということだ。あとはサイコキネシスでボールペンなり商品なりを運べばいくらでも買い物は可能……。
「は…ははは…、もう夢の国なんていかない…」
そんなことを言っている俺の口に食べかけのチョコレートが押し込まれた。
彼女は笑っていた。間接キス…と思うまでもなく俺は膝から崩れ落ちた……。
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感想

お名前:きとら さん
神に感謝します。
今日この日、この時、崇高なるラティアス小説に巡り会えたことを……。

すべてが愛おしすぎる。
ラティアスの心臓の鼓動や体の温もりさえ実際に伝わってくるような細やかな描写の数々。艶かしくてキュート。高校生ぐらいの特有のなんかこう、こう、すごいの、甘いの。
ていうか、辛いです。生きるの。
何でラティアスいないの? 何でこの小説みたいに甘酸っぱいデートできないの??
はあ……至高の限りがここにある……ラティアス可愛い……。

すみません文がまとまってなくて。もう何も考えられません。
思考を奪うステイルさんのラティアスちゃん恐るべし。
ステイルさん。お疲れ様でした。そしてありがとうございました!!!!!
書いた日:2017年04月27日
作者返信
感想を読んでいてニマニマしています!ありがとうございます!
きとらさんが悶えてくれたなら書いた甲斐があったというものです。
ラティアスってこんなにも愛しくて、可愛くて、彼女にしたいんだよっていうのを伝えたくて書き始めたのですが…やっぱりラティアスっていいですね!
もうね、もうね、書けば書くほど愛らしくて自由でやっぱり可愛いんですよ!(語呂力皆無)
そしてラティアスって、羽毛なんですね…(調べるまでうぶ毛だと思ってた)
感想ありがとうございました!
書いた日:2017年04月28日
お名前:小江戸 さん
ステイルさん
はじめまして(と言いつつ、先日のチャットではお世話になりました)! 半年程前から活動を始めました、小江戸と申します!
ラティアスちゃんと主人公の生み出すやさしいせかいに、身も心もほっこりしました! 『ポケモンとデート』というと、DPtのふれあいひろばやHGSSの連れ歩きが思い浮かびますが、ラッタの国でこんなことができればもう……最高ですね……‼ 二人にはぜひ他の場所でもいちゃい……心を通わせていただきたいものです。
長乱文失礼しました、そして温かい気持ちになれる素敵な短編を、ありがとうございました!  小江戸
書いた日:2017年05月02日
作者返信
改めてはじめまして!
ラティアスといちゃい……仲睦まじい姿を書こう!ときとらさんとチャットで話したのが発端でして書いたのですが……結構好評のようで何よりです(こんなに閲覧数が伸びるとは思ってなかった)
ただ、自分に恋愛経験と言うものが皆無でして……「恋愛ってこんなのかなぁ?」と思いながら書いてました(;´∀` )
彼女ってあんな感じで合ってますかね?
まぁ、それはさておき。HGSSの連れ歩きみたいに振り返れば笑ってくれるような、でも甘えたがりの恋人のような同居人をイメージして書かせていただきました。
……結構長くなってしまいましたね。それでは最後に……。
感想ありがとうございました!
書いた日:2017年05月03日
   作品サブカテゴリ: 恋愛  ほのぼの  遊園地