お久しぶりです。短編の前編になります。
この世の時間は、速い。
息をするだけで1秒、2秒、1時間、1日、1か月、一年。そしてまた一年が過ぎ、終わっていく。
ああ、なんて速いんだろうか。もう少しゆったりとした時間にはならなかったのだろうか。
もう気が付けば…私は高校生じゃないか。なんて時間の流れは速いものだ。
私はどこにでもいる普通の女子高生である。
青色のブレザーの中心に赤いネクタイ、左胸にモンスターボール型の名札の赤部分に名前、とその下の金色で刺繍されたこれまたモンスターボール型。紺色のスカート。そして黒のカバンを持って、出かける。ちなみに胸はあんまない。殿方め、残念であったな。
…なにを言っているんだ私は。
この春なんとか普通に入試に合格し無事学校に入学することができた。まぁ確かに誰にでも入試は怖いものだろうが、普通に寝て、勉強し、規則正しく生活、そしてわからないところなどを聞いて聞いて聞きまくっていたら普通に合格できたのだ。確かになんの不安もなかったといえば嘘になってしまうが、無事合格できたんだ。よしとしよう。
…で、この世界にはポケモンという謎の生物がうようよしている。
だが詳しく説明しようにも、ここはポケモン世界といえばポケモン世界となるので堅苦しい説明は抜きとしよう。最初からメタい感じで申し訳ない。
まぁ、ともかくポケモンが登場するということはもちろん私が合格、入学した高校もポケモン関連の高校、つまりはポケモン世界では普通の学校…いや、今はそう呼ぶのはやめておこうか。
だって何しろ私が学びたいのは看護師、つまりはポケセンでいつも「元気が無くなったポケモンを回復します♪」とかいうのが目標なのだ。小さいころポケモンを率先して助けることが得意だった私は(別に好きなわけではない)、親や教師の勧めとともにそれを目指すことにしている。何しろ私は流されるまま生きてきたので、それがおすすめと言われれば言われるがまま、それを目指して今を貫いてきたからである。私はそんなもんである。
さて、自己紹介もほどほどにしておこうか。さっさと進んでほしい人もいるだろうからな。
4月。といっても入学仕立ては仕立てだがさすがにすでに2週間と経過しているので高校には少しづつ慣れ始めてきていた。ロングの黒髪を揺らしながら特に表情を変えず、定期を出して改札を越え、駅のホームに入る。
正直毎日通学で電車に乗るということに対しては少しだけ嫌悪を抱いている。私は昔から乗り物酔いの傾向が少し見られるため、いつ来るのかがわからない恐怖に耐えながら、かといって毎日顔色を変えることはなく、バッグに一応入れておいた酔い止めのことを思い出し「ま、いいだろ」と呟く。
別にトレーナーとして世に出るわけではないのでバッグにはモンスターボールはあるがポケモンはいない。入っているものもこれといってトレーナー臭いのは地図ぐらいだろうか。
そもそも10歳でトレーナーになれるので高校に通っているということはみなトレーナー以外の別の仕事に就こうとしている人たちが集っているわけで…いや、まぁトレーナーとしての高校もないことはないようだが。
ともかく通っている高校はトレーナー関係ではない。それだけはいえよう。
ただ、ポケモンを持ち込むのはもちろん可能だ。部活や私のいる学科以外のところでは実習として使うケースもあるらしい。
そうこう考えてながら、早変わりに進んでいく窓の外をわけもなくぼんやりと眺める。
ふと目に移った赤い屋根… 私の目指しているところ。とっさに目を見開いて確認した。
あそこに行くのが私の目標だ。夢ではない。なぜなら最初から目指していたわけではないからだ。それに明白としているではないか。私はもう小学生の「うちゅうひこうしになりたいです!」的なぼんやりとしたことは考えてはいけないのだ。それにそのうちゅうひこうしになるにはどれだけの確率と努力その他もろもろがいるかを知らない小学生の夢なんぞのようなものではないのだ。
…いつも電車に乗って景色を眺めていると、その速さにあっという間にこの時間も過ぎてしまうのではなかろうか。あっという間に何もかもすぐに過ぎ去っていき、次の未来私はどうしているのだろうか。ちゃんとあの赤い屋根の場所で、ちゃんとポケモンの治療法を学んで、むしろ高校を卒業して…いやいやむしろ、進級できるかどうか。
時が流れるのは早い。どうせすぐ来るだろう。だが油断は大敵だ。一寸先は闇だ。一秒先でもわからないんだぞ。気を付けろ、私。
そんなことを、またいろいろ脳内で考える。むしろ最近はそればかり考えているのかもしれない。つまり将来が不安なことと少しだけの期待の鬩ぎあいにより、ぐちゃぐちゃにこんがらがってしまっているわけだ。
だが私はもともとよく思考を広げているので、また新たなことを考え始めこの思考もいつか途切れてしまうだろう。考えていたものはどこへ行くのだろうな。
「まもなくー 第1ポケモンメンテナンス高等学校前ー 第1ポケモンメンテナンス高等学校前です お忘れ物のないように…」
アナウンスが突如聞こえてくる。ああ、もう着いたのか。やはり時間の流れるのは早いな。
高校には慣れたが電車には慣れておらずここで止まるんだなとまだ確認することはできていないのである。
下車しても表情を一切変えず、高校の生徒やら他校の学生やらトレーナーやら普通の会社員やらでごった返す階段を下りる。人ごみを横目に、ゆっくりと降りていく。
改札を抜け、駅から少し歩いたところに設立されている高校の門をくぐる。
ちなみにまだ友達は一人もいない。
だがしかし、ぼっちには慣れている。むしろ寂しがりでもなく自分から孤独へ飛び込んでやり過ごすのだ。意外とそんなやつほど寂しがりの傾向があるのだが、私は本当に一人でも大丈夫だ。それに自分のことは自分でやるのが普通だろう。地震とかのときだって第一に守護するのは自分だろう。「自分の身は自分で守れ」同一の考えじゃないか。
なので別にぼっちでも何も気にしないので私は友達とかそういうのをあまり必要とはしないタイプの人間である。頼ってばかりもいられないのだ。それが私の個人的な考え方である。私は私、これでいい。
「おい、柳田」
「はい」
私の苗字は柳田だ。つまり私のことだ。突然話しかけられた。
「なんですか」
あ、話しかけてきたのは私の学年主任らしいな。
「最近高校の周りで凶暴なポケモンがよく目撃されているそうだ。危なっかしいし、そもそもまぁこんな都会に表れていること自体結構危ないことなのだがな…まぁ、そいつを見かけたら、気を付けるんだぞ」
「…はぁ」
「いやいや、そんな無表情ではぁといわれてもなぁ。せめてはいとかのちゃんとした返事で返してくれよ。大体お前は初日から少し無表情すぎるんだ。そんなんで看護師になる道もあるが、やっぱり別の努力も必要だぞ。まずは笑顔の練習からだな」
そうやって苦笑いの微笑で教師は言う。
笑顔…と言われても日々過ごす日常の中に笑える要素など一つもあるものか。実際今あなたと話している時間も何一つおかしいことはない。いやそれは当たり前なのだが。
「無表情で学校に来たら罪にでもなるんですか?」
「いや、それは」
「じゃぁ、いいでしょう。こんな人目のつくところで長話はなんなんでこれで失礼します。ご忠告ありがとうございます」
「え、あ、ああ…」
私がくるりと後ろを向くと、後ろからははぁ…とため息。
そんなため息をつかれても仕方がない。どうしようもないじゃないか。
…このあたりに凶暴…まぁ、狼っぽいのでもいるってことだろうな。そんなポケモンいたかな。だが、帰るときは早めに帰る。それに一緒にどこかへ行く友達もいないのでさっさと駅へ入っていく他ないに決まっている。なぜ私に話しかけた。見かけても素通りするだけだ。
まぁいい。そんなことよりさっさと教室に入ろう。こんなところでうじうじうだうだ考えてもどうしようもないじゃないか。
授業の方は先ほども言ったがまだ入学仕立てなので緩いほうだが、3年とかになると死亡したポケモンの解剖なんかもするらしい。私は別に大丈夫だが他の生徒はきゃーきゃー喚いたりしないだろうか。そうなると気が散るしイライラするからせめてこいつらが覚悟を持って入学してきたやつらばっかだとよいのだが。まぁきっとそうだろう。
…私は自己的な人間なのだろうか。それだからダメなのだろうか。
どうなんだろう。
変わらなければ、いけない。
…のかな?
午後4時半。授業が終わった。
荷物をまとめ、さっと教室から出る。
「バトルしていくか?」やら「カラオケ行ってこの子にこの歌覚えさせてみるんだ!」などという会話を横目に、まっすぐ下駄箱に向かっていく。
ほら、また今日が終わる。
終わってほしくないわけではないがなんて時間は速いんだ。
でも、人生は…早く終わってほしくない…かな。
バカ、何自分らしくないこと考えているんだ私は。気にするな。死ぬときはいつか来る。その時までなんとかやりきるのだ柳田ヒナミ!
はぁ。
ゆっくりとため息をついて校門をくぐる。
騒がしい人ゴミ、たくさんのビル、そして赤い屋根を抜けて、街をすたすたと駆けてゆく。
少しだけ人目のつかない路地を左へ曲がるとすぐ駅だ。この辺の地形はだんだん覚えてこれたぞ。
入り組んだ路地をすいすい抜けていき、最後の角を左に曲がろうとすると、突如「ひゃっ!!」という声が耳を劈いた。
私が驚いて目を見開くと、何かもふもふしたものに激突してしまった。
柔らかい衝撃だったため、私はいうほど痛覚を刺激されなかったが、相手はいたた…と情けない声を漏らす。
「あ、すみませ…」
!
私は再び目を見開いた。
…見るからに鋭い爪、牙。腰のあたりについた痛々しそうな岩、垂れ下がった小さな耳、その間からの何かもふもふしたもの、真っ赤な体。
間違いない。こいつは…ルガルガン。
ルガルガンはイワンコというポケモンから進化するが、こいつの場合は少し特殊であり、朝から昼の時間帯に進化すると大人しめで人懐っこかったりするルガルガンになるのだが、こいつの場合は別だ。きっとこいつは夕方から真夜中の時間帯に進化した、通称、-真夜中の姿-。
その性格はとても凶暴で、昼の姿とは全く違いあまりトレーナーや主人になつかず、するどい目つきで相手を脅かしたりすぐ対戦をしようと挑発してくるような暴虐なやつだ。
…まさかこいつが学年主任が言っていたやつか。
人っ気の少ない路地で待ち伏せして、暴行を繰り返しているのか。
だとしたら、私はすぐ逃げなければならないだろう。だが、不思議なことにそんな気持ちにはなれなかった。
なぜなら、そいつの目は鋭くなんかなく、「あっ…あっ…」とさっきからあのかの有名なアニメーション映画のキャラクターを連想させるものだったため、とても凶悪で暴虐なあの姿ではなかった。
「ええと…」
「あっ! あっえっと…す、すみません! ごめんなさい!」
んん?
「…は、はぁ。こちらこそすみませんでした」
こいつ喋ってるな。テレパシー的なもので感じ取れているのだろうか。
そこんところの細かいところを気にしていちゃ話は進まない。なんせ私はポケモンが普通に人間の言葉を話していることを超える重大なことに気分をかられていたのだから。
「…け、けけっ、ケガとかない、ですか?」
「はい」
コクリと頷いた。
「あっ そ、そうでしたか。よかったぁ…」
そういうとルガルガンはホッと安堵の息を吐く。ルガルガンだけじゃどちらか区別がつき難いので夜ガルガンとでも呼ぼう。
…そうだ。いい機会じゃないか。
この機会を使って、一度変わってみよう。大丈夫。できる、できるぞ柳田。
しかし、なんでこいつ敬語使ってるんだ?
そして、さっきのかの有名な(ryのような振る舞い。その前の情けないうめき声。
どう考えても夜ガルガンという生物はこんな人格じゃないはずだ。
なんだ、こいつ。
「え、あ、す、すみません。な、何ですか…?」
すると、突然さっと壁に隠れてしまった。そうか。私はじーっとこいつを見つめてしまっていた。
「いえ…なんでも」
「そ、そうですか… あっ、へ、変なこと聞いてす、すみませ」
「いや、謝らなくていいです」
「…すみ」
「謝らなくていいです」
「………はい」
基本の姿よりも耳が垂れ下がる。
シュンと気まずそうに俯いた顔。どう見てもあの図鑑の説明だとは思えない。
「…あなたは、ルガルガン、ですね」
「あっ…」
私が問いかけるとそいつは小さく呟き、俯いたまま恥ずかしげに小さく頷いた。
「あ、あの…僕に何か…」
僕…オスか。
「いいえ、特には何もありませんがとりあえず私の方から敬語で話すのをやめてもいいでしょうか」
「あっ ど、どどどどうぞ!?」
びくっと体を震わせてとんでもないものを見るように怯えた目でこちらを見る。
「そんなに怯えなくてもいい。どうしてそんなこの世の破滅を見るような目でこちらを見るんだ」
私の喋るときの口調はこれだ。あまり女子っぽくないが女子だぞ。
「…だ、だって…ほ、ほんとはまだ怒ってるんじゃないかって…ぶつかったこと…」
「怒ってる? 違うな。驚いているんだ」
「ふぇ?」
そいつが頭に疑問符を浮かべる。
「あなたは大体私たち人間の中では凶悪なポケモンとした名高い。だが、そんな性格のやつもいるのだなと、素直に驚いているのさ」
すると、そいつはさらに目を見開き、さっきよりもガタガタ震えた様子で後ずさりしていく。
「あっ…あああ…」
「なんだ」
「い、いやあああああ!!!」
突然大声をあげ、そいつが逃げようとする。が、近くにあったマンホールの溝に足の爪を引っ掛け、どがっ!と大きな音を当てて「わゃ!!」とよくわからない短い悲鳴を上げた。
「どうしたんだ」
私が近づくと、すぐに反応して涙を流してぐしゃぐしゃの顔でこちらを見る。
「こ、こここ来ないでください!!」
「待て。どうした」
「そうやってあなたも…あなたも僕を…!!」
…?
「…落ち着け、深呼吸しろ」
「ゆ、ゆうことなんか」
「深呼吸しただけで私が何かしようとでも思ってるのか?」
そう言い放つと、ひっと夜ガルガンは案の定悲鳴をあげ、10秒ぐらいしたあとすぅぅ…と深呼吸した。ようやく信じてくれたようだ。
「…も、もう行ってもいいですか?」
「ダメだ 気になるから」
「えぇぇぇ~… や、やっぱり僕を」
「私はあなたのことを知ったのは今日が初めてだし、それにその性格に私は驚いたんだぞ。ってことは私はお前の知っているやつと違うってことかもしれないだろう?」
「…」
するとヒック、と短く嗚咽し、少しだけ警戒心を持った目でこちらを見た。
目尻にある涙にはなんら変わりがない。
「どうしたんだ」
「…ぼ、僕 やっぱり変に…感じられます、よね。僕は生まれた時からこんな性格なのに…なんで… なんか気味悪がられて生まれた時から一緒にいた人に捨てられて、そのまま進化して…なんか喋れるようになって、そしたら怪しい黒い服の人とかオレンジの眼鏡かけた人とか、ラップしてるような人とかにめちゃくちゃ追いかけられて…一度捕まったこともあって… 性格が珍しいとかなんとかいわれて…僕怖くて…怖くてたまらなくて…だからこの辺りに逃げてきてふらふらしてただけで…」
…そうか。それで私が驚いていると言ったら、私がそいつらの仲間だと思い込まれてしまったのか。
「それはすまなかった」
「い、いいんです。僕も、やっと人を信じることができました」
と、少しだけ笑う。
…いつもならさっさと帰るのだが。
…やはり、人生先が見えないな。
「私はそんなやつらは知らない。安心しろ。いや、なんだ。少し興味が沸いてしまった」
「きょ、きょ…」
またあのアニメ映画(ryみたいになってしまっている…
「まぁ気にするな。私は柳田ヒナミ。適当に呼んでくれ」
「…はい…柳田さん」
コクンと頷いた。
「じゃぁ、私はこれで。またどこかで会えたら」
そういって私が角を曲がって立ち去ろうとすると…
「あっ、待ってください!!」
ぎゅっと腕をつかまれた。
「ん?」
「…ぼ、僕、初めて人を信じることができたんです。だから…だから!もし迷惑でなかったら!!」
と、顔を上げて私の方をみた。
「…あっ…」
するとまた突然小さくつぶやき、またぼそっと「やっぱり…なんでもないです」
と気弱に言って腕を放した。
…。
「…はっきり言え」
「ひゃっ…」
…すると、夜ガルガンはまたすぅっと深呼吸をして、ゆっくり吐いた。私がさっき教えたことをしてくれているということは、私を信じ始めてくれていると認識してもよいのだろうか。
「…もしよかったら…も、もしよかったら一緒に連れて行ってくれませんか!?」
…やっぱりか。
私はふぅ、とため息を吐くと
「来い」
と小さく言った。
「…」
夜ガルガンは黙って頷いた。
…なんだかこの展開、どこかで見たことあるような人もいるかもしれないがスルーしろ。
「僕、トゥルースっていいます。捨てられた人につけられた名前です。もしよかったら…」
「さっきからそればっかだな。ちゃんとそう呼ぶさ」
「…ありがとうございます」
「君も敬語をやめてはどうだ」
「ぼ、僕は無理です… でっででででもいつかそう喋れる日が来れたら…、ちゃんと言います」
「ん、そうか。わかった じゃぁ… あ、一応ボールに入れておいた方がいいだろうか?」
「…せ、狭いところは…いいです…」
「わかった 大丈夫なんだな?」
トゥルースは一瞬戸惑っ表情を見せたが、少し俯いたあと、私の顔を見て力強く頷いた。
「私の大丈夫には外へ出ていてもいいのかという意味も入っているぞ」
そう私が念押しのためもう一度言うと、また力強くうなずく。先ほどよりも少しだけ成長しているようだ。
「じゃぁ、行こう」
トゥルースの手を掴み、駅へ歩き出した。
どこかで見たような展開になってます。すいません。
ありがとうございました。中編をお楽しみに!