綿雲たちの日常~サン~

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作者:ステイル
読了時間目安:8分
先輩、後輩シリーズになります。
ほ、ほかのも書かなきゃ…。
部室に入ると先輩が疲れた顔でだれていた。右手には安定の酒瓶が、左手には一冊のノートが握られていた。
「綿雲観察ノート、その①…?」
でかでかと黒いサインペンでそう書かれている。
へぇ、暇だったんだなと思いつつ、彼女の握っているノートを手から引き剥がして読んでみる。
最初に書かれていたのはサンだった。

サン
観察一日目
今日はどんよりとした空だったからなのか、サンは窓際にはいなかった。その代り、熱を放つブラウン管に張り付いている。触ってみたらサンから静電気が走った。

観察二日目
天気は雨、サンはぼんやりと外を眺めているが窓際からではなく私の机の上にたたずんで見ていた。ビヨンビヨンと跳ねる頭の羽が気になったからつまんでみたら飛び跳ねられた。羽を繕って心を落ち着かせるとじろりと睨みを効かせて私を睨んでから大きくため息をついてまた窓の外を眺め始めた。
そのあと、私のことが気が気でなかったのかトイレから戻るとサンは姿を消していた。探してもどこにいるのかわからなかった。

観察三日目
天気は晴れ、ようやくサンは本来の位置に戻ってきた。久しぶりの快晴だからかウェイブも一緒に日差しの下でまどろんでいる。なんともかわいいものである。仲がいいのはいいことぞ。

観察四日目
今日も晴れ、サンは今日も窓際に。ぼんやり眺めているとこちらも眠くなってき(涎と文字が汚すぎて読めない)






観察五日目
本日曇り、先日、うたたねをしてノートを汚してしまったので次のページに書くことにする。
今日は本棚のくぼみで寝ることにしたようである。サンがすっぽり収まっているとスウィープが邪魔だよとサンを蹴散らして本棚の大掃除を始めた。それに乗じてピジンも本棚の整理を始めた。あ、そういえばあの辺に先月、酒を隠したっけな。ま、大丈夫か。

観察六日目
(殴り書きで書き留めたのか光佑には読み解くことができなかった)

観察七日目
本日雨、主に私が。昨日不安になってみてみたら無くなってた…。誰だ、私の酒を盗んだ奴は…。
サンどころか綿雲たちは私の心境を察してかウェイブ以外、どこかに行ってしまったようだ。

観察八日目
本日、雨。ウェイブと一緒に登校するとサンが忙しそうに外に飛び出していった。あまりの速さに追いかけられなかったがあの方向には後輩の家があったような…。
(夜)
今日はやることがあったので大学に泊まり込みになった。ついでだから夜の観察もまとめておこうと思う。
サンは夜間は本校のほうにいるようで部室にはいなかった。どこにいるのかと探していると警備員室の明かりが見えた。小窓から中を覗くとサンが警備員とともにサッカー観戦していた。

観察九日目
ほんじつはれ
眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、(眠を書く途中で終わっている)

観察十日目
本日、晴れ
うへーい、あほーい、ムヘーヘェ!(変な落書きが書いてある)

観察十一日目
本日、快晴。
昨日、一昨日とろくに眠れてなかったから変なこと書いてるな…。
今日のサンは窓際でせっせと毛繕いをしていた。どうやらサンはスイッチが入ると入り込むらしく一日中毛繕いしていた。

観察十二日目
本日、霧雨。
サーチが拾ってきた私のスマホをサンが大事そうに抱えて寝ていた。サンを起こして引き取るとサンの油がべったりとついていた。どうやらあのふわふわな羽毛の下には沢山の汗腺があるようだ。

観察十三日目(目だけ変にでかい)
(何も書かれていな



ここでノートは終わっていた。どうやら今から書こうとしていたが疲れ果てて終わったらしい。ちらりとサンを見ると相変わらず窓辺でうたた寝していた。
なんとも和やかな部屋だなと光佑は思う。
寝落ちした先輩に毛布を掛けてウェイブに三時には起こすように伝え、光佑は先輩である陽菜の右手に握られた空き瓶と買ってきた酒瓶と取り換えた。
「たまにはね、いいんじゃない?」
ウェイブはピィと小さく鳴き、サンを睨むとまた部室の入り口を見た。
雲太が部室にやってきて帽子のように乗っかった。そのうち、あのノートに雲太のことも書くのだろうと思いながら部室をあとにした。



さて、サンは内心焦っていた。
先ほど陽菜の酒を飲んでいるところを目撃され、空いた酒瓶を投げてきそうになったのでやむを得ず自己防衛で無理やり眠らせたのだが(最後に何も書いてないのはそのせい)いかんせん、後が怖い。
タイミング悪く、光佑もやってきてばれやしないかと冷や冷やしたものだが何とかやり過ごせた。が、本題はこの後である。陽菜が起きた時にどうなるか。
このまま永遠に眠らせておいてやろうかとも考えたがそうなると怖いのはウェイブである。何だかんだウェイブは陽菜の味方であり、口出しこそしないものの内心よくは思ってないだろう。それに光佑が三時には起こしておいてと言っていた。タイムリミットは三時。それまでに打開策を考えなくては…。
「ん、あれ、寝落ちしちゃったか…?」
陽菜が起きた。そして陽菜の瞳がサンの姿を捉えた。瞬時に陽菜の顔が沸騰したんじゃないかっていうくらいに赤くなる。
「サン、お前、私の酒飲んだなァァァ?」
プルプル震えるサンはとっさに歌おうと声を出したが上ずった声では怒り狂った陽菜には効かなかった。
助けてとウェイブに泣き顔で目配せをするがウェイブは知らん顔して取り合ってくれなかった。
「さて、どぉしてぇくぅれよぅかぁあ?」
ただプルプルと震えるだけのサンの羽毛を左手でがっちりと掴み、掛けてあった毛布で巻いて縛った。
そこまで来て、陽菜は気が付いた。右手に握られた茶色い瓶が異様に重いことに…。
「……あれ? 入ってるじゃん。じゃあ、夢…? いや、なに、お前が私の酒を呑んでるところを目撃した夢を見たんだ…と思う。悪いな。勘違いだ」
陽菜は最近徹夜続きだから疲れたんだなと一人合点して大きな欠伸を一つついた。
「二度寝しよ…」
そう呟いた陽菜のそばにウェイブが飛んできて陽菜の頭の上で眠る態勢を取った。
ウェイブが安らかな歌声を紡ぐと部室に平穏と安らぎが満ちていく。
ほぅっとサンはため息交じりの安堵とともに大きく息を付き、窓辺でうとうとと微睡む。今日は快晴。とても気持ちがいい。
嘴を大きく開けて欠伸をしてから目を閉じた。



お昼寝タイムの登山部の部室のテレビが点いた。

白い画面が映る。

カチッ

( ´∀` )

カチッ

ザァーーー……。

バツンッ

電源が落ちた。

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