今回は図鑑企画、それも大好きなバシャーモで書かせていただきました!よろしくお願いします!
自然豊かなホウエン地方の中では珍しく大都会で、栄えているキンセツシティ。人々が日陰でゆっくりとショッピングを楽しむ中、慌ただしく走り抜ける一人の少女がいた。 大きな黄色いショルダーバッグを揺らし、赤く長いツインテールをなびかせながら、人ごみを器用に避ける。
「ジョーイさん!この近くでポケモンバトルの大会とかやってませんか?」
彼女はポケモンセンターの自動ドアをダッシュで潜り抜け、受付のカウンターに思いっきり手をバンっと叩きつけた。炎天下の中走っていた為、かなり汗だくで真っ白いTシャツはビショビショに濡れていて、息も上がっていた。突然の事だったが、ジョーイさんは慌てる様子など見せず、いつもの笑顔で返した。
「はい、バトル大会ですね。それなら明日、ここポケモンセンター前の広場で一対一のシングルバトルの大会がありますよ。優勝賞品はキンセツシティ特産のきのみです。参加申込はこちらで受け付けてます。」
「ありがとうございます!その大会、参加しますね!」
彼女は満面の笑みで言う。どんな相手と戦うのか、どんなポケモンが見られるのか、期待で胸がいっぱいだった。
「では、トレーナーカードと参加するポケモンのモンスターボールをこちらに置いてください。」
ジョーイさんに言われた通りに、トレーナーカードとモンスターボールを機械の上に乗せる。すると、機械はカードを読み込み、ピロリン、と音を出した。
「はい、参加申込は完了です。アカリさん、頑張ってくださいね!」
「ありがとうございます!」
アカリは、言葉を言いながらトレーナーカードを持ってポケモンセンターの外へ駆けていった。
「うわ~、すごっ…」
ポケモンセンターに行くときは走って通りすぎてしまった広場を改めて見てみると、伝説のポケモンでも入るのでは、と言うほど広かった。既に明日の大会の準備が行われていて、ゴーリキーやカイリキー等のかくとうタイプのポケモン達が忙しそうに木材や鉄鋼、看板等を運んだり組み立てたりしていた。バトルフィールドは元々広場の中心にあり、そのまま使用するそうだ。アカリはフィールドの上を試しに歩いてみる。真ん中まで行くと、その広さがよくわかる。トレーナーが立つ枠は遠く感じ、フィールドの外で平和そうに揺れている木々は別世界のものの様に見えた。また、普段とは違う、何か熱い、情熱的なものが込み上げてくる。ポケモン達が此処で必死に技を打ち合い、戦ってると考えると強い緊張感を感じる。アカリは、白線による区切りだけで、こんなにも世界観が変わるとは思ってもいなかった。
「ポケモン達って、こんな気持ちなんだね…明日は…頼んだよ。一緒に優勝しようね。」
アカリは、一つのモンスターボールを静かに見つめる。真夏の暑さを和らげる様に、涼しい風がバトルフィールドを駆け抜けた。今日の空は、雲一つなく、太陽も邪魔に感じてしまう程、透き通る様な青空だった。
~☆~☆~☆~
白い煙の様な花火が、昨日と同じ様な青空にパン、パンとうち上がる。まるでわたあめの様な形をしていた。今日は大会当日で、アカリも参加者の一人として、広場に来ていた。会場はおおいに盛り上がっており、どの露店にも行列ができて、客席もぎゅうぎゅう詰めだ。キンセツシティの中ではとても大きな大会らしく、地元の人だけでもかなりの人数で、アカリの緊張感を余計に強くした。しばらくは露店を眺めたりしてなんとか緊張を和らげていたが、スタンバイになると、自由に歩き回れない為、どうしようもなかった。開会式では、来賓の紹介とスピーチが行われた。キンセツシティ内からはジムリーダーのテッセン。ホウエン地方内からは、ポケモン博士と呼ばれているオダマキ博士と、トップアイドルのルチアが来ていた。彼らはホウエン地方に住む者なら誰でも知っていると言うほどの有名人だ。そんな素晴らしい功績を修めた人間達の前でバトルするとなると、緊張で脚が震えてくる。彼らの魅力的な挨拶やスピーチも、アカリの耳には全く入って来なかった。
開会式が終わると、参加者は待機場所のテントの下で自分の出番を待つ。アカリはその間、ずっとモンスターボールを見つめていた。この大会は勝ち抜きトーナメント制なので、一度でも負ければそこで終わりだ。
「気合い入れないと…!」
緊張を振り払い、大丈夫だと自分に言い聞かせる。すると、「アカリさん、準備お願いします!」とスタッフの女性がテントの外から声をかけた。「はい!」と元気よく返事をし、アカリは自分の左の掌を右拳で2回叩く。いつもの験担ぎだ。ゆっくりと立ち上がり、テントの外へ出て、そのままトレーナーがポケモンに指示を送る白線の中へ入る。目の前には大勢の観客、広大なバトルフィールド。そして、向かい側にはアカリの対戦相手であろう少年が立っていた。
少年は青いキャップを被っており、服装は至って軽装である。恐らくアカリよりも年下で、10歳程の新人トレーナーだと思われる。このような大きな大会に初めて参加するアカリにとっては手頃な相手だ。少年がハキハキと「よろしくお願いします!」と挨拶をしてくるので、アカリも「よ、よろしくお願いしますっ!」とたどたどしく返した。
「それでは、バトル始めっ!」
「いっけぇ!ニダンギル!」
「燃え盛れ、バシャーモ!」
審判の掛け声と共に、二人のトレーナーはモンスターボールをバトルフィールドに放り込む。少年のモンスターボールから出てきたのは、大きな一つ目を持つ剣が二本、クロスされた様なとうけんポケモンのニダンギル。アカリが繰り出したのは、真っ赤な体に、もふもふした白い毛皮をまとっているスラッとした体つきのもうかポケモンのバシャーモだ。ニダンギルはゴースト・はがねタイプの為、相性ではバシャーモの方が有利だ。
「先手はどうぞ!」
「あ、はい!バシャーモ、『ブレイズキック』!」
「バッシャア!」
「ニダンギルかわせ!」
「ギギィル!」
バシャーモは炎を纏い、ニダンギルに蹴りかかる。ニダンギルは刀剣の様な体を上手く動かし、かわす。
「反撃だ、『たいあたり』!」
攻撃の為に接近してきたバシャーモに、ニダンギルは勢いよくぶつかる。その力は凄まじく、軽く倍の大きさであるバシャーモをバトルフィールドの端まで吹き飛ばしてしまった。
「や、やっぱり凄いや…どうしよう…」
「バッシャー!!シャーモ!」
「…あ、そうだよね!トレーナーはしっかりしないと!バシャーモ『かえんほうしゃ』!」
少し動揺するアカリにバシャーモは何かを訴える。そして、アカリは再び気合いを入れ、バシャーモに技の指示を出す。バシャーモが放った炎は、ニダンギルに直撃した。鋼タイプを持つニダンギルには大きなダメージを与えることができた。
「ニダンギル、『つばめがえし』だ!」
「ギィルギギギギ!」
「バシャーモ、よけて!」
ニダンギルはバシャーモに斬りかかる。二体で一体の体はコンビネーション抜群で、バシャーモも全ては避けきれずに何回かダメージを受ける。『つばめがえし』はひこうタイプの技で、かくとうタイプを併せ持つバシャーモに効果は抜群だ。
「二体で一体なのは厄介ね…バシャーモ、連続で『ブレイズキック』!」
バシャーモは両足を器用に使い、ニダンギルを追い詰めていく。バトルフィールドの隅まで追い詰められ、逃げ場を失ったニダンギルに、バシャーモは容赦なく『ブレイズキック』を叩き込む。
「今だ!『かえんほうしゃ』!」
「バッシャァ!」
バシャーモは近距離から炎を勢いよく放つ。効果抜群の技を至近距離から受けたニダンギルは耐えきれずにフィールドの外に吹き飛ばされる。しばらく周囲に舞っていた砂埃が晴れると、そこには目を回しているニダンギルが倒れていた。
「ニダンギル、先頭不能。バシャーモの勝ち!よって勝者、アカリ!」
「…っ!やったぁ!」
審判の判定により激しいバトルは幕を閉じる。アカリはバシャーモと抱き合って喜び、少年はニダンギルをモンスターボールに戻し、悔しそうな顔をしながら待機用のテントに向かっていった。大きなスクリーンに映るトーナメント表の端にある、アカリの顔写真は、ひとつ階段を上った。
~☆~☆~☆~
それからは、順調に勝ち進んでいった。
二回戦の相手はアカリと同じくらいの年の女の子で、使用ポケモンは黄緑色の頭に、赤い突起物が特徴的で可愛らしいかんじょうポケモンのキルリア。バシャーモでは相性が良くない為、苦戦を用いられたが、『ブレイズキック』のごり押しでなんとか勝つことができた。
三回戦は大人の人が相手だった。大柄の男性で、茶色の大きな体を持つポケモン、リングマを繰り出してきた。高い攻撃力にバシャーモは弱冠苦戦するも、格闘タイプの技は通りやすい為、見事勝利を掴んだ。しかし、バシャーモが受けたダメージも大きく、これは試合を重ねる毎に相手のレベルも上がっている事を表した。
準決勝では知的な眼鏡をかけた女性と対戦。黄色と黒の大きな体を持つエレキブルは、攻防共に優れており、バシャーモはかなり追い詰められるが、アカリはバシャーモ特有のスピードで技をかわしつつ、じわじわとダメージを与えることに成功し、勝つことができた。
~☆~☆~☆~
決勝戦が始まる少し前に、休憩時間が設けられていた。その間、アカリはポケモンセンターで母親に電話をしていた。
「ママ、次は決勝なんだ。約束だよね?優勝したら、旅に出てもいいよね?」
『ええ、約束ですもの。ママ、全力でアカリの事応援するから、頑張ってね。』
「うん、ありがとう!」
そう言って、アカリは受話器を置く。ふぅ、と小さくため息をついて、下を向いたまま待機場所に歩いていった。
「チャンスなんだ…絶対に勝たなきゃ…」
バシャーモの入ったモンスターボールを見つめるアカリの顔は、強ばっていた。アカリは、十歳になっても初心者用のポケモンをもらえなかった。アカリはハジツゲタウンという、ホウエン地方の北側に位置する田舎町の出身で、ポケモン博士の研究所があるミシロタウンまでは、山道や草むらなど、野生のポケモンが出る道を通らなければならない。自分のポケモンを持てないアカリは、旅に出たくても出れなかった。そして、十歳になった少年少女が次々と旅に出て、夢を追うその姿が、眩しくて羨ましかった。
そこで、どうしても旅に出たいと母親に申し出たところ、今のアカリのパートナーであるバシャーモを譲り受けた。そして、そのバシャーモで一つ、ポケモンバトル大会で優勝できたら、バシャーモと共に旅に出ることを許される、という約束をした。アカリにとっては、夢を追うための大切な大会。絶対に勝たなければいけなかった。
「アカリさん、時間です。」
「はい…!」
スタッフの女性に呼ばれ、アカリはバトルフィールドに入る。いきいきとした返事をしながら、左の掌を、右拳で二回、叩いた。
立ち位置につくと、さっきから高鳴っている心臓がより大きく跳ねる。
「よ、よろしくお願いします!」
緊張の中、声を振り絞って相手のトレーナーに挨拶をする。
「嗚呼、こちらこそ。」
相手は、大人の男性。黒いシルクハットを深く被っていて、怪しくも落ち着いた雰囲気の人だ。
「バトル始め!」
審判の一言で、観客が見守る中、決勝戦が始まった。
「頼んだよ、バシャーモ!」
「ゆけ、ドンカラス!」
アカリは相棒のバシャーモを、相手の男性は、群青色の翼、大きな帽子のような頭を持つおおボスポケモンのドンカラスをフィールドに送り出す。
「落ち着いていこう。バシャーモ『ブレイズキック』!!」
「シャアア、モォッ!」
「ドンカラスかわせ!」
バシャーモの一蹴りを、ドンカラスはヒラリとかわす。そのまま大きく上昇し、バシャーモと距離を取った。
「まだまだ!バシャーモ、連続で『にどげり』!」
大きく飛んだドンカラスを、『にどげり』で追撃しようとする。しかし、滞空時間が長くないバシャーモは、空中戦では圧倒的に不利だ。
「甘いぞ!ドンカラス、『つばさでうつ』だ!!」
ドンカラスの大きな翼が、バシャーモを切り裂く。効果は抜群で、大きなダメージを受けたバシャーモはそのまま落下した。
「バシャーモ!?」
「たたみかけろ、『つじぎり』!」
「バシャーモ、避けて!」
ドンカラスは黒いオーラの刀を翼に纏い、急降下する。バシャーモはまだダメージが残っているが、地面に手をついて、一回転しながらかわす。ドンカラスは勢いのあまり地面に突っ込み、大きな亀裂を作った。
「なんて威力…!まともに喰らったら危なかったわ…」
アカリの表情は、更に険しくなる。焦りから溢れでた汗が、頬をつたった。
「これからよ…『ブレイズキック』で仕掛けて!!」
反撃しようと、バシャーモは再び技を仕掛ける。空中に舞うドンカラスに蹴りを入れようとするが、またもや簡単に避けられてしまう。
「何度でも同じだ!ドンカラス、『つじぎり』!」
「カァーッ!!」
バシャーモ人蹴りを上手く避けたドンカラスは、がら空きの腹部に『つじぎり』を叩き込む。バシャーモは空中から地面に叩きつけられた。
「バシャーモ、大丈夫!?」
ダメージを受け続けたバシャーモの体はもうボロボロで、立つのも精一杯な状態だった。一方でドンカラスは一度もダメージを受けていない為、ピンピンしていた。行動範囲に大きな差があり、相性もいまひとつなバシャーモはかなり不利だ。
「そんなものか。やはり飛べるポケモンと飛べないポケモンの差は大きいな。」
「…なんですって?」
相手の言葉に、アカリが反応する。自分の大切なパートナーを罵倒された気がした。それは、トレーナーであるアカリにとっては非常に屈辱的だった。
「これでとどめだ。ドンカラス、『そらをとぶ』!」
「バシャーモ、動いちゃダメ!」
ドンカラスは大きく上昇し、バシャーモに向かって急降下する。アカリの指示にバシャーモも一瞬驚くが、アカリの顔を見ると、その真剣な表情から何かを察したのか、強気な顔つきで頷く。
「降参か?まあいい、チャンスだ!ドンカラス、いけぇ!!」
「まだよ…まだ動かないで…!」
ドンカラスはスピードに身を任せ、バシャーモに突っ込んでいく。バシャーモはアカリの言葉を待ちながら、ドンカラスを見つめていた。あと数十センチでバシャーモに当たると思った次の出来事だった。
「今よ、バシャーモ!ドンカラスの足を掴んで、地面に投げつけて!」
「シャアアッ!!」
「…グアアォ!?」
ドンカラスの一瞬の隙をついたバシャーモが、ドンカラスの足を掴み、地面に叩きつけた。あっと言う間にダメージを受けたドンカラスはふらふらと立ち上がる。
「ドンカラス!大丈夫か!?一先ずバシャーモと距離をとるんだ!」
ドンカラスは再び大空に飛び立つ。それも、地上から見たらどこにいるのかわからない程、高くまで飛んでいた。
「君のバシャーモは、あそこまでこれるか?」
「きっと行ける…!バシャーモ信じてるよ、跳んで!」
アカリは、大空を指差す。それに導かれるように、バシャーモも空の果てまで大きく跳んだ。
「何…!?ドンカラス、気を付けろ!」
「バシャーモ、『スカイアッパー』!!」
跳び上がって来たバシャーモは、そのままドンカラスを殴りとばす。下からの攻撃にドンカラスはふらつき、体勢を崩す。
「負けるなドンカラス!『つばさでうつ』!」
「そうはさせないわ!『にどげり』で追撃よ!」
空中でふらつくドンカラスは、格好の標的だった。一回目は、ドンカラスの背中を蹴って踏み台の様に使い、更に大きく上昇。二回目の蹴りは上から叩き込み、ドンカラスを地上まで落とした。かなりの高さから落とされた。
「立て、頑張るんだドンカラス!」
「私は夢を叶える!バシャーモ、『フレアドライブ』だ!!いっけえぇ!!」
「バッシャアアァァ!!」
何とか立ち上がろうとするドンカラスに、追い討ちをかける。空から炎を纏って急降下したバシャーモはドンカラスに突進する。しばらくの間、フィールドを砂埃が舞った。砂埃が晴れると、ドンカラスは目を回して倒れていた。バシャーモの勝ちだ。
「ドンカラス戦闘不能。バシャーモの勝ち。よって勝者、アカリ!」
「やったあ!やったよバシャーモ!!」
「シャモッ!」
審判の一言で、熱く緊迫したバトルが終わった。アカリとバシャーモは、ハイタッチを交わし、抱き締めあう。相手の男性は、ドンカラスをモンスターボールに戻し、「よくやった。お疲れ様。」と呟いた。
「バトル、ありがとうございました!」
「こちらこそ。君の戦いかたにはびっくりしたよ。」
先ほどまで戦っていた二人は握手をして笑いあった。夢をかけた、アカリの白熱したバトル大会は笑顔で終わった。
「やったね、バシャーモ!これからは私達二人で、世界中に飛び立とうね!」
二人の旅は、まだ始まりを告げたばかり。これからはその足で、心の翼で、ホウエン中を飛び立つのだろう。
閲覧ありがとうございました!