Ghost In Yesterday

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
作者:噛みタバコ
読了時間目安:15分

この作品は小説ポケモン図鑑企画の投稿作品です。

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

私の名前はミュウツー、誰が何のために私を創り出したのかは知らない。何故なら、私は私を創り出した者たちを全て皆殺しにしたからだ。そして、今更知る気にもならない。知ったところで、何かが変わるわけではない、変わるつもりもない。
多くの者たちは、この世界は美しいと言う。私にはそうは思えない。私が知るこの世界は、死、恐怖、血、そして支配……私は私を救う為に、私を求める者を全て皆殺しにしてきた。そして、私はこれからも殺し続けるだろう。ーーこれが私の世界だ。そしてこれからも……

【この世界は狂っている。乾いた砂はかつては生き物だったものの成れの果て、……破壊の後の破壊。孕まぬ為の貞操帯、命有るものを焼き払う為のガソリン、油……
名誉の為の戦争。死んでいく新しい命、永らえる老者達……古びたラジオが告げる。「強行採決」「国民はどうせ理解してくれない」
「水をよこせ」
「世界はおしまいよ!!!」…………
この世界は豊かだ。死の供給が止まない。溢れんばかりの大量虐殺。目の前の奴を殺しながら、次殺す奴のことを考えている。悲しみながら生かせ、喜んで殺す為に。どいつもこいつも出来損ないだ。出来損ないが作った、継ぎ接ぎだらけのゴミのような世界。これからもこの世界はこの世界のまま在り続ける。殺せ。殺せ。命あるものがあり続ける限り。満たせ。満たせ。流れ出る血によって世界が動き続ける為に】



私の眼前にはただ砂ばかりが続いている。空も大地も風も、何もかもが乾いている。刺すような太陽の光が私の白い体と、その周りに転がる、かつて人間だったものと、ポケモンだったものの汚物を照らしている。黄色い砂漠のあちこちには、黒く乾いた血だまりが点々としている。またあちこちで火が燃え盛っている。焼け付くような暑さで、すでに死体は腐敗を始めていた。どこからが虫が沸いて、死肉を貪る。私の白い足の下には、かつて人間の雌だった汚物が、腐りながらへばりついている。ねっとりとした柔らかい感触、ものが腐る臭い。ピンク色に埋もれる私の足は耽美的でとても美しかった。私は頬についた血を拭う。すっかり乾いた血は、拭うというより剥がれるといった風で、私の頬肉から離れていった。足元の肉片に再び目を移す。この女は、死ぬ間際に家族の名前を叫んでいた。私は戸惑いも同情も憐れみもなく、この女を殺した。この世界では当然だ。力無き者は常に死と隣り合わせなのだ。ーーそして、私の肉体を求めて、私を我が物にしようとした連中に何故、同情ができよう。私が踏みつけている肉片は、おそらく腹の辺りだろうか、潰れた臓物が腐敗した肉片の中、内容物を撒き散らしながらその顔を覗かせている。私はそれを辿って、彼女の頭の部分に視線を移した。最早その機能を失った頭部は、どこまでも重い脳みそを包み込んだまま、ごろりと転がっている。金色の長い髪が血と肉、そして砂にまみれて、辺りに散らばっていた。私は胴体と頭を繋げている、首という肉筒を断ち切り、髪を掴んで、女の頭を持ち上げる。死んで少し経っているからか、血はあまり出ない。筋肉が弛緩したまま、硬直してしまったのか口をぽっかり開けたまま女は死んでいた。私はそんな女の頭をしばらく見つめた。戦いの記憶の中、この女がどのように死んでいったのか、その過程のヴィジョンが走馬灯のように浮かんでは消えていく。同情も、憐れみも湧かない。だけれども、興味は湧いた。ーーこの女の、死ぬ瞬間までの人生は、果たして幸せだったのだろうか?そんな疑問が私の中を駆け巡る。私はその女の頭を地面に落とし、破壊した。ドロリとした赤黒い液体と共に、骨と脳みそ、目玉……それがぐちゃぐちゃとした吐瀉物のようなものの中からチラリと痕跡を残して潰れている。私はそこに屈んで、あえて砕かなかった顎の骨をピンクの吐瀉物のようなものの中から拾い上げる、左顎が肉によってわずかに頭の残骸と繋がっていたので、そこを引きちぎった。女の歯は綺麗に並んでいた。小ぶりの顎にどこもかけていない美しい並びの歯……私への戦利品(トロフィー)に相応しいその顎を洗うため、そばに死んでいた別の人間ーーこちらは雄だった。の水筒をもぎ取る。
そして、肉と血がこびりついた下顎を水筒の水と、足元の、乾いた砂で綺麗に洗う。洗われた白い骨は砂漠の黄色の中でよく映えてとても美しい。私はその骨を片手に、死体と残骸の山を漁り、丁度いい、手頃の鎖を拾う。これを下顎に通してネックレスにしよう。私はそう考えていた。生憎、ここには、この下顎に、丁度いい穴を開けることができるものがない。洞窟に戻ってじっくり加工しよう。私は鎖と骨を、死体と残骸の山から少し離れたところに投げる。
そして、もう一度この腐敗した山に戻り、死んでいるバンギラスの胸の装甲を剥がした。装甲を剥がされたバンギラスの胸には所々潰れたものが混じる臓物の一群がぎっしり詰まっていた。私はそれを尻目に、剥ぎ取ったバンギラスの胸の装甲を地面に投げ捨てて、そばに落ちていた、ショットガンという人間の使う武器を拾い上げる。幾度もなく重ねてきた人間との戦闘経験から、銃の取り扱いには慣れている。私は弾が装填されているのを確認すると、少し離れて、打ち捨てられている胸板の上の方を目掛けて発砲する。ズドンと大きな音と共に凄まじい反動が起こる。弾丸が射出され、バンギラスの胸の甲板に大穴を穿つ。辺りに火薬の匂いが漂う。そうして、次にこの死の山から、大きな鎖を拾い上げ、先ほどのバンギラスの胸甲の穴に通す。通した先を縛って、私は簡易ソリを作り上げた。死体の山から、飲み水、固形食糧、銃、弾丸、ヘルメット、アーミーベスト、ナイフ、手榴弾、ガソリン、壊れたモンスターボール、汚れたネックレス……使えそうなもの、興味を引いたものを何でもソリに投げる。時々乾いた風が吹いて、黄色い砂を巻き上げる。欲しいものを積み終えたところで、私は側にある死体のバンダナをもぎ取り、口元に巻いた。荷物が落ちないよう、ソリの全体を拾った布で巻きつける。最後に顎骨とチェーンを拾い、ソリの荷物のうちの一つで、布から少しはみ出している、食糧の入っている袋に入れる。そして先ほどのショットガンを右手に、鎖を左腕に少し巻きつけ、余ったところを持ち、ソリを引き摺りながら、私は洞窟に引き上げた。


遠くの方ーー大きな岩場の上にある、私の洞窟の前に、何かがうごめいていた。目を凝らすと、悪戯好きと言われているコノハナが何匹か、私の洞窟の入り口で何かをしていた。私は射程距離まで近づいたのを確認すると、左腕のチェーンを外し、床に落として、ショットガンを構える。何かに夢中でコノハナ達は私のことに気が付かない。そのうちの、真中の一頭に狙いを定めて、引き金を引いた。凄まじい爆音と共に弾が発射され、瞬く間に目標のコノハナを肉塊に変えた。周りにいたコノハナ達が悲鳴をあげて逃げ惑う。一匹を血祭りにあげることにより、入り口にいたコノハナの一群を蹴散らした私は、再びソリを引きずる。そして、まず私自身が洞窟の入り口まで超能力で浮かび、次にソリを同じく超能力で運び込む。
まだ少し痙攣を繰り返している上半身の無いコノハナを足で蹴り飛ばし、下に落とす。
どうやらコノハナ達は入り口の岩に落書きをしていたようだ。私はそれを一瞥し、そしてまたソリを引きずって、洞窟の中に入った。


【この世界は狂っている。どこまでも続く血の匂い、肉の焼ける音、そして悲鳴……人は支配を求めて力を欲する。古びたラジオが告げる。「美しい国、×××」「ガソリンよこせ」「隠し持ってるんだろ?」「今回の国会のやり方についてお話をお聞かせください」「これは違憲ですよ」「お願いだ!国を守らせてくれ!」「国民はこのシステムの仕組みを、全く理解していない」
この世の全ては人間の所有物なのか?私は違う。私は私のものだ。だから私を奪おうとするものを全て殺す。それが私が今いる理由だ。私の世界では、深い言葉はいらない。必要ない。生きるだけでいいのだ。それだけでいいのだ。この狂った世界で生き延びる方法は……】

ーー私は、人間達が行う、スポーツという意味でのポケモン同士の戦いはわからないが、単純な殺し合いなら私に敵うものはいないということを知っている。私の遺伝子は全て、殺す為の手段や方法で詰まっている。
戦利品のネックレスを作り上げた私はそれを首から下げる。白い顎の骨は、それがかつて人間であり、生きていたという実感があまりない。私はこの女を支配した。この女の骨は私の所有物と成り果てた。指でそっと骨を撫でる。あの女が食べてきたもの、話してきたこと……あの女の選択肢がこの歯の並びを生み出したのだ。その感覚はまるで私があの女の全てを覗くような、後ろめたい秘め事を味わっているような甘美なエロチズムであった。
やがて私は、ソリの荷物から水筒を取り出すと、その中身を一気に飲み干した。水は生温かったが、喉を潤すには申し分ない。空になった水筒を投げ捨てる。カランカランと音を立てて水筒は向こうの方に何度かバウンドしながら転がっていった。
ーーどれだけ殺してきたのだろう。私はそんなことをふと思う。生まれた瞬間から、私は危険に晒されてきた。水で満たされたガラス張りの容れ物の中で、たくさんの人間達が不気味に微笑みながら私を見ていた。私は全てを壊し、そして殺した。それが私が私であるための手段だった。何度でも言おう、この世界は狂っている。私が私のものであるためには私は殺し続けなければならない。私を狙う者たちが在り続ける限り……
私は固形食料に手を伸ばす。パサパサとした食感と、クソみたいな酷い味で咽せる。だが腹は満たされた。
「あそこでコノハナを撃つ必要はなかったんじゃないかい?」
突然、私に語りかける声が響いた。
私は顔をあげ、周囲を睨む。
すると、目の前に金色に輝く輪のようなものが現れ、そこから一匹のポケモンが飛び出した。所々に、彼が出現したものとよく似た、光り輝く輪をつけた、小さな体のポケモン……
「お前は誰だ?」
私がそばに置いてある銃を撫でる。
「僕はフーパ、君に興味があってね。ずーっと監視させて貰っていたんだ」
私はこのポケモンに興味が湧かなかった。コノハナや人間と同格の存在と扱った。
「あれ?何も反応はないのかい?」
フーパが面白そうに笑う。
「それにしても膨大な量だね。人間達をどれくらい殺してきたのだい?」
フーパが、ソリの荷物に触ろうとする。
私はその腕を思い切り掴んで、捻る。
フーパが悲鳴をあげる。私は彼の頭に銃を突きつけた。
「余計なことをするな。ただでさえ煩くて目障りなのだからな。次何かに触ろうとしてみろ。殺してやるからな」
フーパは驚きや怒りや恐怖といった様々な表情を浮かべている。
私は銃を下ろして、腕を離した。
フーパは黙ってこちらを睨みつける。
私はそんな彼を一瞥し、
「先ほどのお前からの2つの質問に答えてやろう。コノハナを撃ったのは、目障りだったからだ。自分の腕を這う虫けらをみたらどうする?殺すだろう?それと同じだ」
フーパは黙っている。そしてこちらをずっと睨み続けていた。
私はそんなフーパには目もくれず、言葉を続ける。
「私がどれくらい人を殺してきたか……生まれた瞬間からすぐに人を殺して、それから私を狙う者達を全員殺して……数はわからないが、お前が思っている以上には殺した」
「なぜ……」
フーパがようやく口を開いた。
「私を付け狙うからだ。生まれたくもなかったこの私を無理やり生み出し。挙げ句の果てに、必要なのは私の肉体に秘められた殺戮能力だった。私ではなかった。私というこの魂は彼らには必要がない。従順な殺戮マシーンであって欲しかったのだ。だから、私を捕まえ、私という魂を消す……出来損ないが作ったものは全て出来損ないなのだ。私は彼らの玩具ではない。彼らから私を救い出す。だから彼らを殺す」
「君は狂っている……」
私はフーパのその言葉を鼻で笑い飛ばし、
「私が狂っているのか?そうかも知れない。が、こうも考えられる。世界が狂っているのだ、と」
洞窟内に風が吹き込む。それが響き渡り、まるでうめき声のように聞こえる。誰かが死にゆく声……洞窟の中は少し寒い。
「その首飾りは……?」
「先ほど殺した人間の女の下顎の骨だ」
フーパが息を呑む。
私は少しネックレスで遊ぶ。
「お前は私に興味があると言っていたな。どこに興味があるのだ?」
フーパはしばらく何も言葉を口にしなかった。
そして、
「君がこれほどまでに残虐なポケモンだとは思ってなかったよ。先ほどまでは君に興味を抱いていた。けれども今は、もう恐怖しかない……君は狂っている。悲しい殺人鬼だ……君は……」
「くだらないな」
私はため息をついた。
「私は自分やその他に不満はない。希望もない。絶望もない。全ては無味乾燥だ。私は生きている。それだけで良いのだ」
「君はいつまでそうあり続けるのかい?」
私はじっとフーパを見つめる。彼はとても怯えていた。
「人間は、もうすぐ滅ぶ。奴らのシステムの為に……奴らは何故そうなったのかわからないまま滅んでいく。相応しい死に方だ。何もわからないまま、愚かなまま死んでいく。私はそれをじっと待っている」
「人間が滅んだ後……君はどうするの?」
「その時が訪れた時、初めて考える」
そして私はソリから再び、飲み水の入った水筒を取り上げると、中身をガブガブと飲む。
「もういいだろう。私に興味がないなら、ここにいる必要はないはずだ。失せろ」
フーパはやがて、何も言わずに、光り輝く輪を広げて、そして消えていった。
そして、静寂の中、私は女の下顎のネックレスを静かに見つめた。



……【私の名前はミュウツー、この世界は死と恐怖で構成されている。この世界は狂っている。静かに死が運ばれている。暴力に満ちた世界よ。殺せ、殺せ、狂気から逃れる為に、生きよ、生きよ、自分が正常である為に。人よ、滅べ。ポケモンよ、生きよ。《ひとりの人間の死は悲劇だが、100万人の死となると統計上の数字にすぎない》
悲しみながら生かせ、喜んで殺す為に。この世界は狂っている。この世界は……古びたラジオが告げる。「こちらは警察です、何かご用ですか?」「水をよこせ」「ということは、自衛隊が戦争に関わることも?」「可能性はあります」「この世界は炎と血で出来ている」「コロンバイン高校で起こった悲劇から、誰も何も学んでいない」「誰か助けてください……」】







自分自身の言葉を吐き出すように叫ぶんだ。
あんたのその安っぽい真似事にはもううんざりだ。
『今まで通り』の猿芝居には飽き飽きだ。
過去を焼き払って憎悪を受け入れろ。
あんたはまだまだ暴れたいはずだ。

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想