グンジョウ

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読了時間目安:14分

作者:影丸さん



 どんどんからだがのぼってく。

 あかるく、まぶしくなっていく。

 ぶくぶくぶくと、ものすごい速さで泡がきえてく。

 きらきらひかる、境界のむこうへ。

 いま、とびだす――


「釣れたあっ!」


 境界をこえたとたん、聞いたことのない音がきこえた。
 妙にはっきりした、生き物の、声。

 からだが、とつぜんおもくなったきがした。
 からだの表面がひりひりする。

 直接あびるたっぷりのひかり。
 それがまぶしくて、なにもみえない。 

 みえないなにかにひっぱられたまま、ぐい、とからだが空を切る。
 ぼてっ、となげだされたそこは、ひどくざらざらちくちくとして、海底のじめんとはまるでちがった。


「いけっ、エンジ!」


 ――ブァッハー! ようやっと出番かあ!


 今度はポケモンのコエもきこえた。
 ひどくしゃがれたコエだった。


 ――よぉこそ海のオトモダチ! じりじりアブって、ヤキザカナにしてやるよお!


 そのあとのことはよくおぼえてない。
 すごくあつくて、しぬかとおもって。

 とつぜんまっくらになって、あとはなにもわからなくなった。



   ○



 つぎにめがさめたとき、そこはまたしらない場所だった。
 つるつるしていて、みょうにたいらなじめんの感触。

 やっぱりあかるくてまぶしいけれど、さっきほどじゃない。
 ぼんやりとだけど、なんとかまわりのようすがみえる。

 しろい、壁にかこまれた場所。
 壁にあいたしかくい穴のむこうがくらくて、いまが夜らしいとわかる。

 なのに、なんでここだけこんなにあかるいんだろう。
 あかるいのはにがてだ。そとにいきたい。


「ようこそチョンチー。今日からキミはおれたちの仲間だ」


 ポケモンとはちがう、生き物の声。
 これがニンゲンというものだろうか。

 まわりにも何匹かポケモンがいた。
 みんなじろじろとボクをみていた。


「仲良くしようぜ。ほら、握手っと」


 ニンゲンがボクの触手をつかんだ。
 ぐにっと握られ、きもちがわるい。

 なので、ありったけのでんきを流してやった。


「――っ!!??!!!?」


 声にならない声だった。
 ニンゲンっておもいのほか弱いのか。

 そのときちょっとしまったとおもった。
 まわりのポケモンがニンゲンの仲間なら、怒っておそってくるかもしれない。

 けれどそんなことにはならず。
 ポケモンたちは、おかしそうにわらっていた。

 まるで、いつものことだというみたいに。


「ってて……。チョンチーの触手はあぶないっと。メモしとかなきゃな」


 ニンゲンの方も動じてなかった。
 なんだかはらがたってくる。


 ――ブァッハー! よぉおまえ、やるじゃねえかあ。


 ひどくしゃがれたポケモンのコエ。
 昼間きいたのと同じヤツだ。


 ――おれぁエンジ。まあよろしくなあ。


 よろしくってなんだ。
 さっきはひどいめにあわせたくせに。


 ――ブバッ! そうきらうなよお。さっきのはバトル。つかまえるにゃあしょうがねえだろお。あいさつみてえなもんじゃねえかあ。


 チジョウでは、あいさつでやきころされそうになるらしい。
 なんてこわいところなんだろう。


 ――ブァッハー! にらむなってえ。そんなネジみたいな目じゃこわくもねえ。ま、これから仲間だ、よろしくやろうぜえ。


 つかまえるとか、仲間とか。
 ずいぶんかってなことをいってるきがする。

 かってに海からひっぱりあげて。かってにどこかへ連れてきて。
 ボクの都合なんかききもしないで、かってに仲間にするとかいって。

 もういい。
 どんなところかとおもっていたけど、チジョウなんてもうたくさんだ。

 あした、海にかえろう。
 そう決めてボクは、すぐに寝た。

 ひどくおちつかなかったけれど。
 ひどくつかれてて、すぐに眠れた。



   ○ ○



 抜け出すのはいがいとかんたんだった。

 ニンゲンはなにかを耳にあて、だれもいないのにひとりでしゃべっていた。
 ポケモンたちもおもいおもいにのんびりしていた。

 そうしているすきにこっそりはなれた。
 だまって出てったらわるいかなんて、そんなことは考えなかった。

 ひどくあるきづらかった。
 水の中とはまるでちがう。

 やたらとからだがおもたくて。
 じめんはかたくてあつくていたくて。

 じりじりとあびるひかりと空気に、からだがどんどんかわいていく。
 からだがぐらぐらしてきもちがわるい。

 そのうえ、そとはあかるすぎた。
 まぶしくてまぶしくて、ほとんどみえないまっしろなやみ。

 それでもがまんして目をあけていると、ちょっとずつちょっとずつなれてきて。
 どうにかちかくのようすくらいはわかるようになった。

 とんでもなくでかくてしかくい壁が、そこらじゅうにはえていた。
 こんなにまっすぐなものは海にはなくて、なんだか気味がわるかった。

 どっちが海なのかもわからない。
 あるけどあるけどあつくていたいじめんがつづく。

 これがチジョウ。
 ニンゲンのマチ。

 こんなものにちょっとでも興味をもっていたなんて。
 海からひっぱりあげられるとき、ほんのすこしでもわくわくしてた。

 そのことにはげしく後悔していた。

 とにかく、くらいところへいきたい。
 すこしでもしめったところへいきたい。

 おおきなかべとかべのあいだ。
 そこがちょうど日陰になっていた。

 さそわれるようにはいっていった。

 かべにもたれてすわりこんだ。
 じめんはかわらずかたくていたいけど、あつくないだけましだった。

 すこしほっとしたとたん、おなかがすいていることにきづいた。
 ニンゲンのだすたべものに、くちはつけていなかった。


 ――にゃんだあ、おみゃあは。


 みょうにかんだかいポケモンのコエ。
 おっくうながら、ボクはしぶしぶかおをあげた。


 ――みにゃいかおだにゃあ。このニャルマーさみゃのナワバリとしってここにいるにゃか。


 しまったとおもった。
 ほかのポケモンのナワバリに入れば、こうげきされてももんくはいえない。

 けど、でていくちからもわいてこない。
 たちあがってまた、あのひかりのしたにもどるなんて。


 ――でてかにゃいにゃら、ちからずくだにゃ。かくごはいいにゃあ。


 するどいツメがぎらりとひかる。
 でんきもだせないいまのボクじゃあ、とてもかなわないだろう。

 ああ、でも、いいや。
 どうせもう、海にもかえれない。

 このままこんなニンゲンのマチで。
 ボクはくたばるしかないんだ。


 ――ブァー、くっだらねえ。


 ひどくしゃがれたコエがきこえた。
 なんだかやたらとなつかしいきがした。


 ――ナワバリとかよお。ヤセイはかたっくるしくていやだぜえ。タビをしてみりゃ、きょうかいなんてどこにもねえんだあ。


 そいつはひょいをボクをもちあげた。
 ごつごつしていてかたい手だった。


 ――ブバッ! まーまーすっかりかわいちまってえ。ホントにヒモノになりてーのかあ。かってにでてってシンパイしたぜえ。


 シンパイ。
 どうして。


 ――にゃああ、おみゃあ、にゃんだあ。じゃまするにゃらまとめてひっかくにゃ。


 コエではそういっているけど、あいてはすっかりおよびごしだった。
 エンジがじぶんよりつよいって、ひとめみてわかってしまっている。


 ――ブァッハー! あーあーわりいわりい。こいつぁおいらの仲間なもんでえ。つれてかえっからカンベンなあ。


 エンジはあくまできらくにいった。
 あらそうつもりはないらしい。

 けれどくちもとにはまっかな炎をちらつかせてる。
 ものすごく目つきがわるいので、それだけでじゅうぶんはくりょくがある。

 ニャルマーはひげをひくひくさせて、くるんとまいたしっぽをちぢめた。


 ――にゃ、にゃあ。わかればいいにゃあ。さっさといくにゃあ。

 ――ブァッハー! おーおー、ジャマしたなあ。


 エンジはくるりときびすをかえすと、ボクをかついだままあるきだした。
 なんだかみょうにあんしんしていた。



   ○ ○ ○



「チョンチー! 心配したぞ!」


 かえるなりニンゲンがかけよってきた。
 りょうてでボクをエンジからうけとる。

 シンパイ。
 こいつもボクをシンパイしたのか。


「これからおまえの歓迎会だ。っとそのまえに、まずはこれだな」


 ニンゲンはボクをかかえたままふりむくと、よいしょ、としゃがむ。
 そしてボクを抱くうでをおろし、ざぶ、と――

 水?
 水だ!


「こども用のプールでちょっとせまいけどカンベンな。水のポケモンを仲間にするんだ、これくらい用意しとくべきだった」


 かわいたからだに水がしみていく。
 からだじゅうの感覚がもどってくる。


「さて、まずは名前を付けなきゃな。なにがいいかな」


 ナマエ?
 ボクがくびをかしげていると、エンジがそっとおしえてくれた。


 ――ブバッ! おいらはブーバー、ナマエがエンジだあ。まあ、あれだな、仲間の証だあ。


 ナマエ。
 仲間の証。

 またかってを押し付けようっていうことか。
 そもそもなんで、ボクのことを。


 ――ブァッハー! まああれだあ。ニンゲンってのは、きにいったもんは手にいれたがるもんなのさあ。とくにふかい理由もなく、じぶんのものにしたがるんだあ。


 エンジはあくまできらくにいった。
 きっとエンジも、そんなニンゲンをきにいっているんだ。


「よし、決めたぞ。グンジョウ。おまえと出会った海の色だ」


 ニンゲンはきにいらない。
 でも、きにいられるのはわるくない。


「ほら、腹減ってるだろ。おまえに合うように考えてみたんだ」


 ニンゲンのさしだしたまるいたべもの。
 ボクはそれを、そっとかじった。

 ちょっとしぶくて。
 わるくない。


「あらためてよろしくな、グンジョウ。仲良くやろうぜ」


 ニンゲンがまたボクの触手に手をのばす。
 ならまた、でんきを流してやろう。

 あいさつみたいなもんじゃないか。
 ちょちっ。


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感想

お名前:円山翔 さん
こんばんは。円山翔です。
影丸さんの作品だとは気付きませんでした……
平仮名の記述が優しくて、絵本を読んでいるような気持ちになりました。なんだかアニメが始まった頃のサトシとピカチュウ、ポケスペのレッドとピカチュウの関係を思い出します。最後の電撃をちょちっと抑えたのも、信頼の証ではないかとこっそり思って見たり……(鳴き声でしょうか?勘違いしていたらすみません)。エンジの話を聞いて、電撃を挨拶のようなものだというグンジョウに、思わず頬が緩みます。とても心温まるお話でした。
書いた日:2015年07月04日
作者返信
こんばんは! お読みいただき、ご感想をいただきありがとうございます!!
すっかりお返事が遅くなってしまいました、本当に申し訳ありません。

改行のスペースやセリフの記号など、覆面向けに意図的に変えていたところもあったので、騙せていましたら大成功でした、やった! 文体に関しても、絵本のようなイメージを持っていただければと思っていたので、そうなっていれば嬉しいです。
最初はうまくいかなくて、けどいろんなきっかけでちょっとずつ仲良くなっていく。そういう物語が大好きで、ピカチュウやピカを連想していただけるなんて光栄です。
最後に挨拶くらいはする気になった、というところに気持ちの変化を出してみました。拙作ですが、心に置いていただけましたら嬉しいです!

遅くなってしまいましたが、ご感想本当にありがとうございました!!
書いた日:2015年12月31日
お名前: さん
こんにちは!影丸さん!春です!
全編ひらがななのが、とても柔らかくて心地よいですね。チョンチー視点で書かれているため、人間と相手のポケモンの見え方や、バトルがちょっと変わった風に見えていて、そこがまた面白いです。そりゃあ突然引っ張りだされて攻撃されたら怒りもしますよね笑
チョンチーが逃げ出そうとして、それを助けようとして。結局トレーナーも身勝手だけど、そこには確かな優しさと、思いやりがあるのが、どこか残酷だけど、心に響く者があるように思います。チョンチーも、少しずつこのトレーナーと仲良くなっていくかもしれないし、ずっとツンデレかもしれない。
でも、最後のチョンチーの一行に、これから先の関係を想像させるものがあります。きっとうまくいくかもね、と思って、にっこりしました。
書いた日:2015年07月14日
作者返信
春さんこんばんは! 5ヶ月越しのご挨拶になってしまいました……!
お返事が遅くなってしまい本当に申し訳ありません。お読みいただき、ご感想をいただきありがとうございます!

覆面だからということもあり、今までと違う書き方に挑戦してみました。心地よく思っていただけましたら嬉しいです!
ポケモンからみたポケモン世界は、ポケモンにとってやさしいばかりじゃないかもしれない。そんなことをずっと考えていて、表現してみたいなと思って書いたもののひとつが今作です。ポケモンからみてトレーナーや世界がどう見えるかというのは、想像が捗ってすごく楽しいし、今後もやっていきたいと思っています。
チョンチーと彼らがどうなっていくのかは、僕も楽しみです。素敵な旅になればいいな。

大変遅くなってしまいましたが、ご感想本当にありがとうございました!!
書いた日:2015年12月31日
   作品サブカテゴリ: 覆面作家企画4投稿作品