謎解きと釣り

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作者:クロコダイルさん

 ポストに入っていたはがきを蔓で手にしたベイリーフは、思わず首をかしげました。ハガキの送り主は、謎解きが大好きな友達のアリゲイツだとわかります。しかし肝心の内容が全くわからないのです。それもそのはず、ハガキの裏面が真っ白で何も書いてありません。
 アリゲイツのことだから何か細工があるに違いないと、ベイリーフは頭をひねります。ハガキを表に裏と交互に見返していると、真っ白な裏面の方に濡れた跡があることに気づきました。
「水で書いたのかな……?」
 何か書いているのはわかりましたが、それから先は全く検討もつきません。

「おはよう。ベイリーフ」
 ハガキを持ったまま家の前で佇んでいると、挨拶が聞こえてきました。
「おはよう」
 挨拶を返しながら顔を上げると、そこには幼馴染のマグマラシが立っていました。ベイリーフと話しやすいようにと、四つん這いから二足で立ち上がっていました。

「アリゲイツから手紙は届いてる?」

 マグマラシの口から出てきた言葉にベイリーフは驚きます。ハガキは今日届いたばかりなので、郵便屋さん以外は誰もそのことを知らないはずだからです。

「届いているけど、どうしてそれを知ってるの?」
「オレの方にもあいつから手紙が来たんだよ。今日のお昼に三人で遊ぼうって話が書いてあったんだけど、場所はベイリーフに送った手紙に書いてあるってさ。普通に伝えればいいのに面倒くさい奴だよな」
 マグマラシは呆れながら言いました。しかしそう言いながらも、アリゲイツの謎解き遊びに付き合うのがマグマラシです。素直じゃないなと思いながら、ベイリーフは「そうだね」と同意しました。

「――ならこのハガキに書いてあるってことは待ち合わせ場所だったんだね」
「どうせそれも謎解きだろ? どんな暗号が書いてあった?」
「いや、まず文字が読めないんだよね」

 ベイリーフは真っ白なハガキを見せました。すると、マグマラシはおもむろにハガキの匂いを嗅ぎ始めます。それからすぐに、答えがわかったのか軽い口調で言いました。

「多分あぶり出しだな。炎を出すからかざしてみなよ」
 マグマラシは四つん這いになって一歩後ろに下がると、ぼうっと頭から炎を出しました。ベイリーフは言われたとおり、ハガキを焦がさないように注意しながら炎に近づけます。その途端、じわりじわりと薄茶色の文字が浮き上がってきました。

「へぇ、こうやって文字が浮き出てくるんだ」
 はじめてあぶり出しを体験したベイリーフは、感心した声を出しました。それから浮き出てきた文字を見て、困った顔になりました。現れたのは全く意味がわからない文字の羅列だったからです。

 ヒント:ヌケニン
 ににまにちにあんわんせにばんしょにんは、どにーんなにっつんにんにこにん

「なんか暗号が出てきたよ……」
 ベイリーフは思わずため息を吐きました。
「どんなの?」
 頭の炎を消したマグマラシは、立ち上がってハガキを見ようと顔をのぞかせます。ベイリーフは見やすいようにハガキを持ち替えて、浮き出てきた文章になっていない文字を見せました。今回はマグマラシもすぐにはわからないのか、小さく頭をひねって考え込んでいます。ベイリーフの方は謎解きが苦手なため、最初から考えることを放棄していました。

「このヒントが何かわかれば、文章が読めるってことだろうけど……」
「そうだねー。そう言えばなんか、“に”と“ん”がやけに多い文章だよね」

 ベイリーフは、ふと気づいたことを口にしました。その何気ない言葉に、マグマラシの頭の中で閃きが起きました。

「ヌケニン。ヌケ……ニン。抜け、にん!」

 わかった! と、マグマラシは手をパチンと叩いてベイリーフからハガキを取りました。それから文字を熱心に読み直して、自分の考えが正しいことを確認します。

「これ、“に”と“ん”を抜いて文字を読むんだ」
「文字を抜いて読む?」
「ヒントにあるヌケニンは、“に”と“ん”の言葉を抜いて読め、ってことさ。そうすると答えは――ドーナッツ湖だ!」
「それじゃあ、ドーナッツ湖が待ち合わせ場所ってこと?」
「そういうことだね」

 謎が解けたマグマラシは、すっきりした顔で頷きました。それから空を見上げて、太陽が真上にあることに気づき、謎を解くのに結構な時間が経っていることを知りました。
「もうお昼ぐらいだね。早く行かないと、あいつ拗ねるぞ」
「暗号を出しといて、勝手に拗ねられても困るけどね」
 ベイリーフは苦笑いを浮かべながら、マグマラシと一緒にドーナッツ湖に急いで向かいました。

 ドーナッツ湖とは、二匹が住んでいる街のすぐ隣にある湖です。湖の真ん中に小さな島あるため、湖の形がドーナッツに見えることからつけられました。

 二匹は湖に到着すると、いつも待ち合わせに使っている船着場に足を運びました。けれども、そこで待っていると思ったアリゲイツの姿はどこにもありません。

「着いたのはいいけど、アリゲイツはどこにいるのかな?」

 頭の葉っぱを揺らしながら、ベイリーフは周りを見渡します。マグマラシの方は、軽く辺りを確認した後、船着場に立てかけている看板に近づきました。その看板は形がいびつで、誰かが急いで建てた跡が見られました。内容を読んでいくと、マグマラシの目が据わりました。

「――ベイリーフ。次の問題があったよ」
「えーまだあんの?」
 ベイリーフはゲンナリしながら、マグマラシのそばに駆け寄りました。

「どんな問題?」

 マグマラシは無言で立て看板に書いてある文字を指し示しました。ベイリーフはここに来て、さらに難解な問題が現れたのかと不安になりながら読んでみました。

 オレの好物はどれだ!
 ①オレンの実 ②ノワキの実 ③ラムの実
 正解だと思うものを釣り竿につけて糸を垂らせ!

「……えーとこれは、どういうこと?」
 先ほどの謎解きよりもベイリーフの頭にハテナが沢山浮かびました。クイズは簡単ですが、その後の説明文が理解できません。

「釣れってことだろ。例の噂の遊びだよ」

 マグマラシは看板の後ろに回ると、やっぱりと呟きました。そこには、用意周到に釣り竿と木の実がセットされていました。今日の遊びが、アリゲイツがハマっている釣り遊びだと悟った二匹は、深いため息を吐きました。本来釣りとは、釣り竿を使って魚や水の中にいるポケモンを捕まえる方法のことを言います。しかしアリゲイツの釣り遊びは、自分が釣られる側と釣る側を決めて遊ぶことを言うのです。
 二匹はまだアリゲイツと釣り遊びをしたことがありませんでしたが、様々な噂を耳にしていました。その内容の中には、湖に引き込まれたり、何時間も焦らされたりと釣る側は全く楽しくないと言う話もありました。

「良くない噂が多かった気がするけど」
「そうなんだ? けどここまで来たし、一応釣ってやるか」

 マグマラシは餌を見比べてから真っ赤な木の実を掴みました。謎解きという面倒くさい手順で自分たちを呼んで振り回したアリゲイツに、少しは鬱憤を晴らしたいと思った上で選択しました。その木の実を見て、ベイリーフは思わず口をはさみます。

「……問題の答えは、ラムの実だよね?」
「いや、ここはあえてノワキでいった方が面白そうじゃん。選択肢にあるぐらいだし、食えるってことでしょ?」
「あっうん。そうだね……」
 ――鬼だ。鬼がいる。

 淡々と釣り竿に激辛で有名なノワキの実をつけるマグマラシに、ベイリーフは恐怖しました。そうこうしている内に、マグマラシは釣り竿を振ってノワキの実を湖に投げ入れました。
 ベイリーフはふと、木の実を湖に投げ入れて良かったのかと疑問に思いました。なんだかまずいことになるのではと考えていた矢先、赤い汁が湖に広がる光景を目にしました。

「ねぇ、湖汚染してない? 大丈夫?」
「大丈夫でしょ」
「けどさ、ノワキの実は激辛で有名だよね。その汁が水に溶け込むって結構まずいと思うんだけど」
「大きな湖だから問題ないよ」
「……アリゲイツが食いつかなかったらどうするの?」

 問題の答えとかもはや関係なく、遊びが成立しないのではとベイリーフは危惧しました。その質問に、マグマラシは飄々とした態度で答えます。

「そしたら無理やり食わせて帰る」

 容赦ない言葉にベイリーフは言葉を失います。どっちにしろ、アリゲイツが待ち受ける未来が変わらないことを理解しました。


 一方、湖の中ではアリゲイツがオロオロしていました。
(冗談で選択肢に入れたノワキの実を、選んできただと……!)

 大好きなラムの実が投げ込まれてくると思っていたアリゲイツは面食らいます。ノワキの実は何度かバツゲームで食べて、あまりの辛さに失神しかけたことがありました。そのためアリゲイツは自ら食べに行くきにはなれませんでした。同時に赤い汁が水に溶け込んで、目や鼻が痛くなってきていました。しかしこれだけで釣り遊びを諦めるのは、アリゲイツにとって不服でした。

「……くそ、やってくれるじゃないか! これぐらいで勝負を止める俺じゃないぞ!」
 ノワキの実を勝手にマグマラシの挑戦状と受け取ったアリゲイツは、闘志を燃やしました。冷や汗を流しながら、水中に浮かぶ真っ赤な木の実を睨みつけます。それから助走をつけて、水流に身を任せ漂うノワキの実に向かって一直線に向かいました。

 そのまま大きな口を開けて、ぱくりと一口。そのまま糸を引っ張ろうとして――。アリゲイツは声なき声で泣き叫び、思わず湖から飛び上がりました。


―――――――
――――
――


「――お前って本当に馬鹿だよな」
 マグマラシは釣り竿を回収しながら呆れて言いました。隣ではアリゲイツがベイリーフにアロマセラピーをかけてもらっています。大きな口は真っ赤に腫れて、タラコ唇になっていました。

「ふる……しゃい」
 痛くてうまくしゃべることができず、涙目になりながら口を突き出しています。それから少しでも辛さを和らげようと、オレンの実を一生懸命食べていました。

「こんしょはまへない!」
「別にいいけど。それなら、それまでにノワキの実に慣れておけよな」
 二匹の話を聞いていると、ベイリーフは釣りとは何かと考え直してしまいそうでした。

「……とりあえず、次は普通に遊ぼうよ。ね?」
 アリゲイツの舌のためにも、ベイリーフは苦笑いしながら睨み合う二匹に普通の遊びを提言するのでした。
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