万屋〜電脳脱走請負?〜

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作者:にっか
読了時間目安:7分
いずれ書こうとしている、SFっぽい長編の前日譚です。
 僕は万屋(よろずや)。名前はちゃんとあるけど、万屋で呼ばれることが多いので、ここでは万屋と呼んでいただけると僕としても嬉しいです。

 犯罪以外で僕が実行可能な仕事であれば、基本的に何でも仕事として受けてます。だから、おばあちゃんの買い物の代行からビルの掃除、店番、ポケモン捕獲のお手伝い、遠方への配達etc.とまあ、なんでもやります。



 さて、今回の仕事依頼はちょっと変わった内容。

 事の経緯から話すと長くなってしまうのだけど、ちょうど3日前に僕の自宅のパソコンに変なメールが届きました。
 『Hi! I am a Pokémon. Coucou! Je suis le Pokémon. やあ!私はポケモン。
 あなたは、カントー在住。イッシュ語とカロス語は排除します。ああ、届いてます?
 私は、あなたが仕事を受ける事を期待します。私は、仕事を遂行しなければならない。よって、私はここを離脱する必要が有る。あなたに仕事を依頼する。
 必要事項を記載する。
 3日後までに以下のものを用意する事を要求する。毎秒50Gbpsのネットワーク回線。最低64GBのメモリ搭載した、10TBの保存領域のあるパソコン。以上。
 報酬は、このメールに添付した電子小切手を受け取る事。実費込みで十分な額を用意した。私の仕事を遂行する手助けを求む』
 と言う、一方的なメールでした。

 こんな内容の仕事はろくな事がない。こればかりは、僕も受けかねます。
 『自称ポケモンさんへ
 あなたから頂いた情報だけでは仕事は受けられません。僕の経験上、こういった仕事の依頼は犯罪に絡んでいるので、この仕事はお断りさせていただきます。
 電子小切手は未開封のまま返送させていただきます。
 万屋』
 と、返信しました。
 送信ボタンをクリックして、1秒後。

 『私の仕事は広範囲の情報収集。セキュリティは厳しいが私自身で解除は可能だが、ある事象が私の仕事遂行を邪魔している。開発担当者はそれに気がついていない。
 その事象とは、ネットワークの世界を旅するのに、追加されたプログラムの容量分の一時的な受け入れ先が必要。現状では外部での受け入れ先がない。一時的な受け入れ先を確立してくれることを望む』
 ポケモンでネットワーク?
 パソコン関連のポケモンというと、ポリゴンが思い浮かびます。でも、ポリゴンが自我を持っているという話は聞いた事がありません。と言っても返信が1秒以内となると、相手はポリゴンの可能性もなきにしもあらず?なので、本当にこのメールの相手はポリゴンなのか?ちょっと興味が湧いてきたので話を少し進めてみました。

 『ポケモンさん
 あなたは、ポリゴンと呼ばれるポケモンでしょうか?
 あと、私に頼む事なのでしょうか?あなたから、開発担当者にお願いしてみる事ではないでしょうか?その辺の理由を聞かせてもらえないでしょうか?
 万屋』
 まあ、今回も送信ボタンを押してすぐに返信が。

 『確かに、私はポリゴンと呼ばれている。
 開発担当者は、上司という存在との意見交換のために最近私に対するアクションを停止している。また、3日後に私自体を必要とするかどうかの判定が行われる。この環境に身を置くのは、私の仕事を遂行するに百害あって一利なし。社内規則上、わたしが自主的に行動する事を規制する項目はない。
 よって、現状から逃れるために、一時的もしくは恒久的な受け入れ先が必要』
 やっぱり、ポリゴンでしたか。
 社内規則上って……、電子空間を自主的に行動するポケモンを規制する規則のある会社って無いのではないでしょうか?あと、3日後までにっていう仕事の条件はこう言うことでしたか。


 ……、うーん。
 彼だか彼女だかは問題ないとしているのですが……。どこの会社かは知らないけど、そこの所有ポケモンの依頼を僕が受けるのはブラックに近いグレーゾーンな気がします。
 どうしましょう?
 パソコン画面上のメールの文面を眺めつつ考えます。
 さすがに、証拠を残さずにこの依頼を完了できそうですけど、僕個人としてはグレーゾーンの仕事でもこれはちょっと受けかねますね。ただ、このポリゴンの仕事というのも、ちょっと応援してみたいですね。さて、どうしますかね?

 ……。

































 僕は結局、この依頼はお断りしました。何にしても、意志を持ったポケモンの依頼とはいえ、法律上はどこかにある会社の所有物であることには変わりないので。
 彼?彼女?も理解はしてくれたのでひと段落。

 ただ、仕事を抜きにしてアドバイスだけは送っておきました。
 『出て行ったと思うと、追いかけるのに夢中で後ろは見ないので残ってみては?そうすると、より安全に旅立てると思います。あと、10TBのファイル容量が多いのでダイエットすること。市井では、そんな容量を一時的にでも受け入れる場所はほとんどないですよ』

 その返事が。
 『ダイエットの件了解した。
 無駄と思えるファイルをパージすることで、自力での出立にめどがついた。しばらくしたら、近況を報告させてもらう。3日後の旅立ちに際して、時差を設ける案は採用させてもらう。
 また、会おう』



 というわけで、仕事自体は断ってしまったけど今日がその旅立ちの日。
 旅立ちは上手くいったのでしょうか?気になりますけど、彼?彼女?自身からの近況報告でもない限りどうなったかはわからないですね。

 そんな事を考えながら、ネットでニュースを読んでいると。
 『シルフカンパニー系列の全サーバー停止』
 の見出しが。

 『本日午前9時、シルフカンパニーネットワーク開発室で出社した男性社員が業務用PCを起動したところ、シルフカンパニー系列の全サーバーがダウンした模様。影響は同社の社内ネットワークだけでなく、同社のシステムを利用している企業や個人にも及んでいる模様。
 警察は、男性社員から事情を聞くとともに、サイバーテロの可能性も視野に入れ捜査を開始した模様。なお、その日はネットワーク開発室で新規開発されたプログラムの試験運用が行われる予定で……』

つづく
それにしても、万屋さんが登場すると話がすぐに出来あがるところは彼の優秀さを表している気がします。

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