デデンネの心 ~大切な何かのために思う事~

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読了時間目安:99分

作者:川畑拓也さん

それは、突然訪れた・・・。

あたしの友人、当時はまだヌメラだった彼は、自分が住んでいた故郷の湿地帯を、フラージェス率いる軍団に襲われて乗っ取られた。

ヌメラも、そのフラージェスによって湿地帯を追い出され、そこであたし達と出会った。

フラージェスから故郷を救いたい彼は、その願いを受けたサトシがゲットして、あたし達の仲間と一緒に旅をすることになった。

最初は弱かったヌメラだけど、あたし達と旅を続ける中で、その友人はどんどん強くなっていって、ヌメイル、そしてヌメルゴンへと進化していった。

そんな中、ついにあたし達はヌメルゴンの故郷の湿地帯へとやって来た。

今まで故郷を救うために、あたし達との旅を通して強くなったヌメルゴンは、かつて苦しめられたフラージェスを下し、リベンジを果たした。

そこであたし達は、そのフラージェスが、病気にかかった自分の子供のフラエッテを助けるために、湿地帯にある「いやしの泉」の水につからせるためだと知った。

それから、泉の水を奪おうとしたロケット団を、ヌメルゴンはフラージェスと協力して倒し、フラエッテを救うと同時に、湿地帯のポケモン達とフラージェスの一団が仲直りをする事が出来た。

その後で、ようやく故郷を取り戻せたヌメルゴンに対して、サトシはこう言った。

「ヌメルゴン・・・。」
「・・・メゴン?」
「お前はここに残れ!」
『え?』

突然の出来事だった。あたしも仲間達も、ヌメルゴンも呆然としていた。

しかし、サトシは続けた。

「お前の暮らす場所はここだ・・・、この湿地帯だ。そうだろ?」
「暮らす場所って・・・、まさか!?」
「お別れなの・・・?」

セレナとユリーカの言葉の後で、あたしは心の中で動揺していた。

「デデネ・・・。」

せっかく仲良くなれた友達との、突然の別れ。その時が来てしまったと思うと・・・。

確かに、ヌメルゴンがあたし達と旅して強くなったのは、この故郷の湿地帯を救うためだ。

だけど、あたしはもう少し、彼と一緒にいたかった。

カロス地方の旅が終わるまでの間だけでも、一緒に暮らしたかった。

だけど、サトシは声を震わせて言った。

「俺だって・・・、俺だって辛いさ・・・!だけど・・・、お前は強くなった。ヌメラの時と違う。あいつらを守り、助け合い、仲良く暮らしていける・・・。お前が一番したかったことだ。」

でも、ヌメルゴンも戸惑っていた。

向こうでは、彼の友達も笑いかけてくれていたが、今まで一緒に過ごしてきたトレーナーな仲間との別れを、すぐに受け止めることはできるはずがない。

だが、彼はすぐに決意し、別れの辛さを吐き出すように、涙を浮かべてサトシに抱き付いた。

「・・・ヌメッゴン!!」

そう、彼はこの湿地帯に残り、仲間達を守る事を選んだのだった。

あたしとユリーカ達は涙を浮かべ、さらにシトロンも言う。

「・・・そうですね、それが幸せなのかもしれません・・・。ヌメルゴンにとっても、ここのポケモン達にとっても・・・。」
『・・・・・・。』

それからあたし達は、ヌメラと出会ってから、今に至るまでの全ての出来事を思い返した。

色々あったけど、そんな中でヌメルゴンは強くなっていき、そして故郷の湿地帯を救い、新しい仲間も生まれた。

正直言えば、あたしもヌメルゴンとの別れは辛かった。

でも、彼がここで暮らすことを選ぶのなら、あたしは何もいう事は無かった。

それが、ヌメルゴンの選んだ道なのだから・・・。

「例え遠く離れていても、何があっても、どんな時も・・・、俺達は友達だ。ずっと、ずっと・・・!」

そう言って涙を流すサトシの顔に、ヌメルゴンの涙がこぼれ落ちた。

さらにセレナとユリーカも言った。

「忘れないわ・・・、ヌメルゴンの事・・・!」
「絶対、絶対、絶対・・・!」

ユリーカはシトロンに抱き付いて泣きじゃくる。そして、あたしも気持ちが爆発し、涙を浮かべたヌメルゴンの方を向いて、彼の方へと駆けつけた。

「全く、ベトベトになったじゃないか・・・。」

ヌメルゴンの体から離れたサトシの次に、あたしがヌメルゴンの体に抱き付いた。

「ヌメルゴン!!」
「!」
「もっと一緒にいたかったよ!あたし達親友だもん!!」
「デデンネ・・・。」

しばらく、あたしは彼の体に抱き付いて、泣きじゃくった。ヌメヌメした体で滑りながらも、しっかりとその体にくっついていた・・・。



「デデンネの心 ~大切な何かのために思う事~」



それから数日が経った頃。
カロスリーグ出場を目指すサトシ達は、6個目のジムバッジを手に入れるため、クノエシティに向けて旅を続けていた。
そんな中でのひと時、彼らはとある高原で食事をしていた。周りは森に囲まれ、傍にはきれいな小川が流れ、穏やかな空間だった。サトシ、セレナ、シトロン、ユリーカは4人でテーブルを囲んで食事をして、ピカチュウやデデンネ、モンスターボールの中のポケモン達は、そのそばで食事をしていた。
テーブルでは、シトロンがサトシ達に、自分の料理の感想を聞いていた。
「どうですか?今日のサラダにはオボンの実を入れて少し工夫をしたのですが。」
サトシとユリーカが、それに答えた。
「美味しーい!!」
「この味も悪くないぜ!」
「そうですか、そうですか!それはよかった!なにせ初めての試みでしたが、口に合ったのなら!」
シトロンは頭をかいて喜んでいた。セレナも彼に声をかける。
「さすがシトロンね!」
一方、ポケモン達も黙々と食事をしていた。みんなも、おいしそうにポケモンフーズを食べている。
でも、その中でデデンネは、少し元気がなさそうだった。
「はぁ・・・。」
彼女は小さくため息をついて、空を見上げた。
今、デデンネが考えているのは、最近別れたばかりのヌメルゴンの事だった。彼が選んだ事とは言え、湿地帯で仲間と仲良くやっていくために残ることになって、今はここにはいないのだ。
「やっぱり、まだその気になれないなぁ・・・。」
あの時はヌメルゴンの意志を尊重して、彼が湿地帯に残る事を推奨したものの、まだ心のどこかでは、彼がいなくなった心の隙間を埋めることはできていなかったのだった。
するとそこへ、自分の分のフーズを全て平らげたハリマロンが、デデンネの様子を伺い、ニヤリと笑った。
「およ?デデンネ、いらないんだったらもらってやろうか?」
そう言って、彼はデデンネのフーズに手を伸ばす。しかし、それはすぐに阻まれた。
「やめなさいよ!」
チョン!
「痛てっ!」
突然、手をつつかれ、ハリマロンはその手をひっこめた。
彼の手を止めたのは、デデンネの隣にいたヒノヤコマだった。デデンネのフーズが食べられようとしたのに気付き、彼女がすかさず阻止したのだった。
「いくら食べたりないからって、相手のフーズに手を出すなんて、意地汚いわよ!」
「ちぇっ、わかったよ。」
ヒノヤコマに注意され、ハリマロンは渋々身を引いた。
ヒノヤコマは、ヤヤコマだった頃から、自分のすぐ後に仲間になったデデンネを妹のように可愛がり、何かと面倒を見ていた。デデンネも、彼女のそんな優しさと面倒見のよさに心許し、姉のように慕っていた。
「ありがとう、ヒノヤコマ!」
デデンネがお礼を言うと、ヒノヤコマも嬉しそうに、羽で顔をかいた。
「ま、あたしも人の事言えたもんじゃないんだけど。」
ヒノヤコマが言うに、デデンネとの出会いは最悪だった・・・。

ミアレシティとハクダンシティの間の森で、まだユリーカに「キープ(シトロンがゲットし、ユリーカがトレーナーデビューしたらパートナーにするために保管する)」される前のデデンネが、ユリーカとサトシ達に出会った時、デデンネが食べようとしていたきのみを、ヤヤコマだった頃の彼女が横取りしたうえに、そのきのみを食べてしまったのだ。
話は変わるが、その際の出来事がきっかけでサトシにゲットされることになったのだ。
ゲットされる前は性格もやや生意気で、どんな相手にも強気な態度を取っていたが、サトシにゲットされたと同時に彼らに心許したのと、デデンネのきのみを奪った事に関するユリーカからの注意もあって、その性格は少し丸くなっていった。

そして、その後でデデンネが仲間になった後、その夜に立ち寄ったポケモンセンターでの食事の前に、彼女達は再会したのだった。
「みんな出てこい!!」
サトシがボールを投げ、ケロマツとヤヤコマが同時にボールから出て、ピカチュウもサトシの肩から降りて来た。
「デデンネも出ておいで。」
ユリーカも、ポシェットからデデンネを出した。
その時、ポシェットから出てきたポケモンを見て、ヤヤコマはハッとなった。
「!あの子は・・・!」
以前ユリーカに注意された時から、またどこかで会ったら謝らなければと思っていた相手。あの時、きのみを取った相手のデデンネだった。
今日出会ったとき、あのデデンネも、ユリーカがピカチュウにあげたフーズを横取りしたけど、自分のやったことはそれより酷い事だったかもしれない。泣かせたりもしたのだから。すぐにでもそうしたかったが、昼間は色々あってできなかった。でも、仲間になった今なら、ちゃんと言える。
そう思いながら、彼女はすかさず、デデンネの下へと駆けつけた。
「ヤヤコマ?」
サトシ達は、突然動き出したヤヤコマに目を丸くしていた。
「どうしたんだ?」
ピカチュウも声をかけてくるが、彼女はただひたすら、そのデデンネの方へと向かって行った。
ヤヤコマは、デデンネの近くへ来ると、少し気まずそうに声をかけた。
「ねぇ、あんた・・・。」
「え?」
デデンネは呆然とする。ヤヤコマは尋ねかける。
「前に、あんたからきのみを奪ったヤヤコマなんだけど、覚えてる・・・?」
「・・・知ってるよ、あの時の横取りお姉ちゃん。」
「うっ・・・!」
言われた瞬間、デデンネの言葉がヤヤコマの胸にグサッと刺さった。しかしデデンネは、無邪気な笑顔で続けた。
「今日も会ったよね、ユリーカ達と一緒に!」
「う、うん・・・。」
その相手の様子と、最初に言われた言葉が痛かったが、ヤヤコマはデデンネに対し、すまなそうに続けた。
「その・・・、あの時は悪かったわ。ごめんね・・・。」
「え?」
「ユリーカに言われてから、きのみ取ったことちゃんと謝らなきゃって思って・・・。だから・・・。」
「・・・・・・。」
ちゃんと謝罪の意を表したのだが、果たして相手はどんな反応をするだろうか。ヤヤコマは少し不安がりながら、相手の顔を見上げる。
しかし、デデンネは笑いかけてきた。
「・・・ちゃんと謝ったんだし、いいよ!許してあげる!」
「・・・本当?」
ヤヤコマは少し笑顔になって、顔を上げた。デデンネも笑いかけた。
「うん!それにきのみはまたいつでも食べられるし!」
「・・・・・・!」
相手から許しをもらうと、ヤヤコマの表情も明るくなった。
それから彼女は、シトロンのバックまで飛んで取り付き、中に入っていった。
「お、おい!ヤヤコマ?」
「何をする気ですか?」
一同は戸惑っていたが、やがてヤヤコマは中からオレンの実を持って出てきた。
「そのオレンの実は・・・。」
と、ヤヤコマはシトロンにジェスチャーで、このオレンの実を持って行っていいかを尋ねた。
「え?いいですけど・・・。」
持ち主の許可が得られると、ヤヤコマはそのオレンの実を、デデンネのところにまで持って行った。そして手渡す。
「はい、これ。ほんのお詫びの印よ。」
「わー、ありがとう!」
デデンネは目を輝かせ、オレンの実を受け取って食べ始めた。それを見てヤヤコマも微笑んだ。
サトシ達も、その様子に和んでいた。
「どうやら、向こうも仲直りできたようですね。」
「ちゃんと反省していたなんてえらい!」
「偉いぞ、ヤヤコマ!」
ピカチュウ、そしてケロマツも、2人の様子を見て言葉を交わし合った。
「なんか、ゲットされる前と比べると、ヤヤコマの性格も少しはよくなったね。」
「あぁ、さっきもシトロンにオレンの実を持って行っていいか、ちゃんと聞いたりとかな。」
「でも、出会ったばかりでケロマツとバトルした時のあの態度と比べると、不思議な感じだよね。」
「そう言うもんだろ?」
「え?」
「かく言う俺も、サトシの下へ来る前は結構つっぱっていたからな。」
「あぁ、そうだったね・・・。」
実はケロマツも、サトシの前にもいろんな新人トレーナーの下を転々としていたが、自分の意地っ張りな性格が災いして、そのいずれかとも上手くいかなかったが、自分とに通った性格のサトシから「優しくて正義感がある」と認識され、息を合わせることに成功し、現在に至るのである。彼は今のヤヤコマを見て、そんな自分を見つめ返していた。
ヤヤコマとデデンネはすっかり意気投合し、笑顔で笑い合っていた。
「よーし、ぞれじゃあみんなでご飯にしよー!」
それからユリーカが呼びかけると、ポケモン達も一斉に返事を返した。
その時から、ヒノヤコマとデデンネは仲良しになったのだ・・・。

あの時の事を思い返しながら、ヒノヤコマは優しく微笑んでいた。
自分は、ヌメラが来る前から、デデンネとは一番親しい仲だ。だから、何かと彼女の事はわかってしまう。
今、デデンネが抱えている、大きな「悩み」にも・・・。
「・・・ねぇ、デデンネ。」
ヒノヤコマは、思い切ってデデンネに聞いた。
「ん?」
「あんた・・・、やっぱりヌメルゴンの事が・・・。」
「!」
そう言われた瞬間、デデンネはハッとなった。そして小さく俯いた。
「そっか、やっぱり・・・。」
「・・・・・・。」
デデンネは表情を曇らせながらも、ヒノヤコマに打ち明ける。
「・・・そりゃあ、最初はさよならするのは嫌だったよ。でも、彼が決めた事なんだし、あたしのわがままでうちこわすことはしたくなかったもん・・・。」
「デデンネ・・・。」
「でも、やっぱり・・・、すぐに気持ちの整理なんて、できないよ・・・。」
「・・・・・・。」
下を俯いたままのデデンネを、ヒノヤコマもあえて何も言わず、静かに見守っていた。姉貴分として、かわいい妹分の元気が無い所を見ていると、自分も心配になってくるのだ。
しばらくデデンネは沈み込んでいたが、やがてフーズを少しずつ食べ始めた。

間もなく昼食が終わり、全員満腹になっていた。
「あー、食った、食った!」
「もう最高!」
サトシとセレナは、とても満足していた。シトロンも笑いながら言った。
「今日の料理も美味しくいただいてもらえたようで、僕も満足です。」
「ユリーカも手伝ったもんね!」
ユリーカもやんちゃな笑顔で言った。
するとサトシは、椅子から起き上がって叫んだ。
「よし!昼飯も終わったし、バトルの特訓に行くか!」
「え、もう?」
「ちょっと気が早くない?」
セレナとユリーカは驚くが、サトシはまんざらでもなさそうに言った。
「だってもうすぐジム戦だから、少しでもポケモン達を鍛えておかないと!」
クノエシティのジム戦に向けて、サトシは気合十分のようだ。シトロンも彼の様子から、その意見に同意した。
「わかります、その気持ち。やっぱり待ち切れませんよね!」
「あぁ!だからもっともっと特訓するんだ!」
そして、サトシは近くで休憩中のポケモン達に向かって呼びかけた。
「よし、ゲコガシラ、ルチャブル!今回はお前達の特訓だ!」
「ゲコ!」
「チャブル!」
名指しされたゲコガシラとルチャブルが返事をして、サトシの下へ向かって行った。ピカチュウも、彼らに続いてサトシの下へ向かい、その特訓へ付きあおうとする。
残ったヒノヤコマは、一息吐いて呟く。
「あたしは今回、お休みか。」
すると、彼女は河原の近くでたそがれているデデンネに気が付いた。
デデンネは今、離れてしまった親友の事をずっと考えていたのだった。食事を食べた後なのに、ヌメルゴンの事を考えると元気が出なくて、ずっと思い悩んでいるのだった。ふと水面に映るのは、ヌメルゴンの顔・・・。
「ヌメルゴン・・・。」
彼女は寂しくて、今にも泣き出しそうだった。
「・・・・・・。」
その姿を見た時、ヒノヤコマは彼女を気の毒に思った。
そこで、そっとデデンネの方へ向かい、その隣に来てそっと声をかけた。
「デデンネ。」
「!」
いつの間に隣に現れた姉貴分の姿に、デデンネは驚いていた。しかしヒノヤコマは笑いかけながら、優しく尋ねてきた。
「ちょっと、付き合ってくれる?」
「・・・うん。」
デデンネは戸惑いながらも返事をした。
彼女を連れて、ヒノヤコマは特訓へ向かう途中のサトシ達の下へと来て、声をかけた。
「ヒャンマ、ヒャマ!」
「ん、どうしたヒノヤコマ?」
サトシと、ピカチュウ達がこちらを振り向く。ユリーカもやって来た。
「何なに、どうしたの?」
「ヒャンママ、ヒャーンマ!」
河原が流れる向こう側を向いて、ヒノヤコマが何かを促した。それを見たシトロンが、彼女のジェスチャーを理解して説明した。
「もしかして、デデンネと散歩に行ってくるって言っているんじゃないでしょうか?」
「そうなの?」
ユリーカは首をかしげるが、ポケモン達の事をよく知るサトシは、シトロンの言った事を理解した。
「そうか、ヒノヤコマはデデンネと仲がいいもんな、ヌメルゴンと同じくらいに。」
「!」
すると、ヌメルゴンの名前が出てきた瞬間、デデンネはまた顔を俯かせた。そんな彼女に、ヒノヤコマは優しく羽を添えた。
「デデンネ・・・?」
ユリーカは呆然と、元気の無いデデンネを見ているが、サトシが2人に言った。
「わかった!じゃあ俺はゲコガシラ達の特訓に行ってくるから、後は頼んだぞ!」
「ピカチュウ!」
サトシの肩の上に乗るピカチュウも続いた。それを聞いて、シトロンとユリーカも微笑んで、賛成の意志を表す。そしてユリーカが、サトシに続くように言った。
「ただし、危ない事しちゃダメよ。」
いつか兄に言われたようなセリフだったが、ヒノヤコマとデデンネは頷いた。
「じゃあ、ごゆっくり!」
シトロンがそう言うと、ヒノヤコマはデデンネを背中に乗せようとする。
「さぁ、乗って!」
「・・・うん。」
デデンネは促されるがまま、彼女の背中に乗った。自分の背中にデデンネが乗ったことを確認し、ヒノヤコマが声をかけた。
「よし、乗ったわね。じゃあ出発よ!今日はあたしとデデンネで探検よ!」
「・・・うん!」
デデンネも笑顔になって頷いた。
それから、ヒノヤコマは飛び立とうとする。
「さぁ、しっかり掴まっていてね!出発よ!!」
間もなく、デデンネを背中に乗せて、ヒノヤコマは飛び立った。森の木々より高いところまで跳び上がって行く。そして、ある程度の上空に達すると、彼女の背中のデデンネが尋ねた。
「ねぇ、どこまで行くの?」
「そうねぇ・・・。じゃあ、あの小川をたどって、水が流れてくる先まで行きましょうか。」
「賛成、そうしよう!」
デデンネも答えた。それを受けて、ヒノヤコマも進み出す。
「それじゃあ、レッツ、GO!」
体を進路方向にそらせ、なめらかにヒノヤコマが進んでいく。デデンネは胸を躍らせていた。

2人が飛び立つ姿を、サトシ達は見守っていた。その後でユリーカは、少し心配そうに呟いた。
「デデンネ、大丈夫かなぁ・・・。」
『え?』
サトシとシトロンが首を傾げた。セレナもテールナーと一緒に彼らの前に来て続いた。
「確かに、ヌメルゴンと別れてから、元気無さそうだったもんね・・・。」
「ルーナ・・・。」
セレナが話す隣で、テールナーも腕組みをして頷いていた。
「やっぱり、ヌメルゴンがいなくて寂しいのかな・・・。」
自分の(キープした)ポケモンの事を心配するユリーカのそばに、シトロンがやって来て彼女の肩を持って答えた。
「大丈夫だよ、ヒノヤコマも一緒だし。」
「お兄ちゃん・・・。」
優しく語り掛けてくる兄を見上げ、ユリーカは呟いた。サトシも、ヒノヤコマ達が飛び立った先を見上げて応えた。
「あいつと一緒なら、きっとデデンネも元気になって帰って来るさ。」
「ピカチュウ。」
彼の肩で、ピカチュウも頷いていた。
「うん、そうだね・・・。」
ユリーカも安心して、デデンネ達の向かった先を眺めていた。彼らの周囲のポケモン達も、サトシ達と、ヒノヤコマ達は向かった方向をそれぞれ眺めていた。

ヒノヤコマとデデンネは、地上で流れる小川を頼りに、晴れ空の下でゆったりと空中散歩を楽しんでいた。2人とも、穏やかな空の下で楽しそうに、周囲の景色を満喫していた。
眼下の景色には、自分達が先ほどまでいた森がどこまでも広がり、その中には小川のみならず、花畑や大きな川が流れ、そこにはたくさんのポケモンが暮らしているのが見えた。
「すごいわね、この森!どこまでも広がっているわ!」
「うん。向こうにお花畑も見えるし、大きな川も流れてる。」
「山もあんなにいっぱい見えるわね・・・。あっ、ほら見てデデンネ!森の広いところにマダツボミとウツドンの群れがいるわ!」
「本当だ。あっ、こっちにはウパーとヌオーがたっくさん!」
「あそこの岩山にいるのはチョボマキとカブルモかしら?」
さらにデデンネは、自分とヒノヤコマと同じ高さを飛ぶ、ポッポやピジョン、ピジョットの群れと遭遇した。
「あっ、見てヒノヤコマ!ピジョットの群れがいるよ!」
「本当だわ!こんにちは!」
「ヤッホー!」
ヒノヤコマが挨拶し、デデンネも手を振ると、ピジョット達の群れも彼女達に笑いかけた。
それから、そのピジョットの群れが過ぎ去った後も、2人は気持ちよく空中散歩を楽しんでいた。
「そろそろ、小川の上流に差し掛かるわね・・・。」
その時、デデンネがその先を見て指を指した。
「あっ!あそこに大きな湖が!」
彼女が叫ぶと、ヒノヤコマも同じ場所を向いた。
彼女達が辿っていた小川の先には、この森の中で一番大きいと思われる規模の湖があった。
「きっとあそこが小川とつながっているのね。」
「降りてみようよ!」
デデンネの提案に、ヒノヤコマは頷いた。
それから2人は、その大きな湖のほとりへと降り立った。着地すると、デデンネはヒノヤコマの背中から降りた。
近くへ降りて見てみると、その湖はもっと大きく見えた。太陽が丸ごと映し出されるほどの大きさで、青々とした空もしっかりと移っている。
デデンネは早速、湖の中に建っていた桟橋の上を駆け、すぐにその先へと立った。桟橋の先には、釣り竿を下げて、パラソルの下で雑誌を上に乗せて寝ている、釣り人風の格好の男性がいたが、デデンネはその男性の隣で、湖を眺めていた。
「うわぁー・・・。」
桟橋の先から見ても、その湖の大きさはかなりのものに思えた。水面に映る日の光が、自分を照らすように輝いていたが、デデンネの目はそれに巻けないくらい輝いていた。
そんなデデンネの隣に、ヒノヤコマが飛んできて、隣に着地した。
「まぶしい・・・。少し近くでもこんなにすごいのね。」
そのまぶしさに目がくらんだヒノヤコマは、そう言いながら羽で顔を覆った。
「そうだね!」
デデンネも興奮しながら答える。
「・・・・・・。」
するとそんな彼女の様子を見かね、ヒノヤコマがデデンネに尋ねかけた。
「ねぇ、デデンネ。」
「ん?」
「少しは元気出た?」
「え・・・?」
デデンネは呆然としていた。ヒノヤコマは穏やかな顔で話す。
「だって、あんたヌメルゴンの事でずっと思い悩んでいたでしょ?だから、あたしと空中散歩して、少しでも元気を取り戻してくれればって思って・・・。」
「そっか、そうだったんだ・・・。」
デデンネは普通の顔で呟いた。ヒノヤコマは、自分を心配して、ここまでの探検を提案したのだった。
「ありがとうね、ヒノヤコマ・・・。」
「うん。それで、元気は出た?」
「うん、少しは・・・。」
「そっか・・・。」
少しだけ笑った顔で応えるデデンネに、ヒノヤコマはそっと微笑んで答えた。
それからデデンネが、湖を向いて話し出した。
「それでね、ふと思い出した事なんだけどね。」
「うん?」
ヒノヤコマは耳を傾けた。
「あたしとヌメルゴンって、最初そんなに仲良しってわけじゃなかったでしょ?」
「あぁ、あったわね、そんな時が・・・。」
2人は、ヌメラとデデンネが会ったばかりの頃を思い返した。

最初、ドラゴンタイプのヌメラは、天敵であるフェアリータイプのフラージェスに襲われたトラウマから、同じフェアリータイプのデデンネを怖がり、なかなか近づこうともしなかった。だが、ロケット団に襲われた際に彼女がヤツらの攻撃からかばってくれた事がきっかけで、デデンネに心許し、仲良くなる事が出来た。
それ以来、デデンネとヌメラは親友になった・・・。

「思えばあの時あたしが動いていなかったら、きっとヌメラとは仲良くなれなかったよね・・・。」
少し懐かしんだ後、デデンネは小さく言いかけた。ヒノヤコマも小さく笑って答えた。
「そうね、あんたの強い気持ちが生んだ友情みたいなものよ。」
「・・・今頃、どうしてるかな、あの子・・・。」
「きっと仲間と上手くやってるわよ。多分、あの1件から解り合ったフラージェスとフラエッテの親子も仲良くやってると思うわ。」
「そうだよね、きっと・・・。」
その会話の後、デデンネとヒノヤコマは湖を静かに眺めていた。
と、その時、強い風が吹き荒れた。その風に煽られ、桟橋の先に立っていたデデンネがバランスを崩し、湖の方に倒れかけてしまう。
「わわっ、わわわわわわわわわ!!」
そのまま、湖の水へ落ちてしまう。
「わああぁぁぁぁーーーーー!!」
「デデンネ!」
ヒノヤコマは急いで、湖に落ちそうになった彼女の尻尾をくわえる。
その時、近くで寝ていた男性が目を覚まし、体を起こして顔の雑誌を取った。
「何だ、騒々しい・・・。」
その頃、行けに落ちそうになったデデンネを、ヒノヤコマが何とか桟橋の上まで引っ張り上げていた。助けられた後、デデンネは横たわっていた。
「はぁ、はぁ、大丈夫、デデンネ?」
「うん、ありがとう・・・。」
2人は同時に、ホッとしていた。
その時、2人の桟橋の近くの男性が、2人に近づいて声をかけた。
「おう、何だお前達は?」
デデンネ達がそれに気づいて見上げる。その短いスポーツ刈りの黒髪と薄い顎髭をして、がっちりとした細型の体系の、28歳くらいのどこかユルそうな男性は、頭をかきながら彼女達の前に立ち、いつの間にか現れていた2体のポケモンと目が合ってから、じっと見上げていた。
「別に取って食ったりしねぇよ。昼寝から起きて見りゃ、なんかポケモンがいるってだけで・・・。」
「ヒャマ・・・。」
「ネネ・・・。」
ヒノヤコマとデデンネは、昼寝中の人間を起こしてしまってすまなそうだった。しかし青年は特に気にしないそぶりで、釣り竿を立てかけてあるパラソルの所まで戻って行く。
「ま、たまたまここに来たってんならいいんだ。俺は釣りがしたいだけだからな。」
そう言って男性が戻って行った時、立てかけてあった釣り竿の糸がピンと引いた。
「!」
男性がそれを見た瞬間、釣り竿へ向かってすぐさま駆けつけ、素早く柄を掴んだ。そしてその竿を、力強く引っ張り上げる。
デデンネとヒノヤコマも、その様子を見守り続けていた。
「何、どうしたの?」
「多分、獲物がかかったんだと思うわ。」
その通りだ。男性は立ち上がった状態で、竿を引き上げて行く。
「うおおおおっ!こいつは大物か!?」
男性はルアーを回し、獲物を引き上げて行く。
その時、かかっていた獲物が勢いよく、その姿を現した。ドジョッチだ。水面に上がったドジョッチは、釣り上げた男性と向かい合った。
「やった、釣れたよ、ヒノヤコマ!」
「えぇ!その後はバトルしてゲットするのよね!」
デデンネもヒノヤコマも興奮していた。
しかし、男性はドジョッチを見て、小さく舌打ちをしながら残念そうに呟いた。
「違う。またハズレか。」
それを聞いたとき、2人は呆然とした。
『え?』
「ドジョッチを見ても違うって言うことは・・・。」
「つまり、あの人は別なポケモンを狙っているって事?」
しかし、釣られたドジョッチは、男性に向かって「みずてっぽう」を飛ばしてきた。
「ジョッ、チー!」
「うおっ!」
男性はすかさずこれを避けるが、外れた「みずてっぽう」がデデンネ達にも飛んできたため、2人も慌てて避けた。
「うわっ!」
「きゃあ!」
ドジョッチからの攻撃を避けた後、男性はニヤリ笑顔を浮かべて対応する。
「へっ、けど随分と息がいいヤツじゃねぇか!」
彼は腰からモンスターボールを取り出す。
「このフィッシャーマン、タダシ!売られたケンカは勝って・・・、いや買ってやらぁ!」
うっかりかみながらも、そのタダシという青年はモンスターボールを膨らませた。そして上空に向かってそれを投げた。
「行け、トロピウス!!」
彼が出したのは、フルーツポケモンのトロピウスだった。
「トロォーーー!!」
泣き声を上げてやる気満々のトロピウスの姿に、デデンネとヒノヤコマは目を凝らした。撃以前、サトシの図鑑やシトロンに聞いたため、しっかりと覚えていた。
「トロピウス?」
「確かに、くさとひこうタイプを持つトロピウスなら、みずタイプのドジョッチになら有利ね。」
「でも、相手が水中にいるんじゃ、また潜られて攻撃が当たりにくいんじゃ・・・。」
「大丈夫。それにあの人には考えがあるのよ、きっと。」
彼女達の視線の先で、自称「フィッシャーマン」のタダシと、その手持ちのトロピウスも、相手のドジョッチに対し、交戦態勢はバツグンだった。
すぐさま、タダシがトロピウスに指示を出す。
「トロピウス、マジカルリーフ!!」
トロピウスは、ドジョッチに向けて「マジカルリーフ」を飛ばす。それは見事ドジョッチに命中し、一瞬水面に浮かび上がらせた。
「よし、次はエアスラッシュだ!」
体が水面から浮いたドジョッチに対し、トロピウスは「エアスラッシュ」を放ち、今度もドジョッチに命中させた。
「やった、2連続ヒット!」
デデンネが腕を引いて叫んだ直後だったが、「エアスラッシュ」を喰らった後にドジョッチが水面に落ちた時、相手は水面から浮かばなくなった。
「ト、トロ・・・。」
相手が水面に潜ったため、トロピウスは戸惑っていた。タダシは叫ぶ。
「油断するな、ヤツは水中から攻めてくるはずだ!」
「トロ・・・!」
それからトロピウスは、水面の動きに注目し、相手の出方を伺う。
だがその直後、トロピウスの後方からドジョッチが勢いよく飛び出してきた。
「来たぞ!」
「!」
トロピウスが振り向いたと同時に、ドジョッチから「どろばくだん」が飛ぶ。その「どろばくだん」がトロピウスの腹に命中して、トロピウスは落下する。
さらにドジョッチは、1度水面に降りて、「アクアテール」で再び、水面に落ちようとしているトロピウスに飛び込んでくる。
「来るわ!」
「危ない!!」
ヒノヤコマとデデンネが、思わず叫ぶ。しかし、タダシが落下していくトロピウスに叫んだ。
「立て、トロピウス!お前はここで終わる腹じゃない!!」
「!」
トレーナーからの言葉が届いた瞬間、トロピウスは瞬時に体をひねらせ、迫っていたドジョッチの「アクアテール」を回避した。
「ド、ドジョ!?」
「アクアテール」を回避されたドジョッチは、水面に落下し、水しぶきを上げた。それからすぐに、ドジョッチが顔を出す。
「ジョッチ~!!」
その様子を眺め、デデンネ達も呟く。
「おぉ、あのドジョッチ、悔しがってる!」
「あのお兄さんとトロピウスの息もバッチリね。」
タダシの方も、腕を引いて「よしっ!」と叫んでいた。
その時、ドジョッチが水上から「どろばくだん」を放ってきた。
「来るぞ、大きく旋回して避けろ!!」
タダシが指示を出し、トロピウスは大きく旋回するように「どろばくだん」を避けていく。ドジョッチの方は何とか「どろばくだん」を当てようとするが、トロピウスのスピードに追いつけなかった。その時、タダシが次の指示を出した。
「水面にもぐってふきとばしだ!!」
「!トロ!」
トロピウスはその指示に首をかしげるが、デデンネ達は目を丸くしていた。
「え、水中でふきとばし!?」
「それってどういう・・・!?」
だが、彼女達が疑問を抱く前に、トロピウスが水中へと飛び込んでいった。するとそれを見かねてドジョッチも、自分から飛び込んでくるなどバカな奴よと言わんばかりに、自分も水中に潜ってトロピウスを仕留めにかかる。
ドジョッチがトロピウスの姿を、水中で捉える。
「ジョッチッチッチッチッチ・・・。」
そこで接近して攻撃をかけようとする。しかし、
「トーーーロォーーーーー!!」
先にトロピウスの方が、水中で「ふきとばし」を力強く放ち、ドジョッチは水面ごと押し出されていった。
それと同時に、湖の水面の一部が押しあがり、それがはじけた先にドジョッチが出てきた。
「ドジョッチが出てきた!」
「信じられない、本当に!?」
デデンネとヒノヤコマは、口をあんぐりさせた。タダシも腕を引く。
「よし!」
同時にトロピウスも、湖から出てくる。そこでタダシが、とどめをかけようとする。
「トロピウス、グラスミキサー!!」
「トロ!!」
浮いた状態のドジョッチにめがけて、トロピウスがまっすぐ「グラスミキサー」を飛ばす。宙に浮いていてはドジョッチも避ける事が出来ず、その直撃が間もなく命中した。ドジョッチは湖の遠くへ飛ばされ、湖の反対側で水面に浮かんでいた。
「よっしゃあ!どんなもんよ!」
「トロォーーーーー!!」
タダシが右手を上に掲げて叫び、トロピウスも雄たけびを上げた。
デデンネとヒノヤコマは、彼の戦い方に絶句していた。
「すごい、あんなバトル・・・。」
「あのテクニックは見習いたいわね。」
ドジョッチを倒した後、トロピウスがタダシの近くまで降りてきた。そこでタダシは笑い、トロピウスにねぎらいの声をかけた。
「よくやったぞ、トロピウス。お疲れさん。」
「トロー!」
トロピウスも嬉しそうに答えた。
「よっしゃ、次の獲物まで、ゆっくり休んでくれ。」
そう言ってタダシは、トロピウスをモンスターボールに戻した。それからパラソルの下のあったノートを取り出して、釣った獲物を記録した。
「あのドジョッチ、なかなかの手ごたえだったな。やっぱゲットするべきだったかな・・・。」
そう呟きながら記し終えると、タダシは再び竿を手に取った。すると、近くで見ているデデンネ達に気が付いた。
「ん?」
彼と目が合うと、デデンネはドキッとなった。
「うっ!いや、その・・・。」
しかし、彼女を落ち着かせるように、ヒノヤコマが彼女に触れて話しかけた。
「心配ないわ、デデンネ。よく見たらこのお兄さん、そんなに悪い人じゃなさそうだから。」
「え?」
「なんとなく、あの人には親しい物を感じるの。誰かに似ている気がして・・・。」
「それって、どういう事?」
デデンネは首をかしげるが、ヒノヤコマはタダシに親近感を感じているようだった。
タダシの方も、目の前の2体のポケモンに、気さくに笑いかけていた。
「へへっ、お前らも俺の釣りとバトルのテクに惚れたんだろう。いいぜ、そこで好きなだけ見てな。」
そう言いかけて、釣り用の椅子を取り出して座り、その状態で釣り竿の糸を湖に垂らした。今度は、右手で竿を持って獲物を待っている。
タダシの様子を伺っていたヒノヤコマとデデンネが話し合った。
「どうする?」
「うーん・・・、あたしもあのお兄さんが何を釣るか興味があるし、それにヒノヤコマが悪い人じゃないっていうなら、安心できそう。」
「そう。じゃあ、しばらくあのお兄さんの釣りを眺めていましょうか。」
「うん!」
2人は、しばらくタダシの釣りを眺めている事にした。揃って桟橋近くに立つタダシの横に並び、彼を向いて笑いかけた。
「おっ、やっぱり俺の釣りテクを見て行くか?」
タダシは相手のポケモン達が自分の釣りに興味があると感じ、ニッと笑った。
「名乗り遅れたな。俺はタダシだ。今はまだ名もなきフィッシャーマンだ。」
タダシの言った「フィッシャーマン」について、デデンネがヒノヤコマに尋ねた。
「フィッシャーマンって?」
「要するに「釣り人」ってこと。」
「あぁ、そっか。」
デデンネとヒノヤコマが見守る中、タダシは辛抱強く竿を垂らして待っていた。
するとデデンネが、タダシの釣りの様子を眺めて思った。
「ねぇ、ヒノヤコマ。」
「何、デデンネ?」
「そう言えばあたし、コウジンタウンの水族館の近くでユリーカ達が館長さん達と釣りをしたときに、館長さんのウデッポウと仲良くなったことあったよね。」
「あぁ、前にも聞いたわね、そんな事。」
「うん・・・。」
どうやら、デデンネはまた1つ、過去に会ったポケモンの事を思い出したようだった。

サトシの挑戦する2つ目のジムのあるショウヨウシティへ向かう途中、コウジンタウンの水族館へ立ち寄ったサトシ達は、そこでみずタイプのポケモン達の姿を満喫した後、その近くの海岸で、「黄金のコイキング」を釣る事を夢見る水族館の館長と出会い、一緒に釣りをすることになった。そこで館長が世話をするウデッポウと知り合ったデデンネは、彼に興味を持つが、人見知りの激しいウデッポウは彼女を警戒し、なかなか近づこうとはしなかった。
しかし、ロケット団の襲撃による騒動の際にデデンネが海に落ちた際に、ウデッポウが助けたのをきっかけに、ようやく2人は仲良しになったのだった。

「今頃、どうしてるかなぁ・・・。」
そのウデッポウの事を懐かしみながら、デデンネは湖のほとりを眺めていた。そんな彼女を、ヒノヤコマは穏やかに笑って見守りながら言った。
「もしかしたら、今日も館長さんと釣りしているかもね。いや、もしかしたらもう黄金のコイキングを釣っているのかも・・・。」
「そうかもね・・・。」
デデンネは少し笑った。しかしその目は、少し潤んでいた。
「きっと、ヌメルゴンも・・・。」
「あ・・・・・・。」
やっぱり、デデンネはヌメルゴンの事がまだ心に引っかかっている。ヒノヤコマはそう感じた。
すると、そんな彼女達の様子を眺めて、タダシは声をかけた。
「なぁ、お前ら。」
「!」
その声で、デデンネとヒノヤコマはタダシを向いた。タダシは懐からノートを取り出した。
「俺は今日ここに来てから、3時間も釣りをしているんだが、これだけの数を釣ったんだぜ。見てみろよ!」
そう言ってデデンネ達の近くに、ノートを飛ばした。ノートはデデンネ達の手前に落ちて、そのページの1枚が開く。
「どれどれ・・・?」
2人は、開いたページを覗く。すると、そこに書かれていた物を見てビックリした。そしてひっくり返りそうになった。
「うわっ、こんなに!」
そこには、タダシがこの湖で釣りを始めてから3時間の釣ったポケモンのリストがビッシリと載っていた。ニョロモ5体にニョロゾ6体、マッギョ7体、ドジョッチ2体、そしてナマズン3体、計23体のみずタイプが釣れているではないか。もちろん、リストの最後には、さっき倒したドジョッチもいる。そのうちのいくつかをゲットしていてもおかしくないほどの数であった。
「すごいじゃない!3時間でたったこれだけの数を捕まえるなんて!」
「もしゲットしていたらどれくらいなんだろう?」
彼女達は目を丸くして注目するが、タダシはデデンネ達が一通りノートを見ているのを確認してから、湖の方を見ながら言った。
「たくさん釣れているだろ?だが、俺の狙いはそれのいずれかでもない。」
「ヒャンマ?」
「デデ?」
タダシから出た意外な言葉に、デデンネとヒノヤコマは首を傾げた。次の瞬間、タダシは驚くべき言葉を口にした。
「俺が狙っているのは、この湖の中に生息している、「黄金のナマズン」だ!」
「!?」
黄金のナマズン。その言葉を聞いたとき、デデンネもヒノヤコマも目を丸くした。
「お、黄金のナマズン!?」
「黄金のコイキングの事は聞いているけど、黄金のナマズンがいるなんて!」
彼女達が驚いた様子に、タダシは説明した。
「そのナマズンはな、これまでにない幻の輝きを放つと言われていて、メディアでも話題になっているんだ。俺はそいつを釣り上げて、一歩でも近づくんだ・・・。」
彼が言いかけると、デデンネが答えるように言った。
「有名人?」
しかし、ヒノヤコマは冷静な様子で呟く。
「いや、まさかとは思うけど・・・。」
その時、タダシはこう言い切った。
「伝説のフィッシャーマンに!!」
「!?」
それを聞いた瞬間、デデンネは驚いて後ろにふらつき、ヒノヤコマに支えられた。
「で、伝説のフィッシャーマン!?」
彼女は驚愕していた様子だったが、ヒノヤコマは羽でアゴを持って呟く。
「やっぱりね・・・。」
3時間であれだけの数のポケモンを釣るあたり、ただの釣り好きの青年でない事はヒノヤコマにはタダシの目論見が読めていたようだった。
自分の目指す目標を発表した後、タダシは自慢げな顔で笑っていた。
「でも、そんなの本当にいるのかしら?」
「お兄さんの目、嘘をついてるように思えないけど・・・。」
ヒノヤコマとデデンネが少し疑問に思ったその時、タダシの竿が引き始めた。
「うおっ!き、来た、来た!」
「ヒャマ!?」
「デネ!?」
タダシが叫ぶのを聞き、デデンネとヒノヤコマも驚いて竿の糸の先に注目した。タダシは竿を引きながら、椅子から立ち上がった。
「引いてるぞ!こいつは・・・!」
タダシは竿を引きながら、一心不乱にリールを巻いた。デデンネ達も、彼の様子に注目する。
「何、何なの?」
「もしかして、本当に・・・!」
そして、そのかかっていた獲物が釣れて、その姿を現した。水面から出てきたそれに、タダシ達は注目した。
「こいつは・・・!」
「デデ・・・!」
「ヒャンマ・・・!」
3人が目を凝らす中、それは桟橋の上に着地した。
タダシが釣ったポケモン、それはニョロモだった。
「ニョ、ニョロ・・・!」
急に水の外に釣られたニョロモは、慌てふためいていた。
「ちっ、またハズレか。」
そう呟きながらも、タダシはニョロモの様子を伺っていた。その時、相手のニョロモは、突然の状況に動揺しており、目の前にいる人間に驚いて、「みずてっぽう」を放った。
「ニョロー!!」
相手が放った技を、タダシは瞬時に避けた。そしてやむなしと考え、懐からモンスターボールを取り出した。
「よーし、ここは1つ・・・!」
しかし、その前にタダシの目の前に、デデンネが飛び出してきた。
「デネ、デネ!」
「!お前は・・・!」
タダシは呆然と見下す。と、デデンネはニョロモに「でんきショック」を飛ばした。
「デン、ネー!」
彼女が放った「でんきショック」は、ニョロモの足元に当たった。
「ニョロォ!」
驚いたニョロモは、そのまま水の中まで逃げて行った。
ニョロモが逃げて行った後、タダシはデデンネに声をかけた。
「やるな、お前。おかげでバトルの手間が省けたぜ。サンキュー!」
「デデネ!」
どういたしましてと言う風に、デデンネが答えた。ヒノヤコマも彼女の近くに寄った。
「やるじゃない、ちょっと威嚇しただけで相手を追い返すなんて。」
「あの様子だと、ちょっと脅かしただけで帰ってくれると思ったから。」
デデンネは照れくさそうに顔をかいた。
タダシはデデンネ達に見せるために落としたノートを拾い、釣ったポケモンのリストにさらに記した。
「ニョロモ1体・・・っと!」
それから、桟橋の上に立てかけてあった釣り竿を手にしようとした時だった。突然風が吹いて、タダシの手が伸びる前に、竿が傾き出したのだ。
「うおおっ!?」
何とかキャッチしようとするタダシだったが、竿は水面に落下してしまった。
「うわたっ!俺の竿が!!」
タダシは慌てて、水面に落ちた釣り竿を掴んで、引き上げた。釣り竿を掴んだ後、タダシはふーっと息を吐いた。
「よかったぜ、流されなくってよ。」
その様子を眺めていたデデンネとヒノヤコマも、安心したようにふぅっと息を吐いた。そしてタダシは竿を振り上げ、糸を水面に垂らした。そして椅子に座り、獲物を待った。
無事に竿を取り戻し、釣りを再開したタダシの様子を見て、デデンネとヒノヤコマは呟いた。
「お兄さん、竿を無くさないでよかったね。」
「本当。でもあの竿は、あの人にとってそれほど大切な物みたいね。」
2人はそれから、タダシの竿に注目した。すると、タダシも彼女達の視線に気付き、声をかけた。
「ん?何だお前ら?俺の竿が気になるのか?」
「デ、デデネ!」
「ヒャマ、ヒャンマ!」
彼に尋ねられ、デデンネとヒノヤコマは同時に頷いた。
「・・・そうか。」
小さくため息をつきながら、タダシは釣り竿を眺めながら話し出した。
「こいつは、俺の兄貴からもらった、大切な釣り竿なんだ・・・。」
「デネ?」
「ヒャンマ?」
デデンネとヒノヤコマは首をかしげる。タダシは話し出した。
「俺と兄貴は、ガキの頃から筋金入りの釣りバカだったんだ・・・。」

俺達は港町の漁師の家で育ち、いつも暇さえあれば釣りとしゃれ込んでいたもんだ。互いに競い合い、腕を磨き、釣り終わった後は釣った獲物を見せ合ったりしたよ。
そんな時が何年も続き、気が付けば互いの夢は名高いプロのフィッシャーマンになっていた。
ある時、兄貴は俺に話し出した。
「なぁ、タダシ。俺達、ずっと釣りをしながら、ここまで大きくなって来ただろう?」
「そうだな。ガキの頃からすごい釣りバカだったよな。」
「あぁ。気が付けば腕も上達して・・・。」
「いつしか互いの夢もフィッシャーマンか・・・。」
そう言って話が盛り上がったところで、兄貴は宣言したさ。
「・・・タダシ・・・。」
「何だ?」
「俺は、お前には負けない!」
「へ・・・?」
「俺はプロのフィッシャーマンになったら、お前以上に腕を磨いて、もっと大物を釣り上げて、伝説のフィッシャーマンになる!!」
「いっ!?」
言われた瞬間、俺は仰天したよ。普段はおとなしそうな兄貴が、突然そんなぶっ飛んだ事を言い出すなんて。
「それ、マジで言ってんの!?」
「お前からしちゃ、ただの馬鹿げた夢だと思うだろうが、それでも俺は目指したいんだ。誰もが到達できないような、釣り世界の高みに。」
「・・・・・・。」
無論、俺は兄貴のそういう夢を、馬鹿げているとは思わなかった。むしろ、俺も目指したくなったよ。その「高み」ってのをよ。
「・・・わけねぇじゃん。」
「ん?」
「馬鹿げてるわけねぇじゃん!兄貴は凄いよ!そんな大胆な夢を持っているなんて!」
「タダシ・・・。」
「兄貴はいつも俺と釣りでタメ張っている時も、毎年開かれる、若者の釣り大会でも毎年優勝していたし!」
「いや、あれはたまたまだよ・・・。」
「そんな事ないって!俺も腕を磨いている途中だけど、兄貴はもっと先を目指しているんだもん!だから・・・!」
そう言って俺も、自分の夢を改めて兄貴に告げた。
「・・・俺も、伝説のフィッシャーマンを目指す!」
「お?」
「俺、いつも兄貴に負けないようにって、ずっと高みを目指してきたんだ!そんな兄貴が伝説のフィッシャーマンを目指すなら、俺だっても目指すさ!」
「・・・・・・。」
「だから、俺と兄貴、2人が釣りの世界のトップに名を馳せて、人生の半分でどれだけの獲物が釣れたかで、どっちが伝説のフィッシャーマンかを決めよう!」
この時、正直自分の夢に便乗されて兄貴がなんていうかと思ったが、俺が話し出したら兄貴はこう言い出したよ。
「・・・全く、大した男だな。さすがは俺の弟だぜ。」
「兄貴・・・!」
兄貴も、俺と「伝説のフィッシャーマン」の称号をかけた、長い人生を費やしての大勝負に乗ってくれたんだ。例え名高いフィッシャーマンになっても、兄貴だって俺と競って、腕を磨きたかったんだろうな。
「俺達がプロのフィッシャーマンになったら、絶対にそこから伝説のフィッシャーマンを目指そうな!!」
「あぁ!!」
そして、俺達兄弟は星がきれいな岬の夜空の下で、人生で最も壮大な夢への約束(ちかい)とともに、拳を叩き合った・・・。

「それから、俺達は間もなく、プロとして釣り世界に華々しくデビューしたんだ。」
タダシがここまで話すと、デデンネもヒノヤコマも感心していた。
「彼はお兄さんと誓った約束を胸に、プロデビューを果たして今も釣りの高みを身ざし続けているのね・・・。」
ヒノヤコマは感動のあまり、涙を流していた。するとその隣で、デデンネが思った。
「じゃあ、そのお兄さんは今どうしてるんだろう?」
その時、タダシはデデンネが言った事を察したように話し出した。しかしその表情はどこか曇っていた。
「・・・だが、「人生の半分を過ぎたら」・・・、とかいう兄貴との約束は果たせなかった・・・。」
「!?」
聞いた瞬間、デデンネとヒノヤコマは驚いて目を丸くした。
「何があったと思う?」
「デ、デネ・・・。」
「ヒャンマ・・・。」
デデンネもヒノヤコマも、何かまずそうな雰囲気で困り顔になってしまう。しかし、タダシは話し出した。
「・・・旅に出ちまったんだ、あの世へな。」
その衝撃的なひと言を聞いて、デデンネ達も驚愕した。
「え!?」
「じゃあ、そのお兄さんは・・・!」
彼女達が驚きを隠せない様子だったが、タダシは兄の事を思い返しながら、表情を曇らせながら話を続けた。
「ちょうど、俺がプロ入りをした5年後の事だった・・・。」

兄貴はプロ入りと同じ時期に、結婚して遠くの街へと引っ越していたんだが、その4年後に病気したらしくってな。長い闘病生活を過ごしながら、復帰の日を待っていたんだが、その日になって、とうとう力尽きちまってな・・・。

俺は兄貴の墓の前で、涙を流して訴えていたよ。
「信じられねぇよ、兄貴・・・!嫁さん貰ったあの日も、釣り雑誌に載っていた写真も、まだ元気そうだったのに・・・!伝説のフィッシャーマンはどうするんだよ・・・!俺との約束はどうなるんだよぉ!!」
人生であんなに泣いたのは、あの時くらいだったかな。
そんな時、兄貴の奥さんが俺の隣に来て、ある物を差し出しきたんだ。
「あの、これ・・・。」
「!こ・・・、こいつは・・・!?」
それは、兄貴が生前愛用していた釣り竿だった。かなり手入れされているらしく、まだまだ新品同様に輝いていた。
「あの人が・・・、自分が死んだら弟さんに託してくれって・・・。」
だがそれは、兄貴がプロ入りしてからずっと使っていた釣り竿だったんだ。伝説のフィッシャーマンへの道を進むための、大切な道具だったのに・・・。
「けどこんな物、俺なんかがもらっても・・・!」
しかし、兄貴の奥さんはこう言って返したんだ。
「いいえ。あの人は自分と夢を同じくしている弟さんの事をとても思っていました。ですから、自分の命が消えかかる中で、せめて自分に何かあった時に、弟さんに夢を託そうと考えたのでしょう。伝説のフィッシャーマンという、兄弟一緒の夢を・・・。」
「兄弟の、夢・・・?」
「例え自分の体が滅んでも、同じ夢を目指すタダシなら、俺の魂を受け継いで、いつか必ず伝説のフィッシャーマンになるだろう。あの人はそう言っていました。」
「・・・そうか、兄貴はそんな事を・・・。」
「ですから、どうかあの人の形見を、あなたに託した兄弟の夢と一緒に、受け取ってください・・・。」
「・・・・・・。」

「・・・そして今、兄貴の竿は俺の手の中にある。俺は兄貴が目指した伝説のフィッシャーマンの夢と一緒に、この竿を引き継いでいるんだ。」
ここまで話すとタダシは、改めて兄の形見の釣り竿を眺めていた。
「こいつは、兄貴の魂そのものなんだ・・・。」
すると彼の話に心動かされ、デデンネとヒノヤコマは大泣きしていた。
「うわーん!泣けてきたー!!」
「その釣り竿にそんな思い入れがあったなんてー!!」
そんな彼女達の様子に、タダシはそっと微笑みながらこう言った。
「あの時から、俺は天国の兄貴の思いを胸に、伝説のフィッシャーマンを目指して、カロス地方のいろんなところを周って釣りに明け暮れている・・・。」
こう言いかけるとタダシは、さらにこう呟いた。
「それが、遺された俺にできることだから・・・。」
「!」
その時、デデンネがタダシの言葉を聞いて、目を丸くした。
タダシは、今はいない兄の志を受け継いで、かつて兄弟で目指した「伝説のフィッシャーマン」という夢を追い求めているのだ。
誰かを思う気持ちは、自分もタダシも同じだった。その事を実感したデデンネだったが・・・。
「あたしと同じだ・・・、でも・・・。」
しかし彼女は、自分の故郷にとどまる事を決めて別れたヌメルゴンへの未練から、まだ立ち直れていない。もういないからと言って、ずっとひきつり続けているのだ。デデンネはようやく、自分の心の内を理解できたのだった。
「あたしの方は、まだ立ち直れていない・・・。」
そんな彼女の体を、ヒノヤコマは自分の羽で、そっと優しく包んだ。
「デデンネ・・・。」
するとタダシは、次にこう言って続けた。
「それでも、最初は本当に立ち直るのには時間がかかったよ。けど、兄貴はいつも俺の活躍を見守ってくれている。夢に向かって進んでいく自分を信じてくれている。そう思うとだんだんと、気持ちが強くなっていった。」
彼のその話を、デデンネとヒノヤコマはしっかりと聞いていた。
「人は大切な誰かとの別れを迎えると、心にポッカリ穴が空いたような気になるだろう?だが、その相手が自分を信じてくれていると思うと、きっとまた立ち上がれる。そして明るく前へ進めるんだ。」
その言葉は、デデンネの心にも深く伝わっていた。
「相手が、信じてくれている・・・?」
それから彼女は、目を閉じて自分の胸に手を当てた。そして感じた。
ヌメルゴンと自分は、親友になったあの日から、ずっと互いを信頼し続けていた。それはどんな時も、どんな場所でも同じだった。旅の休憩のときに寄った川で遊んだ時、ヒヨクシティのツリー点灯、ミアレシティでのジム戦、そして彼の故郷での出来事の時も、常にヌメルゴンとは心がつながっていた。
その時、彼女の心の中から、自分の知るヌメルゴンの姿が浮かび上がって来た。あの時と変わらない姿のヌメルゴンは、彼女に優しく笑いかけていた。
「!ヌメルゴン!」
その時、デデンネは目を開いて、その名を口ずさんだ。
その目には、自然と涙が浮かんでいた。しかし、彼女は感じていた。ヌメルゴンと自分の心は、離れていてもずっとつながったままなんだと。
「デデンネ、どうしたの・・・?」
彼女を心配し、ヒノヤコマが声をかけてきた。そんな彼女に、デデンネは飛びついて目を輝かせた。
「ヒノヤコマ!あたし、感じたよ!」
「感じた?一体何を?」
少しおどけながらヒノヤコマが尋ねると、デデンネは彼女の体に捕まりながら、ピョンピョン飛び跳ねながら告げた。
「あたし、つながってた!ヌメルゴンと心がつながっていたんだよ!」
「え?」
「あたし、ヌメルゴンと離れてから、ずっと心細かった!だけど、今わかった!例え離れていても、ヌメルゴンと心ではずっと一緒にいるんだよ!!」
そのデデンネの目は喜びで満ち溢れていた。その様子から、ヒノヤコマもその言葉の意味を理解した。
「・・・そっか、あいつの事、感じたのね・・・。」
「うん!」
ヌメルゴンはここにはいない。しかし、心ではつながっている事を知り、デデンネは嬉しそうだった。
その様子を見て、タダシも楽しそうに微笑んだ。そして再び、竿に目をやった。
その時だった。釣り竿の糸が引き始めた。どうやら、獲物がかかったようだ。
「!」
タダシはそれを見たのと、同時に竿が引っ張られる感覚で、椅子から立ち上がって竿を引き寄せ、かかった獲物を釣り上げようとする。今度は、相手の引く力が強い。
「さ、さっきまでと引きが違う・・・!こいつは大物だぜ・・・!」
彼が精一杯、竿を引いているのを見て、デデンネとヒノヤコマも目を丸くした。
「今度は大物みたいよ!」
「あたし達も!」
「うん!」
2人も、タダシが獲物を釣り上げるのを手伝おうとする。ヒノヤコマは、後ろからタダシの体を後ろから引っ張り、デデンネもタダシの左足を支えた。
竿を引っ張る強さはとても強かったが、タダシ達は踏ん張った。
「この野郎ぉ・・・!よく粘っているが、俺だって引き下がれないんだ・・・!」
タダシやデデンネ達は、その魚を釣り上げるべく必死だった。
そしてついに、そのかかった獲物を釣り上げることに成功した。
その瞬間、釣ったポケモンの方から、まばゆい光が差し込んだ。デデンネ達とタダシは、そのまぶしさに目を覆ったが、やがて光は落ち着き、彼らはそっと目を向けた。
なんとそこで、驚くべき姿を目撃する。釣り上げたそのポケモンは、全身がまるで電気に包まれたように黄金に輝き、その周辺の水面を照らし付ける、金色のナマズンだった。
「マズズズズ・・・!」
そのナマズンは、タダシ達の姿を眺めて、不気味に笑っていた。しかし、その姿を見てデデンネとヒノヤコマは絶句していた。
「嘘、あれって・・・!」
「本当にいたんだ・・・!」
タダシも、待ち望んだその姿を見て、満面の笑みを見せていた。
「黄金のナマズン!ついに釣り上げたぞ!」
それは、タダシが追い求めていた、この湖に生息していると言われる、「黄金のナマズン」だったのだ。神々しく輝くその姿は、タダシには特別な物に思えた。
「3時間もかけた甲斐があった!あとはこいつとバトルしてゲットすれば、今回のフィッシングの目的は達成だ!」
「マズッ!」
するとナマズンの方も、タダシに対して交戦的な様子を見せた。
タダシはバトルの前に、デデンネとヒノヤコマに呼びかけた。
「お前ら、ここからのバトルは激しいものになるかもしれねぇ。できるだけ下がっていろ!」
「ヒャンマ!」
「デデネ!」
ヒノヤコマとデデンネも頷き、言われるがままに少し後ろに下がった。
2体のポケモンが離れたのを確認し、タダシはモンスターボールを取り出してふくらました。
「さぁーて、おっぱじめるか!今回はさっきまでとは違ぇ!この場でゲットするつもりで行くぞ!!」
その目には、今までにない強い想いが宿っていた。それほどまでに、この黄金のナマズンと出会える事を心待ちにしていたようだ。
黄金のナマズンも、ヒゲをなびかせて臨戦態勢が万全だった。
そしてタダシは、手に持ったモンスターボールを勢いよく投げた。
「行くぜ、トロピウス!!」
今度も、トロピウスを出したのだった。
「トロォーーーーー!!」
雄叫びを上げ、トロピウスもやる気十分だった。
後方でその様子を眺め、デデンネとヒノヤコマは息を飲んだ。
「いよいよ始まるね。お兄さん念願の黄金のナマズンとのバトルが。」
「よく見ておきましょう。彼の悲願のゲットの瞬間を!」
彼女達が視線を通す先で、タダシとトロピウス、そしてナマズンが向かい合い、互いに睨み合った。
そして、バトルが始まった。
最初に動き出したのは、タダシとトロピウスだった。
「トロピウス、エアスラッシュ!!」
「トロ!トォーロォーーー!!」
まずは「エアスラッシュ」によるけん制だ。トロピウスの「マジカルリーフ」は、ナマズンの周辺に降り注ぎ、動きを止めた。
「マ、マズ、マズ・・・!」
ナマズンは呆気にとられる。そこをつくように、タダシがトロピウスに次の指示を出した。
「今だ、マジカルリーフ!!」
その瞬間に、トロピウスはナマズンに「マジカルリーフ」を飛ばし、命中させた。水しぶきが上がる。
「やった、命中だ!」
「次はどう出るかしら?」
デデンネとヒノヤコマも、その瞬間から目が離せなかった。一方、水しぶきが止んだ後で、ナマズンが「マジカルリーフ」が当たった頭をヒゲでさすりながら姿を現した。さらにそこを、タダシトロピウスが攻め込もうとする。
「よし、畳みかけるぞ、トロピウス!!」
「トロー!」
トロピウスが、ナマズンに接近する。だがその時、ナマズンの様子が変わった。
「・・・マズ!」
ナマズンは、迫って来たトロピウスにヒゲを伸ばし、その足を掴んだ。
「トロ!?」
「しまった!!」
タダシが叫び、歯ぎしりを浮かべる。さらにナマズンは、捕まえたトロピウスのむき出しになっている足の裏に、片方のヒゲを伸ばして、思いっきり「くすぐる」を繰り出して来た。
「トロトロトロトロトロトロ!!」
足の裏をくすぐられ、トロピウスは笑い転げた。ヒノヤコマはそれを見て息を飲んだ。
「くすぐるが決まったわ!これでトロピウスの攻撃力と防御力が下がってしまったわ!」
「それに、トロピウスがドジョッチに捕まっちゃってるよ!」
「もしかしたら、相性では有利だとしても、あのナマズン相手じゃトロピウスでも辛いかもしれないわね・・・!」
その時、ナマズンが足にヒゲをかけて捕まえたままのトロピウスを、その場で自らがグルグル回りながら振り回した。ナマズンは渦を巻きながら、トロピウスと一緒に回っている。
「トロピウス!」
タダシは叫ぶが、トロピウスは抵抗できないまま振り回され続けた。そしてその末に、ナマズンはトロピウスを岸の向こうまで放り投げた。トロピウスは断橋のタダシ達をかすめ、岸の向こうの森の木にぶつかり、それらをなぎ倒しながら止まった。
飛ばされたトロピウスが横ぎった際、ヒノヤコマはデデンネの前に出て羽で包んで守っていた。それからトロピウスが通り過ぎると、デデンネが彼女の羽の間から出て来て、ヒノヤコマとともにトロピウスが飛ばされた方向を向いた。
トロピウスは、ナマズンに凄い力で投げ飛ばされたが、木がクッションになってスピードが落ちて、倒れた木々にもたれかかるようにして止まっていた。だがその衝撃は強く、トロピウス自身もだいぶダメージを受けている。
「ト・・・、トロォ・・・!」
彼の様子を見て、デデンネとヒノヤコマは焦った。
「トロピウス!」
「くすぐるを喰らって防御力が下がっているところ、あんな勢いで投げられたら・・・!」
その時、横たわるトロピウスと一直線の方向に体を向けて、「みずのはどう」で畳みかけようとする。
「マァーーー・・・。」
ナマズンは、湖の水の中から岸の向こうの森側のトロピウスに届くようにと、その「みずのはどう」の威力を溜めて行く。
「まずいわ、このままトロピウスを仕留める気よ!」
ヒノヤコマが叫び、デデンネも慌てふためいた。
「まずいよ!このままじゃトロピウスが・・・!」
「こうなったら、あたしが加勢するわ!」
そう言ってヒノヤコマが、ナマズンへ向かおうとしたときだった・
「待ちな!」
「ヒャマ!?」
タダシが彼女の向かう先に手を出して止めた。
「お前さんには悪いが、まだ俺の釣りも、俺達のバトルは終わっちゃいねぇ!男の勝負(たたかい)に割り込んでくるのは、ヤボってもんだぜ!」
「ヒャ、ヒャマ・・・。」
彼の強気な様子に押され、ヒノヤコマはその場で立ち止まった。その後ろで、デデンネも呆然とタダシの様子を見上げていた。
「デネネ・・・。」
さらにタダシが、トロピウスを向いて呼びかけた。
「それに、お前はまだやられたわけじゃねぇ!そうだろう、トロピウス!!」
そのトレーナーの声を聞いて、それに応えるようにトロピウスも目を見開いた。
「・・・ロピッ!」
同時にナマズンが、ついに「みずのはどう」を放ってきた。
「ズーーーーーン!!」
それは、かなり溜めただけあって威力が高く、それは森の中のトロピウスに向かって伸びていく。それはすぐに、トロピウスに命中しようとしていた。
だが、ダメージから立ち直ったトロピウスは寸前で跳び上がって回避した。「みずのはどう」は彼が倒れていた木にぶつかってはじけ、ナマズンへと向かって行った。
「トロピウーーース!!」
まっすぐ、湖のナマズンに向かって飛んでいくトロピウス。しかしナマズンは、また真正面から向かって来るとは愚かだと言わんばかりに、2本のヒゲを伸ばして再びトロピウスを捕まえようとする。案の定、森を抜けて湖へと近づいてきたトロピウスの両前足の脇に、ナマズンのヒゲが巻きついて捕まってしまった。
「あぁ、また捕まっちゃった!」
「これじゃあさっきの二の舞よ!」
デデンネとヒノヤコマは叫ぶが、タダシはニヤリと笑っていた。
そして、ナマズンは再び捕まえたトロピウスに「どろばくだん」を放とうとする。
「来るよ!」
「トロピウス!!」
デデンネ達が叫ぶが、タダシはすぐにトロピウスに指示を出した。
「トロピウス、ナマズンを振り回せ!!」
「トロッ!トーーーロォーーーーー!!」
その指示を受け、今度はトロピウスが、ナマズンを湖から引っ張り出して空中で振り回した。まるで、コマが回っているかのようなスピードで。
「マ、マズ・・・、ズン、マズ・・・!」
この速さで振り回されては、ナマズンも抵抗できなかった。先ほどとは、立場が逆転したようだった。
「すごいわ!今度はトロピウスの方が、空中でナマズンを回してる!」
「いいぞ、トロピウスー!」
デデンネとヒノヤコマは興奮して叫んだ。一通りナマズンを回した後で、タダシはトロピウスに叫んだ。
「そのまま上空へ投げ飛ばせ!!」
「トロッ!」
そのままトロピウスは、ナマズンを上空に放り投げた。同時に、トロピウスに絡みついていたヒゲもほどけた。
上空に投げられたナマズンの黄金の体が、太陽の光に照らされて、その周囲をまばゆく照らし出した。地上にいたデデンネ達も、そのまぶしさに目んくらまった。だが、タダシとトロピウスは、上空の黄金のナマズンにまっすぐ目を凝らしていた。
「ヘッ、良く輝くぜ・・・!」
「トロ・・・!」
その時、ナマズンは真下に出たトロピウスに「どろばくだん」で反撃を仕掛けてくる。トロピウスは旋回してそれを避けようとするが、その末に直撃を喰らってしまう。そのまま湖へと落ちて行くトロピウス。
「トロピウス!!」
「もう終わりなの!?」
デデンネ達は息を飲んだ。だが、まだタダシは諦めていなかった。
「まだだ・・・!」
「ヒャンマ・・・。」
「デデネ・・・。」
そんなタダシの姿を、ヒノヤコマとデデンネは注目する。タダシはその場で叫んだ。
「ここで負けているようじゃ、伝説のフィッシャーマン・・・、兄貴とともに歩んだ夢に届かねぇ!!」
「タダシ、お兄さん・・・。」
どんなことがあっても、兄の思いを背に立ち上がる。そんなタダシの意志に、デデンネも気持ちも突き動かされていた。
ヌメルゴンがいなくなってから、沈み込んでいた自分に立ち直るきっかけをくれた。離れていても、心がつながっていると教えてくれた。そんなタダシの頑張る姿に、彼女は共感していたのだ。
そしてその思いのままに、デデンネはタダシに叫んだ。
「頑張れ、タダシさん!!」
「!」
その言葉は、タダシの耳にしっかりと聞こえていた。彼からすればポケモン語に聞こえるだろうが、それでもしっかり届いていた。
「お兄さんのためにも、あなたの夢のためにも!!」
「デデンネ・・・。」
タダシを応援するデデンネの様子に、ヒノヤコマも突き動かされる。そして彼女も、タダシに声援を送った。
「タダシさん!勝って!あたし達は最後まで信じるわ!!」
彼女も、決してあきらめないタダシの意志の強さに感化されたのだ。
その2体のポケモンからの声援を聞いて、タダシの心はさらに熱くなっていった。
「・・・・・・。」
やはりポケモン語に聞こえていただろうが、それでも後ろのポケモン達が、自分を応援してくれていると知り、タダシはニッと笑った。
「・・・ありがとうよ、お前ら。」
そして彼は、さらに気持ちを引き締めた。
「俺は、いや・・・、「俺達」は負けねぇ!!」
兄の意志だけでなく、一緒に戦っているトロピウスと、後ろで応援してくれているデデンネとヒノヤコマの思いで、タダシは叫んだ。
その時、トロピウスは湖の上空で何とか浮かんだ。しかしナマズンも、黄金色の体を再び湖に落としていく。
それを阻止せんと、タダシは次の指示を出した。
「トロピウス、ヤツを湖に入れるな!ふきとばしで浮かせろ!」
「トーーーローーー!!」
トロピウスは落下するナマズンの真下へ潜り込んだ。
「!」
湖へ向かっていた相手がこちらに気付き驚く。その間もなく、トロピウスは「ふきとばし」を使い、ナマズンの体を浮かせた。
「ズ、ズン、ズン・・・!」
相手の技で上空へ浮かされ、ナマズンは慌てふためいていた。そこへ隙が出来た。タダシはすぐさま、とどめを刺そうとする。
「トロピウス、グラスミキサー!!」
「トロッ!トーーーロォーーーーー!!」
トロピウスは、空中で浮いたナマズンに向かって、グラスミキサーを放った。空中で浮いた状態では、ナマズン避けられない。間もなく、その「グラスミキサー」はナマズンに命中した。
「マーーーズーーーーー!!」
その勢いで、ナマズンは上空へ飛ばされた。その黄金の体が太陽に照らされ、再びデデンネ達を照らす。しかしタダシは、そのナマズンに向かってモンスターボールを構えた。
「よし、いよいよ本当のフィッシングだ!」
そして、上空のナマズンを補足して、タダシがモンスターボールを投げた。
「行け、モンスターボール!!」
タダシが投げたモンスターボールが、ナマズンの体に当たった。ナマズンがモンスターボールの中に吸い込まれていく。そのモンスターボールは、タダシの立っている桟橋の上に落ちた。
モンスターボールは揺れ動き、中央の丸の部分が点滅している。タダシも、デデンネとヒノヤコマも、その様子を緊迫しながら見守っている。
そしてその末に、モンスターボールの点滅と揺れ動きが止まった。その瞬間、しばらく一同に沈黙が走った。
「・・・ねぇ、これって・・・。」
デデンネが小さく声を上げる。ヒノヤコマも言う。
「えぇ、間違いないわ・・・!」
そして、ついにタダシが、大きく声を上げた。
「よっしゃあ!成功だ!!」
どうやら、ゲットに成功したようだ。タダシはモンスターボールを手に取り、自分の胸の前に掲げた。
「へへっ・・・。」
そこへ、トロピウスも彼の下へと飛んできた。
「トロ、トロ!」
戻って来たトロピウスに、タダシは黄金のナマズンが入ったボールを見せた。
「ほら見ろ、トロピウス!ついにゲットしたぜ!」
「トロー!!」
トロピウスの喜んでいるようだった。
その時、ヒノヤコマがある事に気付いた。
「あっ!」
「どうしたの?」
デデンネが彼女の顔を覗き込んだ。
「タダシさんって、どこか親近感があると思ったら、サトシに似ていたんだわ。」
「え?あぁ、そうだね!」
最後まであきらめずに挑み続ける性分と、力強く大胆なバトルスタイル、そしてポケモンを信じる心。タダシのそういった部分が、サトシとよく似ていたのだ。
そしてタダシは、黄金のナマズンの入ったモンスターボールを掲げ、思いっきり叫んだ。
「うっしゃあ!!黄金のナマズン、ゲットだぜ!!」
「トッロトロ!!」
トロピウスもタダシに続いた。
それからタダシは、桟橋の先端に立ち、天国の兄に語り掛けるように言った。
「見てるか、兄貴。今回のフィッシングも、成し遂げたぜ・・・。」
デデンネとヒノヤコマ、そしてトロピウスは、切なく語り掛ける彼のその姿を見守っていた。そんな中で、トロピウスはデデンネ達に話しかけた。
「デデンネ、ヒノヤコマ・・・。君達がタダシに声援を送る声は、バトル中の僕にもしっかりと聞こえてきたよ。」
「え、そう?」
「やっぱり聞こえるわよね。」
デデンネは目を輝かせ、ヒノヤコマも照れくさそうに顔をかいた。トロピウスは笑いながら話す。
「タダシは元々、ポケモンに強い信頼を抱いていたけど、まさかそれが、君達の心まで突き動かすことになるとはね・・・。」
「なるほど、わかる気がするわ・・・。」
トロピウスの言葉に、ヒノヤコマは納得していた。しかし、一番その事を実感していたのは、デデンネの方だった。
「確かに、あたしの心も動かされたかも・・・。」
自分とヌメルゴンは、離れていても繋がっている。それをタダシが教えてくれたのだ。
タダシは早速、捕まえた黄金のナマズンをモンスターボールから出した。ナマズンは湖に出た後、その水面からゲットされたタダシの顔を見上げた。タダシはそんな彼に声をかけた。
「なぁ、ナマズン!今からお前をゲットした記念の写真を撮影したんだが、いいか?」
「マズ!」
ナマズンは笑顔で答えた。
「よっしゃ!じゃあみんなで撮ろうぜ!お前らも来いよ!」
タダシはそう言って、トロピウスとデデンネ達に手招きした。
「あぁ!」
「行きましょう!デデンネ!」
「うん!」
3人も返事をして、タダシとナマズンの下へと駆けていった。そして彼は、湖に浮かぶナマズンが映るような形で集合し、タダシがカメラを構えて号令をかけた。
「はい、チーズ!」
タダシの指が、シャッターを押した。
出来上がったその写真は、真上に映る黄金のナマズンを囲むように左にピースサインをするタダシ、右にトロピウス、そして真下にデデンネとヒノヤコマが収まっていた。

やがて夕方になり、タダシは荷物をまとめ、デデンネとヒノヤコマに声をかけた。
「今日は俺のフィッシングに付きあってくれてありがとうよ。どうだ、最高だったろ?」
タダシが笑いながら尋ねる。ヒノヤコマとデデンネも、満足げに頷いた。
「そうか、それはよかった!」
彼女達の様子に、タダシも満足した様子を見せた。
「あの黄金のナマズンを釣り上げたとも聞けば、同業者も大騒ぎだろうな!」
彼のその笑顔に、デデンネとヒノヤコマも。
「またお兄さんに一歩近づけたかもね、タダシさん。」
「うん、きっと天国でお兄さんも見てくれているよ。」
それから、タダシは兄の形見の釣り竿のケースとクーラーボックスを担ぎ、出発しようとした。
「俺はこの後、また次の釣りスポットへ行くぜ。これからもいろんなところに行って、いろんな大物を釣る予定だぜ。」
するとタダシは、デデンネ達に尋ねた。
「どうだ?もしよかったら、俺と行くか?」
それを受けると、デデンネとヒノヤコマはすまなそうに首を振った。
「そうか、わかったぜ。」
タダシはそう答え、2人に笑顔を見せて告げた。
「そういう事で、俺は行くぜ。兄貴の思いとともに、伝説のフィッシャーマンになるための挑戦に!」
そう彼が告げた後で、デデンネとヒノヤコマも激励した。
「頑張ってね、タダシさん!」
「あたし達も応援するよ!!」
ポケモン語だったが、その言葉を受けてタダシはフッと笑い、最後にこう告げた。
「じゃあ、円があったらまたどこかで会おうぜ。今度は、もっと有名になるか、伝説のフィッシャーマンになった後かもだけどな!」
そう言ってタダシは、背を向けて歩き出す。デデンネとヒノヤコマは、その背に向かって手を振って告げる。
「さようならー、タダシさーん!!」
「また会おうねー!!」
その声に答えるように、タダシは右手を掲げた。そして彼は、次の目的地へ出発していった。
「伝説のフィッシャーマン」。その兄との約束を果たすための、新たな挑戦へ・・・。
彼の姿が見えなくなった後、ヒノヤコマはデデンネに告げた。
「あたし達も帰りましょうか。」
「うん!」
デデンネは元気に頷いた。そして、デデンネが背中に乗り、ヒノヤコマは湖から飛び立って、サトシ達の待つ場所へと帰って行った。

帰り道、森の上空を飛ぶヒノヤコマが、デデンネに尋ねた。
「今日は本当に楽しい1日だったわね。」
「うん。」
デデンネは彼女の言葉に答え、次に夕暮れ空を見上げながらこう告げた。
「それにあたし、今日の事には本当に感謝している。」
「ん?」
ヒノヤコマが彼女を向いて尋ねる。デデンネは目を閉じて、その思いを告げた。
「だって、タダシさんと出会えたおかげで、あたしとヌメルゴンの心は、どれだけ離れていても繋がっているってわかった。」
彼女がそう話すのを聞いて、ヒノヤコマもフッと笑った。そしてデデンネは、こう言って続けた。
「それだけじゃない。水族館の館長さんのウデッポウに、パンジーさんのエリキテル、ラプラス防衛隊の3人とだって・・・。あたしとその人達の心は、どれだけ離れていても繋がっている。この広い大空のように・・・。」
「そっか・・・。」
ヒノヤコマは穏やかに笑いながらそう返した。
そしてデデンネは、新たな決意とともにこう言った。
「だからあたし、遠く離れていても心がつながっているヌメルゴンや、今まで出会って来たみんなの思いを背負って、これからもカロスの旅を続けたい!みんな、心は同じなんだから・・・。」
最後に言った言葉の後、デデンネは胸に手を当てた。
「みんなとは、この心ではいつでも一緒なんだから・・・。」
「デデンネ・・・。」
ようやくデデンネが、本当に立ち直ったと感じ、ヒノヤコマは微笑んだ。するとデデンネは、ヒノヤコマに感謝の気持ちを告げた。
「それから、ヒノヤコマにも感謝しているよ。ありがとう。」
「え?」
「だって、ヒノヤコマがあたしを空中散歩に連れて行ってくれなかったら、この大事なことに気付けなかったかもしれないから・・・。」
「・・・どういたしまして!」
嬉しそうに頬を染めながら、ヒノヤコマは答えた。
それから、デデンネとヒノヤコマは、互いに笑い合った。
すると、地上を見たヒノヤコマが、デデンネに声をかけた。
「あっ、そろそろ見えてきたわ!サトシ達よ!」
彼女がそう言うと、デデンネもその下の方向を向いた。
そこには、自分達が昼食を採っていた場所で、サトシ達が手を振って待ってくれていた。
「おーい、デデンネー、ヒノヤコマー!」
「ピカピカー!」
「お帰りなさーい!」
その姿を見た時、デデンネとヒノヤコマも嬉しそうに笑った。デデンネもヒノヤコマの背中から手を振った。
「みんなー、ただいまー!!」
彼女に続くように、ヒノヤコマも仲間達に笑いかけた。
間もなく2人は、仲間達の下へと降り立った。ヒノヤコマが着地すると、デデンネも地上へ降りた。
そこへ、サトシ達も駆けて来た。それから、サトシから1人ずつ、彼女達に声をかけた。
「お帰り、2人とも。散歩はどうだった?」
「ヒャンマ!」
「デデネ!」
ヒノヤコマとデデンネは、元気に頷いて返事をした。
「そうか、楽しめたならよかったよ。」
サトシは笑顔になって答えた。シトロンやセレナ達も続く。
「きっと素晴らしい冒険をしていたんでしょうね。」
「それならきっと、2人にとってのいい思い出になったんでしょうね!」
「よかったね、デデンネ!そしてヒノヤコマも!」
彼らからその声をもらい、2人も互いを見合ってほほ笑んだ。
そこへポケモン達も、デデンネ達に声をかけてきた。
テールナーが、しゃがんでデデンネの頭をなでながら優しく話しかけた。
「その顔を見る限り、何かいいことでもあったんじゃない?」
「えへっ、わかる?」
デデンネが照れくさそうに答える。ピカチュウも続いた。彼もデデンネの元気が無い事に気付いていたため、ずっと心配していたのだ。
「とにかく、元気になってよかったよ。ユリーカも気にかけていたみたいだし。」
「そっか、それは心配かけたね。」
彼がそう言うと、デデンネも小さく答えた。
「でもあたし、もう大丈夫だから・・・。」
今日の一件を通して、これからの自分を見つめ直したデデンネには、もう迷いは無かった。
一方、ハリマロンとヤンチャムが、探検に連れて行ってデデンネを羨ましがって、ヒノヤコマに絡んでいた。
「おうおう、お前デデンネだけ連れて探検なんて、うらやましいぞ!」
「俺達も一緒に行きたかったぜ!」
「あ、いや、その・・・。」
こんな所で迫られては、さすがのヒノヤコマも戸惑っていた。しかし、ゲコガシラが現れて、ハリマロン達をなだめた。
「ま、まぁまぁ、今度セレナかユリーカにでも連れて行ってもらえよ・・・。」
「・・・ま、確かにそれもアリだな。」
「じゃあセレナにでも頼むか。」
彼の言葉で納得したハリマロンとヤンチャムは、その場から退いていった。その後でゲコガシラが、彼らに代わってヒノヤコマに謝った。
「す、すまないな、デデンネとの探検で楽しかった気分を台無しにさせて・・・。」
「い、いや、気にしないで・・・。」
ヒノヤコマも苦笑いしながら答える。しかしながら、ゲコガシラにこう告げた。
「それと、明日はあたしとの特訓に付き合ってね・・・。」
「・・・あぁ。」
ゲコガシラも穏やかに答えた。その時の表情を見て、ヒノヤコマは小さく笑った。
「よーし、じゃあそろそろ出発だ!」
「うん!」
「はい!」
サトシが呼びかけると、セレナとシトロンも荷物を持って返事をした。ユリーカも、デデンネに呼びかける。
「デデンネ、おいで!」
「デデネ!」
彼女に呼びかけられるがままに、デデンネはユリーカの手の上に乗り、ポシェットに入れてもらう。その表情は、いつもの明るさが戻っていた。
サトシがピカチュウを肩に乗せている間に、ユリーカがデデンネに尋ねかけた。
「デデンネ、やっと元の笑顔が戻ったね。」
彼女にそう言われた後、デデンネも答えるように(ポケモン語で)呟いた。
「うん、あたしはもう大丈夫!だってあたし達のヌメルゴンは、いつもここにいるんだから!」
彼女はそう言って、胸に手を当てた。
自分の大切な親友、ヌメルゴンとは、いつでもどこにいても、この心の中で会える。そう感じていた。
そしてデデンネは、ヒノヤコマにも声をかけた。
「ね、ヒノヤコマ!」
「えぇ!」
ヒノヤコマも彼女に、ウィンクして答えた。

今日1日を通して、ヌメルゴンとの心のつながりを知り、寂しさを乗り越えてまた1つ成長したデデンネ。
カロスリーグ出場を目指すサトシ達の旅は、まだまだ続く・・・!



後日、とあるポケモンセンターにて、サトシ達一行は昼食を採っていた。その合間に、ここまでの旅の様子を振り返りながら、サトシ達は盛り上がっていた。
「あの時のバトルも最高だったぜ!」
「はい、サトシの圧勝でしたからね!」
「ルチャブルがやられそうになった時が焦ったけどね。」
「でもサトシだから、絶対に勝てるって信じていたわ。」
「へへっ、サンキュー、セレナ!」
その隣では、ポケモン達が黙々と食事をしていた。ヒノヤコマとデデンネも、一緒の皿のフーズを食べていた。
ふと、ポケモンセンター内のテレビのニュースから聞こえる、インタビュー中の女性アナウンサーの声を耳にして目を丸くした。
『・・・では、この黄金のナマズンは、タダシさんがゲットしたのですね。』
「!」
同時に2人は、ニュースの画面に注目した。
するとそこには、水槽に入った黄金のナマズンの隣に立つ、釣り竿を持ったタダシが映っていた。タダシはアナウンサーからのインタビューに答えていた。
『はい、なかなかかかりませんでしたが、最後まであきらめないで3時間もかけてようやく釣り上げる事が出来ました。』
『3時間も!?それはまた随分と粘りましたね!』
アナウンサーも驚いて、声を上げていた。
デデンネとヒノヤコマも、テレビに映るタダシの姿に笑みをこぼしていた。
「タダシさんだ!」
「早速、マスコミに注目されたのね。」
彼女達が見守る中、画面の中のアナウンサーは、タダシにこう質問した。
『それにしても、よくこんなすごいポケモンをゲットできましたね。』
するとタダシは、ニッと笑いながらこう答えた。
『きっと、俺1人の力じゃないでしょうね。』
『・・・と、言いますと?』
アナウンサーが尋ねると、タダシは兄の形見の釣り竿を掲げてこう答えた。
『夢を託してくれた兄貴と、あの時俺の活躍を見守ってくれた2体のポケモン達のおかげでもあるんです!』
そう彼が話したのを聞いて、デデンネ達は目を輝かせた。タダシはインタビューの中で、自分達の事にも触れてくれたのだ。
「タダシさん・・・!」
画面の向こうのアナウンサーも、納得して返事をした。
『なるほど、いろんな人の思いを背負っているんですね!』
『そう言うことです!』
タダシは改めて、そう答えた。そして、今デデンネ達が見ているテレビに向かってウィンクした。
それを見て、デデンネとヒノヤコマは、嬉しそうに笑い合ったのだった。

-完-
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感想

お名前:円山翔 さん
おはようございます。そして、初めまして。円山翔と申します。
作者の推理以前に、覆面作家作品が公開された当初に一番上にあったこの作品を読んで、「すごい!」の一言でした。「デデンネ頑張る!ヌメラのために!」の回だけは何故かアニメを見て知っているのですが、ヌメルゴンになった後で別れてしまったのですね……そこは知りませんでした。
仲の良かった友人がいなくなった時、心にぽっかりと穴が開いたような感覚に襲われることがあります。それだけ大切な友達だったという証なのかもしれませんが、辛いものでした。
沢山の出会いと別れ。その中で育まれる友情と、喪失感。そして、同じ喪失感を共有する者と出会うことで気付いた、「心は繋がっている」ということ。大切なことがたくさん詰まった物語だったと思います。
書いた日:2015年07月05日
   作品サブカテゴリ: 覆面作家企画4投稿作品