コイキング500円です

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作者:にっか
読了時間目安:8分
あの、名物おじさんがコイキングを売りに来たようです。

覆面作家企画4に投稿した作品です。
 今日は何処で商売をするのだろう。
 ここは、タマムシシティ。昼下がりに街の中心にある公園の一角で、大きなトランクを下げたおじさんが荷物を広げられそうな場所を探しています。

 ちょうど良さそうなベンチを見つけたみたいで、おじさんはにっこりと笑うとトランクを広げて商売道具を出していきます。初夏の日差しを避けるちょうど良い木陰。目の前には大きな池が広がって涼しげな雰囲気です。なにしろ、おじさんは山暮らしが長いので、コンクリートジャングルの都市の暑さは苦手です。
 「今日はここで商売するかな?」
 大事な商品を並べる綺麗な柄の風呂敷。ここには、モンスターボールやハイパーボール、ゴージャスボールが小箱に入って並べられていきます。でも、このモンスターボールたちは空じゃないみたいです。おじさんは時々中にいるポケモンたちに優しく声をかけています。
 「今日も暑くなるだろうけど、お前たちの親が決まると良いな?」
 値札を立てかけて。目立つように小さな黒板も用意して。黒板にはおじさんが丁寧に文字を書いていきます。
 『秘密のポケモン、コイキング!!
  コイキング500円(モンスターボール)・厳選獲れたて!!
  コイキング23000円(ゴージャスボール)・色違い、残り2匹!!
  コイキング55000円(ハイパーボール)・色違いで高レベル、残り1匹!!』
 おじさんは書道が得意なので、文字が綺麗に書けた時とても嬉しい気持ちになります。今日も字は綺麗に書けました。とっても良い笑顔で、チョークをしまってベンチに腰掛けます。
 今日は、最高のロケーションで商売ができる。おじさんは、どんなお客さんが来るのかとてもワクワクしています。



 夕方、おじさんは水筒に入ったお茶を飲んでいます。今日はまだ一匹も売れていませんが、おじさんは気にしません。本当にこの子たちを大切にしてくれる。そんな人が買ってくれれば十分なのです。
 「コイキング?」
 いかにも都会っ子という感じの若者が興味を持ちました。多分、ずっと都会で暮らしてきたのでしょう、コイキングがなんなのかわからないようです。
 「お兄さん?あ・なた・だけに、良い話がありまして」
 「?」
 「秘密のポケモン、コイキングがなんとたったの500円。いつもならもっとするんだけど、今日は良い日なんで500円きっかりにしちゃうよ?」
 若者はコイキング500円の値札を見ます。たしかに、500円と書いてある値札には二重線が引いてあって、線の下には3000円と記入されています。ちょっと怪しいな、お兄さんはそう思いますが、隣の色違いと書いてある値札はもっと高いです。
 ひょっとすると、本来高価なポケモンなのかも。3000円が500円なら、それに500円なら変なものでも痛くない。
 若者はそう考えて、ポケットの財布を手に取りました。
 「じゃあ、その500円の下さい」
 「ありがとうね、お兄ちゃん。大切にしてあげてね」
 おじさんは笑顔で500円を受け取ると、モンスターボールの入った小箱を若者に渡します。

 他にも何人か、ポケモンを大切にしてくれそうな人たちがおじさんの前に現れ、コイキングを買っていってくれました。
 今日は良い日だなあ。自然と笑みがこぼれます。
 おじさんは普段。釣りの穴場に出かけては、強そうな、強くなりそうな子たちを選んで捕まえています。そして、そんな穴場にはたまに色違いのコイキングもいるので、その子たちも捕まえます。おじさんは、強いコイキングを釣るプロなのです。どんな竿でも、強い子を必ず釣り上げます。コイキング一筋数十年のおじさんの見立てたコイキングは間違えがありません。怒って返品に来る人もたまにはいますが、最終的には育ててみて納得してくれる人がほとんどです。
 育ててみれば良いのです。育てる事を怠るから、ポケモンは応えてくれないのです。

 「次はどんな人が来るのかなあ?どう思う?お前たち?」

 おじさんは、終始ニコニコしています。今日は、良い位置にお店を出せた。そして、最終的にいろんな人が来てくれた。おじさんは嬉しいみたいです。

 日が傾いてきました。おじさんは、日が沈むと自分の露店の店仕舞いをします。夜暗くなって仕事をするのは一苦労だからです。そろそろ店仕舞いかな?おじさんは、西の方に沈みつつある太陽を見ながら考えます。
 明日はどうしよう?西陽を受けて、おじさんはニコニコしながら考えています。




 日の沈む直前、お婆ちゃんと13〜4歳くらいの女の子がおじさんの露店を覗き込んできました。
 「ふーん、コイキング?」
 おじさんは、最後のお客さんかな?と思いながら、熱心に覗き込んでいる女の子に声をかけます。
 「お嬢ちゃん?あ・なた・だけに、良い話がありまして」
 「……」
 「秘密のポケモン、コイキングがなんとたったの500円。いつもならもっとするんだけど、今日は良い日なんで500円きっかりにしちゃうよ?」
 女の子は、夕日で綺麗に輝く金色の髪の結び目をなおしながら考えています。
 「おじさん。その色違いのコイキングはとびはねるの技を使えますか?」
 「この子に教えてあげても良いけど、はねるじゃダメなのかい?」
 「はねるコイキングは普通でしょ?『とびはねる』くらいじゃないといけないの」
 「……」


 おじさんは、色違いと書かれたゴージャスボールのコイキングをボールの外に出します。
 そのあと、その金色のコイキングに耳打ちをするとコイキングはどう言うわけか、飛び跳ねるの技が使えるようになりました。そして、ゴージャスボールに戻すときに説明書と書かれた手紙をコイキングに持たせます。
 そして、女の子にゴージャスボールの入った小箱を渡してあげます。
 「おじさん、確かに受けっとたよ。こっちのはいつもの所だから」
 女の子が、小声でそう言うとおじさんに代金を渡します。
 「お嬢ちゃん。ありがとう」
 「遅くなってごめんね。ちょっと、アクシデントがあって」
 女の子はそれだけ言うと、そばにいたお婆ちゃんと公園の出口に向かっていきます。




 「頼まれたものは渡せたな。な、お前たち?」
 おじさんは、ニコニコしながらトランクに小箱と商売道具をしまっていきます。
 さっき、女の子に売ったコイキングに持たせた説明書はおじさんもなんなのか知りません。
 ただ、「あ・なた・だけに、良い話がありまして」、「秘密のポケモン、コイキングがなんとたったの500円」とお客さんに言うように言われています。「その色違いのコイキングは飛び跳ねるの技を使えますか?」、「はねるコイキングは普通でしょ?『とびはねる』くらいじゃないといけない」と返してきたら、おじさんに仕事を頼む人のお客さんの情報屋なのです。
 おじさんは、ずっとそうやって仕事をしてきました。情報屋の人が何か情報を必要としたら、おじさんが届けてあげます。そして、おじさんは代わりに色違いのコイキングの代金と、運んだ情報の重要度に合わせた額のお金をもらうのです。
 そうです、おじさんは運び屋さんです。運び屋さんをしながら、大好きなコイキングをみんなに知ってもらうために、コイキングの露天商をしています。

 今回は、結構重要な情報だったみたいです。半年は暮らせるだけのお金が振り込まれる予定です。なので、明日からはシロガネ山の秘密の釣りスポットに行って、またコイキングを釣る日々を過ごそうと思っています。
 おじさんは、都会にいるより色んな山にある釣りスポットにいる方が好きです。
 日が沈むと身の危険を感じる都会より、山でコイキングを釣る方が100倍気が楽です。だから、仕事がないときは山に行くことにしています。


 翌日、おじさんは西に向かって旅立って行きました。しばらくは、大好きな釣りをして過ごします。また仕事があれば、この街にも来ることがあるでしょう。また来ることがあれば、この公園で商売がしたい。そう思いながら、おじさんは街を後にしました。
15年7月5日誤字訂正

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