都市の見る夢

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作者:さん

 ざわ。
 ざわざわ。
 ざわざわざわ。

 ざわ、ざわ ザわ ざワ ざわ ザヮ ざわ ザワ ざゎ。

 ――ぶつん。

「ああもう、また落ちた」

 またかい。そう言うと、彼らはげんなりした顔になった。

「無理をしているからね。全く、人間はどうして許容量を理解しないんだ!」

 ぶつぶつ言っている。
 そりゃ、人間は君たちとは違うから。どこからどこまでが大丈夫で、どこからどこまでが駄目なのか、把握する事は難しいよ。そう言うと、彼は渋い顔になった。

「君はそういうけどね。奴ら、使うばっかりで作る側の苦労なんてこれっぽっちも分かってない。もしも体があるのなら、俺たちがいないとどれだけ困るのか分からせてやりたいよ」

 24時間ぐるぐるぐるぐる。彼は働きづめだ。そして人間たちも、24時間彼の世話になっている。果たして、それを理解しているのは作る側だけだ。
 お疲れ様。でも、本当にできたとしてどうやって困らせるんだい。問うと、彼は唸った。少し考えて、答える。

「パクパク電気を食べてやるのはどうだろう」

 電気を作っている君が、電気を食べるのか。それはおかしな、面白い発想だ。

「電気を好きなだけ食べて、自由自在に飛び回るんだ」

 そう話す間も、彼は仕事を休めない。
 空を飛んで、何処までも飛んでいけたら。それは、とても素敵だ。





 どろどろ、どろどろ。
 這いずる音。流れる音。

 不快な音。

 こんにちは。

「やぁ、こんにちは」

 彼は爽やかに返事をしてくれた。今日は何をしているんだい、と問いかける。

「下水道を流れているのさ」

 下水道を?

「また流されたからね。このまま海まで、きっと流れていくんだろうね」

 あぁ、そういえば前の彼も海まで流れて見えなくなった。この彼もまた、海まで流れていくのか。
 僕はまだ、海を見たことがない。海はキレイなところと聞くが、どうなのか。

「さぁ……綺麗でも汚くても、同じことじゃないか?」

 彼は笑った。自分がそこにいるのならば、どちらにしろ濁るのだからと。
 おぞましいマーブル模様がきらきら光ってる。ぐねりと色と姿を変えて、流れていく。
 海を見たいと思うかい。問いかける。

「少しだけ」

 彼は小さく微笑んだ。
 いつか見れるだろうか。澄んだ蒼色を。

「どちらにしろ、わたしが汚い事にかわりはないけれど。自分の意思で見に行けるなら、きっと海を汚すこともない」

 そうだろうね、と言葉を反した。





 ごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろゴッ
 止まった。

「不発」

 そうだね、不発だね。と返しておいた。

「何故」

 信管とか、どっか調子が悪かったんじゃないかな、と言っておいた。

「精査必」

 キケンだから、無理。

「希」

 無理。

「強希」

 無理だよ。

「無念」

 バクハツできない事が?

「否」

 違うらしい。

「我願。歩」

 まず足をつけようか。





 毎日、僕は彼らに話しかける。毎日、僕は人間にも話しかける。でも、返事があるのは彼らだけだ、
 僕は都市。人間に作られた。
 彼らも同じ、人間に作られた。
 人間も人間を作ることがある。僕は見たことがある。人間に作られた人間は、人間と同じように歩き、考え、喋る。
 僕らは考えるし、喋るけれど、動けない。
 自分の意思では動けない。多分、僕らが同じように考えていることを人間は知らない。
 僕らが何にも言わないし、言えないから、知らない。
 
 多分、それは普通の事。





「普通ではありません」

 ピポパピポ。音がする。濁流のように命令式が流れ、去っていく。
 君は誰だい。

「私はポリゴン。人工生命体。繰り返します。普通ではありません」

 ポリゴンは言った。

「全てのものが意思を持つわけではありません。意思を持つように私は作られた。だからそのようにあります。しかしあなた方は意思を持つように作られていません。意図しない形で意思を持ったのなら、それはバグです。イコール、あなたたちはバグです。故に普通ではありません」

 ごめん、ちょっと何言ってるかわからない。僕は困ったが、ポリゴンは構わず続けた。

「普通ではありません。変容の可能性を含んでいます。バグは可能性です。生命の可能性を示します。変容します。繰り返します。確定します。あなたの世界は、近い未来に確実に変容する可能性を含んでいます」

 ピポパピポ。音がした。命令式だ。自称人工生命体は、好き勝手言うと、どこかへ行ってしまった。





 変容。
 当たり前が、そうではなくなること。





 こんにちは。
 返事がない。
 こんにちは。

「ウヴィヴヴヴ」

 かすれた電子音だけが返ってきた。意味が分からない。
 彼は働いていなかった。僕は初めて、彼が仕事をしていない姿を見た。彼は目をぐるぐる動かし、僕なんて見えていないように、自由自在に飛び回っていた。

「ヴヴヴ」

 彼は鳴き声とも、電子音とも聞こえる言語を発した。

「ヴヴ!」

 そのまま飛び去って行ってしまった。 





 こんにちは。

「ベトベタァ」

 ぬめりのある、くぐもった鳴き声が返ってきた。
 君もか。

「ベトー」

 彼は僕をもう認識できないようだった。ひきつった鳴き声を上げると、ずるずると這いずっていった。
 通った後には、ヘドロの道が出来ていた。





 やぁ、君はどうかな。

「ビビビビビビビ」

 不規則な鳴き声がした。ごろんごろんと彼は転がっていた。
 動けるようになったんだね。足はないけれど。

「ビビビビビビビ!!」

 元気に彼は転がりまわっていた。
 僕には分からないけれど、とても楽しそうである事は分かった。





 〝声〟が消え始めた事に気がついたのはいつからか。
 少しずつ、話せる相手が僕の中から消えていった。
 いや、消えていったというよりは、変容していった。ポリゴンの言っていたように。

「そレはポケモンと言イまス」

 電子空間を辿って、かつてのポリゴンが僕の前に現れた。

「イったでしょウ。変容ノ可能性をフクんでイるト」

 そうだね、と僕は返した。
 ポリゴンは言った。バグは可能性であり生命であると。それは僕も間違ってないと思う。だったら君は最初から生命として作られたわけだけど、それは生命とされるのかな?

「私はポリゴン。人こウ生命たイ。人工セイ命体はノットイコール。結論とシテ、私ハ生命ではアリませン」

 そう。
 けれど、もし君にもバグが生じるのならば、君は生命なのかもしれない。

「ありエませン。バグが生じるヨウに私は作られテイません。私はポリゴン。人工生メイ体……」

 ビボバビボ、鈍い命令式が流れる。
 彼もまた、近いうち話せなくなるのだろうな。そんな予感がした。





 こんにちは。
 誰か話そうよ。
 ねぇ。
 ねぇってば。

 ――――誰か、返事をしておくれ。





 空気がこもっていた。
 閉鎖された発電所内部に、浮遊するポケモンがいた。つるりとした鉄色の丸い体、一つだけの大きな目はくるりくるりと周囲を見渡している。
 コイルだ。

「ヴヴヴヴヴ」

 発電所に取りつき、電気を吸い上げる。

「ヴヴヴヴ!」

 複数体のコイルが集まってくる。楽しそうに、くるくる宙を舞う。お互いに電気を発し、旋回する。
 最後には、壊れた窓から飛び出していった。





 ××番道路。一匹のポケモンが這いずっていた。

「ベトベタァ」

 ヘドロ色の身体を引きずり、先を急ぐ。ベトベターだ。草むらにヘドロの後を残しながら、がさがさ、ぐしゃぐしゃ、ずるずる、様々音を出しながら進んでいる。

「ベト」

 疲れたのか、その場から動かなくなった。どろりとした目をぼんやり空へ向ける。青く、広い空にベトベターは目を細めた。

「クワー!」

 心地の良い風が吹く。広い視界の中、ペリッパーが勢いよく飛んで行った。見ると、キャモメなども多く飛んでいる。
 海が近いのだ。

「……ベト!」

 ベトベターはニッコリと笑った。体を起こすと、またゆっくりと這いずり進み始めた。
 望むべき場所を目指して。
 




 爆発音が響き渡る。

「ババヴヴヴヴヴ!!」

 ごろんごろんと球体のポケモン――ビリリダマがそこらじゅうを転げまわる。それを追いかけて、子供のトレーナーが必死に走っていた。

「どこ行くんだよー!!」
「ババババババ!!」

 再び爆発。小爆発に巻き込まれた野生のポケモンが、そこらじゅう死屍累々と横たわっている。追いかけていた子供のトレーナーも余波に巻き込まれて吹っ飛んだ。が、すぐに起き上がりビリリダマに向かって青筋を立てた。

「死ぬかと思った!何すんだよ!!」
「バババヴ!!」
「バババヴじゃねーよ!!」

 ごろごろごろ。ビリリダマは転がっていく。トレーナーは追いかける。
 追いかけっこは、まだまだ続きそうだ。





 とあるネットワークの片隅に、バグったポリゴンがいた。
 何もない空間に向かって、返答プログラムが働いている。

「ピピーキュリリ」

 返答はない。

「ピピーキュルリラリ」

 何もない。

「ピピピピキュラ」

 さようなら、と誰かの声がした。





 夢を見る。
 
 ポケモンになって、どこかへ行く夢を。
 またみんなと話す夢を。

 孤独な都市は夢を見る。

 いつか、会いに行くよ。
 そうしたら、今度こそ返事をしておくれ。


 ――――パリンと、どこかでタマゴの割れる音がした。 



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感想

お名前:円山翔 さん
こんばんは。円山翔です。
春さんの作品と当てた方がおられるようですが、僕ではないと思います(多分)。多分と付くのは、僕がどの小説にどなたの名前で推理をしたかを覚えていないからで……
「僕」とは誰でしょうか?何度か読み返しましたが、その正体が未だつかめぬまま……読み方が足りないのかもしれません。ものすごく抽象的で。だからこそ想像力を目一杯働かせることができる。一風変わった作風ですが、こういうのが案外好きだったりします。今度生まれたのは誰だろう?コイル?ビリリダマ?ポリゴン?それとも……まだ読み取れていないところを読み取れるよう、努力してみます。
書いた日:2015年07月04日
お名前:ioncrystal  さん
何ともいえない話ですね。
語彙力の足りない俺の褒め言葉です。
爆弾さんやヘドロくんにコイルたちは自由な意思が持てて幸せでしょうが、都市とポリゴンにとってはたまったもんじゃない。
アニポケの初期設定を意識されてるのでしょうか?
ガチゴラスがいる現アニポケが『叶わない夢を見続けるだめ男のバッドルート』に感じてしまう19のだめ男には、この終わり方も素直に祝福はできないのですが、そこも含め魅力的ですし、起きている雰囲気の表現力がすごいです。幻の第三作を観たいと思ってた俺の夢を少し違う形で叶えてくれました。(アニポケが見当外れなら忘れてください) 
ポケモンに関係ない春さんの作品もいつか読んでみたいです。きっと既にリアルで書いてるんでしょうが。
『出てきてください』から春さんの文をあさり始めたんですが、ウルさんやユズルさんの世界とのあまりの違いに、思わず駄文書かせていただきました。あちらにも元気もらいました。応援してます。

爆弾さんが俺にどストライクです。
書いた日:2015年09月09日
作者返信
こんにちは、春です。
珍しいですね。このような話はあまりウケる方ではないので、魅力を感じてくださる方がいたのに少し驚きました。はい、仰る通りアニポケの初期設定を意識しています。単純に誰が幸せ、という終わり方より、物語の終わりにあった結末を書く方が好きなので、この話は特にその色が出たように思います。ウルは単純にエンタメ、ユズルはプロット構成の基本に立ち返った実験も兼ねていました。どちらもコメディを中心に据えているので、世界観にずれを感じたのかもしれません。
推察通りポケモンに限らず、一次創作、別の二次創作でもいくつか書いています。気が向いたとき、時間のある時に書きためをしているので、また連載が落ち着いたら表にも出すかもしれません。まさかここで書いているだけでそこまで推察されるとは思わなかったので、少し驚いています。読んでくださり、ありがとうございます。

爆弾の奴は個人的趣味です。多分私の色が一番濃く出た気がします。こういったキャラも、人によって好き嫌いが分かれるところがあるので、好みにあったようでホッとしています。こいつが大丈夫なら、もう少し自身の色を押し出して書いてみようと思います。
書いた日:2015年09月09日
   作品サブカテゴリ: 覆面作家企画4投稿作品