ヒーロー

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作者:影虎さん

「僕はスーパーヒーローになるんだい!」

大都市から少し離れた住宅街。そこにちっぽけな公園があった。

その公園には、不揃いな遊具が点々と置いてある。ある一人の少年は、大きな滑り台の上でそう叫んだ。一緒に遊ぶ子供たちは、それを見て笑った。

「フカマルー!ヒーローなんて実際はいないんだよーだ!」

意地悪そうな子供にそう言われ、滑り台の上のフカマルは怒る。

「いるんだよっ!見てろー!大人になったらヒーローになるからな!」

とフカマルは再び叫び、子供たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。その光景を見て、フカマルは涙ぐんだ。

「…いるんだ」

フカマルは、父を亡くしていた。大都市での生活に頭がおかしくなったのだろう、通り魔に殺された。
犯人は捕まったものの、ほんの数年で釈放。今も犯罪を犯しているのかはわからないが、父を殺した犯人がまだ生きている。その事実はフカマルにとっても許しがたい話だった。

そんなある日、フカマルはテレビで特撮を見ていた。青いマントに肌を包み、世に蔓延る悪人を裁いていく…つまりヒーローだ。ヒーローはルカリオマンという何の捻りも無い名前だが…フカマルにとっては憧れだ。

悪即斬、子供ながらにその心意気を気に入り、それ以降フカマルは虚言を友達に話していた。
ヒーローはいる。…いや、いてほしいと。父を殺した犯人も、きっと退治されていると。
いないならいないで、自分が成ってやると。

「ルカリオマン…いるんだよね…?」
「ああ、いないよ」

一人言にスッと反応したのは、自分に良く似た、ガブリアスというポケモンだった。
夕日を背に、そのポケモンは佇む。

「い、いるよっ!いるんだ!」
「いいや、いないさ。今の君より僕は生きているけど、見たことも聞いたこともない」

そのポケモンはいつの間にかフカマルの近くまで歩いてきた。フカマルは再び涙目になる。

「ぐす…なら、父ちゃんを死なせた人は…罰を受けないのかよぉ…」
「…懐かしいな」

涙声になるフカマルを見て、ガブリアスは何かを呟いた。が、直ぐにフカマルの隣へと座る。

「ヒーローは、いないよ。でも…その犯人に罰を与えることは出来る」
「えっ…で、でもそれが出来る人がヒーローって呼ばれるんじゃ…」

というフカマルの質問に、ガブリアスは苦笑いを溢した。

「…いいや、それを行った人は…犯罪者と呼ばれるのさ。ヒーローなんかとは真逆のね」

そう答えたガブリアスに、フカマルは遂に泣きじゃくってしまう。

「そんなの…ぐすっ…おかしいじゃないか!父を殺した犯人を退治するのは…正義だ!ヒーローじゃないかっ!」
「…違うッッ!!」

フカマルはガブリアスの一声に、ピタリと泣き止む。
ガブリアスは頭を軽く掻いた。

「…君は、ヒーローってなんだと思う?悪人を退治するだけの人なの?」
「ううん、ヒーローは、皆の敵をやっつけて、皆を笑顔にする人だよ!」

自信ありげに答えたフカマルに、ガブリアスは爪を頭にぽふっと乗せた。

「…そうだよ。だからヒーローはいないのさ。例えば…君の言うその犯人は、家族がいないと思う?」
「う、ううん。いると思う」
「…なら、その犯人を殺したら、家族はどうなると思う?笑顔になる?」
「なるもんか!僕だって父ちゃんが死んで悲しいのに…。…あっ…」

フカマルは気付いたようだ。

「…そう。その犯人を殺したって、笑顔は生まれないんだ。だから、ヒーローはいないんだよ」
「…そっか…」

フカマルはすっかり意気消沈してしまう。ガブリアスは再び苦笑いをする。

「それでも君は、犯人を許せない?」
「…うん。ヒーローじゃなくたっていいから、犯人は死んでほしい…!」

とフカマルが意気込んだ時に、ガブリアスはそっとフカマルを叩いた。

「…君はそうなっちゃあ駄目だよ。復讐に囚われないで、人生を楽しんで生きるんだ」
「えっ…」
「母さんを、悲しませちゃ駄目だよ?『12年前の僕』」

フカマルがガブリアスの方を振り向くと、そこには生暖かい風が吹いただけで、誰もいなかった…。




「はい!ありがとうございます!」
「ガブリアス君、君は本当に優秀だね!心から感謝するよ!」

大きく育ったフカマル…もといガブリアスは、上司から誉められていた。
あの日以来、彼の言葉を信じ、真面目に生きてきたのだ。
…あのとき出会った彼は、僕というポケモンの、一つの可能性だったのだろう。そもそも、幻覚を見ていたのかもしれない。だけど、それでも。

僕は、彼の言葉を忘れない。
今日もまた、都市は回る。

ヒーローがいなくとも、廻る。
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感想

お名前:円山翔 さん
こんばんは。円山翔です。
ヒーローの定義について、僕も時々考えます。そのたびに唸ります。僕もかつてはヒーローになりたいと思ったことがあって、世の中の多くの男の子が一度はそう思うのではないかと勝手に考えています。本当に、ヒーローって何なのでしょうね。そんな質問の答えに、一つの解答例を示してくれる物語でした。「ヒーローはいない」この答えには、僕も素直に共感できます。「誰かにとっての希望は、誰かにとっての絶望。分かる?」公式で発表されているヒガナさんのこの言葉に、今なら「分かる」とはっきり言えそうです。最後の言葉もとても印象的でした。
書いた日:2015年07月04日
作者返信
僕も同じ口です。大人…と言うのもおこがましいですが、そうなってから思うところがあったので、吐き出して見ました。
善は悪、悪は善。結局は目線の違いなんですよ。自分の目線で正義と悪は変わります。
そんな話でした。感想ありがとうございました!
書いた日:2015年07月06日
   作品サブカテゴリ: 覆面作家企画4投稿作品