特別ヌメり

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そういえば あなたとの とくべつなひなんて かんがえたことなかった。

雨降りヌメリ

「おはよぅ…」
気力なく、目が覚めた日曜日の朝。
いつもなら聞こえてくるはずの包丁がまな板に当たる音が聞こえないことを不思議に思いながら居間に入った俺はとても不思議な光景を目にした。
パドルがテレビにかじりついているのだ。
見入ってると言う意味ではなく、文字通り『かじりついて』いるのだ。
何してんの、と声を掛けてテレビから引き離すとテレビを指さしながらふくれっ面になった。
一体何が…と思ってテレビを見るとヌメラがバラエティー番組に出ていた。
『最も弱い最弱ポケモンヌメラはどこまで弱いのか!』と言うサブタイだった。
あぁ、なるほどね。そりゃ、かじりつきたくもなる。
「パドルは強いけどな」
そう言いながら頭を撫でようと手を伸ばすとむすっと膨れたまま受け入れた。
どうやら納得がいっていないらしい。
まぁ、気持ちはよくわかる。
自分の種族が馬鹿にされて気を良くするポケモンがいるだろうか。
少なくとも、パドルは例に漏れず気を良くしなかったらしい。
「人間よりは確実に強いし、ざっくり言うなら最弱は人間なのにな」
どっかのマサラ人でもない限りは、と心の中で思ったが口にはしなかった。
テレビの中でどうしてヌメラは弱いのかと赤裸々に紹介されたあと、野生のヌメラの映像に差し代わった
映像の中のヌメラはポケモンが飛び立つ音に怯え、マッギョが跳ねる音に怯え、木の上から落ちてきた葉っぱにすら怯えていた。
隣のパドルを見てみると顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。
「パドルも昔はこうだったの?」
まさかと言いたげに慌てて首を横に振った。
しかし、触手は正直でまっすぐ後ろを指していた。
パドルが何か隠し事をしている時は大抵こうなる。
それに気づかないふりをしてそっかと答えた。
「…そういえばさ、パドルって」
そこまで言いかけたがそこから先の言葉を口にすることはできなかった。
パドルはなぁに?と言う風に俺を見てくる。
「……あ~、いや、服とか興味あるのかなぁって。ほら、たまにいるじゃん。服着てるポケモン」
咄嗟に出た質問にしては良いものが出たと思う。
パドルはジッと俺の顔を見つめると少し考えた後、少し笑ってまた首を横に振った。
「そっか、じゃあ食い物だな」
パドルは不思議そうに俺を見る。
「前々から考えてはいたんだ。誕生日と言うか特別な日ってやつ?」
パドルはビヨンと触手を大きく揺らして両手を広げた。
ハグか? ハグを求めているのか?
困惑してたら待ち時間に耐えられなくなったのか向こうからぎゅっと抱きしめてきた。
「……あ~あ、服がヌルヌル…。あんな番組のことは忘れて、俺が着替えたら何か食べに行こうか?」
パドルはきょとんとして、俺の肩に手を置いて目を合わせる。
いかにも何で? と思っている顔だ。
「だから言っただろ、特別な日に何か食べようって。今日は俺の誕生日だし、何かいいもの食べに行こう。俺の特別な日だから何食べるかは俺が選ぶけど、パドルの特別な日…、そうだなぁ…。俺と出会った日にするか、その日はパドルが何食べるか決めていいよ。ついでに俺を自由に連れまわす権利も与えよう」
パドルの触手が過去最大の速さで跳ね上がった。表情もキラキラしている。
「まぁ、その日まで楽しみにしてるといいよ」
首を縦に強く振ってから、俺の両手を握ってピョンピョン跳ねた。
よほど嬉しかったらしい。
「じゃあ、とりあえず、今日は俺の日だから俺に付き合ってね?」
もちろんと胸を張るパドル。
そしてさぁ行こうと腕を引く。
「その前にッ!」
いきなり駆け出しそうなパドルを全力で引き寄せて止める。
なにすんだと言いたげにパドルは膨れる。
「着替えてからねって言ったじゃない」
そう言うと口の端からプヒュ~と空気を抜いてペタンと腰を付いた。
「すぐ済ませるから待ってて」
着替えながら何を食べようかと思考を巡らせて、パドルの好きなものってなんだっけと考えたところで結局パドルの好きなものかと自然と笑みが零れた。
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