epilogue...?

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始めまして。島流しの民という者です。
他サイトでも投稿している小説ですが、ここでも連載開始しようと思い始めました。どうぞよろしくお願いいたします。

 アローラ地方、ウラウラ島北東にある最大の街、マリエシティ。オクシデンタルなアローラとは違い異国情緒溢れるその街の北部には、小さな図書館が建っている。

 

 古臭い扉を開け中に入れば、紙と埃のどこか懐かしい香りがふわりと体を包む。どうやら客はいないようだ。

 窓などない閉塞的な空間だが、壁に掛けられているランプがその恐怖を少しだけ和らげてくれる。

 

 閉めたはずのドアの隙間から吹く木枯らしに背を押されるように、歩き始める。そこにあるのは、どれも皆読み古され手垢のついた本ばかり。大して広くない図書館なのだ、読み古されていておかしいことではない。

 

 しかしそんな古い本の中にもなお、新品同様の本が紛れていることがある。

 マリエ図書館の二階、一階を見下ろせる手すりの左側にぽつりと置かれた本棚の三段目の端っこ。

 追いやられるかのように佇んでいるその本を手に取った。するりと滑るような、絹の背表紙の感触が気持ちいい。

 

 大きく「穢勇伝あいゆうでん」と書かれたその本は、他の本と違いまだ真新しい紙の匂いがした。それもそのはず、この本は最近入荷されてきたばかりなのだ。

 遠い地方のお話。どうやら最近本にされてこの地方に来たらしい。

 

 「穢勇伝」を掻き抱きながら、ぼんやりと壁を見つめる。果たして、その瞳に映っているのは埃で黄色くなった壁か、或いはまだ見ぬ新書の中身か。

 

 本を手に持ったまま席に着く。不意に、風もないのに髪がふわりと靡いた。透き通るように美しい、金髪だった。

 

 

 そっと、まるで愛しい我が子を撫でるかのように本を開く。まだ人の手に慣れていない紙の感触に頬を綻ばせながら、羅列されてある文章を目に焼き付け始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ポケモン、この世界に住む、不思議な不思議な生き物。

動物図鑑に載っていない彼ら達は、人間と共に暮らし、人間と共に生きてきた。しかしそれは、もう過去の話。

 

 

――これは、一人の青年の物語。

人間にとってのポケモンの存在意義に首を傾げ、一人で立ち向かった、悲しく穢れた勇者の、武勇伝である』

 

 

 

 「穢勇伝」の始まりは、そんな童話のようなものだった。

 

 

 

 

『人とポケモンが分かれて暮らす世界、カントー地方の田舎町。マサラタウン。そこに一人の少年がいた。彼は人が持たざるものを持っていた。ポケモンと意思を疎通させる能力。それが彼の持つ異才だった。集まる羨望の目、投げかけられる畏怖と侮蔑の言葉。幼い彼にとって、それは絶望の種でしかなかった』

 

 

 

 

 くすり……それを見て、笑う。本を見つめるその碧色の瞳は、優し気に細められている。

 

 

 

 

『離れていくポケモンと人間の距離。激しくなるポケモン差別の中、彼は一人で立ち上がる。穢れたポケモンたちを救うために、穢れた勇者として』

 

『ポケモンと人間が分かり合っていなかった地方、カントー。その地方は、一人の青年によって変えられていく。その青年の名は―――』

 

 

 

「リーリエ。行きますわよ」

 

 

 

 

 耳に入って来た言葉で現実に引き戻される。顔を上げると、そこには同じように金髪の女性が立っている。

 リーリエと呼ばれた少女は、柔らかい笑みを浮かべながら立ち上がった。

 

 

「はい、母さま」

 

 

 本を元の位置に戻したリーリエは、ちらりともう一度本を眺めてから、階段を下りる母の背を追った。

 

 

 扉を開くと、身に染みるような寒さが全身を襲う。身を縮ませながら、ふと空を見上げる。透き通るような青空に、千切れて浮かぶ雲。

 この空は、あの遠くのカントー地方まで続いているのだろう。

 

 ふう、と白息を吐き出しながら瞼を閉じる。瞼の裏に映るのは、あの日々の出来事。昔の出来事に思いを馳せていたリーリエは、再び母が自分を呼ぶ声で我に返る。

 

 母の元に小走りで駆けたリーリエは、再び後ろを見やる。そこに映っていたのは図書館でも、冬の寒空でもなく――

 

 

 

 

 

 

 

「いつか、会いに行きます。レッドさん」

 

 

 

 

 

 

 

 ─いつか見た、穢れた勇者の笑顔だった。

 

 

 

 

 

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