命名 チピ

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 「なぁ、そう言えばお前って何て言う名前なんだ?」
 貰った木の実を食べ終え、お腹が背中とくっつく程強い空腹感からようやく解放された所で、そんな質問が耳へと届いた。
 そう言えば、自分は何て名前なんだろうか。
 脳内の記憶と言う名の辞書を開いて探すも、自分の事はどうしても見つけだす事が出来ない。
 いや、少し違うな。
 自分の事だけではなく、自分に関する全ての事だ。
 僕が思い出すことの出来る、唯一のポケモンは、僕の隣でソファーに座ってくつろいでいるサルサただ一人なのだから。
 「ごめん、自分に関係すること全てが分からないんだ。何処で何をしていたのか、家族が居たのかどうかも・・・・・・。」
 「そっか・・・・・・。けど、いつまでもお前って呼ぶのもあれだしなー。よし、お前が自分の名前を思い出すまでに使う名前を、俺がつけてやるぜ。」
 「名前かー。確かに名前の方が呼びやすいだろうし、良いかもしれないな。」
 名付け親となるサルサは、一体僕にどんな名前を付けてくれるのか。
 楽しみで胸を踊らせながらも、名前を考えている様子のサルサの言葉を、一字一句逃すまいと耳を傾けた。
 「あっそうだ、チピって言う名前はどうだ。ピチューって種族名の逆さ読みでチピだぜ。」
 我ながら頭が良いとでも言いたげな程、自信に満ち溢れた顔をしているサルサ。
 名前と言えばそれぞれ個別に意味があり、親の願いの結晶みたいな物かと思っていたのだが、どうやらこの考えは偏った考えだったらしい。
 まさか特に深くも考えず、シンプルな名前を得意気に提示してくるとは思わなかった。
 ・・・・・・あっでも、確かに長くて言いづらい名前よりは、二文字で終わる『チピ』の方が呼びやすいし良いのかもしれない。
 「そうだなー。まぁ短くて言いやすいし、それにしようかな。因みに名前に意味とかってあったりするのかな。」
 意味など無いのだろうと分かっていても、やはり自分と言う存在の名称だ。
 本当は意味があるのではと、気になってしまう。
 「特に意味は無いよ、名前は呼びやすくて分かりやすいのが大事だからな。よし、今からお前の名前はチピで決定だ。」
 命名式と言っても僅か数分の出来事だったのだが、待っていたのかと思うほど、終わるとほぼ同時に誰かが玄関を叩く音が聞こえてきた。
 戸をノックしている者は焦っているのか、みじん切りで野菜を切る時の様に、細かく忙しない音が響き渡る。
 すると、ソファーに座っていたサルサは起き上がり、玄関の方へと歩いて行く。
 「って一体誰だ誰だ。そんなに激しく叩かなくたって聞こえるっての。・・・・・・はーい、どちらさんですか。」
 玄関の戸を開けたその先に見えたのは、体が黒と灰色の毛色を持つ四足歩行のポケモン。
 目を覚ましてから、まだ家から出ていないため気づかなかったが、今は夜らしく扉の付近しか暗くて目視できない。
 真っ暗な闇夜に溶け込んで居て分かりにくいが、恐らくあのポケモンはポチエナとか言う種類だろう。
 「夜遅くに悪いな。この付近でピチューと言う種類のポケモンを見かけなかったか。」
 見た感じサルサと並ぶと一回り程小さく小柄なポチエナだが、物怖じせず下からサルサを堂々と見上げている。
 「あぁ、ピチューなら向こうに居るぜ。けど、何か用でもあるのか。」
 恐らく僕のことを言ったのだろう。
 サルサはソファーで座る僕に向かって指ではなく右前足を向け、僕をポチエナが見つけやすいようにしている。
 そして何故か僕を見たポチエナは、何処からか取り出した写真の様な物を見て、一瞬驚いたような顔を見せこちらに近づいて来た。
 「あ、あの・・・・・・。何か僕に用事でもあるのかな。」
 困惑する僕に対し、顔色1つ変えずに間近まで迫ってくるポチエナ。
 もしかして記憶が無くなる前の知り合いかと思うが、考えても仕方無いことだ。
 1歩1歩真顔で近づいてくるポチエナと僕との距離が残り1メートル程となった瞬間。
 突如ポチエナは身を屈め、多大な殺気を放ちながら僕の首元へと、その鋭い牙を向け飛び掛かってきた。
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