3話 そよかぜ村

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:10分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

2019年7月8日改稿
2020年7月21日改稿
村に入ると、外で見るよりも賑わいが感じられた。
村の外からでは、木造建築の建物がチラホラあって、ポケモン達が楽しそうに会話しているということしかわからなかったが、いざ村にはいってみると小さな露店もチラホラ散見され、混み合ってこそいないがポケモン達がみんな楽しそうに会話に花を咲かせている。

「あら~ヒカリちゃんじゃな~い。 おかえり~。 木の実はとれたのかしら?」
「うん! バッチリだよ!」

独特な話し方で声をかけてきたカクレオンというポケモンに、ヒカリは肩からかけているバックをポンポンと叩きながら答えた。

「あらそう~よかったわね~……あら? 隣にいる青い君はここら辺じゃ見かけない顔ね~?」
「あ、はじめまして。ハルキと言います」
「ハルキは旅をしているんだけど、さっきそこの森で倒れて昼寝しているところを私が起こしてつれてきたんだ~」

半分合ってて、半分間違っている……っていうか森で倒れていた部分以外、全然合っていない気がする話をヒカリは目の前のカクレオンに話した。
村に入る前に、ハルキの正体は隠した方がいい。
ヒカリのその言葉に従い、自分の見識を広めるため旅をしているポケモンという結構まともな設定を考えたのだが、ヒカリが重要な部分をほとんど省略してしまったため、完全に旅の途中で唐突に昼寝する変なポケモンみたいになってしまった。
変な誤解されてないといいのだが……

「まあ! まだ子供なのに旅なんてたくましいわね~! あたし、抱き締めたくなっちゃいそう! あたしは、そこのお店で木の実や道具を売っているカクレオンのレオンよ~。 気楽にレオン姉さんと呼んでちょうだ~い」
「う、うん。 よろしく……」

そう言いながらバチン!といった音が聞こえてきそうなぎこちないウインクをして、挨拶してくるカクレオンに少し後退りしながらも、ハルキは苦笑いを浮かべながら答えた。

「んも~う。 照れちゃって~かわいいわね~。 そうそう、ヒカリちゃん今日は何か買っていくのかしら~?」
「うーん……今は鞄の中いっぱいだから、荷物置いてからまたくるよー」
「わかったわ~。 それじゃ、あたしは気長に待っているわね~」

ウインクしながら手を振り、笑顔で見送ってくれるカクレオンに、同じくヒカリも満面の笑顔で手を振り返す。
ハルキは苦笑いを浮かべながら手を振り返すことが限界だった。
ヒカリの次にこの世界で話したポケモンのキャラがあまりにも濃すぎる。
そんな思いをハルキは胸に抱きながらも、ヒカリと一緒にカクレオンの店を後にした。

「なんか、インパクト強いポケモンだったね……」
「そうお? レオン姉さんはかなり親しみやすいと思うし、普通だと思うよ」
「ハハハ……あれが普通、ねぇ」

親しみやすい。
その点では、同感ではあるが果たしてあのカクレオンを普通という枠にいれてしまっていいのだろうか。
ハルキは先ほどのぎこちないウインクをしたカクレオンを頭に浮かべ、少し冷や汗が流れるのを感じた。

「こんにちわ。 ヒカリちゃん」
「こんにちわー」
「よう! ヒカリ! 今日も元気だな」
「うん! 元気! げんきー」
「おやヒカリちゃん、新しい友達かい?」
「新しい友達というか、ずっと前からの友達かな~。 久しぶりに会えたんだよ~」
「へぇ~、そりゃあよかったね~」
「うん!!」

すれ違うポケモンに声をかけられ、それに対して笑顔で返答しながら歩くヒカリはとても楽しそうであった。
途中、『新しい友達』と言われたところだけやんわりと否定していたことから、僕達は結構仲良しだったのかもしれないな。
ハルキは思い出せない事への罪悪感を少し覚えたが、気持ちを切り替えてヒカリに話をかけることにした。

「ヒカリは村のみんなと仲がいいんだね」

ちょうど人通りならぬポケ通りが少なくなってきたあたりでそう話しかけると少し照れ臭そうにヒカリは答えた。

「小さい頃からこの村にはいたからね~! よくイタズラとかしてこっぴどく叱られてたよ~」

左手を頭の後ろに当てながらエヘヘと照れながら笑うヒカリの仕草には、なにか見覚えがある。 そんな気がした。

「もうすぐ私の家につくよ~! 見たらハルキきっと驚くよ~」
「そんなに大きい家なの?」
「ううん。 家はそこまで大きくないよ~。 着いてからのお楽しみだね!」

大きくないのに驚く?と詳細を伏せられたことでますます気になってしまう。
何か特徴的な形でもしているのか? それとも派手な装飾でもされているのだろうか?

「あっ、ほら見えてきたよ!」

少し前を歩くヒカリが手招きしているので、慌てて追い付いてヒカリの指差す方をみると、そこには太陽の日差しが反射してキラキラと輝く美しい湖があり、そこから少し離れた場所に小さいながらも周囲の雰囲気を壊さないように作られた1階建てのログハウスがあった。
ログハウスの周辺には茎先から鮮やかな桃色の小さな花が群生するかのような形で咲く、とても綺麗な花が無数に咲き誇り、とても綺麗な光景に思わず見とれてしまう。

「どうお? 驚いたでしょ?」
「……うん。 驚いたよ」
「この場所を見つけた時に、絶対、ここに住みたいと思って色んなポケモンに手伝ってもらって建てた家なんだ~ 」

そう自慢げにこちらを向きながら話すヒカリ。
こういう景色は僕のいた世界にも少しはあっただろうけど開拓とかでほとんど見なくなっちゃったからな……

「さあ、景色に見とれるのもいいけど、私の家に入って! 入って!」
「お、お邪魔しまーす」

促されるままにログハウスの中にはいると、部屋のすみには綺麗に整頓された本棚、中央には大きな丸テーブルがあり、それを囲むようにイスが4脚あった。
奥にいくとちょっとしたキッチンのようなスペースと、調達してきた木の実を収納してある大きな箱があり、ちょうどそこにヒカリは森で採ってきた木の実を鞄から取り出して箱の中にしまっていた。

「あっ、適当に座っていいよ。 結構歩いたし疲れたでしょ?」
「ありがとう。 お言葉に甘えて、そうさせてもらうよ」

確かにこちらの世界に来てから、いきなり歩きっぱなしで結構疲れていたのでヒカリの好意を素直に受け取り、テーブルの席に座った。
窓から差し込む光と風の音が心地よく、歩き疲れた疲労も襲ってきたのか、ついつい眠くなってしまい、ウトウトしているとヒカリが笑いながらティーカップを運んできた。

「やっぱり疲れたよねー。 でも大丈夫! 疲れが少しとれるオレンの実を使ったヒカリ特製オレンの実紅茶を持ってきたよ♪」

ヒカリが差し出したカップからは湯気が立ち上り、透き通った青色の紅茶と思わしき飲み物が注がれていて、とてもいい香りがした。
ヒカリも自分の分を啜ると、「はぁ~」と一息ついていた。

「少し熱いかもしれないから、ゆっくり飲んでね!」
「ありがとう!」

ハルキは差し出された紅茶をフーフー冷ましてから飲むと、口の中に色んな味が広がった。しかし、いろんな味はしつこくなく、むしろさっぱりとした味わいすら残す、絶妙な味であった。

「美味しい。 今までこんな紅茶飲んだことないよ!」
「エヘヘー、ありがとう。 気に入ってくれて嬉しいよ! 体力回復にも使われるオレンの実をうまく混ぜて作った自信作なんだ~」
「ってことは、ヒカリオリジナルの紅茶ってこと? すごいね!」
「だからヒカリ特製オレンの実紅茶って言ったでしょー? もっと誉めてもいいんだよ~」

心からの本心の言葉をヒカリに向けて話したら、村に入る前と同様に謎のどや顔を披露してくれた。
ヒカリに和ませて貰いながらも、ハルキは紅茶を啜り、時間はゆっくりと経過していった。

「そういえば家の周りに綺麗な花がたくさん咲いていたね。 なんて花なの?」
「確かスターチスって名前の花だよ。 ピンクで綺麗だなって思って家をたてて間もない時に植えたらたくさん増えたんだー!」
「へえ~最初からここに咲いていたわけじゃないんだね」
「いつか、ハルキをここに招待しようと思っていたからね~! 喜んでもらえて嬉しいよ!」

そんな話をしている間に、ハルキ達のカップの中身は空っぽになってしまった。

「あ、私片付けてくるね」
「運ぶことぐらい、僕にも手伝わせてよ」
「そうお? ありがとう!」

さすがに何もしないでいるのも申し訳ないと思い、せめて運ぶぐらいはしたかった。

「じゃあ、そろそろ村の方に行こうか! レオン姉さんも待っているからね!」

後片付けも終わり、キッチンから戻るとヒカリが明るく言った。

「う、うん。 そうだね。 ハハハ……」

そんなヒカリとは対照的にまたあの不思議(ヒカリ曰く普通)なカクレオンに会うのかと思うと苦笑いしか出てこなかった。
あのカクレオンは嫌いではないが、どういう風に対応したらいいかわからないので正直困る。
しかし、ハルキが内心そんな事を思っているとは、知らないヒカリはルンルン気分で先ほどの肩掛け鞄を身に付けていた。
木の実を収納したことで明らかに余裕のできた鞄を肩からかけて家の外に出る。

「それでは、しゅっぱ~つ! おー!」

ヒカリは曇りのない笑顔を浮かべながら、片手を空に突き上げて掛け声まで1匹でやると満足そうに歩き始めた。

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想