29話 技能測定開始

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翌日、僕らは技能測定を受けるためギルドのグラウンドに向かった。
グラウンドには昨日とは違って、ベンチやテントが設置されており、テントの下には机と椅子がセットで設置されていた。ベンチの方は屋根がなく、太陽の日差しを直接受けるような状態になっている。例えるなら運動会などで校長先生はテントのしたで観戦するのに対して、生徒はテントなしで見るといったような感じか。
設営されたベンチにはすでに結構ポケモンもが座って雑談しており、初めて救助隊本部に来たときには見かけなかったポケモンもいて、少し緊張してきた。
「来ましたね」
「あっ、サラさん。おはようございます!今日はよろしくお願いします!」
このギルドの副団長であるサーナイトのサラさんに挨拶すると向こうは軽く会釈を返してくれた。
「さっそくですが始める前に簡単にルールを説明させてもらいます。まず、はじめにあなた達には個別にこちらの救助隊のポケモンと1対1で対戦してもらい、その戦闘を見てこちらで評価をします。どちらかが降参する、あるいはこちらが試合を終了させるまで続けてください。
4匹の試合が終了したら、少し休憩を挟んだ後にあなた達4匹のチームとこちらの救助隊1チームで対戦してもらいます。こちらのルールはその時にご説明します。何か質問はありますか?」
「つまり、前半が個人の後半がチームの力を見るといった認識でいいですか?」
「その認識で問題ありません。あっ、ひとつ言い忘れていました。万が一大きなけがや体調不良になってしまった場合はあちらのテントに医療班を待機させているのでご安心を」
サラが示したテントは机が設置されていない代わりに椅子とベッドがおいてあり、タブンネとプクリンが準備をすすめていた。
「あれ?この前会ったハピナスとラッキーじゃないんだな?」
「ハクナとラディのことですか?彼女達医療班は当番制で1日2匹のペアでギルドに来てもらっているんです。本日当番なのはタブンネのアイネとプクリンのカリンですね。彼女達はとても優秀なので心配する必要はないですよ」
とサラさんは言うが、ハルキ、アイト、ヒカリの3名は初対面の時にアイスを食べすぎてお腹を壊して泣いていたラディの事が脳裏に浮かび、何とも言えなかった。
「おー、お前達が噂の新入りか~」
「来るのが遅いですよ、団長。みんなとっくに来ていますよ」
声をかけてきたのは鮫と恐竜を混ぜたような外見をしたポケモン、ガブリアス。
サラに団長と呼ばれているということはこのギルドの団長はガブリアスなのだろう。確かに向こうの世界で存在したゲームのポケモンでも強かった部類に入るのである意味納得である。ただ、体のあちこちに古傷と思われる跡があるのが少し気になった。
「まあまあ、そんなに怒るなよサラ。昨日まで俺は遠出してたんだぞ。少しぐらい寝過ごしてもいいだろ?」
「だからといって仮にもこのギルドの代表が朝寝坊するのはダメです」
「ったく、相変わらずサラは頭がかたいなー」
「そんなことより、彼らに自己紹介をしてください」
「おっと、そうだった。わりぃ、わりぃ。俺の名はカリム。一応このギルドの団長だ!よろしくな!」
カリムと名乗ったガブリアスは見た目とは違いずいぶん明るく、ゆるい性格のようだ。
ハルキ達はカリム団長に簡単な挨拶と自己紹介をしたところで、技能測定が始まる時間になったので控え席(ベンチ)に移動した。
ベンチには救助隊に所属していると思われるポケモンが何匹かいて、そこには見知った顔もあった。
「よう、ハルキ」
「救助隊に少しは慣れたかしら?」
「ザントさん!リルさん!」
つい1週間前に会ったのになんだかとても久しぶりな気がした。
この二人には初対面のヒビキを紹介し、挨拶をかわしていると後ろの席に座っている、昨日魔法を見せてくれたラプラ達マジカルズも会話に加わってきた。
ちなみにベンチといっても2列構成になっていて、後列側は少し席が高くなっていて、前にポケモンがいても試合が見えるよう配慮された作りになっている。
席順は
後列 リル ザント ハルキ ヒカリ
前列 アイト ヒビキ ラプラ イオ クロネ
といった順番に座った。いくら後列の席が少し高くなっていると言っても、プラスルやマイナン、デデンネの前にサンドパンとマリルリが座ると見づらくなってしまうからである。
身長が低いポケモンが前で高いポケモンが後ろという状況は、なんだか学校の集合写真をとっている時のような気分だがそこは気にしてはいけないだろう。
「それでは、これより新しく救助隊に入ってくれた4名の技能測定をはじめます。ルールは事前に説明した通りなので割愛させていただきます。対戦相手はこちらで決めさせていただいたので名前を呼ばれた者はグラウンドに出てきてください。それでは第一試合、ヒビキさんとクロさん出てきてください」
名前を呼ばれたヒビキがグラウンドに出ると対面にはエルフーンが出てきた。
おそらくあのエルフーンがクロなのだろう。
「ん?あの、エルフーン....だっけか?なんか違和感ないか?」
「ああ、あいつは色違いのエルフーンなんだ。見た目が普通のエルフーンと違って黒っぽいからクロって名前らしい。安直だよなー」
アイトの疑問にザントが答えた。
「私が言えたことじゃないけど、あなたの名前だって安直な部類よ...」
「うっ...。確かに俺とリルも子供の頃に考えたから安直だが、それはそれで覚えやすくていいってもんだ!ハハハハ!」
リルのツッコミにザントは笑って誤魔化した。
「おーい、そろそろ始まるぞ。基本的に団長と副団長が採点すっけどあたし達だって一応簡単な評価をするんだから見逃すなよ~」
「言われなくてもわかってるよラプラ!」
ちょうどラプラが言い終わった後、試合が始まった。


「ヒビキです!よろしくお願いします!」
「ぼくはクロって言うんだー。よろしくー」
「それでは、始めてください」
相手はエルフーン。わたしの里では見たことないポケモンですがどんな攻撃をしてくるのでしょうか?ずいぶんのんびりした喋り方ですが、意外と素早い攻撃とかもしてくるのでしょうか?でも、迷っていても仕方ないですね。
「いきます!『たいあたり』!」
「じゃあ-『コットンガード』」
ヒビキの繰り出した『たいあたり』はクロに命中はしたが、コットンガードで防御をあげられていたのでほとんどダメージにならなかった。
「あれぇー勢いよく飛び込んできたわりには僕の綿に攻撃弾かれちゃったねー。モフモフ度がたりないんじゃなーい?」
「モフモフ度!?」
「そう。モフモフ度ー。モフモフは正義なんだよー。これがあるのと無いのとでは力量に天と地ほどの差があると言っても過言じゃないよー」
「そ、そんな…。確かに近所のブースターのブー君は力がやたら強かったです...」
「ほらねー。だからモフモフがぼくより劣っている君はよわいのだー」
「わ、わたしのモフモフだって負けていません!」
コットンガードで防御力を高めたエルフーンの綿のモフモフ具合は通常の2、3倍に膨れ上がっているとはいえ、ヒビキが戦闘中にそんなどうでもいいことに激怒するはずはない。
しかし、クロは会話中に『ちょうはつ』を使用し、ヒビキを怒りやすくさせたのである。
(フフフー、これでこの子は攻撃しかできないし、動きも単調になるかなー)
「『とっしん』!」
クロの予想通り、一直線に突っ込むヒビキ。直線的な攻撃はとてもかわしやすく、反撃するのはとても容易だ。
ヒビキの『とっしん』を軽く避けると、クロはすれ違いざまに『やどりぎのタネ』を植え付けた。ヒビキは『とっしん』の速度を緩められず『やどりぎのタネ』をまともに受けてしまい、『とっしん』によって勢いづいたまま転倒してしまった。
「ごめんねー。ぼくの戦い方はこういうのなんだー」
「うぅ......」
ジリジリと近寄ってくるクロ。
ヒビキは『やどりぎのタネ』と転倒したダメージで『ちょうはつ』の効力は解けていたがやどりぎのつるに体力を奪われるだけでなく身動きも阻害されて思うように動けなかった。
どうすれば…と考えていたヒビキの視界に、ベンチでこちらを見ているアイトの姿が映った。

――――――――――――――――――――――――――

「いいか、ヒビキ。明日の勝負では相手より先に自分のペースを掴むことが重要だ」
明日の大将君との勝負に向けてヒビキにアドバイスをするアイト。
「ペース...ですか?」
「ああ。自分のやりたいこと、得意な事をいかにして相手に押し付けるかってことだな」
「なるほどです!......でも、もし大将君に先にペースをとられたらどうすれば......」
「そんときは、チャンスが来るまで耐えるのが無難だな」
ペースを掴むことよりも、相手にペースを捕まれたときのことを考えて不安げな表情を浮かべるヒビキの問いかけにアイトはサラッと答えた。
「勝負事には、目には見えないけどながれってもんが必ずある」
「ながれ...ですか?」
「そうだ。相手のペースという事は、ながれが相手に向いてるって事だな。だがな、相手だって同じポケモンだ。ずっと同じ状態が続くことはない。攻撃をすればその分、疲労は当然蓄積されるし、思考も鈍ってきたりもする。そうなってくると、どっかしらに付け入る隙が生まれる。あとは、その隙を逃さないようにして、ながれをこっちに引き戻すだけだ」
「なんか難しそうです......」
「まあ、こういうのは経験による勘みたいなところあるからなー。なら、多少リスクがあるけど、相手が予想もしていない事をして無理やり隙を作ればいい」
「相手が予想していない事をするって、普通に難しくないです?」
「ハハッ!まぁ、そうだな。だったらヒビキが相手の立場になった際にやってこないだろうって思うことをやってみればいいと思うぞ」
「相手の立場になって考えるってことですか?」
ヒビキの問いかけにアイトは頷く。
「そうだ。自分がやられて嫌なことは相手も嫌なことのように、自分がしてこないと思っていることは相手もしてこないと思っているかもしれないからな」
「つまり、相手の腰を抜かせばいいんですね!」
「あ、ああ。まあざっくり言うとそうか...な?」
「ゴツンと言わせて見せますよ!」
「ゴツン?......あー、もしかしてガツンと決めると言いたかったのか?」
「ゴツン~!ゴツンです!」

――――――――――――――――――――――――――――――
あの時のアイト君の言葉通りなら、この試合のながれは今、クロさんにありますね。
そして、この状況でクロさんがびっくりするようなことは......
「さ~て、こっからどうしようかなー?」
クロが緩い口調で接近してくる。
まだです...もっと引き付けてから......
「―今です!」
「!?」
ヒビキは接近してきたクロに飛び付いた。まさか、距離をとるのではなく、向かってくるとは思わなかったクロは回避が遅れて、そのままヒビキに飛びつかれて地面に押し倒された。
「捕まえました!」
「やるねー。でも、ぼくにはこのモフモフな『コットンガード』があるから攻撃なんかきかないよー。それに、『やどりぎのたね』が君の体力を奪うから、ぼくの動きを封じたところで、無問題さー」
笑いながら話すクロの言葉を聞いたヒビキは動じずに口元を緩めた。
「確かに『コットンガード』の防御力ならわたしも本で読んだことがあるので知っています。そして、『コットンガード』は特殊攻撃に弱いという性質があるのも知っているです!!」
ヒビキは力強くそう言い切ると、ゼロ距離で『スピードスター』をはなった。
技の衝撃はすさまじく、辺りは砂煙と技によって生じた煙で包まれた。
やがて煙が晴れてくるとヒビキが息を荒くしながらもなんとか立ちあがり、技をゼロ距離で受けたクロは倒れていた。
「ハァ...ハァ......やった、です?」
「いてててー。残念だけど、まだだよー。って言っても、結構ダメージもらっちゃったなー」
立ち上がったクロを見て身構えるヒビキ。だがクロはヒビキを見ながらニッコリ笑う 。
「なるほどねー、あの距離なら自分にも技のダメージがはねかえるけど、ぼくにダメージを与えるだけじゃなく、自分の身体に巻き付いたやどりぎのつるをとるのも狙ったんだねー。うん。いいねー」
クロの言うとおり、ヒビキは継続的に体力を削られ、身動きを阻害する『やどりぎのたね』を残すより、ダメージ覚悟で自分にも技をぶつけて効力を無くした方がよいと思ったのだ。
「それじゃあぼくは降参するねー」
「え?」
「あれー?聞こえなかったー?ぼくは降参するって言ったんだよー」
嬉しそうな表情で降参を宣言するクロ。
「いや、聞こえたですが…いいんですか?」
「いいのー!いいのー!そもそもぼくは1対1のバトル得意じゃないし、やどりぎ破られた時点できつそうだったからねー......副だんちょー!試合終わったからオボンの実ちょーだーい!」
どこまでも明るい笑顔をしたクロは走って副団長の元に向かって行ってしまったので、ヒビキも慌ててその後を追った。


「というわけで、クロさんが降参したのでこの試合は終了します。2匹ともお疲れ様でした」
サラは試合を終えた二人にオボンの実を渡した。
「やったあー!オボンの実だ~!」
「あ、ありがとうです」
オボンの実を受け取ったヒビキは器用に頭の上にオボンの実をのせると、僕たちがいるベンチまでひょこひょこ歩いてきた。
「はぁ~...疲れたです」
そのままこちらにくるとベンチにつく少し前で倒れてしまい、アイトが慌てて駆け寄った。
「おいおい、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です」
「どう見ても大丈夫そうには見えねぇよ...ほら、貰ったきの実をさっさと食べて少しでも体力を回復させとけ」
倒れたヒビキをアイトが抱えあげると、ヒビキの頭に乗っているオボンの実をヒビキの手に渡す。
「ありがとうです。アイト君。疲れと緊張から一気に解放されて、気が抜けちゃいました」
そのままアイトがヒビキを抱っこ......というかお姫様抱っこしながらベンチに運んできた。
「ヒビキ、おつかれさま~」
「バチュ~」
戻ってきたヒビキにヒカリとバチュルが労いの言葉をかける。
「仕方なかったとはいえ、自分に攻撃を当てるなんて無茶しすぎだよ」
「えへへ...ごめんなさい、ハルキ君。でも、あれしか思い付かなかったので」
苦笑いをしながら謝るヒビキ。まあ、あの状況下ならあの手段が突破口を開くのに最適なためこれ以上は僕も言えないな。ヒビキもあんまりいい手段ではなかったと自覚しているようだし。よほど追い詰められない限り同じことはしないだろう。
「ハルキの言うとおりだぞ。でも、最後まで諦めないのは大切なことだ。よく頑張ったな、ヒビキ」
「アイト君......でも、あのまま続けていたら絶対勝てなかったです。それどころかもっとダメージを受けていたかもしれません。たぶんクロさんもそれがわかっていたからこそ降参してくれたんだと思うのです......」
「それがわかっていれば十分だ。とりあえず、今はゆっくり休んでろ」
アイトはベンチに座ると、ゆっくりとヒビキを横にし、自分の膝の上にヒビキの頭をのせた。
(こういう事をサラッとしてしまうアイトを僕も少しは見習ったほうがいいのだろうか。
でも、お姫様抱っこから膝枕はハードル高いなー。それに、こいつ変なところで鈍感だし、やっぱり僕には無理だな)
「難しい顔してどうしたのハルキー?」
「っああ、ヒカリ!な、なんでもないよ。ちょっとバトルの作戦考えてただけ」
とハルキは見当違いの事を考えていたのを慌てて誤魔化したのであった。

モフモフは正義
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