26話 マジカルズ

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

2020年8月2日改稿
イーブイの里を出発し、夕方にはレベルグに戻ってこれたハルキ達は、そのまま救助隊ギルドに向かった。
道中、里の外に出た経験のないヒビキが「すごい! すごい!」と目を輝かせながら町のあちこちの物に興味を示し、気になる度にハルキ達に質問をしてきたので、ハルキ達は分かる範囲で答えてあげた。
救助隊ギルドに着き、中に入ると、丸い黒縁メガネをかけたサーナイトこと副団長のサラが受付で書類を整理していたところだった。
積まれた書類の量は小さな山ができるほどで、ハルキ達が出発した時より、増えているように感じるのは気のせいではないだろう。

「サラさん、戻りました!」
「おかえりなさい。 思っていたより早かったですね。 それでは、さっそく依頼した石を……と言いたいところですが、まずはそちらのイーブイについて説明してもらいましょうか」

サラはハルキ達の背後に隠れているヒビキの方をチラッと見る。
その視線にヒビキは緊張でカチコチに固まってしまったので、ハルキが里での出来事を大まかに話し、ヒビキをメンバーにいれたいと話した。

「なるほど。 事情はわかりました。 救助隊は手が足りない状況が続いているので入隊希望なのは大歓迎です。 それにハルキさん達はまだ技能測定がまだなのでちょうどいいです。 そちらのイーブイさんには名前がありますか?」
「は、はい! ヒビキと言います、です!」

緊張しているせいか語尾が少しおかしかったが、サラは気にすることなく、名前を紙にひかえる。

「ヒビキさんですね。 手続きはこちらでしておくので、そちらにいるハルキさん達と同じ日程で技能測定を行います」
「わ、わかったです」
「あと、団長も予定より早く戻ってこられるそうなので、技能測定を前倒しにできますが、どうしますか?」
「待つ理由もないし、早めてもいいかな?」
「わ、わたしはみんなに合わせるです」
「俺もいいと思うぞ」
「私も~」
「わかりました。 それでは技能測定は明後日行います。 場所と時刻は以前お渡しした紙に記載してある通りで変更はありません」
「ありがとうございます!」
「それでは依頼していた進化の石をここに置いてください」

ハルキは受付のカウンターの上に進化の石が入った袋を置いた。

「確かに進化の石、受け取りました。 内容を確認次第、報酬はお渡しします。 明日にはお渡しできると思うので、今日は用意した部屋で休んでください」
「用意した部屋?」
「ほら、出発する前に言っていた寮の部屋だよ!」
「ああー、そういえば言ってたな」

部屋の件をすっかり忘れていたアイトにハルキが説明する。
口には出してないがヒカリも「あー、そんなことあったなー」みたいな表情をしているので、忘れていたのだろう。
このメンバーのこれからが少し心配になり、ハルキは苦笑いを浮かべるしかなかった。

「2階の1号室から3号室までの部屋を登録していましたが、4号室も空き部屋なのでそこをヒビキさんの部屋として使ってください」
「わかりました」
「ねぇ! ふくだんちょー! バチュルは今どうしてるの?」
「バチュルなら2階の5号室から7号室のどこかにいると思います」
「どこか、と言いますと?」
「5号室から7号室はマジカルズという3匹のポケモンがそれぞれ使用している部屋です。昨日、帰って来たばかりですが、マジカルズはでんきタイプで構成されているチームなので、バチュルの電気補給も兼ねて預けています」

元々バチュルは電気不足で容態が悪くなったので納得のいく話だ。

「わかりました。 後で伺ってみますね」
「それではこれが1号室から4号室の鍵です」

サラから部屋の鍵を受け取り、ハルキ達は寮へと向かった。

――――――――――――――――――――

「部屋の番号言われた時、なんで1から4が空いてるのか不思議だったけど、部屋の位置が2階の1番奥だから空いてたのか」
「まあ、ザントさん達の部屋はこの上の階みたいだし、1階分歩く距離は短いでしょ」
「そりゃあそうだけどよ。 やっぱ出口が遠いいと不便だよなー」
「そうですか? わたしの家と比べると小さいと思いますよ?」
「いや、それはヒビキの家と比べたらな……」

ヒビキは里長の娘で、無駄に広いあの家の距離感に慣れているのだろう。
とりあえず、渡された鍵を使って1号室の部屋を開ける。
中は1匹ひとり用の机とイスが1つずつあり、丸い形の窓と藁が敷き詰められたベッド部屋となっていた。
一応、2号室も見てみたが、まったく同じ配置で机やイスが置いてあったので、他の部屋もきっと同じだろう。

「それで、誰がどの部屋使うんだ?」
「ここに名前かいてあるよー!」

ヒカリが扉の左横の壁を指指すと、そこには木に名前が掘ってあるネームプレートがかけられていた。

「なるほど。 これならどの部屋に誰がいるか一目瞭然だね」
「えーと、それで? このプレート通りなら、ハルキが1号室でヒカリが2号室、そして俺が3号室か。 4号室は空き室って言ってたから、とりあえずヒビキの部屋はそこってことか」

自分達の部屋を確認し終えたところで、ハルキ達はバチュルの様子を見に行くことにした。

「っても、どの部屋にいるんだ?」
「片っ端から試せばいいじゃない!」

そう言うやいなや、さっそく5号室の部屋をノックするヒカリ。

「誰かいなーい? おーーい!」
「……ヒカリはこういう事に躊躇いがないよね」
「ヒカリちゃんの良いところだと思います!」
「単に遠慮がないだけな気がするけどな」

呆れた様子で見守るハルキ達をよそにヒカリはノックを続けるが、5号室からは応答がない。
すると、その隣の6号室のドアが開き、中から黒いローブを羽織ったうきざのような耳に頬にプラス模様のあるポケモン、プラスルが出てきた。

「そこはあたしの部屋だけど何か用?」
「あっ、僕達は最近救助隊に入った……」
「ああ! 副団長が言ってた奴らか! バチュルならこの部屋にいっから入りな!」
「うん! お邪魔しまーす!」

プラスルが部屋に手招きすると、すぐに上がり込んだヒカリ。

「……やっぱりヒカリは躊躇いがないよ」
「ヒ、ヒカリちゃんの良いところだと思います」
「いや、やっぱり遠慮がないだけだろ」

先程と同じようなやり取りをしながらハルキ達もヒカリの後に続いて部屋に入った。
部屋の中には、プラスルと同じくうさぎのような耳が特徴で頬にマイナス模様がついたポケモン、マイナンと丸っこいネズミのようなポケモン、デデンネがプラスルと同じように黒いローブを羽織った姿で座っていた。

「お姉ちゃん、お客さん?」
「ああ、バチュルを連れて来たって奴らだ」
「バチュウゥゥ!」
「うわ!」

マイナンにお姉ちゃんと呼ばれたプラスルが質問に答えていると、バチュルがヒカリの顔面に飛びついてきた。

「ただいまー、バチュル~」
「バチュバチュ~♪」

バチュルを引きはがしたヒカリにバチュルは嬉しそうに頬擦りをする。

「つまり、あたい達の新しい救助隊の仲間がこのポケモン達ってことだね」

ハルキ達を一瞥しながらデデンネがそう言った。

――――――――――――――――――――

「というわけで、まずは自己紹介をしていこうじゃねぇか!」

ヒカリとバチュルのスキンシップもほどほどに、ハルキ達はバチュルの面倒を見てくれていたプラスルの言葉に従い、プラスルの隣にいるマイナン、デデンネと向かい合うように座った。
もともと1匹ひとり用の部屋なので、これだけのポケモンが集まるとさすがに狭く感じる。

「じゃあ、まず自分の名前と種族、それから何か一言でも言ってもらおうかな」
「なんか面接見てぇだな……」
「じゃあ、今なんか言ったお前からな!」
「うえっ!?」

アイトがボソッと言った言葉を聞き逃さなかったプラスルから指名が入り、アイトから自己紹介をすることになった。
学校とかでもこういう時って、目立った人から始まるし、そういう所はどの世界でも共通な気がする。

「えーと、俺の名前はアイト、種族はたぶんヒコザル。 まあ、頑張ります」
「それじゃあ次」
「は、はい! わ、わたしはヒビキと言います。 種族はイーブイで、みなさんの足を引っ張らないように一生懸命頑張ります!」
「おー、ヒコザル君のアイトとは違って気合がこもった一言じゃねぇか」

プラスルの言葉に不満そうな表情をするアイト。
まあ、いきなり指名なんてされたら大した事を言えないから仕方ないとは思う。

「じゃあ次は私だね! 私はヒカリ! 種族はピカチュウことピカチュウだよ! 一言は、うーん、そうだねー……、一言は特にないよ! おわりー!」

思わずズッコケて、しまった一同。

「ま、また個性的な子が入ってきましたね」
「まったく、個性的なのはクロネだけで十分だよ」
「あ? あたいがなんだって?」

苦笑いするマイナンにプラスルがため息をつきながら愚痴をこぼした。
その言葉に突っかかるようにデデンネが喰いついたが、プラスルはそれをスル―して、ハルキに自己紹介をするように促した。

「それじゃあ最後」
「はい。 えっと、僕の名前はハルキ。 種族は一応ポッチャマ。 今まで戦闘経験があまりなくて、苦労をかけるかもしれませんが、救助隊としてしっかりできるように努力しますので、よろしくお願いします」
「かてぇ!」

ハルキの自己紹介に対しての感想をプラスルが叫んだ。

「そんな固くなくていいんだよ! もっとこう、適当にそこそこやる気のある感じの一言をだな……」
「お姉ちゃん、言ってる事、無茶苦茶だよ」
「そうだぞラプラ。 それだったらお手本を見せてやりゃいいんじゃね?」

デデンネに後押しされた、プラスルが渋々、立ち上がり自己紹介を始めた。

「それじゃあ、今度はこっちだな。 あたしの名前はラプラ。 種族はプラスルで、一言は押して駄目なら押してみろだ!」

ドン、っと効果音が聞こえてきそうな勢いで一言を言ったラプラ。
心なしか満足げな表情をしているが、マイナンは呆れた表情をしていた。

「駄目だとわかっているのに押すの?」
「わかってるからこそ、押すんだよ!!」
「……だからお姉ちゃんの部屋のタンスは物がぎゅうぎゅうに詰め込まれているんだね。まったく、そんなことしているからローブにシワがつくんだよ」
「なっ! そ、それは関係ないだろ! っていうか、次はイオの番だぞ!」

無理矢理話題を変えたラプラにジト目を向けながら、マイナンは立ち上がった。

「僕はイオ。 種族はマイナンで隣にいるラプラの弟です。 入ったばかりでわからないことがたくさんあるだろうから遠慮せずに聞いてね」
「普通すぎてつまんねぇなー」
「普通でいいんだよ!」

今まで聞いてきた自己紹介で、初めてまともな一言を言ったと思われるイオにラプラがつまらなさそうな顔をしていた。
分からない事があったらイオさんに聞こうと。
ハルキは心の中でそう思った。

「じゃあこれでこっちも最後だね。 あたいはクロネ。 種族はデデンネで隣にいるラプラとイオは子供の頃からの友達さ! 一言として、あたいが言いたいのは自分探しの旅はいいぞってことだな!」
「自分探しの旅?」
「ああ、それをしたおかげでこの2匹ふたりと会えたんだ」

クロネは隣のラプラとイオを手で示しながら、胸を張って答えた。

「へぇ~、自分探しの旅か~。 なんか面白そうだね~」
「ヒカリさん。 参考にしないでください。 クロネの話は特例中の特例だし、そもそも僕達と会ったときに空腹で倒れていたぐらいなので……」
「そうなの?」
「どんなやつでも腹が減れば動けない!! それは、あたいとて例外じゃないってことさ! アーハッハッハッ!」

自信満々で高笑いしているクロネだが、言っている事自体はいたって普通のことを言っているだけである。

「よしこれで全員終わったな」
「バチュ! バチュバチュ! バチュ~!!」

自己紹介をスルーされたのでご立腹のバチュルは頬を膨らませてプンプンしている。

「あっ、ごめんね。 それじゃあ最後、バチュルお願いねー!」
「バチュゥッ!」
「「え!?」」

ヒカリが言葉をまだ話せないバチュルに自己紹介を頼み、何匹かすっとんきょな声をあげてしまった。

「バチュ! バチュバチュ~! バチュ、バチュバチュチュ! バチュバチュバチュル~!!」
「「???」」

どや顔気味のバチュルには悪いが当然、何を言っているのか全くわからない。
1匹ひとりを除いて――

「わあ! 嬉しいこといってくれるね~! 私もバチュルの事大好きだよ~!!」
「「わかるの!?」」
「当たり前だよ~。 「みんなスキスキ大好き! ずっと一緒!」 だってえ~。 かわいいね~」
「バチュ~♪」

嬉しそうにバチュルを抱っこして頬ずりする唯一の理解者であるヒカリにみんな目を点にしていた。

「あのバチュルの様子を見るとあっているようだね……」
「ヒカリって、一体何者なんだい……?」
「と、とにかく頼もしい? 新入りには違いないな!」

チームマジカルズの3匹さんにんはニコニコ笑うヒカリを見ながら苦笑いを浮かべていた。
ヒカリはバチュル語がわかるのではない! 感じているです!

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