19話 レベルグ

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:12分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

2020年7月27日改稿
救助隊本部がある町――レベルグ。
この世界に存在する町の中でも大きめな部類に入るこの町は、救助隊の施設以外にも商店街や学校、子供たちが遊べる公園や怪我をしたポケモンを治療する病院など、生活するのに便利な施設がたくさんあり、レベルグで暮らしているポケモンだけでなく、旅のポケモンや行商のポケモンといった、多くのポケモンで日々賑わっている。
そよかぜ村よりもたくさんお店があり、食料や旅の道具を売る店はもちろん、マッサージ店やスポーツジムなどそよかぜ村には無い施設もあった。

「へぇー、カフェとかもあるんだ~」
「おい、ハルキ! 見ろよ! 『プリンのうたう教室』だってよ」
「……なんだか教える側が生徒を寝かせちゃいそうな教室だね」
「ハルキ、ハルキ! あそこに『バイバニラの伸びるアイス』が売ってるよ! 私あれ食べたいな~」
「伸びるアイス? トルコアイスみたいな感じかな? ちょっと気になるね~。 ん? ここは……『ムンナの夢エステ』? どんなお店かな」
「うわっ! あの店もすげぇな、 『マグカルゴの激辛ラーメン』だってよ。 写真のスープの色が真っ赤を通り越して若干黒くなってるぞ」
「こっちもすごいよ! 『ブーバーの激辛サンドイッチ』! パンの色が真っ赤っかだ~」

楽しそうにはしゃぐハルキとヒカリとアイト。
まるで、都会に出てきたばかりの田舎者のようなリアクションをする3匹さんにんは、町の中で少し目立っていた。
一緒に町を歩く、ザントとリルは少し恥ずかしかったようで、あらゆる物に目移りする3匹さんにんを引っ張って、商店街を通りすぎていった。

「お前らなぁ、少し落ち着けよ」
「いやぁ、ちょっと新鮮な光景で舞い上がってしまいまして、アハハ……」
「見たこと無い店ばっかでテンション上がっちゃいましたよー」
「文明の進歩ってすごいんだね~! 私、驚いちゃったよ!」
「バチュ~」
「あのなぁ……」
「まあ、この子達はまだ文字通り子供なんだから興奮しちゃうのは仕方ないでしょ」

少し呆れた様子のザントに、リルが軽くフォローをいれてくれた。
そんなこんなで、今は賑わっていた町の入り口より少し静かになったポケモン達の住宅街を歩いている。
時折、子供達がわいわい楽しむ声が聞こえてきたり、公園で走り回る姿を見かけたりした。住宅街を抜けてしばらく進むと、急に建物を見なくなった代わりに青々と広がる海が見えて来た。

「ここって海沿いの町だったんですね」
「どうだ? いい景色だろ。 救助隊のギルドは商店街とかとは少し離れた位置にあるんだが、その変わりにこの景色が堪能できるってわけだ。 ほら、あそこの方に建物が見えるだろ?」

ザントの指差す方向には、切り立った崖の上に建つ、2階建ての大きな建物が見えた。
どうやら、あそこが救助隊の施設のようで、見た目は少し大きめの公民館のような感じで、壁は明るい茶色で塗装されていた。

「やっぱり他の建物よりも大きいですね。 でもなんでこんな離れた位置に?」
「ああそれはな。 俺らがまだ救助隊に入る前にちょっとした事件があったらしくてな。 詳細は知らねぇが、その事件で民家にも被害が出たらしくて、万が一の時に市民を巻き込むわけにいかないということで少し離れた位置に建設し直したらしいぜ」
「ここからじゃ見えないけど、建て直した際にギルドの後ろに訓練用のグラウンドや下宿用の寮も建てたらしいわよ。 私たちも日帰りの依頼とかなら帰って来てそこで休むからね」
「なるほど~。 でも、それじゃ町が襲われた際にすぐに助けに行けなさそうですね」
「確かにすぐには無理ね。 でもそれは、襲撃者がこちらの動向を知ることが出来ないことにも繋がるわ。 こちらの動きがバレてないのなら奇襲だって仕掛けられるし、悪いことばかりじゃないのよ」
「それに、万が一の事が起きた場合は、町を巡回している警備のポケモンが赤い煙玉を使って教えてくれる手はずになっているからな」
「でも、こっからじゃその煙みえなくない?」
「その点は安心しろ。 この町の変わった発明家のポケモンが作った道具でかなり高くうち上がる。 こう丸い筒みたい鉄の塊に玉を入れて、地面にセットしてから導火線に火をつける仕組みだったかな」

ザントが身ぶり手振りで説明しようとするがヒカリはピンときていない様子だった。

「おい、ハルキ。 たぶんそれって……」
「打ち上げ花火と同じ原理だろうね」

まさかこの世界にも科学的な道具が存在するとは思わなかった。

「ザントさん、その発明品ってどのくらい作られているかわかりますか?」
「それがな。 1回使うごとにとんでもない量の道具を使うみたいで、コストの面からほとんど作られてないらしい。 あとは、肝心の作った奴が飽きたからって作成していないのも要因の1つだけどな」

色んな道具をたくさん使うということは、ハルキとアイトが知っているような花火とは厳密に違う存在なのかもしれない。

「ずいぶん気まぐれな発明家なんだねー」
「その代わり、興味持ったことはとことん追求してくるけどね。 さあ、そんなこと言ってるうちについたわよ!」

救助隊の建物の目の前に着くと、思ったよりも大きく感じられた。
さすがに扉は人間の世界のように自動ドアではなく大きめの木でできた扉であった。
ザントが扉をあけて中に入るのに続いて建物内に入ると、中はやはりというべきか広く、外観と同じく壁の色は明るい茶色で塗られている。
入ってすぐ目につくのは2階へと通じる横幅の広い階段。
どうやら1階の出入口は吹き抜けになっているようで2階から1階の入り口を見下ろせる構図となっているようだ。
分かりやすく言うとホテルとかでよく見かける間取りと一緒だ。

「あら。 2匹ふたりとも帰ったのね」
「おう、副団長。 ただいまっす」
「副団長、ただいま帰りました」

入り口から少し離れた右側の位置には受付と思われるカウンターがあり、そこには丸い黒縁メガネをかけたサーナイトが本を片手に座りながら話しかけてきた。

「アングの件、ご苦労さま。 何事もなく無事に連行できましたと先ほどジバコイル保安官から連絡がありました。 それで、その子達は一体……」
「その件については私達から詳しく説明します。 ちょっと、ハルキ君達はここで待っててね」

そう言って、リルとザントはハルキ達の事やアングの件についての詳細な話をしに行った。
副団長と呼ばれていたサーナイトは2匹ふたりの話を聞きながら、手元の紙や近くの書類にいろいろ書いている。
数分して、2匹ふたりの話が一段落したのか、机にペンを置き、立ち上がるとザント達と一緒にハルキ達の方に近づいてきた。

「ハルキさん、ヒカリさん、アイトさん。 リルとザントの2匹ふたりからお話は聞きました。 ようこそ救助隊へ。 私はサラ、レベルグ救助隊ギルドの副団長をしています。 これからよろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしくお願いします」
「お願いします!」
「よろしく~」
「バチュ~」

ハルキは丁寧にお辞儀をし、アイトもそれに続いて頭を下げた。
ヒカリはいつも通り、軽いノリで片手をあげて挨拶し、バチュルもそれを真似て挨拶をした。

2匹ふたりとも礼儀がいいですね。 ただ、そんなにかしこまらなくてもいいですよ。 そこのヒカリさんのように気軽に接してくれて構いません」
「でも、副団長さんが敬語なのに僕らがタメ口なのはちょっと……」
「私の口調は昔からの癖のようなものなのでどうかお気になさらず。 それで、さっそく皆さんの力がどの程度か把握したいのですが、あいにく今は団長をはじめとする技能測定の担当ポケモンが留守なので、後日におこないますがよろしいでしょうか?」
「大丈夫です」
「わかりました。 それでは、こちらに記載されている日程で行いますので覚えておいてください」

副団長は1枚の紙を差し出し、それをアイトが受けとり読み上げた。

「え~と、場所はこの建物の後ろにあるグラウンドで、日時は1週間後か。 ずいぶん先だな」
「団長が帰ってくるのがちょうど1週間後なので。 ただ、その間あなた方には1つ依頼を頼みたいのですが、いかがでしょうか?」
「依頼?」
「依頼内容はイーブイ達の住む里から進化の石を受け取ってくることです。 イーブイの里では進化にまつわる石が多く発掘でき、その一部を定期的に今後の研究のため、提供してもらっているのですがちょうど手が空いてる方がいなくて。 イーブイの里はここからさほど遠くありませんので、3日~5日で戻ってこられるかと思います」
「どうする? ハルキ?」
「俺はお前に任せるぞ」
2匹ふたり共、僕に丸投げしてない?」

副団長はメガネのレンズ越しにハルキを見つめている。
どうやらハルキの返事を待っているようだ。

「……わかりました。 その依頼受けます」
「ありがとうございます。 正直、救助隊の数が不足していて困っていたので助かります。しかし、今日はもう遅いので、明日出発するといいでしょう。 依頼に行っている間にあなた方の部屋は用意しておくので、今晩はザントとリル、2匹ふたりの部屋に泊めてもらってください。 2匹ふたりともいいですよね?」
「大丈夫です」
「まあ、今晩くらいならいいぞ」
「決まりですね。 それでは2匹ふたりとも彼らを頼みましたよ」

副団長は要件を伝え終わると、受付カウンターに戻り、先ほど読んでいた本の続きを読み始めた。

「なんか副団長は忙しいみたいだし、俺達は日が沈む前に簡単に建物の案内でもするか?」
「そうね。 それじゃあ、私の後についてきて。 順番に案内するわ」
「はーい!」
「バチュー!」
「「よろしくお願いしまーす」」

こうしてハルキ達はリルとザントに連れられて、ギルド内を見て回る事になった。

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想