肆肆 突入

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:9分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 太陽の神殿で、僕達は続いて陽月の回廊への突入方法をしてもらう。
 コークさんが神殿の方に取りに行っている間に、ソレイルさんから“太陽の笛”の使い方を教えてもらった。
 その使い方は、僕がよく知っているZギアと似たようなものだった。
 更にその宝具は使用者を選ぶもので、この中では唯一の一般人であるキノトだけが適応すると知ることとなった。
 [Side Wolta]




 「…最後に、“月の次元”、“月界の統治者”の種族と名を教えておくとしようか」
 「種族を? ってことは、伝説の種族だったりするんだよね? 」
 「そうなるな」
 “月界の統治者”かぁ。…って事は、ソレイルさんと同じ種族かもしれないね。コークさんが持ってきた“太陽の笛”を受けとった僕は、それを持っている紐で縛り、キノトが背負えるようにしてあげる。もう四年目だから慣れたけど、元々の四足じゃないからやっぱり苦労はする。左足と嘴で笛の先端あたりに結び付け、吹き口辺りにも同じように手を加える。キノトの体に沿うように、右肩から斜めに紐を提げてもらった。
 その後は細々とした説明をしてもらって、僕自身も忘れないようにメモを残していた。…だけどこういう時に限ってノートのページを切らせてしまったから、僕は何年かぶりに鞄の底からあるモノを取り出す。それは、向こうの諸島で使っていたリストバンド型の通信端末。翼に着けると重さでバランスが崩れるから、キノトの笛と同じように紐を通して首から提げる事にした。
 それで最後に、ソレイルさんは締めっていう感じでこう話し始める。“月の次元”は僕達の“太陽の次元”と対になってるけど、世界の番号は“太陽”よりも一つ早い、六百二十三番らしい。…話が逸れかけたから元に戻すと、ソレイルさんが話し始めた事に、誇らしげな顔のキノトが首を傾げながらこう質問する。向こうの人の地位名は何となく想像は出来たけど、この言い方だと種族は違うのかもしれない。ソレイルさんが“太陽の統治者”だから、“月の次元”のその地位にあたる名前も、それらしいもの…。だけど僕は、ソレイルさんと同じ伝説の種族だとは思うけど、別の酒種族だ、っていう意味がいまいち分からなかった。
 「今は“コスモッグ”という仮の姿だが、貴女、ルーンは本来、“ルナアーラ”という“太陽の次元”には存在しない種族だ」
 「そっ、存在しない? 対になってる世界なのにですか~? 」
 「私も初めて聴いた時は驚きましたからね。ソレイルさんの種族、“ソルガレオ”も“月の次元”には存在しない種族だそうだ」
 「ルーンは我が輩と同族の異性にあたるからな」
 性別で種族が変わる…? って事は、ライトさんのラティアスと似たような感じなのかな? 驚く僕達を余所に、ソレイルさんとコークさんは最重要とも言えそうな事を教えてくれる。まさかここにはいない種族がいるなんて想像も出来なかったけど、性別で種族が変わる種族は一応知っている。この時代の人にはまだ逢った事が無いけど、ライトさんのラティアスがそれにあたるはず…。“終焉の戦”の時にどうなったのかは分からないけど、ライトさんの時のままなら、ラティアスとラティオスは“非常席員”のはず…。…兎に角僕は、この話はソレイルさん達からしか聴けない事だから、慌てて首に提げているZギアの電源を入れ直す。メモ機能を起動させてから、ソレイルさん達が話してくれた事をそのまま打ち込んでいった。
 「サーナイトとエルレイドみたいに? 」
 「そうなりますね。…ソレイル氏、そろそろはじめましょうか」
 「そうだな。説明が長引き申し訳ないが、ウォルタ殿、キノト殿、準備はよろしいでしょうな? 」
 「うん! ぼくはいつでも行けるよ! 」
 「昨日のうちに済ませてきたから、僕も大丈夫ですよ~」
 “陽月の回廊”はダンジョンじゃないけど、何が起こるか分からないからね。キノトも何となく分かったのか、いつもより高めのテンションで問いかける。僕にとってはあまり馴染みが無いけど、普通のイワンコのキノトにとってはその方が分かりやすいんだと思う。世間一般ではそうだから、コークさんはキノトの問いにこくりと頷く。あともうと、ソレイルさんの方をチラッと見上げてから、頃合いを見てこう話題を出していた。
 何か事あるたびに謝ってる気がするけど、ソレイルさんは一言付け加えてから僕達に話しかける。“常席員”で威厳がある種族だけど、こういう低姿勢なところを見ると、やっぱりソレイルさんも普通の人なんだなー、って思えてくる。多分キノトは伝説の種族に対してキャラ崩壊が起きてると思うけど…。…まぁ僕も、初めて“虹”のアークさんに会った時は驚いたからね…。その時は僕達の伝承との関係は知らなかったけど。
 「…では、始めるとしようか。…“我、陽界を司る者なり。月界に至りし標を我らに示せ”…」
 「うわっ…! 」
 すっ、凄い…。ソレイルさんは一言だけ呟くと、目を閉じ、意識レベルを徐々に高めていく。僕が見た感じでは、“チカラ”を発動させる時みたいに精神も活性化させ、当事者としての技とは別のエネルギーに干渉させていると思う。ソレイルさんはその状態のまま、“チカラ”の発動のきっかけになるセリフを淡々と唱えあげる。すると辺りに膨大な量のエネルギーが解き放たれ、神殿を取り巻く空気を一気に震え上がらせた。
 「これが…? 」
 その衝撃に僕は耐えられたけど、この類の“チカラ”を始めて経験するキノトはそうじゃなかったらしい。咄嗟に僕の足にしがみついてたけど、そうじゃなかったら多分、海の方まで吹っ飛ばされていたと思う。
 エネルギーの放出が治まると、僕達の目の前にはさっきまでは無かったものが出現していた。上手く言葉に出来ないけど、空気中に浮く白い渦みたいな…、そんな感じ。渦といえば“星の停止事件”の時に見た“時空ホール”の事が浮かぶけど、あれは時代を超える“時現”の入り口。似たような感じだとは思うけど、性質そのものは違ってると思う。…そうなると、向こうの諸島で見た“時空の狭間”の方が近いかもしれない。…けど向こうのソレと違うのは、突入口の危険性…。こっちのは無害だと思うけど、向こうのは全てを失う事になる…。だけど異世界との関連性がある、っていう意味では同じなのかもしれない。
 「みたいだね~」
 「これが先程話した、“空現の穴”だ」
 「こっ、ここを通ったら…、違う世界に…」
 「うん。じゃあ、僕も…」
 突入口が開いたから、あとは僕が発動するだけだね。白い渦が出現のを見届けてから、僕も目を閉じて発動の準備に入る。未知の事に湧き立った心を鎮め、一時的に“無”の状態になる。その状態で精神統一し、伝説の当事者…、“真実の英雄”としての“チカラ”を活性化させていく。ある程度高まったところで、僕は付与する対象、自分と弟子のイワンコの事を強くイメージする。そのまま僕は、高まったエネルギーを解放しながら…。
 「“真実の導きに、光あれ”…! 」
 呪文めいた台詞を力強く、心の中でも言い聴かせながら唱えあげる。するとそれをきっかけに、発動の対象、僕とキノトは“真実”を象徴する白いベールに包まれる。僕達を包む白いオーラ、“真実の加護”は、僕の全守備力を捧げる事で、対象者をあらゆる状態異常と能力変化から護る事が出来る。前者は結構便利だけど、後者は強化する効果も受け付けなくなる。それまでにかかっている効果は打ち消せないけど、文字通り“真実”の護りに包まれる事になる。…まぁ発動者の僕は、一種の興奮状態になるんだけど…。
 「ふぅ。これで、突入するだけだね~」
 「すごい…。ししょーって、こんな事も出来たんですね! 」
 「今までは発動するタイミングが無かったからね。…じゃあ、そろそろいきます」
 これ以上時間をかける訳にはいかないからね。ゆっくりと目を開けた僕は、湧き立つキノトを軽く宥める。ただでさえ僕は興奮状態だから、無理やりにでも落ちつかせてないと自分を見失う事が稀にある。それに僕自身もあまり発動させた事が無いから、まだ完ぺきにコントロールする事が出来ない。だけど僕は、湧きあがる“チカラ”を何とか抑えながら、声のトーンを低くしてキノトに答える。それから僕は、発動するのを待っていたソレイルさんとコークさんに視線を移し、短くこう声をかけた。
 「ああ。ウォルタ殿、キノト殿、頼んだ」
 「はい」
 「うん! じゃあ、いってきます! 」
 準備ができたから、僕は翼を広げてその場から飛び立つ。ソレイルさんが僕達にこう言ってくれたから、僕は軽く頷いてそれに応える。キノトはキノトで、ソレイルさん達の方に振りかえり、元気よく返事する。そのまま僕は、“空現の穴”に高さを合わせ、大きな翼を思いっきり羽ばたかせる。一瞬のうち加速し、僕達は白い穴へと飛び込む。
 「…っ! 」
 「うわっ…! 」
 すると白い渦に触れた瞬間、僕は急に体の内側から引っ張られるような感覚に襲われる。サイコキネシスをかけられた時の似たような感じだけど、多分性質的には“時渡り”の方が近いと思う。僕は何回か体験した事があるけど、キノトは初めてだから、驚きで声を荒らげてしまっていた。




 続く

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想