Six-Seventh 紫離の戦い(龍)

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 “玖紫の海溝”を突破したウチらは、早々に目的地にたどり着く。
 やけど突破したのはウチらだけやなくて、他に四人が祭壇に到着していた。
 そのうちの一人は喧嘩したまま飛び出していったシルクで、ウチはかなり驚かされてしまう。
 明らかに拒絶してくる彼女とまた口論になってしまったけど、その途中でもう一組が数え切れない数の人達を出現させた。
 [Side Haku]




 「…海の藻屑にしてくれるぁっ! 」
 「えっ…? 」
 「……! 」
 「ちょっ、ちょっと待って! 一体どこからあんなに沢山出てきたの? 」
 うっ、嘘やろ? あんな数、どこに隠れとったん? ウチとシルクがもめとる間に、痺れを切らせたドククラゲが急に声を荒らげる。結果的にウチらの喧嘩に割って入られたんやけど、何本もある触手を目一杯に広げ、何かを作動させる。するとどこからか赤黒い鎖、それに繋がれた人達が突然姿を現す。声が響いて来なくなったで同じやと思うけど、あまりのことにウチら…、ハイドとシャトレアさんも言葉を失ってしまった。
 「わっ、分から…」
 「ゥガアァッ! 」
 「ガルルゥッ! 」
 「ソニックブーム! …ハクさん、何か変じゃないですか! 」
 「変って、どれが? アイアンテール! 」
 変と言えば変やけど、何の事言っとるん? 急に出現した軍団は、唸り声を上げながらウチらの方に向かってくる。それも水タイプだけに限らず、氷タイプとか鋼…、種族属性関係無しに…。やからどの技で迎え撃てばいいか一瞬迷ったけど、ウチは咄嗟に尻尾を硬質化させ、先陣を切ってきたスターミーを迎え撃つ。尻尾が一本しかないハイドも気塊の刃で援護してくれたで、スターミーともう一体を気絶させることは出来た。
 「この人達、野生みたいじゃないですか? 連続斬り! 」
 「あっ、それ私も思った! ワイルドボル…っ! 」
 鎖の効果なんやとは思うけど、ここまでそっくりやと気味が悪いなぁ…。シルク達が動き始めたのを横目に見ながら、ウチは立て続けに繋がれた軍団を相手していく。普通なら毒タイプの補正がかかるけど、アイアンテールは鋼タイプの技やからその影響は受けない。流石に水の抵抗だけは防げへんのやけど、属性エネルギーの減衰はほぼゼロ。やからウチは攻撃の手を緩めず、尻尾の先を楯にしながら毒水の中を泳ぎ始めた。
 このウチに続いて、二人も様子見から攻勢に移る。ハイドはバタ足でウチの横まで出てきて、無事な左の手刀でポポッコを切り裂く。かと思うとサクラビスの姿のシャトレアさんがウチらの真上を泳いで追い越し、電気を纏って敵の群れに突っ込んでいく。本来ならワイルドボルトは使えへんはずやから、もしかすると“志の賢者”としての“チカラ”を使っとるんやと思う。近くにおるでウチらも少し痺れるけど…。
 『野生…。その例えが正しいわ。この人達は元々“エアリシア”と“パラムタウン”の住民だったけど、見ての通り理性というものを完全に奪われてる。水と毒、それから一部の種族以外は放っておいてもそのうち窒息するけど、野生と思っておいて構わないわ』
 「――! 」
 「市民って…、シルク! それってどうい…」
 『ハクリューのあなたが知る必要はないわ』
 「フォス…」
 パラムと“エアリシア”の住民なんて…、そんな証拠がどこにあるん? 戦いながら聞いとったんかもしれへんけど、シルクは長い針状の何かを咥えた状態のまま、ウチに言葉を伝えてくる。シルクの言葉なんか信じる気なんて全然無いけど、その内容がとんでもないことやったから反射的に訊き返してしまう。やけどウチの喧嘩相手に対する言葉は、虚しく毒の海水の中に溶け込んでしまう…。シルクが掴まっとるランターンは何を言おうとしたんかは分からへんけど、かなり強い口調で言いくるめられてしまった。
 「窒息って…、だったらどうすればいいの? 秘密の力! 」
 「ガァッ? 」
 「分からないですけど…、この人達を何とかしないと、“ビースト”までたどり着けないような気がします。連続斬り! 」
 「そうやけど…、とにかく今は倒し続けるしか…」
 分かっとるけど、キリが無い…! 一体一体地道に倒してはいるけど、ウチら三人では追いつかない…。背中合わせになって対峙しているウチらは右、前、正面…、全方向を理性が無い軍団に囲まれてしまう。これだけ多いと十万ボルトで一気に倒したいところやけど、水中やと無条件で全体技になるし、何より背中を預けとるハイドとシャトレアさんにも致命的なダメージが入ってしまう…。やからウチは尻尾を硬質化させた状態のまま、一体ずつ倒していくことしか出来…。
 「おおっと、そうはさせねぇぜ? 」
 「はっ、ハクさん! 」
 「…え? 」
 …ん? いっ、いつの間に? 左からのラムパルドをたたき伏せたところで、久しぶりにウチら以外の声が響く。ウチは完全に背を向けとったで気づくのが遅れたけど、その声に対してハイドが焦った様子で声をあげる。一瞬ウチには何のことか分からへんかったけど、尻尾を左に振り抜いた状態のままハイドの方に振り向く。するとそこには、全身にオレンジと口元に青いオーラを纏わせたサメハダー…。
 「アクアジェット! 」
 「っ! 」
 六メートルぐらいの距離があったけど、その間に新鮮な水を纏ったハイドが割り込む。先制技としての勢いがついたハイドは、勢いそのままに左肩からウチにぶつかる。
 「ハイド…! 」
 思いがけず衝突したウチは左方向にはじき出され…。
 「死ねぃっ! 」
 代わりにハイドに凶牙が襲いかかる。
 大口を開けたサメハダーは狙いを定めた相手に向けて一気に迫り、ゼロ距離で…。
 「ハイドさん! ワイ…」
 「<big>っああぁぁっ! っぁがぁぁっ…! </big>」
 サメハダーは躊躇無く噛み砕く。結果的に彼に助けられることになったけど、出来ることならウチはすぐにでも迎撃したかった。…したかったけど、ハイドに勢いよくぶつかったって事もあって、流されて間に合わない。シャトレアさんも咄嗟に電気を纏っていたけど、それもあといっぽの所で発動が遅れてしまっていた。
 ウチを庇って攻撃されたハイドは、断末魔にも似た叫び声を上げてしまう。何の技をくらったんかは分からへんけど、身を翻しながら見た感じやと、早々深く噛まれたらしく赤…。
 「ちっ。腕一本で済まされたか…」
 「っくぁぁっ…」
 「嘘やろ…、ハイド! 」
 「だっ、大丈夫じゃ…ないよね! 」
 ウチがおる場所からは見えへんけど、左手で押さえとるで右腕をやられたんやと思う。それも周りの水も赤っぽくなっとるで、かなりの重傷…。この感じやとシャトレアさんには見えとるんやと思うけど、絶句しとるって事は…、どうなったんかはあまり考えん方がええんかもしれへん。
 「だがまぁいい。次は貴様…」
 「十万ボルト! 」
 「なっ…魔じゅぅっ…! 」
 とっ、とにかく今は…! この隙に好機を見たらしく、ハイドに重傷を与えたサメハダーは方向転換…。今度こそウチを狙って、一直線に泳いできた。ウチ自身は直接見た訳やないけど、気配で何となく分かったで技を発動させる。ハイドの方に泳ぎ始めとるこの体勢やと迎撃出来へんで、ウチは痺れるイメージと共に電気を纏う。いつもなら想像力を膨らませて電撃を放つところやけど、今は水中やから意図せんでも全体技になる。発動した場所から波紋状に広がり、広範囲無差別にダメージを与える。水タイプのハイドとシャトレアさんには申し訳ないけど、襲ってきとる以上は背に腹はかえれへん…。ウチの尻尾の先ぐらいの距離で達したらしく、背後のサメハダーは苦痛の声をあげていた。
 「…シャトレアさん! 」
 「なっ、なに? 」
 「今から二人を脱出させるで、ハイドのことは頼んだで! 」
 どのぐらいの怪我かは分からへんけど…、ここやとすぐにでも脱出させた方がええよな? 相手に背を向けて泳ぐウチは、あたふたしとるシャトレアさんに声をかける。電気を纏うのをやめたで無防備になっとるで、ウチは戸惑うサクラビスに構わず言葉を伝える。本当は対処法とか処置法とか…、色んな事伝えたいんやけど、戦闘中やし環境のこともあるで最低限のことだけ…。
 「頼んだって、な…」
 これだけ伝えてから、ウチは鞄に着けている探検隊バッジを尻尾の先で掴み、シャトレアさんとハイドの二人にかざす。同時に機能を作動させることで、ウチは二人を強制的に“紫離の海溝”の奥地から脱出させた。
 「くっ…、転送の魔術を使うか…」
 「魔術…? 何のことか知らへんけど、よくもハイドを…」
 「あぁん…? 片腕のアイツの…自業自得だろぅ? 死ななかっただけでも…、感謝す…」
 「十万ボルト」
 「っぐぁぁぁっ…っ! 」
 「…感謝することって言ったら、逃がして戦いやすなった、ってぐらいやな」
 こんだけ近くで発動させたで、流石にタダじゃ済まへんやろう…。後ろからサメハダーが突っ込んで来たで、ウチは少し深く潜ってやり過ごす。前転するような感じで方向転換し、猪突猛進の敵を視界に収める。さっきの電撃で大分減ってはいるけど、そんでもまだ二十体以上は残っとるで油断は出来へん。やからハイドのことで苛立っとるって事もあって、話の途中やけどウチはエネルギーレベルを高める。距離が十七メートルぐらいになったところでウチも泳ぎ、近くなっている距離を更に詰める。ウチの身体ぐらいの距離になったところで活性化させ、超至近距離で弱点の電撃を命中させた。
 「…くっ…。“太陽”如きに…俺がっ…! 」
 「ウチらにも都合、ってもんがあるんや…」
 “ルノウィリア”って名乗っとるみたいやけど、絶対にウチらの事見下しとるやんな…。ウチの電撃で痺れとるらしく、相手は顔を歪めながら話してくる…。耐えられたのは想定外やけど、この感じやと多分、あと一、二発当てれば倒れると思う。やからウチは痺れて動けへん隙に、尻尾を思いっきり振り上げる。何の技も発動させへんかったけど、相当ダメージが溜まってたらしく、サメハダーはこれだけで意識を手放していた。
 「十万ボルト。あとは…」
 どこにおるか分からへんけど、“ビースト”だけやな。理性があるサメハダーを倒したウチは、一息ついてから電気を纏う。ハイドとシャトレアさんは脱出させたで、これからは何も考えずに発動させれる。さっきよりは威力を抑えたけど、水タイプしか残ってへんってこともあって一掃することが出来た。そやからウチはキョロキョロと辺りを見渡し、薄暗い中で“ビースト”の姿を探す。
 「あそこやな」
 すると少し離れた場所に、ほんのりと黄色く灯る光が一つ…。シルクが掴まっとるランターンのやと思うけど、ある一点で不規則に漂っているように見える。その場所に“ビースト”がおる、そう思ったウチは尻尾と全身を素早く撓らせ、その方向へと突き進む…。
 「十万ボ…っ? 」
 えっ…、なっ、何があったん? 前に使っとった光の球の効果が切れたで、ウチは改めて使い直す。するとウチを中心に何メートルかの範囲が明るくなり、ある程度は視界が良くなった。…やけどよく見えるようになったで、ウチは目線の先に広がる光景に言葉を失ってしまう。何故なら…。
 「…っく! フォス…、貴様…! 」
 『言った筈よね? 私達の邪魔をするなら…容赦しない、って』
 満身創痍のドククラゲに、エーフィが口を動かさずに語りかけていたから…。それだけやと絶句することもないんやけど、ドククラゲの方がそうやない。この状況からしてシルクやと思うけど、何本もあるはずの触手が、たった二本しか無い…。周りには斬り落とされた触手と思われるナニカが沢山漂っていて、周りの海水も真っ赤に染まっている。
 そのドククラゲの相手は何ともなさそうやけど、エーフィだけは顔色がかなり悪い。目の色が水色になっとるで“絆の加護”を発動させとるんやと思うけど、それでも最善の状態やない、って事は見ただけで分かる。…そもそもシルクの“絆の加護”は、自分の護りを犠牲にして味方を守る“チカラ”。強力な分代償も大きくて、シルクの場合守備力と状態耐性が一切なくなる。そやけど、やっぱり…。
 「…っ…! 」
 『…だけど私も…鬼じゃないわ。“服従の鎖”の使い方を私に教えて…今すぐそこの“空現の穴”から“月の次元”に返るか…、私達に捕まって事の全てを話す…。好きな方を選ばせてあげるわ』
 「だからってフォス…、ここまでしなくても…」
 サイコキネシスで操っとるのか、シルクは電気が纏わり付いた針をドククラゲの喉元にかざす。その針の周りには空気の層が出来ていて、電気が海水に放電されないようになっている。話を聞いた感じやと脅して交渉しとるんやと思うけど、シルクに限ってそんな事はしないはずやから、やっぱりウチは何も言えなくなってしまう。一瞬シルクやないエーフィかとも思ったけど、瞳が薄い水色になっとるでシルクしかありえへん…。下のランターンも、ウチと同じで言葉失っとるけど…。
 「…“月”が“太陽”に…屈しろと言…っ! 」
 『…残念ね』
 「――っ! 」
 「っ? 」
 無表情の脅迫に、ドククラゲは怯まずに言葉を返す。切れ切れで聞き取るのもやっとやけど、提案に応じない、そういう意味で言っとるのは分かった気がする。…やけどドククラゲが言い切るのを待たずに、シルクは操る電気の刃を真上に振り上げる。真っ二つに斬れる事は無かったけど、それ以前に弱点やから致命傷になる…。気絶したのを見届けてから、シルクはドククラゲ自身に技をかけ、遠くにある白い渦に向けて押しのける。
 「――、――…っ! 」
 「っ? 」
 白い渦に吸い込まれるのを確認すると、シルクはまた別の技を発動させる。同じタイミングで二つ発動させた彼女は、まだ倒せてないらしい“ビースト”にそれらの技を向ける。一つは“ビースト”がいる場所にエネルギーを送り込み、直接電撃で痺れさせる。そしてもう一つは、口元に水色のエネルギーを集め、それをブレスとして吹き出す。ブレスは十メートルぐらい進むと毒水を凍らせとったけど、サイコキネシスで操っとるんか、氷柱は真っ直ぐと“ビースト”へと突き進んでいく…。一片も余すこと無く“ビースト”に突き刺さり、それだけで気を失わせていた。




  つづく……

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