Five-Sixth 触ラヌ神ニ祟リ無シ(釈明)

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:15分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 チアゼナのテレポートで“パラムタウン”を脱出した自分達は、水の大陸の“実りの森”に降り立つ。
 ですがアーシアさんの事を考えるとのんびりも出来ないので、急いで“アクトアタウン”へと向かう。
 その途中気を失ったアーシアさんは、毒の作用なのかイーブイへと退化してしまう。
 街に着いた辺りで目を覚ましたのですが、彼女には殆ど自覚症状はないとの事でした。
 [Side Minaduki]




 おいおい…、嘘だろぅ? まさかとは思ったが、本当に攻め落とす事はないだろぅ! 折角“太陽の次元”は平和だったのに、これでは“月の次元”と変わらねぇーじゃねぇか!
 「…おいミナヅキ! 暇なら貴様も来い! 」
 「なっ、何で俺まで…」
 「つべこべ言うな! 」
 「だが俺は…、“太陽”を侵攻しに来たわけじゃあ…」
 「黙れ! これだから学者は…。いいから来い! 」
 「いや戦争になんか俺は行かねぇ! 行ってられ…」
 「ムナール様に使える情報を伝えて気に入られたぐらいで…、お前も偉くなったものだな。…これだから学者は嫌いなんだ」
 「何とでも言え! 俺は軍人じゃない、史学者だ! 何で一般人の俺が戦…」
 「煩い! 」
 「おい待てよ! くっ、首根っこを掴むな! …放せ! 」
 「いいから来るんだ! 」



――――



 [Side Silius]




 「…ですけど、毒を受けたのに…」
 「そうですよね。私もそんなはずはないと思うのですけど…」
 「ですよね」
 診てもらいはしましたけど、やっぱり変ですよね…。駆けこんだアクトアの総合病院でアーシアさんを診てもらったのですが、結果は自分、それからチアゼナと彼女も全く予想していないものでした。幸い空いていたのですぐ診てもらえたのですが、診断結果は至って正常…、その一言でした。毒を盛られたのなら何かしらの成分が身体に残る気がするのですが、簡単な血液検査をしてもそれが全く出ませんでした。担当の先生も首を傾げていたのですが、毒なんて最初から無かった、信じられないのですが、そう断言されていました。
 それから診察も終わったので、診察料を払ってロビーの近くまで出てきています。ですけど自分は、やっぱり診断結果に納得がいっていません。すぐにでも戻ってテトラさんの救出に向かいたいのですか、この事も頭から離れません。アーシアさんとチアゼナもその様子ですので、この事について歩きながら話しあっていました。
 「…シリウス、チアゼナも、どうしてここにいるのだ? 」
 「救助隊連盟の本部とギルドに行ってる、て聞いてるんだけれど…」
 「スパーダ…。よかった、あなたは無事だったのねー」
 あれは…、スパーダとキュリアさん? 通路からロビーに出たあたりで、自分達は反対側から誰かに呼び止められる。すぐにスパーダの声だと分かったのですが、自分は一緒にいる人の組み合わせが予想外過ぎてすぐには気付くことが出来ませんでした。何故ならスパーダと並んで歩いていたのは、今朝“陸白の山麓”から帰ってきてギルドにいるはずのキュリアさん…。お二人からすると何故自分達がアクトアにいるのか…、おそらくは訳が分からない状態になっている事でしょう。ですがそれは、きっとチアゼナにも同様の事が言える…。彼女はスパーダの姿を見るなり彼らの元へ駆けていったので、自分とアーシアさんもその彼女に続きました。
 「無事…? 無事って、どういう事なのだ? 」
 「ええと何から言ったらいいのか分からないのですけど…」
 「…チアゼナ」
 …アーシアさん、説明をお願いします。って事は…。当然事情を知らないスパーダは、ふと呟いたチアゼナの言葉に首を傾げる。彼はすぐに訊き返していたのですが、それにイーブイに退化してしまっているアーシアさんが応え始める。本来なら自分が話さないといけないのですが、もしかするとこの感じは、アーシアさんが全部を話してくれるつもりなのかもしれない。そういう事ならという事で、自分はふとある事を思いつく。この事をチアゼナに伝えるため、自分は彼女に小声で呼びかけました。
 「ん? 」
 「アーシアさんが話してくれている間に、行きましょう」
 「行くって…、どこにー? 」
 「“パラムタウン”に、です」
 「あっ…、シリウス! 」
 テトラさんを置いてきてしまってるので、一刻も早く戻って助けなければ…! 自分は小声で目的だけを伝え、三人の気が逸れている間に病院の出口へと歩き始める。元々はアーシアさんをギルドに残していくつもりでしたが、スパーダとキュリアさんなら、彼女の事を安心して任せられる。無言で立ち去るのは気が退けますが、今は事態が事態なのでやむを得ないでしょう…。自分の意図を察してなのかは分かりませんが、会話に置いてけぼりを食らっていたチアゼナは、若干慌てて自分の後を追いかけてきてくれました。
 「イーブイのあの子はどうするのよー」
 「スパーダ達に託します。ですから自分はギルドに戻ってから、パラムへもう一人の友人…、それとリオリナの助太刀に向かいます! 」
 ランベルさんが一緒にいなかったという事は、おそらくは調査報告をしに行っているのでしょう。今朝話しただけでうっかりしていましたが、流石に戻ってきているはずですし…。病院から気付かれずに抜け出せたので、自分は右前足を浮かせた状態で走り始める。チアゼナも後ろから慌てて追いかけてくれていますので、自分は彼女の問いかけに即答する。それから口調を速めて予定を話し、自分達のギルドへと急行する。
 「もっ、戻る? 町があんな状た…」
 「あんな状態だからです! …ランベルさん! 」
 予想通り、帰ってきていましたね。チアゼナの言いたい事も分かりますが、反論している時間も惜しいので一言で説き伏せる。出せる限りの全力で走ってきたので息が切れてきましたが、自分は構わずにギルドの入り口をくぐる。するとそこには自分の予想通り、マスターランクのデンリュウ…。ランベルさんと、偶々居合わせたらしいベリーがロビー真ん中の水路の傍で話し込んでいました。ですので自分は、少し強めの口調になりましたが、ランベルさんの名前を大声で叫んだ。
 「ぅんっ? しっ、シリウスさん? ”パラムタ…”…」
 「事情は後で話します。ですので“覚醒の原石”をお願いします! 」
 「ええっ…、あぁ、はい。朝返しそびれ…」
 「ありがとうございます! …チアゼナ! 」
 ランベルさん、言葉足らずですみません! ですが今は、人命がかかっているので、許してください! 急に大声で呼びかけたので、当然ランベルさんは物凄く驚いてしまう。彼からすると自分は今頃パラムにいる筈ですので、キュリアさん同様無理のない話ですが…。ですが自分には一刻の猶予も許されていないので、急ブレーキをかけて止まりながら、目的の装備品の名前を言い放つ。すると彼は自分を見、その物の名前を聞いて思い出したのか、戸惑いながらもバッグから七色の球体を取り出してくれる。一昨日彼に貸した物ですので、自分は出してくれたそれを折れてない左前足でひっ掴む。何かを言おうとしていた彼の言葉を遮り、自分はぺこりと頭を下げてから回れ右…。前足で持つ装備品の紐に頭を通しながら、自分は再び彼女の元へと駆けだした。
 「ランベル…、まさか本気で…」
 「チアゼナは自分の命を賭してでも守り抜きます! ですので…! 」
 「…分かったわー。そこまで言うなら…、テレポート!」
 無理を言って連れていくんですから、それぐらい当然でしょう! 相変わらずチアゼナは納得していないようですが、自分はトドメの一言をはき捨てる。一般人を戦地に連れていくからには当然の義務だと思っているので、チアゼナなら分かってくれるはず…。…一応彼女は頷いてくれましたが、その表情はどこか曇っている…。ですが彼女は右手で自分の首筋に触れ、技を発動してくれる。すると自分をチアゼナは光に包まれ、すぐに雲散…。アクトアから姿を消し、戦場となっている“パラムタウン”へとワープした。



――――



 [Side Silius]




 「チアゼナ、無理を言…、なっ…! 」
 「うっ、嘘…」
 こっ、この短時間で…。チアゼナのテレポートで、自分達は“パラムタウン”へと戻る事が出来た。…できたはずですが、自分は一時間ほど前とはかけ離れている光景に、言葉を失ってしまう…。発動者のチアゼナにとっては一番馴染みのある町なので、降り立ったこの場所が“パラムタウン”であることに間違いないはず…。そのはずなのですが、自分達が降り立ったその場所には、見渡す限りの瓦礫の山…。ありとあらゆる建物が破壊し尽されていて、原形をとどめているものが一つもない…。二時間ほど前までは賑やかだった町も、忘れ去られた遺跡の様に静まり返っている。おまけに自分達がいるこの場所から見ただけでも、各所に赤い痕がくっきりと残されている…。その発生元と思われる塊も随所に散在し、ここで何があったのかをうんざりするほどに視覚に語りかけてくる。幸いまだ新しいので腐敗臭は無いのですが、去る時以上の凄惨な光景に吐き気がこみ上げてくる…。ですが自分は…。
 「…チアゼナ、辛いですが、自分の事を強く意識してください」
 「意識…、って…」
 「いいから、早く! 」
 まだ残党がいる可能性が高いので、感情を押し殺して彼女を説き伏せる。彼女の反応を待つことなく、自分は意識レベルを極限まで高めていく。その状態で“覚醒の原石”に強く意識を向け…。
 「何をするつもりなのか…、知らないけど…」
 潜在的な力を一気に解放する。
 「…? …! シリウスっ? 」
 「…影分身」
 半信半疑ながらも言う通りにしてくれたらしく、自分は姿を変え、翼を纏う。感覚が変わった事を白い毛並みで感じながら、目を開ける事無く五体の分身を作りだす。それらのうち四体を四方に向かわせ、分身達に無言で捜索を開始させた。
 「シリウス…、一体…」
 「メガ進化という、一時的な進化の様なものです。こうすれば自分の影分身の精度も上がるので、高い難度のダンジョンではこうしています。ですので…」
 「見かけない種族…。という事はあんたが“月の次元”からの侵入者…、そうよね? 絶対にそうよね! 」
 「侵に…っ? 何の事かは分かりませんが、自分は違います! 」
 見かけない…、見ようによっては今の自分はそうですが…。協力してくれたチアゼナにメガ進化の事を説明しようとしたのですが、自分の響く声は第三者によって遮られてしまう。明らかに自分に敵意がある声は自分に向けてこう言い放ち、何のことかは分かりませんが問いただしてくる。このタイミングで自分は声がした方向、真後ろに振りかえったのですが、自分は以前見かけた事の…、いえ、友人から聞いている方だったので、一瞬言葉が詰まってしまう。ですが自分には身に覚えのない事なので、誤解と分かってもらうためにも…。
 「違う? あんたのどこが違うって言うのよ! この状…」
 「エムリットのアルタイルさん、自分はチーム明星、アブソルのシリウスです! 」
 「なっ…、何でアタシの事知ってるのよ! 」
 「自分の友人に色違いのセレビィがいます。セレビィの彼女、チェリーの事はよく知っています! ですのであなたの事は、彼女からよく聞いています。“星の停止事件”の事も、ルデラでの事件の事も…! 」
 一応“星の停止事件”の時に顔を合わせている筈ですが、あの時の一回以来会っていないですからね…。覚えている方が難しいでしょうね…。自分は彼女に身の潔白を証明するために、彼女と一部の人しか知り得ない事を口にする。エムリットの彼女と会うのはこれで二度目ですが、共通の友人のはずのチェリーの事は自分もよく知っている。この事なら十分に証拠になり得るはずなので、疑いの目を向けてくる彼女にこう訴えかけました。
 「るっ、ルデラの事まで…」
 「はい。ですので、ゴチルゼルの彼女も含め、自分達はあなたが捜す人ではないはずです! 」
 「アタシには何の事かさっぱり分からないけどー…」
 「…だっ、だけど、“月の次元”からの侵入者には“太陽の次元”にはいない種ぞ…」
 「“月の次元”…、そりゃあ俺様達の事じゃねぇーのか? “太陽”の原住民共がよぉ」
 「…っ? 」
 こっ、今度は何ですか? 語尾を強めて誤解を解こうとしていたのですが、エムリットの彼女は頑なにそんな筈は無い、と一向に理解してくれそうにない。ですので引き続き説得しようとしたのですが、またしても第三者が自分達の議論を妨げる。今度は男の人のようですが、振り返るとそこには、種族がバラバラの三人。
 「ふっ、ここの奴等は捕え殺し尽くしたもんだと思っていたが、まさかまだ残っていたとはなぁ! 」
 一人は、生傷が目立つバンギラス。
 「こっ…。…という事はあんた達三人が…! 」
 「ご名答」
 二人目は、その傍で腕を組むツンベアー。
 「おいおい…。まさか俺まで…」
 そして三人目は、バンギラスに首元を掴まれ、無気力に脱力している…、種族不明の青年。
 「学者は黙ってろ! 」
 二人目が三人目に吐き捨て…。
 「俺達は丁度暇を持て余していたところなんだ。平和ボケした“太陽”じゃ物足りねぇーが、わざわざ来てやった俺達につき合ってもらおうじゃねぇーか」
 一人目が自分達を見下すように言い放つ。
 「…これで合点がいきました。パラムの町を襲ったのは二組…。何のつもりかは分かりませんが…」
 「ええ、アタシも納得できたわ。…確かシリウスとか言ったわね。…疑って悪かったわね」
 「…済んだことです」
 ですが彼らが言った事で、自分は何者がこの町を破壊し、住民達を無残に殺したのか知る事が出来ました。この様子だとおそらく、エムリットの彼女も理解したのでしょう。同時に自分への追及が間違いだと気付いてくれたらしく、フワフワと浮いたままぺこりと頭を下げていた。ですので自分は、誤解が解けたことにホッとしながら、一言呟く。それからすぐに、主犯と思われる三人組へと視線を戻しました。
 「なっ…、嘘だろ? 」
 「エムリットさん、ここは共闘といきましょうか」
 「ええ。アタシも同じ事考えてたわ」
 「ほぅ、“太陽”のクセに、物分かりが良い奴だな。いいだろう。貴様等三人諸共、望み通り肉塊にし…」
 「待て! 相手の一人は“神”だ! “太陽の次元”では分からねぇ―が、エムリットは“感情の神”と言われている種族だ! 神を相手にするなんて罰当…」
 「ミナヅキは黙ってろ! …フッ、この小っこい小娘のどこが神だ? 神だろうと悪魔だろうと、俺ら軍人に恐れるモノなど無い! 」
 「誰が小さいですって? まさかあんた、見た目でモノを言ってるんじゃないでしょうね? 」
 「あぁそうだ。見た目で判断して何が悪い? 小さいクセに神ぃ? …フッ、笑わせてくれる。バンギラスの俺様に勝とうなど、八十年早い! その小っこい顔を洗って出直してくる事だな! 」
 「黙ってるからっていい気になって…、流石にアタシも怒ったわ! …いいわ、そこまで言うなら…、やってやろうじゃない! アタシからしても侵入者を捕まえられるまたと無いチャンス…。どこからでもかかってきなさい! 」
 「あぁいいだろう。その辺のゴミ屑同様、その毛を真っ赤に染め尽くし、斬り刻んでやる! 」
 「そうはさせませんよ。自分も一ギルドマスターとして、見過ごす訳にはいきません! あなた達を拘束し、過ちを悔い改めてもらいます! 」
 ですので…、あなた達にはここで倒れてもらいますよ!




  つづく……

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想