One-First 朝の会議

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 Zero-Nine
 一、二、三…。うん、全員揃っとるね!じゃあウチらも、ツアーを開始するね。
 多分細かい注意点とかは、案内人から聴いとると思うで割愛するよ。ウチらのコースは、探検隊明星と、ギルド運営を中心としとるで。もしかすると、将来ギルドを開きたいから、その研修目的で参加してる人もいるんじゃないかな?…やっぱり、そうやんね!
 一応ウチらのコースは、前に話した通り水の大陸をメインで案内するよ。もしかすると他のコースと出くわす事もあるかもしれへんけど、その時はその時やな!そんじゃあ、そろそろいくで! まずはウチらの拠点、水の大陸、アクトアタウンから案内するね!
One 朝の日課


 [Side Haku]



 「…そんじゃあ今日も一日、頼んだで! 」
 「はい! 」
 「よっしゃぁッ、いくぜ! 」
 みんな、まかせたよ!
 この場所は水の大陸、ワイワイタウンの北に位置する交易都市、アクトアタウン。町中に水路が張り巡らされていることから、この大陸では水の都という別名で知られている。霧の大陸ほどやないけど冷涼な気候で、人の行き交いもかなり多い。商品の玄関口っていう事もあって、商売が盛んにおこなわれている。水中に住む種族、山岳地帯を好む種族、問わず頻繁に来とるから、水の大陸第二の都市って言っても過言じゃないかもしれない。
 そんな活気にあふれる街で、主要機関のうちの一つに数えられつつあるのが、今ウチらがおるこの施設。設立から今年で二年目に入る、探検隊ギルド。草の大陸のプクリンのギルドに比べるとまだまだ知名度は低いけど、この大陸でなら知られとる、ってウチは思っとるつもり。助っ人も含めて、団員は9人しかおらんけど…。
 そんな中声をあげたのは、ギルドの親方をやっとるウチ、ハクリューのハク。今は一人欠けとるけど、組員全員を見渡したウチは、いつものセリフを言い切る。すると弟子たちは気合を入れて応じてくれ、そのうちの四人は散り散りになる。思い思いに言葉を交わし合いながら、それぞれの一日をはじめようとしていた。
 「ハク師匠、今日もシリウス師匠は外出中っすよね? 」
 「そうやで。予定やと今日中には帰ってくると思うけど、流石に何時になるかはウチにも分からんかな…」
 その予定やけど、天候次第ではズレる事もあるでなぁ…。一通り組員たちが散った後、この場に残っている彼、ヒノヤコマのフレイは、首を傾げながらウチに訊ねてくる。彼ともう一人、リオルのリルは、厳密に言うとここのギルドの組員じゃない。彼らのチーム、焔拳はプクリンのギルドの所属であって、ギルド設立以前からのウチら明星直属の弟子でもある。ゴールドランクで一人前のチームやけど、今でも二人ともウチらの事を慕ってくれとる。…そう言う関係で、設立当初から助っ人としてウチらのギルドの手伝いをしてもらっとる、って感じやな。
 ちなみに今は留守しておらんのやけど、ここの副親方は、ウチのパートナーでアブソルのシリウス。彼はこの時代、七千年代じゃなくて、三千百年代の出身。俗に言う過去の世界の出身やけど、もうその時代に帰るつもりは無いって言っている。…やから、この時代の住民って言っても問題ない。そもそも、もしシリウスがそう言っても、ウチが止めるし…。
 「…んだけどアイツの事だ、草の大陸のギルドで話してから帰ってくるとアタイは思うね」
 「僕でも、そうしてると思いますから」
 そやな。挨拶回りのついでに、シリウスならフラットさんに話を聞きに行ってるかもしれへんね。ウチに続いて話し始めたのは、このギルドでは会計士をしてくれとる、アマージョのフロリア。彼女もウチらとは、設立以前からのつき合い。彼女もシリウスと同じ、三千百年代の出身。シリウスとは導かれた方法は違うと思うけど、二人ともこの時代に来る前からの知り合いだったらしい。そのお陰でシリウスの過去を知れたんやけど、導かれる前に盗賊に襲われた事があるんだとか…。…話が逸れそうになったで元に戻すと、フロリアは一部…、この時代に導かれる直前と直後の記憶が抜けているらしい。ウチの知りあいのセレビィ、シードさんに彼女の事を聴いた事があるけど、シードさんは、“時渡り”で導かれたアマージョはいないはず、って言っとった。シリウスをとその事について調べようと思って、ウォルタ君に相談しようとした。けど、フロリアはしなくていい、って言っとった。曰く、生き別れたシリウスと再会できただけで十分、だとか。…一時、フロリアとウチは仲違いしとった事があるけど…。…でも今は、いい友達やな!
 「やっぱリルもだよな! 」
 「だね。…そういえばハク」
 「ん? フロリア、どうしたん? 」
 「例の件、どうするんだい? 」
 「確か、参碧の氷原の事っすよね? 」
 あぁ、あの事やな? この数年でオドオドしなくなったリルに、相棒のフレイは大きく頷く。バシバシと彼の背中を翼で軽く叩きながら、声をあげる。そのタイミングで何かを思い出したらしく、フロリアはあっ、と短く呟く。彼女は親友であり親方でもあるウチに、気軽にこう訊ねてきた。
 ちなみに参碧の氷原とは、アクトアタウンの北に位置する沼地。深部との二層構造になっているダンジョンで、浅部は雪が降っとるけどブロンズレベル。比較的簡単なダンジョンやから、うちのギルドでは近いって事もあって、最初に解禁する事にしとる。…やけど深部は、いわゆる未開の地。ウチとシリウスで調査した事があるんやけど、名前の通り、寒さの影響で沼の水分が凍りついとった。天気も猛吹雪で、ドラゴンタイプのウチじゃなくてもかなり過酷な環境やった…。ダンジョン内の敵も、高難易度って言われとる肆緑の海域…、いや、その先にあるゼロの島。ウチらが突破した東部と同等の難易度かもしれない。…結局ウチが力尽きて失敗したんやけど…。ついでに言うと、フロリアと出逢…、いや、倒れとったのが、ゼロの島の突入拠点になっとる緑巽りょくそんの祭壇、っていう史跡。ここから、ゼロの島に向かうのが最短、って感じやな。
 「そうやで。ギルドの最寄りなのに未開ってのはアレやから、近いうちに再調査するつもり。…やけどウチらでも突破は厳しいで、霧の大陸の火花、っていうチームにも協力を要請しとるとこやな」
 「ひっ、火花っすか? 火花って確か、霧の大陸ナンバーワンで、師匠達と同じマスターランクのチームっすよね? 」
 「師匠って、そんな伝説級のチームと知りあいだったんですか? 」
 「そういえばそんな事、言ってたね。アタイは行くのはゴメンだけど」
 フレイに訊かれたから、ウチはさらっとこう答える。まだ依頼書をジョンノエタウンの依頼所宛てに送ったばかりやけど、その件について要点だけ伝える。ウチらにとっても憧れのチーム、って事に変わりないけど…。…で、ウチが超有名なチームの名前を口にしたから、当然弟子の二人は驚きでとびあがってしまっていた。
 「…だけどアタイの記憶が正しければ、確か二人のうち片方が、日照りの特性だったはず…」
 「ウチもうろ覚えやけど、日照りで探検隊やっとる人がおるチームは、そこしか知らんかったからやな。…最近婚約した、って巷で有名らしいけど」
 そもそも日照りって特性、少数派やない限りで会えんくらい珍しい特性やしな。同じ特性なのが、グラードンっていう伝説の種族だ、ってシルクとウォルタ君が言っとったけど。ボソッと呟いたかと思うと、フロリアは腕を組み、軽く上を見上げる。ギルドの事務仕事もしてくれとる、って事あって時事ネタには詳しいから、多分その事について考えとるんやともう。そうかと思うとすぐにに視線をウチらに戻し、思い出したらしい事を語ってくれた。ウチも尻尾をあごの所に添えながら、彼女の言葉に耳を傾けた。
 「…だけど師匠達とあの火花が組めば、突破できないダンジョンは無いんじゃないっすか? 環境次第では、親方様達とも行けなくはないと思うっすけど…」
 「そやな。最初はラックさんとフラットさんに依頼しようかとも考えたんやけど、フラットさんやと相性的に不利やから…」
 「だね。そもそもハク、それからアタイもそうだけど、あの人は飛行タイプだからね」
 本音言うと、ウチもあまり気が進まないけど、立場上そうも言ってられへんからなぁ…。フレイはウチの事を見るなり、元気よく声を荒らげる。ウチ自身もそんな気がするけど、親方っていう立場上、あまりそう言わない方がいいとウチは思う。ただでさえ親方二年目の見習いみたいなものやから、ギルドのためにも言い出したい気持ちを無理やり抑える。この気を紛らわすために、ウチは弟子達にとっての親方の事を話題に出した。…ラックさん達に依頼しようとしたのは、事実やけど…。
 「参碧の氷原は、氷とか水、地面タイプが多いですからね」
 「だな。…俺達も、師匠達に頼られるように頑張らないと…! 」
 フレイ、リル、そのいきいやで! 焔拳の二人に、ウチは密かに期待の眼差しを向ける。彼らと出逢った当初はブロンズやったから、彼らの成長はずっと見てきたつもり。そやから尚更、彼らには頑張ってほしい、ウチは強くこう思っている。当然四人の組員達にもそう思っとるけど。
 「うん。折角指導するように頼まれてるんだから、その期待にも応えないといけないしね」
 リルも多分…、いや絶対に、フレイと同じ気持ちやと思う。三年前の彼からは考えられられないほど自信満々に、こう言い放つ。そんな彼らを、ウチは暖かく見守っとったのは、ここだけの話やけど…。



  つづく……

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