Four-Second 水中のダンジョン

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 いつもの朝礼を終えたウチらは、それぞれの予定を確認してから行動を開始する。
 ウチは弟のリクを連れて、二人で街の水中区画へと足を踏み入れる。
 家出して以来十年ぶりに二人きりになったウチは、リクに訊かれたって事もあって誰にも話した事が無い喋り方について語る。
 話しながらウチは、以前お世話になった、亡くなった大家のおばあちゃんに思いを馳せていた。
 [Side Haku]



 「…だけど姉さん、何で飛ばずに泳いで…」
 「その方が早く着くし、楽なんよ」
 他の種族やとそうはいかへんけど、使えるもんは使わんとね! 水中区画を進んどったウチらは、十数分かけてこの街を通り抜ける。アクトアタウンは水中にも出口があるけど、その中でもウチらは海側から出る事にした。真水から海水に変わって水の感覚が変わるけど、ウチは慣れとるで問題ない。…やけどリクはそんなに泳いでないはずやから、街の中よりは泳ぐスピードは遅なっていた。
 そんな中リクは、多分街に潜ってから思っとった事をウチに訊いてくる。やからウチは、もうすぐ環境が変わるって事もあって手短に説明する事にした。
 「それに空飛んどる時に、あの暴君の追っ手と鉢合わせする事もあり得るやろ? 」
 「そう、だけど…。それなら船使えばいいと思うんだけ…」
 「リクも相変わらず考えが甘いな。…まぁ航路使えば乗っとらん限り見つかる事もないんやけど、そうなったら一般の人も巻き込む事になるやろ? ウチも気ぃ使って思うように応戦できへんし、何より巻き込まれる運送会社に迷惑をかけてしまう…。…やから、水中進む方が楽や、って思ったんよ」
 「…姉さんもちゃんと考えてたんだね」
 ウチの好みってのもあるけど、直接関係あるんはこんなもんやな。一番の理由を最初に話したけど、リクはいまいちピンときてなかったらしい。やからウチは、その補足みたいな感じで話し続ける。…ギルドを運営するようになって初めて気づいた事やけど、一度損害が出ると取り戻すのが凄く大変。そやから一団体の代表としても、人様に迷惑をかけるのだけは絶対に避けたい…、避けんとあかへん。
 「あの暴君と金も猛者やないんやし、当然やろ? …あっ、そうや。リク、話変わるんやけど、リクって竜の舞以外にどんな技使えるん? 」
 「技って…、何で技なんかを…」
 「今から“蓮華の海流”って所通るんやけど、守る側として最低限知っときたいでやな」
 言うほどレベルは高ないけど、万が一って事もあるでな。周りの水が冷たくなりはじめたあたりで、ウチは思う事があって話題を変える。急に変えたでリクには不思議がられたけど、構わずウチは訊き続ける。リクは泳ぐのに慣れてへんでウチよりも少し遅れとるけど、竜の舞を使えるで何とかなると思う。…やけどウチはこの技以外知らへんで、リクの実力を測る意味も込めて問いかけた。
 「守る? それじゃあ襲われる事が前提みたいなんだけど…」
 「そうやで。“蓮華の海流”はゴールドレベルのダンジョン。野生の強さはブロンズレベルなんやけど、水中なのと流れが強いって理由でレベルが跳ね上がっとるでな」
 「だっ、ダンジョン? そっ、そんな危ない所に入って、大丈夫なの? 」
 「そんな心配する事やないで! リクにはあんま実感ないかもしれへんけど、ウチはマスターランクの探検隊員や。依頼で一般の人連れて潜入するんもそうやけど、ウチらは色んな修羅場をくぐり抜けて来とる。…やからリク、リクには尻尾一本触れさせへんで、大船に乗ったつもりでおってな! 」
 「はっ、はぁ…」
 自分で言うのもアレやけど、その手に関しちゃあプロやでな! ダンジョンって言葉を言ったで驚かれたけど、それでもウチは弟を守り抜く自信がある。やから不安そうに驚くハクリューに対し、胸を張って堂々と言い切る。自意識過剰になっとるつもりは無いけど、マスターランクのチームとしての自信と誇りは持っとるつもるではおる。
 「…まぁ突入してから言う話しやないんやけどな」
 「ええっ? ねっ、姉さん! まだ心の準備が出来てないんだけど」
 流れ強なってきたで、間違いないな! そうこうしとる間に、ウチらを取り巻く海水に流れが生まれ始める。それと同時にダンジョン特有の張りつめた雰囲気も出始めてきたで、リクに気持ちを切り替えてもらうためにも一言付け加える。…やけど市会議員の彼にとってはただ事やないと思うで、案の定声を荒らげて取り乱してしまっていた。
 「リクでも倒せるぐらいやけど、見とるだけで充分やから! リクはさっき渡した呼吸器で息継ぎする事だけ考えてくれとればええで」
 いくら水中でも活動できる種族って言っても、水タイプやないでな…。ウチは周りへの警戒レベルを少し高めながら、一応リクにこう伝えておく。海流に乗れたで泳ぐスピードは緩めたで、その分体力の消耗も抑える事が出来る。…まだリルとフレイしか潜入できへんけど、ウチらのギルドではゴールドランクへの昇格試験の場として採用するつもりでおる。
 …ちなみにウチらの種族は、純粋なドラゴンタイプやけど水中でも割と動ける。やけど水タイプやないで、その時の体調にもよるけど三十分ぐらいしか息がもたへん。街の中におる分には問題ないんやけど、ダンジョンの中となると話は別。海面とかそういう概念が無くなるで、下手すると窒息死する事だって考えられる。…まぁウチらのチームぐらいしか、好んで水中のダンジョンに潜入する事はないんやけど…。
 「うっ、うん…。…一応僕は竜ま…」
 「グルルル…」
 「っと、早速おでましやな」
 まぁ簡単やって言っても、一般のチームからすると気ぃ抜けへんレベルやでな。リクはまだ納得できてへん様な感じやったけど、とりあえずって感じで使える技を伝えようとしてくれる。やけど喋りはじめてほんの一言も経たへんうちに、流れに乗る前方から唸り声が聞こえてくる。そんな暗いダンジョンやないでハッキリ見えるけど、一匹のメノクラゲが流れに逆らって泳いできた。
 「あっ、あの人、何か変…」
 「ダンジョンで生息しとる野生は、理性なんて微塵もないでな。…さぁリク、水中での戦い方、それとハクリューの戦い方も見せたるで、よう見ときや! 」
 陸と空で戦うのとは勝手が違うでな!
 「カァッ! 」
 「ねっ、姉さん! 」
 早速仕掛けてきたな! 相手のメノクラゲはウチらに気付くと、即行で技を発動させる。まだ十メートル以上ある上に下流で発動させたとなると、やっぱブロンズレベルの強さなんやとつい実感してしまう。…やけど戦闘に関しちゃあ素人のリクにとっては、多分自分の命に関わるぐらい重大な事やと思う。失速し始めとる毒針を見るなり、尋常じゃないぐらい慌てた様子で声をあげてしまっていた。
 やからウチは、そんなリクの前に泳ぎ出て針との間合いを測る。流れに乗っとる分前に泳ぐ必要は無いで、ウチは完全に脱力した状態でエネルギーを蓄える。尻尾を先行させるような感じで体勢を維持し、その状態で尻尾の先にエネルギーを集中させる。
 「…アイアンテール! 」
 それを鋼の属性に変換しながら纏わせ、硬質化させた尻尾を軽く振り上げた。
 「ッ? 」
 するとタイミングを合わせたって事もあって尻尾に辺り、やけどウチの方が勝って完全に弾き返す。逆流しとったって事もあって完全に威力を失い、紫色の棘は完全に消滅する。…それだけやなくて、ウチが振り上げた尻尾の勢いで、その前方に向けて海水がほんの少し、一瞬早く流れる。その間に距離を詰めていたメノクラゲは、その流れに捕まって若干押し流されていた。
 「ッアァッ! 」
 「何度仕掛けてきたって無駄やで! 」
 やっぱ攻撃も単調やな。ウチに攻撃を防がれても、メノクラゲはめげずに攻撃を仕掛けてくる。今度は七メートルぐらい離れた位置から棘を飛ばし、ウチを毒状態にしようと仕掛けてくる。…やけどそんな事だろうと思っとったで、ウチは冷静に対処する。アイアンテールはもう効果が切れとるけど、ウチは構わず尻尾を構える。今は先端が上を向いた状態やから、そこから斜め右下に向けて勢いよく振り下ろす。すると今度はその方向に向けて水流が発生し、飛んでくる毒針の軌道を変える。振り下ろした勢いで上方向に浮上する事で、完全に回避する事ができた。
 「ガァァァッ! 」
 「近づいたのが運の尽きやな? 十万ボルト! 」
 「ガァッ…? 」
 ことごとく攻撃が防がれて自棄になったのか、相手は形振り構わずウチに向かってくる。構え的には絡みつくか何かやと思うで、きっと向こうは身動きを執れなくするつもりなんやと思う。…やけど電気タイプの技を使えるウチにとっては、水中ではこれ以上のチャンスはない。やからほんの少しだけエネルギーを活性化させ、痺れるイメージをそこに乗せる。体中に纏わせるように解放すると、ウチから発せられた電気はあらゆる方向へと広がる。
 「…ァァ…」
 この電撃が決定打となり、相手のメノクラゲはこれ以上襲ってくる事は無かった。
 「…まぁこんな感じやな」
 「凄い…。あんなに攻撃されてたのに…」
 「ここまでやれとは言わへんけど、慣れとらんでも遠ざけるぐらいならリクでも出来るはずやで? 」
 「ぼっ、僕でも? 」
 「そうやで! 」
 「…でも姉さん、僕はアイアンテールみたいな技、出来ないんだけど…」
 「リク、肝心なんは技のレベルとちゃうで」
 「えっ、そうなの? 」
 「そうなんよ! 大切なんは水。陸とか空と違って、水中では良くも悪くも全部水が関わってくるんよ」
 「水が? 」
 「そう。例えばさっき言った、遠ざける方法。“蓮華の海流”やとあんま分からへんかもしれんけど、水中で動けば、それだけ周りの水が動く。勢いよく動けば、その分流れも強なる…。それを利用すれば、相手の攻撃を防いだりかわすことが出来るんよ」
 「…だから二回目の毒針は、急に進む方向が変わったんやね? 」
 「そういう事やよ。…他に注意せなあかんのは、技の属性と系統。当たり前の事かもしれへんけど、例えば水は炎に強いやろ? 水中やといつもその常識も考えて発動させなあかへん。意識せんでも周りに水がある訳やから、その分属性の影響もかなり受ける。属性によって良くも悪くもなるんやけど、炎タイプの技なら発動自体が出来へんし、電気タイプなら系統に関わらず全体攻撃になる…。他にも色々違う事あるんやけど、大まかにはこんな感じやな」
 多分水中のダンジョンにあんま潜入せぇへんのは、地上とちゃう事が多いでなんかもしれへんなぁ…。偶々新手が来んかったからやけど、職業病なんか、気付いたらウチはリクに講習をしとった。ギルドの弟子達にしとる事とほぼ変わらんけど、リクはいわゆる戦闘素人やから尚更言っといた方が為になると思う。…これ以降リクが水中で戦う事なんて無いかもしれへんけど…。




  つづく……

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