Three-First 亀裂

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

[Side Riku]


 「…兄上、おかえりなさい! 」
 「うん、ただいま。ソクも今学校から帰ったところだね? 」
 「そうだよ! …ねぇ兄上? 」
 「ん? 」
 「わたし達の姉上って、どんな人だったの? 」
 「あっ、そっか。姉上が家出した時、ソクはまだ三歳だったね。ええっと…」




――――


 [Side Silius]



 「…そうやなぁ」
 「ランベルさん、昨日行った喫茶店、覚えていますか? その近くにあります」
 ワイワイタウン程ではないけど、アクトアタウンもそこそこ大きいですからね。自分は気を失っていたので聴いた話ですけど、参碧の氷原の奥地の怪物はハクとシルクが倒してくれたらしい。彼女達を一緒の組みだったランベルさんは、自分、そしてキュリアさんの手当てに当たっていた。あれだけの威力の攻撃を食らってしまっていたので、まだ詳しくは分からないですが、自分は右の前足、キュリアさんは肋骨が何本か折れてしまっていると思う。自分達は物凄く苦戦したけど、ハク達はそうでもなかったらしい。ハク達が言うには、あの怪物は物理技にはもの凄く強く、逆に特殊技には弱かったのだとか。
 そして息が整ってから奥地の調査をして、自分達は探検隊バッジの帰還機能を使って氷原を後にする。参碧の氷原はアクトアタウンから殆ど離れていないので、自分達は脱出した地点から歩いて戻っていた。自分が右前足を浮かせた状態でしか歩けなかったので、四人にはこのペースに合わせてもらっていた。そういう事もあって、街に着く頃には空が朱く色づいていた。
 そんな中自分達は、ギルドの方へと足を進める。その途中でキュリアさんからある事を訊かれたので、まずはハクが目線を上に向けながら呟く。その間に自分が、その施設の事を最寄りの店を交えて教えてあげた。
 「それなら分かりそうだよ。…ですけどシリウスさん? シリウスはいいんですか? 」
 「大丈夫じゃないですけど、一応自分達は依頼者の立場ですからね」
 「そうやな。未開の地やったで、調査報告書も纏めなあかんでな」
 『そうね。…けど帰ってから簡単な痛み止めがあるから、それを使えば多少はマシになると思うわ』
 二組分の調査結果も纏めないといけないですからね。キュリアさんが自分達に訊いてきたのは、この街の病院の場所。ハク達は行ってないみたいだけど、その近くまでは自分はランベルさんを案内している。自分達のギルドもよくお世話になっているので、向こうもこちらの事情を知ってくれている。そういう訳で教えたけど、そういう自分も怪我人である事には変わりない。患部の右前足を固定してくれたランベルさんが、少し心配そうに訊ねてきた。本音を言うと自分も診てもらいたいところですけど、自分にはこの調査の事でする事が沢山ある。…そもそも請負人のキュリアさんにも怪我をさせてしまったので、そっちの方が優先。ハクは少し違う考えみたいだけど、シルクがこう言ってくれているので問題なさそう。
 「シルクさん、そういう薬も創れるのね? 」
 『気休め程度にしかできないけど、一応ね』
 「シルクの凄さ、今日で分かったやろ? 」
 「ですね。…それじゃあ、僕達は一旦行きますね」
 『ええ。私達も、先に戻ってるわね』
 あまり遅すぎると、病院でも閉まりますからね。シルクは気休めって言ってますけど、自分はそうじゃないと思う。今回の発熱剤はもちろん、シルクは空腹を抑えたり自然回復力を高める薬も作る事ができる。それ以外にも、シルクは状態異常とか属性耐性に関する道具を創るのが得意。中にはキュリアさんのリボンみたいな例外もありますけど…。
 話を元に戻すと、キュリアさんにこう言われたシルクは、気恥ずかしそうに右の前足を小さく左右にふる。謙遜しているつもりかもしれないけど、どこか照れているようにも見える気がする。ハクもシルクに続くと、ランベルさんが納得したように頷く。そのままランベルさんは、そろそろ…、っていう感じで話を切り上げ、深く長く呼吸しているキュリアさんを連れ、街の中央部の方へと進む方向を変えていった。
 「…まぁキュリアさんも普通に息できとるみたいやし、大したことないんとちゃうかな? 」
 「だといいですけどね。…フロリア、今戻…」
 見たところ大丈夫そうですけど、診てもらわないと分からないですからね。街の病院へと向かうランベルさん達の背中を見送ってから、自分達は拠点のギルドへと足を向ける。…といっても目と鼻の先にありますが、自分達は水車の横を通り抜けながら話始める。ハクはキュリアさんの様子から問題ない、そう思っているみたいですけど、良さそうに見えて体の内側が悪くなっている、っていう事もあり得る。ランベルさんが言うには殴られた時、吐血はしていなかったみたいだけど、診てもらわない事には分からない。ですから自分は、楽観的? なハクに対してこう答える。そうこうしている間に入り口まで来ていたので、自分はギルドの奥にむ…。
 「あらシリウス、ハクにシルクさんも、早かっ…」
 「ハク様! 本当にいらっしゃったんですね! 」
 「えっ、なっ、何でウチの事…。フローゼルって事は…、ハイド? はっ、ハイドが何でここにおるん? 」
 『ハク? もしかしてこの人、ハクの知り合いって事よね? 』
 フローゼル…? 自分達にフローゼルの知り合い、いましたっけ…? 自分達が人気ひとけの少なくなったロビーに入ると、いつものようにフロリアが出迎えてくれる。未開の地の調査だから日数がかかると思っていたらしく、意外そうに声をあげながら奥から出てきてくれる。地下の階段側から来たのが気になったけど、思う間もなく彼女の声は別の誰かに遮られてしまっていた。
 フロリアの声を遮ったのは、彼女に続いて上がってきた一人のフローゼル。水中演武場を利用しに来たフリーの人かな、そう思ったけど、ハクの反応を見た感じではそうではなさそう。この感じだとハクの知り合いらしく、あり得ない、っていう感じで声を荒らげていた。
 「でしたら自分も知っているはずですけど…、もしかしてハク? 自分と逢う前…」
 「話始めると長くなるんですけど、ある探け…」
 『ふっ、フローゼルさん? その腕…』
 「俺の右腕ですよね? 左側の尻尾もなんですけど、救助活動中に襲ってきた化け物に斬り落とされて…。…そんなとよりもハク様! 失踪してからの十年間、何してたんですか! 」
 その腕、絶対にただ事じゃないですよね? 自分の質問はその本人に遮られてしまいましたが、彼はここに来た経緯を話しはじめようとする。けどその前にシルクが何かに気付いたらしく、フローゼルさんのその部分に目を向けながら荒れた声を伝えてくる。自分もその時に初めて気づきましたけど、彼の右腕は、ちょうど肘から先が無い。包帯で巻かれていて見えないですけど、まだ新しいからそう時間は経っていないのだと思う。
 けどフローゼルさんにとっては、斬り落とされた右腕はどうでもいいらしい。鬼気迫る表情で、驚きで取り乱すハクを問いただす。十年前と言うと、丁度自分がこの時代に導かれ、ハクに助けられたぐらい…。
 『しっ、失踪? ハク! 失踪ってどういう事よ! 』
 「…シルク、聴いた通りやよ…」
 『聴いた通りって…、説明になってないわ! 』
 「えっ、エーフィさん? エアリシアの“リナリテア家”を知らないんですか? ハク様は…」
 「ハイド、ハク“様”はやめ…」
 「彼女は“リナリテア家”の家督…、市長となるはずだったお方なんですよ! それ以前に、エアリシアで“ハク=リナリテア”という名を知らない市民はいないで…」
 『しっ、市長に? ハク、何でそうならそ…』
 「言える訳ないやろ! シルクの事を考えると言い出せへんかったし、あんな親の事なんて、言いたくもない。…思い出したくもない…」
 『私がどう思うかなんて関係ないわ! そんな大事な事、私にだけは言ってほしかっ…』
 「それでもやよ! あんな親なんて、ウチの恥以外の何者でもあらへんよ! 」
 『両親が恥? ハク、あなた今何て言ったか分かってるの! 』
 「あんな親なんかに分かりたくもない! そんな風に思う価値なんて…」
 「ハク、あんた、少しは落ち着いて…」

 「部外者は黙ってて! これはウチとシルクの問題なんやから! 」

 『部外者? ハク! この中に部外者なんて誰ひとりいないわ! なのにどうしてそ…』

 「ウチの苦労も知らないで…、娘やなくて“後継者”としてしか見られない苦しさも知らないで、よくそんな事言えるよね! 」

 『だったら尚更よ! 話してさえくれれば、私達だって何か…』

 「親がいないシルクなんかにウチの気持ちなんて分かる訳ない
やろ! 」

 「―――! 」

 「…! シルク! ごっ、ごめん! そんなつも…」

 『そこまで言うなら勝手にして! こんな事言われるなら、ハクになんて逢わなければよかったわ! 』
 ハク! いくら何でもそれは言い過ぎですよ! 些細な事から、二人は声を荒らげて言い争ってしまう。自分は一度だけ聴いた事あるので知っていましたが、それ以外にフロリアしかこの事は知らない。…けどフローゼルさんも悪気はないとはいえ、ハクが一番訊かれたくない事を親友のシルクが尋ねる事になってしまった。いわゆるパンドラの箱を開ける事になってしまい、そのまま口論に…。途中からは感情が抑えきれなくなっているらしく、ハクは荒々しく声をあげ、シルクは声は出てないけど涙ながらに訴えかけていた。
 けどハクは高ぶる感情のせいで感情が爆発してしまったらしく、勢いのままに言ってはいけない事を言い放ってしまう。自分もまさかハクからこんなセリフが出るとは思わなっかったので、信じられない、あり得ない…、喧嘩を止められなかったなりに色んな想いに満たされてしまう…。シルクは相当ショックだったらしく、絶望したような表情で伝える言葉を失ってしまう。かと思うとそのままプイッと向きを変え、号泣しながらこう言葉を吐き捨…。
 「やからシ…、っくぁぁっ…! 」
 「ハク! シルク! 」
 シルクは泣きながらこの場から立ち去ろうとしてしまうけど、我に返ったハクが謝りながら止めようとする。けどシルクは無言で走りはじめ、同時に尻尾にエネルギーを蓄積させる。後ろに振りかえりもせず、色的に拒絶の感情を含んだ目覚めるパワーを撃ちだす。這って追おうとしていたハクの首元に、寸分違わず命中し…。
 「フロリア! ハクの事をお願いします! …っく! 」
 「えっ、ええ…」
 いっ、今は…! 自分は一瞬ハクの方に駆け寄ろうとしたけど、一度向けていた足を出入り口の方に戻す。パートナーとしてもすべき事はあるけど、多分今はそれよりも大切な事がある。そう思た自分は、珍しくあたふたしているフロリアに対して、短くこう声をあげる。目線でハクを指したから大丈夫だと思いますけど、確認せずに自分は、泣きながら飛び出していった親友、シルクの後を追いかけた。つい右足が折れている事を忘れて踏みこんだから、激痛が走ったけど…。



  つづく……

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