捌陸 逃げるように…

※作品によって表示に時間がかかります
読了時間目安:15分
 “緑巽の祭壇”に着いたぼく達四人は、そこで他の祭壇にもあった白い渦を発見する。
 “ビースト”もいたからぼくが戦陣を切る事になったけど、あまりの大きさに足がすくんでしまう
 何とか立ち直って、その後ぼくはフライさんと組んで戦い始める。
 だけどぼくは回避が間に合わず、たった一発で気を失ってしまった。

 [Side Hyulshira]




 「アイアンテール! 」
 「リーフブレード! …とりあこの辺の野生は片付いたわね」
 「そうみたいですね。…ヒュルシラさん、結構泳いできてますけど…」
 「そうだねー、距離的にもあと少しでダンジョンは抜けると思うよ」
 「本当に? ってことはあとちょっとで“緑巽の祭壇”なんだね? 」




――――




 [Side Kinot]




 「…ぅぅっ」
 「あ、キノト君、気がついたわね」
 ええっと、ぼくってどうなったんだっけ…? 確か“ビースト”の攻撃をかわせなくて…。ふと目を覚ましたぼくは、さっきまでの景色が違う事に少し戸惑ってしまう。ぼくが覚えてる限りでは、確か空中で戦っていたはず…。だけど目を覚ました今は、何故か若草色の草原に横たわってる状態…。それにピジョットの姿だったはずのミウさんも元に戻ってるから、益々訳が分からなくなってしまった。
 「…はい。ですけどミウさん、ぼ…」
 「“ビースト”がどうなったか、よね? 」
 「えっ、あっ、はい」
 まだ頭がぼーっとしてるけど、とりあえずぼくは体を起こしてみる。地上にいるって事はぼくはやられたんだと思うけど、いまいちピンとこないからミウさんに聞いてみる事にする。だけどぼくがそれを言い切る前に、ぼくの心を読んだのか、違う事を逆質問されてしまう。…確かにそれも訊きたかったけど、急だったからほぼ反射的に頷いてしまう。これがそうだよ、って意味だって思ったらしく、ミウさんはぼくが気を失ってる間にあった事を順番に話し始めてくれた。
 「“ビースト”なら、今もフィ…、シルクちゃんとフライさんが戦ってくれてるわ」
 「フライさん達が、ですか? 」
 「そうよ」
 って事はまだ倒せて…、本当だ。話してくれているミウさんは、一度目線をぼくから真上にあげる。ぼくも彼女に示されるまま見てみると、結構な高さで今も戦闘が行われてるのが見えた。ここから見た感じだと、まっすぐ突っ込んできている“ビースト”に、フライさんとシルクさんが迎え撃ってるような…、そんな感じ。
 「…だけど私だけは一度離脱した、て感じね。キノト君の手当てもそうだけれど、思うと<u>時空間の矛盾</u>が発生しないようにするための保険、かもしれないわね」
 「じくうかん、の…」
 よく分からないけど、何か都合が悪い事があるのかもしれないね。視線を元に戻してから、ミウさんは説明を再開してくれる。ミウさんはミュウだから戦い続けても良かった気がするけど、それだといけない理由があるのかもしれない。それが時空の…何とかだと思うけど、いまいちピンとこないから思わず首をかしげてしまった。
 「そうよ。タイムパラドックス、て言えば分か…」
 「なっ何っ? 」
 じっ、地震? それもすごく大きい…! タイムパラドックス、これだけで大体は理解できたけど、ぼくは今起きた事でそれどころじゃ無くなってしまう。ミウさんは浮いてるからあまり実感無いかもしれないけど、立っていられないぐらいの揺れがいきなり襲いかかってきた。技の地震じゃないとは思うけど、激しすぎるせいでぼくは足下をすくわれ転んでしまう。すぐに立ち上がれたけど…。
 「地震、じゃなさそうね」
 「それなら何…」
 「ドラゴンクロー、目覚めるパワー! 」
 「――、ゥッ――、――! 」
 地震…、じゃなくて、もしかしてフライさん達? 立ち上がってから前の方をよく見てみると、二十メートルぐらい先に今まで無かった砂煙…。かと思うとその真上から雷と水色の光線、黒い球体が立て続けに降ってきてるから、それだけで何が起きてるのかすぐに分かった気がする。シルクさんの雷、冷凍ビーム、それからシャドーボールだと思うけど、さっきの揺れは多分、“ビースト”が地面に叩きつけられた時のだと思う。墜ちてきているシルクさんと一緒にフライさんも急降下してきてるから、多分間違いない思う。
 「シルクちゃん達、流石ね」
 「はい! 全然歯が立たなかったのに、本当にすごいですよ。…あっ、もしかしてシルクさん、“絆の加護”を発動させてますよね? 」
 “赤漆の砂丘”の時もそうだったから、多分そうだよね? 続けて別の技を準備しているシルクさんの目元から、薄い水色の光が尾を引いてるような気がする。この状態になってるって事は、“絆”が“加護”を発動させている証拠、ってししょーが前に言ってた気がする。だからこの確認の意味も含めて、知っているはずのミウさんにもこう尋ねてみた。
 「もっ、もちろんだよ」
 「――っ、ガぁっ…」
 「それであってるけれど…、まっまさかシルクちゃん、“狂乱状態”に…」
 「これで決める! 」
 「なっ、何なんですか、その状態って」
 初めて聞くけど…、悪い状態なのかな? 聞いた事が間違ってなかったから、ミウさんはこくりと頷いてくれる。だけどすぐに何かに気づいたらしく、急に焦った様子で顔が青ざめていく。これだけでただ事じゃ無いって事は分かったけど、分かったのはそれだけ…。
 「“チカラ”を暴走させた状態の事よ! とんでもないぐらいに強くなるけれど、三十分以内に“証”を着け直さないと、シルクちゃんが死ぬ事になるわ! 」
 「しっ、死ぬって…」
 「自我が完全に無くなって野生化する、て言った方が正しいわね」
 「・・・・・っ! 」
 「ぐるルルぅっ…」
 やっ、野生って…。って事は、あの時のししょーの…。すぐにミウさんが説明してくれたけど、それはとんでもない事だってすぐに分かった。すごく切羽詰まったような…、慌てたような感じで話してくれたって事もあるけど、それに近いような状態を見た事があるから余計にそう感じてしまう。その時ぼくは記憶を無くしていたけど、“漆赤の砂丘”の“ビースト”と戦った時、ししょーがあんな感じになってた。ミウさんが言うように強くなってたけど、抑えが効かなくて暴れてるような…、そんな感じがあった。そんな状態にシルクさんもなってるように見えた気がするから…。
 「嘘…、ですよね? 」
 「ドラゴンクロー! 」
 「・・・ッ…」
 ミウさんが言った事を受け入れられなかったけど、そんなぼくの事はお構いなしに事が進んでいく。次の一撃で決着をつけるつもりらしく、フライさんは地面すれすれを滑空し、墜落した“ビースト”との距離を一気に詰める。手元に紺色のオーラを纏わせてるように見えた気がするから、多分発動させてるのはドラゴンクロー。…それと何か様子がおかしいシルクさんも、立て続けに雷を発動させて確実にダメージを与えていっている…。
 この成果が出たらしく、体勢を起こそうとしていた“ビースト”はフライさんが爪で切り裂いて通り過ぎてから盛大に崩れ落ちる。宙返りするような感じで方向転換を始め、シルクさんの横に…。
 「シルク! 」
 「ウウゥゥッ…」
 「…シルク? 」
 「ま、まずいわ…。フライさん! 早く“証”を…」
 フライさんはシルクさんの側まで戻ろうとしていたけど、下降し始めたあたりで異変に気づいたらしい。ぼくも今やっと見て確認できたけど、うなり声を上げてるシルクさんの目に光が…、意識っていうものが無いような気がする。光っていうと確かに目元から薄青い光が出てるけど、それとは違ってダンジョンの野生と同じような…、そんな目つきをしている。
 「まさか…、でもまだ十分も経ってないはずじゃあ…」
 「フライさん! テレ…」
 「ガぁァァッ! 」
 そんな状態のシルクさんは、光の無い視線をフライさんの方に向ける。…かと思うと、口元にエネルギーを溜めて技を準備し始める。ぼくは今起きてる事が信じられないけど、あのエネルギーの色からすると多分冷凍ビーム。敵味方の判断ができないぐらいに暴走してしまっているらしく、まさかとは思うけどフライさんに冷気の光線を放とうとしていた。
 信じられない、ていう感じでつぶやくフライさんを見て、ミウさんも慌てて行動し始める。ミウさんは即行でエネルギーを活せ…。
 「…シルク、ごめん。…ミウさん、キノト君、目を閉じて! 」
 「え、ええ…」
 「はっ、はい! 」
 何かをしようとしていたけど、その前に意を決したような様子のフライさんが声を上げる。一瞬何のことかさっぱり分からなかったけど、同時に不思議玉を取り出してるのが見えたから、多分何かを仕掛けるつもりなんだと思う。これだけしか分からなかったけど、とりあえずぼくは言われるままに目を閉じ…。
 「ッ! 」
 目を閉じた。
 「ドラゴンクロー、目覚めるパワー! 」
 「ふっ、フライさん!」
 ほんの一瞬目を閉じたけど、ぼくはすぐに目を開ける。するとそこには、さっきとは真逆の光景…。さっきは暴走してるシルクさんが攻撃しようとしていたけど、今は立場が逆転…。シルクさんが怯んだ隙にフライさんが急接近し、一発命中させようとしている。手元のオーラは紺じゃなくて黒だったけど、これは多分技を同時に発動させているからだと思う。その状態でフライさんは低空飛行し……。
 「ァァッ! 」
 隙だらけのシルクさんを問答無用で切り裂いた。
 「これであとは…」
 悪タイプの斬撃を命中させたフライさんは、その場で急停止して地面に足をつける。飛ばされた側に降りて、間髪を入れずにシルクさんが提げている鞄の中を漁り始める。この間にぼく、それからミウさんも彼の所に走って行ってるんだけど、フライさんに攻撃されたシルクさんが動く気配が無いから、多分気を失ってるんだと思う。
 「…っこレで何とか…」
 目的のものが見つかったらしく、フライさんは流れるような手つきで次の行動に移る。水色のスカーフを素早くシルクさんの首元に結び、そのまま彼女の様子を看始める。
 「フライさん、シルクちゃんは…」
 「急所は外したから、大丈夫。気を失ってるだけだから」
 「ってことは、無事なんですね? 」
 「ひとまずはね」
 よかった…。ただならない様子で問いただすミウさんの言葉を遮り、フライさんはシルクさんの状態を教えてくれる。チラチラとシルクさんの方に視線を落としながらだったけど、この感じだとなんともないんだと思う。だからそれを聞いたぼく…、多分ミウさんもだと思うけど、無事だって分かってほっと肩をなで下ろす。問いただしていたミウさんも、どこか落ち着きを取り戻したような表情をしていた。
 「…けれどフライさん。まだ安心はでき…」
 「えっ…、フライ? 何でフライがこんな所に? 」
 「そっ、そのエーフィって、シルクだよね? 」
 ぅん? 安心はできない、ミウさんは多分そう言おうとしてたんだと思うけど、ぼく達以外の誰かの声、二つに遮られてしまう。方向からすると上陸した海岸の方だと思うけど、驚いた様子でフライさんの事を呼ぶ。名前を知ってるって事は知り合いなんだと思うけど、ぼく達…、特に名前を呼ばれたフライさんはびっくりしてその方をハッと見る。すると三十メートルぐらい離れたその場所には…。
 「らっ、ラテ君? ベリーちゃんも! 二人こそ何で…」
 ぼく達の方に駆け寄ってきているブラッキーとワカシャモと、その二人を後から追いかけているリーフィア。あのワカシャモはどこかで見た事あるような気がするけど…。
 「フライさん、もしかして知り合…」
 「そんな事よりフライ? まさかシルクの事を知っ…」
 「ごめん。ラテ君達でも、シルクに口止めされてて今は話せないよ」
 口止め? 口止めって…、どういうことなんだろう…? ワカシャモは駆け寄ってきながら問いただしてるけど、そんな彼女にフライさんは小さく首を横に振る。どういう関係かは分からないけど、その人でも、ってことは結構な関係なんだと思う。…そのことよりもぼくは、聞き間違いかもしれないけどフライさんが言った言葉が引っかかってしまう。そのことにぼくは心当たりが無…。
 「ミウさん! いっ、今すぐにテレポートを! 」
 「わ、分かったわ。キノト君! 」
 「はっ、はい! 」
 てっ、テレポートって…、もしかしてすぐに帰るって事? 気になった事を聞こうとしたけど、その前にフライさん本人に先を越されてしまう。フライさんはどこか焦ったような…、そんな感じだったけど、ふわふわと浮いてるミウさんをこう問いただす。流石にミウさんも予想外だったらしく、変な声を出しちゃってたけど何とか頷く。そのままミウさんはぼくにも呼びかけ…。
 「まっ、待って! 口止めってどういう…」
 「テレポート! 」
 ぼく達三人を巻き込む光を発生させる。するとぼくは体の内側から持ち上げられるような感覚に襲われる。ミウさんの技ってすぐに分かったけど、心の準備ができてなかったから少し驚いてしまった。だけどぼくがびっくりして変な声を出すより早く、ぼく達を巻き込んで激しい光は一瞬で雲散する。光が消えたその場所からは、ぼく、フライさん、ミウさんと気を失ったシルクさんの姿も消え去ってしまっていた。




  続く
前に戻るもくじ次へ進む

読了報告

 読了報告及び評価をするにはログインが必要です。

感想フォーム

 この小説は感想を受け付けていますが、感想を書くにはログインをしている必要があります。

 そのため、感想を書くにはアカウントを所有している必要があります。

感想

 この小説には感想がついていません。