ななのよん 青の中の赤

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 ひとまず“壱白の坑道”を突破した私達は、リアン君が採掘している間に小休止を挟む。
 グレイシアとして初めて戦うアーシアちゃんの事が少し心配だったけれど、この感じだと大分体を慣らす事が出来たらしい。
 それから気になる事があってコット君に質問しようとしていたけれど、それは採掘していたリアン君に遮られてしまう。
 どうやら目的の鉱物に混ざって、探していた“属性の石”を見つけられたらしかった。
 [Side Kyulia]




 「はぁ…、はぁ…。…エコーボイスぅっ! 」
 「ッァ? 」
 「アシストパワー! リアンさん…、大丈夫ですか? 」
 「…っどうやろう…。エコーボイスの使いすぎで、喉が痛なってきたな…」
 見たところアーシアちゃんは平気そうだけれど、あまり長引かせない方が良いかもしれないわね。休憩も終わって“壱白の裂洞”に足を踏み入れた私達は、思うように進めずにいた。このダンジョンに潜入するのは初めてだから分からないけれど、ウルトラレベルにしては野生の数が多いような気がしている。リアン君の“陽月の穢れ”? なのかもしれないけれど、小部屋に立ち入る度に最低でも四体の野生と戦う…、そんな状態が軽く二時間ぐらいは続いていると思う。強さがゴールドとかその程度なら問題ないけれど、確かここの野生の指標がウルトラ…。私とアーシアちゃんが守りながらだから何とかなっているけれど、それでもリアン君はバテてしまっていて、コット君も遠隔で球体を飛ばしていたけれど息が上がり始めている。
 「ッガアァァッ! 」
 「うわっ! 」
 「きゃぁっ! 」
 「くっ…。…みんな、平気? 」
 「キュウリアさんの…ミストフィールドがあったで…何とか耐えれたけど…、厳しいかも…しれへんな…」
 ただでさえ制限されているのに、この状況はかなり厳しいわね…。コット君が薄紫色の球体でクロバットを撃ち落とした瞬間、突然フロア一帯に強い揺れが起こる。技の地震だとは思うけれど、私自身もほかの野生の対処をしていたせいで気づくのが遅れてしまった。今は雪がちらついてるから多少はマシだけれど、オーロラベールで守ってもコット君には致命的なダメージが入ってしまう。…それよりも一般人のリアン君の方が、朦朧としてきているから危険だけれど…。
 「ですけど…、道が塞がれてしまいましたし…、どうしましょう…? 」
 「そう…やんな…。むやみに技使う…訳には…いかへんでなぁ…」
 「野生の波は止んだけれど…」
 この状況では迂闊に技も発動できないわね…。さっきの地震の影響で、この小部屋からのびている五つの通路のうち、三つが崩落して塞がってしまう。地震に限った話じゃないけれど、私の吹雪と熱風…、上級技を発動させたら同じ事が起きてしまっていた。だから連盟は立ち入りを制限しているんだと思うけれど、私がしたくても全体技で殲滅出来ない状況が続いてしまっている。コット君もチャージビームで強化し過ぎたら崩れていたから、かなり苦戦しているみたいだけれど…。
 「…そだ! …フィリアさん、今大丈夫です? 」
 『ええ。今ギルドに戻ってきたところだけど、大丈夫よ』
 「戻って…という事は、どこかにお出かけして…」
 『昼食をごちそうになっていてね』
 そういえばアーシアちゃん、通信機でダンジョンの外と連絡が出来たのよね? 野生が来ない間に息を整えていたけれど、ふとアーシアちゃんは何かを思いついたらしい。短く声をあげると彼女は、左の前足に着けている端末を起動させる。“壱白の坑道”でもちらっと見たけれど、この機械で知り合いのグレイシア…、アーシアちゃんの知り合いと話す事が出来るらしい。丁度今繋がったらしく、画面越しに相手と話し始めていた。
 『…とそんな事よりアーシアちゃん、何か困った事でも? 』
 「はいです。そちらからダンジョンの最短ルートを検索する事て…、できます? 」
 『広さと電波強度にもよるけど、やってみるわ。…にしても中々に深いところまで潜っているのね』
 「今いるのは…二層目? ですので…。…グレイシアさん、…はぁ…、どのくらい…、かかりますか? 」
 『この位置だと…、三分ぐらいで終わると思うわ』
 三分なら、リアン君達の回復に丁度良いかもしれないわね。画面の向こうのフィリア、って言う人は適当に話題を切り上げて、通話相手のアーシアちゃんに本題を尋ねる。私は通路の方を警戒していて声しか聞いてないけれど、アーシアちゃんは短い言葉で要件を頼んでくれる。機械とかそういうことは私には分からないけれど、探すのにかかる時間を教えてくれたのはありがたい。三分あればオレンの実で回復することなら出来るから…。
 「グァァッ! 」
 「マジカルシャイン! 」
 「目覚…」
 「氷の礫! コット君、私とキュリアさんで守るから、その間に休んでくださいっ! 電光石火」
 「秘密の力! 」
 「…からのアイアンテール! 」
 「アーシアちゃん、そっちは任せたわ! 」
 「はいですっ! 」
 道が三本も塞がったけれど、これはこれで良いのかもしれないわね。何事もなく時間が過ぎるのが一番良かったけれど、やっぱりそうはいかない。みみをそばだてていたからすぐ気づけたけれど、あまり離れていないどこかからいくつかの唸り声が聞こえてくる。最大限に警戒していたから私の耳はピクリと動き、咄嗟にエネルギーレベルを高める。コット君達の安全を考えて小部屋の真ん中にいるから、動けるアーシアちゃんと背中合わせになるように通路に目を向ける。二秒もしないうちにゴローニャが見えたから、近づかれる前に激しい光として解き放った。
 耳でしか聞いてないから分からないけれど、この感じだと反対側にも敵がきているのかもしれない。休んでいるコット君が技を発動させようとしていたけれど、私の光に紛れてアーシアちゃんがその前に立ったような気がする。口元にエネルギーを集中させ、氷の結晶を作り出してからすぐに撃ち出す。“壱白の裂洞”に入ってから使えるようになたみたいだけれど、彼女は一言声をあげてから勢いよく駆けだしたらしかった。
 その間に私は正面の通路の方まで移動し、九本の尻尾すべてに力を蓄える。通路の角に身を隠すように待機し、気配だけを頼りに相手の様子をうかがう。アーシアちゃんが反対側の通路に駆け出すのを横目で捉えた辺りで、私は右側から思いっきり尻尾を振り抜く。タイミングが若干ズレ左側二本が命中しなかったけれど、それでもウデッポウを壁との間に挟んで倒す事が出来た。
 「グオオォ…ッ」
 「通路なら元の方が良さそうね。…ソーラービーム! 」
 代わりにオーロラベールは解除されるけれど、この場所なら大丈夫かもしれないわね。薄明るい通路の先に五体ぐらい見えたから、私は一番右外側の尻尾の先をネックレスの紐に引っかける。もう慣れたものだけれど、“氷華の珠石”を外し、その尻尾で持つ。すると私の体温が急激に上がり、毛並みも水色から金色に変化する。気候も明るく暑くなったから、即行でエネルギーを溜め、光線を口から解き放った。
 「…アーシアちゃん、そっちは大丈夫かしら? 」
 「アイアンテール…からのアシストパワーっ! 今終わりました! 」
 今気づいたけれど、コット君と技の形態が違うわね。通路を覗くような感じで見た限りでは、私の方は殲滅出来たと思う。だからこの間に任せていた後ろ…、アーシアちゃんの方に振り返り、進捗状況を尋ねる。オレンの実をかじるエーフィとサンダース超しに見ると、グレイシアが硬質化させた尻尾でギギギアルを弾き飛ばし、その飛ばした方向に気柱で突き上げる。もしここが外なら晴れているからよく見えるけれど、通路いっぱいの太さだから、後ろに続いていたカイリキーも巻き添えを食らっている。剣の舞で強化した後だからだと思うけれど、この一発で二体とも倒せたらしかった。
 「僕らも何とか回復出来たで! …にしてもアーシアさん、流石て言った感じやな? グレイシアで戦うんは今日が初めてのはずやのに、もう完璧になりきれとるやん! 」
 「そ、そんな…完璧なんて…///私はまだまだですっ! 」
 「けれどたいしたものだと思うわ。慣れない氷タイプのはずなのに、氷の礫まで使えるようになってるじゃない! だからもうちょっと誇っても良いと思うわ」
 「きゅ、キュリアさんまで…///そ、そんなに褒めないでくださいっ////」
 アーシアちゃん、そんなに謙遜しなくても良いと思うわ。戦闘を始めてどのくらい経ったか分からないけれど、この間にリアン君達も準備できたらしい。私とアーシアちゃん、揃って真ん中に駆けているタイミングで、少し枯れてるけれど明るい笑顔で教えてくれる。そのままアーシアちゃんにこんなことを言ってたけれど、リアン君の言う通り、上達するのが早いと思う。まっすぐに褒められたアーシアちゃんはというと、頬を赤らめて空いている右前足をせわしなく左右にふる。そんな恥ずかしがってる姿がカワイイ、って思ったけど、これ以上言うと拗ねてしまいそうだったから言わないでおいた。
 『…アーシアちゃん、解析が終わったわ』
 「もっ、もうですか? 助かりました」
 『この声は…、サンダース君ね? ええ。今あなた達がいる場所からだと…、東の通路を通って、三つ目の小部屋を左、すぐの分岐点を右に進んで左、直進、左、右、直進、直進、右の順で進むと抜けられるわ』
 「えと…、もう一回言ってもらえます? 」
 『他にもいくつか考えたけれど…、複雑だったわね。代わりにテキストで送るから、それを見て頂戴』
 「グレイシアさん、助かります! 」
 ダイヤモンドレベルだから覚悟してたけれど…、それでもかなり距離があるわね。褒めちぎられて取り乱してるけれど、アーシアちゃんの端末からフィリアさんの声が聞こえてくる。繋ぎっぱなしだったのかは分からないけれど、いきなりだったから私は少し驚いてしまった。代わりにコット君が返事してくれていたけれど、その後に伝えてきた道順が複雑すぎて追いつけそうにない。足で歩いてのマッピングは慣れてるけれど、人伝ひとづての作業はそうじゃないから覚えきれなかった。
 「えと…、今受け取りました! 」
 『ならその通りに進んで』
 「はいですっ! 」
 『…ところでアーシアちゃん、さっき慌ててたみたいだけれど、何かあった? 』
 「なななっ何もないですっ///」
 けれど文面を送信してくれたみたいだから、私達はそれに沿って先に進む事にした。




  つづく

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