よんのろく ふたつめの石

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 総合病院を発った私達は、青いニンフィアのテトラちゃんと街の船着き場を目指す。
 けれどその途中、私達は偶然リアンさんの店の前を通りかかる。
 ウィルドビレッジからアリシアさんとリア君もきていたらしく、数日かぶりに話すことが出来た。
 テトラちゃんに紹介している最中、何を思ったのかリアンさんは建物の中に何かを取りに戻っていってしまった。
 [Side Unknown]




 「…これで儂の邪魔者は全て消えた」
 「ですけど市長、リクを仕留め損ねてしまいましたけど…」
 「あの能無しの事だ、放っておけ。所詮あいつは儂がいなければ何も出来ん。今頃その辺で野垂れ死んでいる事だろう」
 「しかし市長、万が一…」
 「心配には及ばん。今朝方、ムナール殿の部下が目を覚ましたそうだ。彼らはムナール殿の護衛だそうだが、有事には彼らに消させるつもりだ。…それに加え、儂には有能な切り札がいくらでもある。これでは流石の―――共も手は出せんだろう…」



――――



 [Side Kyulia]



 「…ごめんごめん、待たせてまったね」
 「それにしては結構早かったんじゃないの? 」
 そうね。前もって準備していたのかもしれないけれど、それほど時間は経ってないわね。リアンさんが何かを取りに行っている間に、私達はテトラちゃんにこれから行く村…、ウィルドビレッジの事を教えてあげていた。私達もまだ一回しか行った事が無いのだけれど、その村から来ているアリシアさん、それとリア君もいるから結構詳しく話せたのかもしれない。私も知らない事がいくつかあったのだけれど、テトラちゃんは興味津々、と言った感じで聞いてくれていた。
 それで村の名物とかを話しはじめようとしていたところで、息を切らせたリアンさんが店の中から出てきた。私が見た感じでは、多分リアンさんは急いで戻ってきてくれたんだと思う。羽織っている白い服も少し乱れているから、あながち間違いじゃないのかもしれない。そんなリアンさんに、テトラさんが気にしてなさそうな感じでこう訊き返していた。
 「話し込んでたからそんな気がするけど、案外経ってないのかもしれないですね」
 「かもしれないわね。リアン君、そんなに急いで取りに行ったって事は…、あの石かしら? 」
 「…まぁそんなとこやな」
 「石…? 石と言えば、この間“氷華の珠石”を貰ったばかりだけれど…」
 それと何か関係があるのかしら? 話に夢中になっていたランベルは、肩で息をしているリアンさんにそんな事無いですよ、って軽く付け加える。私も体感的にはそう思っているから、リアンさんの心配は杞憂に終わってしまっていると思う。アリシアさんも動じずに付け加え、かと思うと彼を見、こんな風に話題を出す。目線はリアンさんが持ってきた小包? に向けられているから、多分その事をアリシアさんは言っているんだと思う。リアンさんの反応を見るとアリシアさんの予想はあっていると思うけれど、私はその一言で貰った冷たい石の事を思い出すこととなった。
 「そうそう! 前にキュリアさんに渡した“属性の石”やよ」
 「“属性の石”? リーフの石とか…、水の石みたいな? 」
 「前にランベルさん達には話したんやけど…、属性のエネルギーが結晶化したもんやな。そん時に他の属性もある、って言ったんは覚えとる? 」
 「ええ。炎属性の石もある、って…」
 ウィルドビレッジで会った時には持ってなかったみたいだけれど、確か言ってたような気がするわね。
 「うーん…、私にはいまいちピンとこないけど…」
 「僕も知らなかったぐらいだからね、テトラさんは仕方ないですよ」
 「まぁ僕が勝手にそう呼んどるだけやでな。…んで、今回のこれも“属性の石”なんやけど…」
 …と言う事は、“氷華の珠石”とは別の物かもしれないわね。私はうろ覚えだったけれど、確かリアンさんが、“属性の石”は幾つか種類がある、って言っていたのを覚えていた。その時は確か炎がある、って言っていたから、その時私は物凄く驚いていたような気がする。私、多分ランベルもこれだけでリアンさんの話が分かったのだけれど、無垢雑な表情で首を傾げているから、きっとテトラちゃんは話の内容が掴めていないのだと思う。テトラちゃんが知らないっていう事は、私の予想だけれど“属性の石”は五千年前の世界には無いのかもしれない。…そんなテトラちゃんを余所に、リアンさんは持っていた小包を下に置き、前足で包装を解きながらこう話しはじめていた。
 「アリシアさんとリア君には渡したんやけど、“焼炎の珠石”って言ってね、見ての通り炎タイプの“属性の石”なんよ。キュリアさんなら必要ないんやと思うけど、ウィルドビレッジみたいな所が他にあるかもしれへんでな」
 「…そうね。“参碧の氷原”も似たような環境だったけれど、ウィルドビレッジみたいに属性が変わる程ではなかったからね。…けれどリアンさん、凄く助かるわ。時間的にも明日になるけれど、私達これから“陸白の山麓”の調査に行くつもりだったのよ」
 「えっ? おねえちゃん達、また来てくれるの? 」
 「うん。私はおまけみたいなものだけど、確か山のダンジョンを調査する、って言ってたっけ? 」
 「そうよ。別件になるけれど、村の昔話で気になる事があってね。それの確認を兼ねて未開の七合目以上を調査するつもりでいるわ」
 私の推測でしかないけれど、多分ウィルドビレッジの昔話は、“参碧の氷原”で戦った筋肉の化身と何か関係があるかもしれない。…それに探検隊としても、未開のダンジョンは少しでも減らしておきたい。村の人達が何て言うか分からないけれど、村を開いたのならその近くの事も一緒に連盟の方に報告したい。…ここまでくると自己満足かもしれないけれど…。
 「なっ、七合…」
 「そうなん? そんなら丁度ええやん! 本当は僕が送ってけれたら良かったんやけど、明日朝早くから外せへん用事が入っとって…。…やからキュリアさん、ランベルさんも、アリシアさん達を村まで送ったってくれへんかな? 」
 「うっ、うん。僕は構わないですけど」
 「…でも今日中には戻れないと思うけれど、それでも大丈夫かしら? 」
 そもそも今日は“参碧の氷原”の調査報告をするつもりだったから…、それが先になるわね。多分リアンさんは思いつきだと思うけれど、私の一言に驚くアリシアさんに提案する。当の本人はそれどころじゃない気もするけれど、私達も明日ウィルドビレッジに行くつもりだから、良い案だと思う。それにもしかすると、初めて村の外に出ているアリシアさん達にとっても、いい経験になるかもしれない。村の外で一晩過ごした事が無いはずだから、多分応じてくれるはず…。私達の家はそれほど広くはないけれど、テトラちゃんを入れた五人ならギリギリ過ごせるとは思う。だから私は、後で言うつもりだけれど事情は伏せて、こう提案してみる事にした。
 「えっ、おにちゃん達のおうちにお泊り? やったー! 」
 「だけど…」
 「キュリアさん達もこう言ってくれてるから、いいんじゃない? 泊めてもらう私が言えた事じゃないけど」
 「集合住宅の三階ですけど、歓迎しますよ」
 …そういえば、アクトアタウンに行く前にシルクさんを泊めたばかりだったわね。小さなロコンのリア君は、母親の返事を聴く前に声をあげる。外泊は旅行でもしない限り出来ない事だから、多分その事がすごく嬉しいんだと思う。一方のアリシアさんは少し遠慮しているような感じだけれど、そこを同じ立場のテトラちゃんが背中を押す。最後にランベルが、砕けた表情でアリシアさんにこう言い切っていた。
 「けど…」
 「おかあさん、泊まっていこうよ! 」
 「…はいはい、分かったわ。じゃあ…、お言葉に甘えようかしら? 」
 アリシアさんは乗り気じゃなかったみたいだけど、その気になってるリア君にトドメを刺されたらしい。遂に折れて、控えめにだけれど頭を縦にふってくれた。




  つづく

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