よんのさん 活動方針

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 夜の街でシルクさんの事を聴いた私は、彼女に対して共感を覚える。
 そんな感じで話している間に、私達五人はシリウスさん達のギルドに帰ってきていた。
 一悶着あったギルドには、フロリアさん以外に右腕を半分失ったフローゼルのハイドさんが、シリウスさんの帰りを待っていた。
 その後ベリーさん達に救助されたらしい彼も交えて、最近起きている災害や異常についての情報交換をする事にした。
[Side Kyulia]



 「…そちらも大変だったんですね」
 「うん」
 そうよね…。こうも続くと、どうしても気になってしまうわね…。あの後も私達は、最近の事について話し合っていた。色々な事が立て続けに起きていて混乱しそうになるけれど、ひとまずは一つの結論としてまとまりそうな感じはあるとは思う。順を追って整理したからその通りに話すと、まずは各地で起きている異常気象。ベリーさん、それからハイドさんが行っていたらしいニアレビレッジの土砂災害が、公ではよく報じられている。そこの被害もかなりのものだったけれど、その丘陵の頂点、確か捌白の丘陵っていうダンジョンの奥地で、種族不明の怪物が出現したらしい。ハイドさんとベリーさん、それから初めて会う種族のソーフさんから聴いた事しか分からないけれど、その種族は異常なぐらい強かったらしい。ハイドさんを救出する事を最優先にしていて交戦まではしていないらしいけれど、実際に応戦していたハイドさんによると、その攻撃は腕の一本は簡単に切断するほどの鋭さがあったらしい。実際にハイドさんも尻尾を一本斬り落とされていて、更にチームメイトも無残な死を遂げてしまっている。
 次に話した事が、私達とハクさん達、それとシルクさんの五人で調査した、参碧の氷原での事。未開の地だからどうしようもなかったのだけれど、奥地は視界がホワイトアウトするほどの吹雪だった。前に一度来ているハクさん達によると、前回はそこまで酷いものではなかったらしい。風の大陸の荒天との関連性は分からないけれど、何かしら影響はある、って私は思っている。…それからここの奥地でも、例の怪物が私達に襲いかかってきた。その場所は何かを祀ったような祠があって、見間違いかもしれないけれど白い渦のようなものも出現していたような気もする。その怪物…、ベリーさん達の方とは別だったけれど、それも異常な強さで私とシリウスさんでは倒しきれなかった。今は処方してもらった薬で痛みを抑えているけれど、私とシリウスさんの骨を折るほどの威力があった。相性関係もあるのかもしれないけれど、異常な強さだったからあの威力は今も体に染みついている…。怪物が出た、っていう意味では同じだから、関連性がある、私はそう思っている。
 そして最後に、私達が病院に行っている間に起きた事。これは自然災害とは関係の無い事だけれど、仲が良いハクさんとシルクさんの間に起きた事だから、私は凄く衝撃を受けた。喧嘩したことでシルクさんは跳びだして、ハクさんも気を失った。一度夜中に目を覚ましたらしいけれど、朝話した感じでは精神的にもかなり堪えているように私には見えた。シルクさんの方はシルクさんの方で、事態はかなり深刻化しているらしい。私達は寝ていたから朝知ったのだけれど、シルクさんは突入が禁止されているダンジョンに落ちてしまったらしい。二人のブラッキーが救出に向かってくれているらしいのだけれど、そこは一度足を踏み入れたら二度と出てこれないような場所…。朝聴いて初めて知ったのだけれど、何の対策も無しに潜入すると、一時間もすれば命を落とす…、死ににいくようなもの…。対策しているから大丈夫らしいけれど、助けられるかは五分五分、シリウスさんが言うには、そうらしい。成功したかどうかは、続報待ちなのだけれど…。
 「シルクさんも心配だけれど、ニアレの方も気がかりよね…」
 土砂崩れの起きた丘の上に怪物がいるとなると…、一刻も早く対処した方が良いかもしれないわね…。話を今の事に戻すと、朝になって軽い朝礼が終わってから、私達は朝食を済ませにアクトアタウンの街に出ていた。シリウスさん達のギルドではいつもそうらしく、朝礼と諸連絡を済ませてからそれぞれで活動を始めるらしい。今日はハクさんがあんな状態だから探検隊活動は休止にするつもりらしいけれど、異常気象について情報収集するよう、お弟子さん達に通達をしていた。その後で私達も、業に従う事にした。私はランベル以外に、悠久の風っていうチームのベリーさんと一緒に食べに行っていた。場所はランベルが連れていってもらった場所らしいのだけれど、その店での話は、やっぱり災害やシルクさんの事…。店を出てギルドに帰っている今も、そのまま話題が続いている。色々な事が一度に起きて頭が重いけど、私は何とか、二人の会話に参加していた。
 「ラテも図書館で調べてくれてると思うけど、それ次第かな…。…シリウス、遅くなってごめん! 店が混んでて…」
 シルクさんの救助に行ってくれいるみたいだけれど、彼に頼るしかないのが今の現状ね…。話している間に、私達は水車のあるギルドに帰ってきた。情報収集が始まって開け放たれた玄関の扉をくぐりながら、ベリーさんは流すように私の言葉に続く。元々は今頃調べてくれた事を話し合っているつもりだったらしいけど、今は状況が状況…。シルクさんの事が分かってからになるとは思うけれど、知らないことだらけだから彼を待つしかない。
 また話が逸れたけれど、私に答えたベリーさんは、続けてギルドの奥に向けて声をあげる。ギルドのお弟子さん達はそのまま聞きこみに行っているのだとは思うけれど、シリウスさんは前足を折っていて思うように動けないから、ベリーさんは彼の事を呼んだのだと思う。本当はもう少し早く帰ってくる予定だったのだけれど、時間が時間っていう事もあって、席に着くのにニ十分ぐらいかかってしまっていた。
 「朝食時だから、やむを得ないわね」
 「…あれ? フロリアさん、ハクは? 朝礼の時はいたはずだけど…」
 「それに人も増えていますけど、何かあったんですか? 」
 「ハクなら、部屋に戻って休んでるわ」
 言われてみれば、そんな気がするわね。街からの水路が通っているロビーには、休止中なのに朝は見かけなかった人が何人かそこにいた。けれどその事についてを聴く前に、別の事が気になったらしいベリーさんに先を越されてしまう。結果的にランベルにも先に言われたけれど、確かに彼女の言う通り、朝礼の時にはいたはずのハクさんの姿がどこにもない。万全な状態でない筈だけど、朝話した感じでは何とか動けそうな雰囲気はあった。だから私は、街へ聞きこみに行った、最少はそう思った。だけどギルド会計士のフロリアさんが、後ろの階段の方に目を向けながら、すぐに彼女の行方を教えてくれた。
 「そっか…。今動くと悪化しかねないもんね」
 「そうね。…という事は、シリウスさんはハクさんに付き添っているのかしら? 」
 「それもあるけど…、それ以外に別件で席を外しているから、これからの事はアタイが伝えておくわ」
 別件…、って事は、後回しにしていた前足を診てもらいに行ってるのかしら? 他に何かあるような気がしなくもないけれど…。教えてくれたフロリアさんに、ベリーさんは納得…、だけれど不安そうに頷く。朝は元気そうだったけれど、私が見た感じでは、ハクさんは肉体的にも精神的にも、かなり堪えている状態…。だから私は、この場にシリウスさんがいないのは、パートナーのハクさんの様子を傍で見守っている、率直にそう感じる。けれど別件で居ないとなると、昨日折った前足を病院で治療してもらっている、そういう事もあると思う。…だけど私は、伝えてくれたフロリアさんの様子に、どこか違和感を感じてしまう。普通なら私の質問にすぐ答えてくれるはずだけれど、フロリアさんは一瞬言葉に詰まり、何かを隠しているように見えてしまった。だけれどあまり詮索する訳にもいかないから…。
 「…分かったわ」
 ひとまず私は、モヤモヤしながらもこくりと頷く。
 「それなら、これから言うつもりでしたけど、伝言をお願いします」
 ランベルも無理やり納得したらしく、私に続いて用件を伝え始めていた。
 「ええ、しっかり伝えておくわ」
 「それじゃあ、僕達は一度戻って、陸白の山麓を調べてみる、って事を伝えておいてください」
 「陸白の山麓? 初めて聴く場所だけど…」
 「そうと決まった訳じゃないけれど、麓の村で気になる事を聞いたから、調査ついでに確かめに行くつもりでいるわ」
 ウィルドビレッジはまだ村を開いたばかりだから、ベリーさんが知らないのも仕方ないのかもしれないわね。フロリアさんは作り笑いを浮かべていたけれど、ランベルは気にせず彼女に伝言を託す。私からの頼みでこうする事にしたのだけれど、未開の七合目の調査も兼ねて、アリシアさんから聴いた伝承を確認するつもり。一昨日までは何とも思わなかったのだけれど、昨日の調査で戦った化け物が、ウィルドビレッジの伝承と関係あると私は思っている。全部が全部同じではないけれど、参碧の氷原と陸白の山麓、二つは共通する事がいくつかある。一つは、その土地の気候。偶然だとは思うけれど、両方とも雪が積もっていて吹雪も発生している。…そして一番言えていることが、ある建造物がある、という事。参碧の氷原の方は直接見たけれど、伝承によると、陸白の山麓の頂上にも何かしらの祠があるらしい。伝承でも怪物がと登場していたから、私達が戦った筋肉の化身にも通じている…。そういう訳で私は、ランベルに頼んでそうする事にしていた。
 「陸白の山麓は最近開いたばかりですからね…。シルクさんの事も心配ですけど、ここでの活動は昨日までの二日間しか申請していないので…。なので、調査してから出直して…」
 シルクさんの安否を知りたいのは山々だけれど、そこまでは想定していなかったから…。私が話し始めた事に、ランベルが蛇足で…、という感じで続いてくれる。陸白の山麓の事は省いていたけれどこれは多分、フロリアさんが彼女達に話してくれるとは思う本音を言うとシルクさんの事を最後まで知っておきたかったのだけれど、生憎今回の調査は、一昨日と昨日の二日間でしか申請していない。だから私達は、後ろ髪を引かれているけども一度ジョンノエタウンに戻らないといけない。だけど何日先になるかは分からないけれど、陸白の山麓の調査をしてから出直したいと思っている。ランベルはどう思っているか分からないけれど、ランベルなら多分、私の頼みを聞いてくれるとは思う。本当にそのつもりだったらしく、ランベ…。
 「はぁ…はぁ…」
 「…っと」
 「べっ、ベリー! シリウスは? 」
 「ええっと、あなたは…」
 びっ、ビックリした…。でっ、でも、彼が来たって事は…。ランベルが話してくれている最中に、背にしている入り口から急に声が駆けこんできた。息遣いが荒いから、この声を主は全速力で走ってきたんだと思う。いきなりだったから驚きでとび上がってしまったけれど、私はその方にハッと振りかえる。走ってきたらしい彼、ブラッキーは勢い余ってランベルにぶつかりそうになってたけれど、目に入ったらしいワカシャモの彼女に手短に問いかける。だけど私が思わず訊いたから、結果的に遮られてしまっていた。
 「悠久の風のラツェルです! …シリウスは、いるよね? 」
 「えっ、ええ。 二階いるわ。…という事はラテ君? シルクちゃんは…」
 「ワイワイタウンの病院で診てもらってるよ! 僕の同族がついてくれてるから、詳しい事は彼女から聴いて! 僕も後で行くから」
 「ワイワイタウンだね? …うん! 」
 シルクさん、何とか救出できたのね? それなら一安心ね。何となく想像は出来たけれど、ブラッキーの彼は手短に名乗ってくれる。焦っているみたいだから早口だったけれど、彼はそのまま、もう一度同じ事をフロリアさんにも問いかける。すると彼女は唖然としながらも、何とか立ち直って階段の方を指す。私達が訊いた時とは違う答えだったけれど、私はそれよりも、今はシルクさんの安否の方が気になってきた。だから私は…。
 「私達も行くわ。ランベルも、それでいいわね? 」
 「うん。キュリアがそのつもりなら、それで良いよ。僕も知りたいから」
 ベリーさんとの間を開けずにこくりと頷き、立て続けにランベルにも問いかける。するとランベルも私の問いかけに、二つ返事で承諾してくれた。ワイワイタウンなら早かれ遅かれ寄る事になるから…。
 「分かったよ! じゃあキュリアさん、ランベルさんも、私についてきて! 案内するから! 」
 「ええ、頼んだわ! 」
 ベリーさんはこう言ってくれてから、我先にとギルドの出入り口へ駆けだす。五、六歩走ってから振り返ったから、私も彼女の後に続く。一応ワイワイタウンの病院の場所は知っているけれど、彼女の厚意を棒に振る訳にもいかないから黙っておいた。…そういう訳で私達は、四肢に力を込めて一気に駆け出した。




  つづく

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