よんのに 情報交換

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 参碧の氷原の調査から帰ってから、私は怪我した肋骨を診てもらうために、アクトアタウンの病院に寄っていた。
 折れてはいたけれど、内臓に刺さってはいなかったので、痛み止めを処方してもらった。
 その帰り道で私達は、シリウスさんとワカシャモのベリーさん、ニンフィアのテトラさんと合流する。
 二人ともシルクさんの知り合いみたいだけれど、その後シリウスさんから聴いた話に驚愕してしまった。
 [Side Kyulia]



 「…僕達がいない間にそんな事があったんだね…」
 本当に仲良さそうだったから、驚いたわ…。シリウスさんと合流してから、私達は調査から帰ってからの間に会った事を聴いていた。周りが松明の明かりだけで暗かったから、って事もあるかもしれないけれど、予想外の事で私、それにランベルにベリーさん達も、多分言葉を失っていた。
 シリウスさんが言うには、帰った時にハクさんの同郷の知り合いがいて、ハクさんは何らかの理由でイラついてしまっていたらしい。そこからハクさんの出生の話になり、これが原因でシルクさんと口論になってしまった。その時にハクさんが言ってはいけない事を口走って、頭に血が上ったシルクさんが攻撃…。我に返ったシルクさんは、我慢できず跳び出してしまったのだとか。
 そしてそれからは、シリウスさんは跳び出したシルクさんを追って暗い街へ…。けれど足の怪我で追いつくことができずに、距離が開いてしまったらしい。そんな時にベリーさんのチームメイトとばったり出くわしたらしく、その彼に代わりに追いかけてもらうよう頼んだ。ベリーさん達もシルクさんを見かけたらしく、一緒に居たもう一人も別で追いかけていった…。これは偶然らしいのだけれど、二人ともブラッキーなんだとか…。
 「ええ。…でも、シルクの気持ちも分かる気がするわ」
 「キュリアさんも? 」
 そうね…。初めて聴いたけれど、シルクさんと私って、似たような生い立ちなのかもしれないわね…。私は言葉を失っていたけれど、何故かシルクさんの気持ちが手に取るように分かった気がした。これは後で聴いた話だけれど、シルクさんも私と同じで幼い頃に両親を亡くしていたらしい。私とは少し状況は違うけれど、シルクさんは自然災害で亡くし、私は“霧島大虐殺事件”が原因で失っている。
 …だからもし私がシルクさんでも、同じように頭に血が上っていたかもしれない。私は言われた事が無いけれど、「親がいないのに…」って言われたら、私でも何かとんでもないことをしてしまっているか…、「ランベルのご両親が親だと思ってる」って言い返すか…、どちらかだと思う。
 「自分はランベルさんから聴きましたけど、そうらしいです。…フロリア、遅くなりましたけど、ハクの様子はどうですか? 」
 「…何か大所帯になってるわねぇ…。ええ、意識は戻ってるけど、疲れてるから眠ってるわ。シリウスの方はどうなんだぃ? シルクちゃんの姿が見当たらないけど…」
 「ラテ達が代わりに追ってくれてるよ」
 そうこうしている間に、私達五人はシリウスさん達のギルドに辿り着いた。病院からはあまり離れてはいないけれど、話しながらだったから倍以上の時間がかかっていたと思う。ちょうど話が一区切り? ついたところで、先頭のシリウスさんが入り口の扉を開けながら奥の方に呼びかける。すると近くにいたらしく、フロリアさんがフロア内の水路を跳び越えて私達の方に来てくれる。そんな彼女は少し驚いていたけれど、すぐに気を失ったらしいハクさんの容態を教えてくれた。
 そのままフロリアさんは、私達五人の中から跳び出したエーフィの姿を探す。…けれどこの中にはいないから、不思議そうに首を傾げながら私達に尋ねてくる。するとベリーさんが真っ先に手を上げ、心配しないで、と言う感じで手短に答えていた。
 「ラテ君、“達”…? ソーフちゃんならさっき着いて部屋に荷物を置きに行ってるけ…」
 「シアちゃん…、私の友達のブラッキーも、別で追いかけてくれてます」
 「そのブラッキーは別の諸島の救助隊員みたいだから、何があっても大丈夫だと思うよ! 」
 「確か向こうの基準でプラチナランク…、だったかしら? 」
 うろ覚えだけれど、こっちではウルトラかスーパーランクに相当するわね。ベリーさんの一言が引っかかったらしく、フロリアさんはもう一度彼女に問いかける。けれど今度は、今気づいたけれど青いニンフィアのテトラさんが声をあげる。溌剌とした声の彼女に、似たような声調のベリーさんが補足を加えていた。
 「多分そうだと思うよ」
 「向こうのプラチナとなると、俺達よりも二、三上のランクかな? 」
 「ハイドさんはプラチナランクだもんね」
 この感じだと…、この人がハクさんの知り合いかしら? ランベルが私の呟きに頷いていると、もう一人フロアの奥の方から私達の方にやってきた。種族までは聴いていないけれど、この人は昨日見なかった人だから、多分そういう事なんだと思う。その彼、ベリーさんにハイドさんって言われたフローゼルの彼は、どこから聴いたのかは分からないけれど、自分と比べながら話に参加する。そのか…。
 「えっ、ふっ、フローゼルさん? その腕、どうしたの? 」
 「あぁ、俺の右腕? 」
 「それに尻尾も…」
 ふっフローゼルって、尻尾が二本ある種族のはずよね? この様子だとテトラさんも
そうみたいだけれど、私はハイドさんの身なりに思わず声を荒らげてしまう。包帯が巻かれているから最近だとは思うけれど、彼の右腕は肘から先が無い。歩く時に後ろに見える尻尾も、ニ本でなくて一本…。彼自身もまだ慣れていないらしく、時々バランスを崩してふらついてしまていた。本人はあまり気にしていないみたいだけれど…。
 「右腕は生きるためにやむなく、って感じだね。…んだけど、尻尾はそうじゃないね」
 「尻尾、は…? 」
 「うん。私達は尻尾を斬り落とされた後にしか着けなかったんだけど…、あったあった。こんな生き物に襲撃されてたみたいで…」
 ん、生き物? ハイドさんは流すように話してくれたけれど、私はそんな狩る事じゃないと思う。どういう経緯があって斬り落とされたのかは分からないけれど、フローゼルは二本の尻尾を高速回転させて泳ぐ、って聴いた事がある。水タイプとして…、何かしらの隊員としては致命的なはずだけれど、楽観的なのか気にしていないような感じがする…。含みを持たせたような言い方だったから、これがランベルは気になったらしい。彼が行った事を繰り返し、一言で尋ねる。そこへ何かを思い出したように、ベリーさんが提げている鞄の中を漁り、一枚の紙を取り出す。そしてベリーさんは、簡単なイラストが描かれた表側を私達全員に見せながら…。
 「三十センチぐらいで、紙みたいにペラペラだったんだけど、テトラちゃん、火花の二人も、見た事ある? 」
 この場にいる全員に問いかける。
 「うーん…、見た事ない種族だね」
 「私も見覚えが無いわ」
 「そんなに薄い種族、私は知らないよ」
 だけど私、ランベル、テトラさんの三人は、揃って首を横にふる。ここまで十何年と探検隊活動をしてきたけれど、それでも私はこう言う種族は見た事が無い。綺麗な線で描かれているそれは、私が見た感じでは祝い事とかで使う水引…、そんな第一印象。紙みたいに薄いとなると、パッと見生き物としても危うい気がするけれど…。
 「そっか。ウォルタも分からない、って言ってたから、本当に何なんだろう…」
 「化け物じみた技の威力だったけど、俺もあんな…」
 「化け物といえば…、自分達も戦いましたね」
 「…だね」
 「私とシリウスさんは倒されたけれど、あの筋肉の塊? 虫? も規格外の強さだったわね」
 「シルクさんとハクさんが何とか倒してたけど、あの破壊力は異常だったから…」
 化け物といえば、今日のあの生き物の事を思い出すわね。ベリーさんが言ったその人は誰なのか分からないけれど、あまり収穫が無かったらしく、ベリーさんは唸るように語尾を弱める。その生き物から襲撃をうけたらしいハイドさんも、自分の右腕に視線を落としながら言葉を濁らせる。この言い方では、多分ハイドさんの右腕と尻尾を奪ったのは子の生き物だと思う。新品の紙でたまに皮膚が切れたりすることがあるから、それと同じ様な原理で切られ…、斬られたのかもしれない。
 そして私もだけれど、その“化け物”という言葉で、今日あった事を思い出す。私は途中で倒されてしまったけれど、今日闘った生き物も異常な強さだった。ハクさん達が言うには特殊技には弱かったらしいけれど、私の秘密の力では全く太刀打ちできなかった。…今思うと、特殊技の吹雪、神通力、シリウスさんの鎌鼬は効いていたような感じがあった。中でも神通力は嫌がっていたような気もしたから、もしかすると格闘タイプ…。
 「シリウス達も? 」
 「俺達の方とは違うみたいだけど、そんな常識外れの化け物が二か所で出るなんて…」
 「“時渡り”の事もそうだけど…、何か変な事が起きてるのかもしれないね、今の七千年代って…」
 「自然災害も増えてるけど…」
 今の段階では、全部が全部関係してるとは言い切れないわね…。シルクさんと同じ五千年前出身らしいテトラさんも、切れ切れにだとは思うけれど今起きている事を何となく察したらしい。凄く神妙な様子で、ボソッと呟いていた。
 ランベルにベリーさん達はどう思っているかは分からないけれど、ここまで異様な事が同時に起こると、何か関係性がある、私は少しだけれどそう感じてしまう。この間風の大陸で起きた土砂災害、二か所で出現した未確認生物、テトラさんが言う、シルクさんが巻き込まれたらしい事…、この何日かで立て続けに起きている。何の根拠も無いけど、何か関連性がある、私はそう思わずにはいられなくなってしまった。




  つづく  

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