いちのろく 属性の石

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読了時間目安:7分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 陸白の山麓に潜入している僕達は、ダンジョンの中と言う事もあって交戦を開始していた。
 その最中、化学者のはずのリアンさんが予想以上の活躍を見せ、僕達はかなり驚いてしまった。
 それに加え、キュリアもアリシアさんに教わりながら、氷タイプの技を身につける事が出来たらしい。
 リアンさんの体質も気になるけど、ひとまず僕達は中継点を目指して突き進むことにした。
 [Side Ramver]



 「えー、お姉ちゃん達、もう帰っちゃうの? 」
 「そうね…、今日は休日を利用して来ているから、また日を改めてお伺いするわね」
 うん、僕も後ろ髪を引かれるけど、休みを押して来てるからなぁ…。ひとまず五合目を突破した僕達は、奥までは進まずに村に引き返していた。探検隊バッジを使って帰還したから、ものの数秒で村に辿りつく。アリシアさんは少し転送酔いしてしまったみたいだけど、診療所までの道中で何とか回復していた。
 そして診療所に戻ってからは、少しだけ話してこう話題を出す。出来ればもう少し話していきたいところだけど、所要時間を考えるとそろそろ発たないと役所が閉まってしまう。僕達が帰る、そう聴いてリア君は駄々をこねてるけど、一応仕事で来てる身だから仕方ない…。キュリアも申し訳なさそうに、ロコンの少年に頭を下げていた。
 「そうよ。キュリアちゃん達はお仕事で忙しいのよ、もう会えなくなる訳じゃない…」
 「せやな、ジョンノエタウンは山を降りてすぐん所にあるでな、すぐ会えると思うで」
 「ですね。もしかすると、案外早く来る事になるかもしれないですし」
 「本当に? 」
 「ええ! 」
 未開のダンジョンもあるから、次来るとしたらその件かな? リア君は尻尾を下げてがっかりしてたけど、リアンさんの一言でパッと明るくなる。リアンさんは今日は泊まっていくみたいだから、彼ともここで別れることになる。その彼は水の大陸から来てるらしいから、船での所要時間を考えるとその方がいいかもしれない。
 それに僕達も、協会の方針によってはすぐに戻る事だってあり得る。他の大陸とか町はどうかは分からないけど、多分僕達が、探検隊のチームとして初めてウィルドビレッジを訪れることになったはず。そうなれば、未開のダンジョン…、陸白の山麓の七合目から先の調査の話は僕達に来ることになる。だから僕は、リア君が機嫌を直してくれるためにもこう伝える事にした。
 「リア、良かったわね」
 「うん! ぜったいだよ! 」
 「うん。そうじゃなくても、また来るよ」
 「それがええよ! …あっ、そうや! 折角やし…、キュリアさん、これ受け取ってくれへんかな? 」
 「わっ、私に? 」
 キュリアに? リア君がまた元気になってくれたから、僕はホッと一安心する。期待に満ちた表情で訊いてきたから、僕はにっこりと笑顔を浮かべて大きく頷く。リアンさんも僕に続いてたけど、何かを思い出したのか、短く声をあげると徐に鞄の中を漁り始める。白い服を羽織った彼は、取り出した何かを目の前のキュリアに手渡していた。急に話をふられたから、キュリアは思わず頓狂な声をあげてしまっていた。
 「案内してくれたお礼、って感じでどうやろう? そんなら、受け取りやすいんとちゃうかな? 」
 「そう、だけど…、これは? 」
 彼は取り出したのは、何の変哲もない薄水色の石。一瞬氷の石かな、とも思ったけど、キュリアには効果を成さないから意味がない。それによく見たら、その石には細い紐が通されていて、アクセサリーとして身につけられそうな感じだった。リアンさんが手を加えたんだと思うけど、氷の石でもなさそうだから、僕とキュリアは揃って首を傾げるしかなかった。
 「氷華の珠石って言ってね、“属性の石”の一つなんよ」
 「ぞくせいの、石? 初めて聞くけど…」
 「僕が勝手にそう呼んどるだけやけど、一言で言うんなら…、そうやな…。…氷属性が結晶化した石、って言ったらええかな? 」
 「それは私も初めて聞くわね。村にもよく落ちてる石みたいだけど、私も気になるわね」
 何なんだろう? 僕も初めて聞くけど…。彼は自信満々に、その石について解説し始める。少し興奮してきてるのか、かなり饒舌に、矢継ぎ早に言葉を並べていく…。そのお陰でどういうものなのか分かったけど、キュリアと何の関係があるのか、そこだけは分からなかった。アリシアさんの質問に答えてから、教えてくれるとは思うけど…。
 「アリシアさんにも話した事なかったでなぁー。氷華の珠石はここでしか採れへん、珍しい石なんよ。僕もこういう類の石を研究の一環で集めとるんやけど、この石を持っとれば、陸白の山麓以外でも、キュリアさんは氷タイプのままおれるかもしれんでな。…まぁ僕の推測やけど」
 「私が、この姿のままで? 」
 へぇ、それは良いかもしれないね? キュリアも折角吹雪を使えるようになったんだし。リアンさんの想像の話しだけど、キュリアの姿が変わった場所でしか採れない石みたいだから、そうなのかもしれない。確証は無いけど、僕は何故かそう納得してしまっていた。キュリアも興味ある、っていう感じでリアンさんに訊いてるから、案外乗り気なのかもしれない。
 「そうやで! 元々のキュウコンの炎の属性の石もあるんやけど、それは今日は持ってきてないでなぁ…。今度会う時までに、また用意しとくで! 」
 「炎の属性まで…」
 「えっ、ええ。…だけど、もしそういう効果があるのなら、便利ね。分かったわ、じゃあ、使わせてもらうわね」
 ほっ、炎もあるの? 何年も探検隊として活動してきたけど、そんなものがあるなんて僕は知らなかった。就いてる職が違うと見るところも違う、僕は改めてこう気付かされた気がする。それにこの感じだと、キュリアはその…、氷華の何とか、っていう石を使ってみる気になってるのかもしれない。横目で見た感じだと、リアンさんのサイコキネシスで首に結んでもらっていた。
 「ありがとな! 」
 「ええ、こちらこそ! …それじゃあ、私達はそろそろ行くわね」
 「そうだね。アリシアさん、リアンさんも、またお会いしましょう」
 「せやな! 」
 「ええ! 」
 「うん、またね! 」
 また近いうちにね。キュリアも首に着けてもらえていたから、彼女はここでぺこりと一礼する。つい話し込んでしまったけど、そろそろ出ないと明日に繰り越しになってしまう。だからまだ話足りないけど、僕達はここでこの村を後にする事にする。厳密にはまだ村を出てないけど、アリシアさん、リア君、リアン君の三人は、診療所の入り口から僕達が見えなくなるまで見送ってくれた。またすぐ会える、そう、揃って心の中で語り合いながら…。



  つづく

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