6-3 数字の意味

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 予定通り“死相の原”に着いたミー達は、雑談を交わしながらダンジョンに立ち入る。
 けれどミー達は、突入早々野生の手厚い歓迎を受けてしまう。
 一瞬びっくりしたけど、ゴールドレベルという事もあって難なく撃退する事が出来た。
 [Side Ratwel]




 「…今思ったけど、ここのダンジョンってシルバーレベルでも良いような気がするんだけど」
 「私もそんな気がしてるんだけど、前に制限されてた事があるからその名残りなんじゃないかな? …ランベルさん、とりあえず“黒の花園”には着いたよ」
 結局ダークライが原因だったけど、あの時は本当に大変だったからね…。特に苦戦する事なく突き進んでいた僕達は、晴れはじめた黒い霧を背に一息つく。草の大陸を拠点にしてる僕達にとっては慣れた事だけど、ゴールドレベルで視界が悪いダンジョンはあまりないとは思う。…だけど今ランベルさんが呟いた通り、ゴールドレベルにしては評価が高すぎると思う。心当たりがあるとすれば…、“空間の歪み”騒動の直前にあった事ぐらい、かな? その時は“黒陽草”の黒糖の流通が止まって、価格が高騰したのは世間的にも記憶に新しいと思う。僕は生理的にムリになったのは、ここだけの話だけど…。
 「でしゅね。…でしゅけどラテ? 出たときに思ったんでしゅけど、よく“弐黒の牙壌”の潜入許可が下りましたね」
 「確かにそうだね。マスターランクのランベルさんがいても却下されるはずなんだけど、不思議だよ…」
 心当たりがあると言えばあるけど、どうなんだろう? 黒い花に紛れているソーフは黄になっていたことがあるらしく、ふと顔を上げて思った事を呟く。僕も詳しくは分からないけど、“弐黒の牙壌”はマスターランクのチームでも、そう簡単には潜入許可が下りないダンジョン。僕はイグレクさんから聞いて知ったけど、何の対策もせずに立ち入ると絶対に生きては帰れないぐらい危険なダンジョン。…とはいっても、ついこの間僕は無許可で潜入したばかりだけど…。
 「そうだね。ラツェル君はこの前突破した、って聞いてるけど、連盟も公開してないのによく分かったよね」
 「シルクを追いかけてたら着いただけなんですけど…、偶然って言った方が正しいかもしれないです」
 「偶然? 」
 「うん。僕もたまたま知ってビックリしたんだけど、イグレクさんが監視してるみたいなんだよ」
 「イグレクしゃんって…、あの? 」
 イグレクさんと初めて会ったのも偶然だけど、あの時はまさか戦うなんておもわなかったからなぁ…。シルクとライトさんがいたから何とかなったけど。甘い香りでむせ返りになってるけど、ランベルさんは僕に対してこう聞いてくる。僕もまさかその時はそうなるなんて思ってもいなかったけど、もしあの時イグレクさんと会えてなかったら、僕とアーシアさん、シルクも、今この世にはいなかったような気がする。そう考えるとぞっとするけど…。そんな事を考えながら答えてたけど、僕が言ったことに、ベリーが首をかしげながら聞き返してくる。一応ベリーとソーフもイグレクさんとは面識があるけど、僕みたいに頻繁に会ってないはず…。そもそも僕自身も会いに来ても会えないのが殆どだから、会って話せる方が稀なんだけど…。
 「そうだよ」
 「ええっと、その人は…」
 「もう気配で気づかれてると思うけど、その人しか突入口を知りませんから。…イグレクさん、僕です! ラツェルです! 話始めると長くなるんですけど、会ってもらった方が早いと思います」
 今日会える保証はないけど…、いるかな? イグレクさんの事は一言では説明出来ないから、僕は大分端折ってランベルさんに返事する。突入口よりも“弐黒の牙壌”っていった方が正しいけど、間違いじゃないからとりあえずこう言っておく。それから僕は大きく息を吸ってから、この花畑にいるはずの管理者の知り合いに向けて大きく声をあげる。隣にいたソーフが少しビックリしてたけど、構わず僕はランベルさんの方を見て説明を続けた。
 「そうだね。私はあまり会った事ないけど、イグレクさんも“空間の歪み騒動”の被害者みたいなものだからね」
 「へぇ…。“草の大陸”で起きた事件、って聞いてるけど、結局あの事件ってどうなっ…」
 『俺も“空間”から聞いた事だが…』
 「その件に関しては、ベリー、ソーフ、世話になった」
 「あっ、イグレクさん! ううん、私たちの方こそ、あれから会いに来れなくてごめんね」
 「えっ、なっ…」
 「ミー達も何回か来てたんでしゅけど、入れ違ってたみたいでしゅからね」
 。今日会えなかったらどうしようかと思ったけど、いて良かった! “空間の歪み騒動”は“草の大陸”では有名な事件だけど、ランベルさんは首をかしげているから、もしかしたら“霧の大陸”ではあまり報道されてないのかもしれない。“草の大陸”で知られてるのも僕達のチームだから、なんだけど、そもそも僕達が狙われた事件だから騒がれたのが不思議なくらい…。確かに“トレジャータウン”とその周りの町の何人かが悪夢にうなされたのは事実だけど、ほかの事件と比べると二級ぐらいのレベルにとどまってると思う。
 それでランベルさんが僕達に訊き返しかけているタイミングで、僕…、僕達の頭の中に四人以外の誰かの声が響き渡る。僕が誰なのかすぐに分かったけど、ベリーとソーフ…、特にランベルさんは驚きでとびあがってしまっていた。ほんの少し遅れて羽ばたく音に混じって声でも聞こえてきたから、僕はその方を見上げる。ベリーに先を越されたけど、視線の先には大きいイベルタル…、イグレクさんが黒い花畑に舞い降りようとしているところだった。
 「その節はすまないな。…でラテ? 今回は何…」
 「いっ、イベルタル? あの伝説の種族が、何でラツェル君達と…」
 「三年ぐらい前にいろいろあってね」
 「そうだな。詳細はラテから聞いてもらいたいが、デンリュウ、俺はラテのチームに救われた身だ」
 助けられたのは助けれたけど…、あの時はダークライに不意打ちを食らって、シリウス達に助けてもらったから…、そうとは言えないかな? 黒い花の上に着陸したイグレクさんは、翼をたたむとぺこりと頭を下げる。頭を下げても僕達よりも大分高いけど、この感じならイグレクさんは軽く謝ってるつもりだと思う。この流れで今日は何故ここに来た、って訊こうとしてたんだと思うけど、その途中で腰を抜かしたランベルさんに遮られてしまう。僕達は身近すぎて感覚がおかしくなってるけど、伝説の種族だからこの反応が普通。…よく考えたら、ライトさんもラティアスで伝説の種族なんだけど…。
 「救われた、って…」
 「ランベルさん、後で話します。…それでイグレクさん、もう一回“弐黒の牙壌”に潜入したいんですけど…」
 「サードから話は聞いている。“ビースト”の討伐だな? 」
 「ええっ、なっ、何で分かったの? 」
 「サードの推測だったが…、やはりそうだったか」
 ちょっ、ちょっと待って! 何でイグレクさんがこの事を知ってるの? 適当なところで話を切り上げて、僕はこんな風に本題に入る。イグレクさんは背が高いから首hが痛くなりそうだけど、僕は“弐黒の牙壌”につれてってほしい、って頼もうとする。だけど何で知ってるのかは分からないけど、僕が言い出すよりも早く、イグレクさん自身が今回の目的を言い当ててきた。もちろん当てられたって事もそうだけど、ウォルタ君とかハク達、ティル君とかランベルさん達しか知らないはずなのに、ピンポイントでその言葉が出てきた事に驚いてしまった。
 「ええっと…、サードって…」
 「僕は一度だけ会った事があるんだけど、保安協会の会長だったはず。何ていう種族かまでは分からなかったけど…」
 「種族名言わない辺り、アイツらしいな。…そうだ、保安協会会長のサードの事だ」
 「保安協会の会長が? …だけどイグレクさん、何で保安協会が出てくるの? 」
 「“ビースト”の件は、元々サード達の種族、シルヴァディの案件だ」
 「シル…、聞いた事ない種族だけど…」
 「ランベルしゃんでもでしゅか? 」
 「うん」
 「サードは“創造”と“原初”が生み出していない種族だが…、“ビースト”を殲滅するために人間に創られたらしい。俺も“終焉の戦”の直後に聞いただけだが…。…で話を元に戻すが、昨日サードから直接聞いた次第だ。まさかウォルタと“原初”以外にもいたなんて思わなかったらしいが、ラテ、サードがお前達には感謝しているそうだ」
 「えっ、僕達にですか? 」
 「ああそうだ。デンリュウのお前は、チーム火花のランベルだそうだな? 」
 「そっ、そうだけど…」
 「お前達が三カ所の“ビースト”を討伐したそうだな? 」
 …って事はやっぱり、あの生き物も“ビースト”だったんだね? シリウス達も見た事がない種族と戦った、って言ってたけど、ランベルさん達もって事は、そっちの方も“ビースト”だったのかもしれないね、きっと…。
 「そんなつもりはなかったけど…」
 「知らないのも無理ないか。公には“参碧の氷原”、“陸白の山麓”は未開の地となっていたが、そこを含めた九カ所はサードが六千年代に“ビースト”を討伐した地点だ」
 「ろっ、六千年って…、もしかしてその人って、伝説の種族なの? 」
 「寿命の概念を消し独りにしてしまった俺にも責任があるが…、それに近いと言って過言ではないな。アイツが六千年代に討伐した場所が、“壱白の裂洞”、“弐黒の牙壌”、“参碧の氷原”、“肆緑の海域”、“伍黄の孤島”、“陸白の山麓”、“漆赤の砂丘”、“捌白の丘陵”、“玖紫の海溝”の九ヵ所。文字に起こせば分かるかもしれんが、数字はアイツが討伐した順だ」
 この九ヵ所って…、ウォルタ君が言ってた場所と全部同じだよね? って事はもしかして、ウォルタ君は一人で九ヵ所に行くつもりだのかも…。ウォルタ君ならいけなくはなさそうな気がするけど、あんな殺戮生物と戦い続けるって思うと、気が滅入りそうだよ…。
 「壱白の…! “壱白の裂洞”って、キュリアしゃんが依頼で行ってるダンジョンでしゅよね? 」
 「そのはずだよ! 確かハクも“リヴァナビレッジ”に寄ってから“玖紫の海溝”に行くって言ってたから、二人とも戦うことになるよね? 」
 「なっ…、その二か所もか? 」
 「…らしいです。って事は…」
 “伍黄の孤島”はライトさんが行ってる気がするし、“漆赤の砂丘”はウォルタ君が大怪我した場所だから…。
 「残りは“肆緑の海域”だけになりますよね」
 …だけど今って登録外のダンジョンの潜入が制限されてるから…、僕達が行くしかないよね? そもそもハク達のギルドに戻れるかも危ういところだけど…、“緊急事態宣言”にあった例外って、どこまでが例外になるんだろう…?




   つづく……

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