5-3 親友の行方

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:13分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 何とかスパーダさんにフライ達の事を紹介してから、僕達はフライ達からある事を聞かされる。
 フライ達が急遽呼ばれた理由がそれみただけど、異世界から沢山の人が侵入してきて、それにとりかかるというものだった。
 スケールが大きすぎてベリーにはピンときてなかったみたいだけど、スパーダさんは何とか理解できたらしい。
 そこから話はウォルタ君の話に逸れて、スパーダさんが知っているという事が分かった。
 [Side Ratwel]




 「…はい、その方でしたら、三階の二号室になります」
 「ありがとうございます」
 三階なら…、個室かな? フライ達と話せた後、僕達は別々に動き始めた。フライとコット君はこの後も予定があるって言ってたけど、昼までなら待てるって言って地下の演習場の方に降りていった。何をするつもりなのかは聞いてないけど、多分シルクの従弟に技とか立ち回りとかを教えてるんだと思う。それでフライ達が降りていった直後ぐらいに、いつの間にか帰ってきてたみたいでチーム火花の二人と合流。二言か三言ぐらい話してから、デンリュウのランベルさんは報告に行く、って言ってベリーと一緒に出ていった。多分ベリーはランベルさんと話したいからだと思うけど…。それで残った僕、スパーダさん、キュリアさんの三人は、少し話してから僕の提案で出かける事にした。それで今着いたところだけど、僕達が来たのは“アクトアタウン”の総合病院。朝礼の時にアーシアさんから聞いたある人に会うために、ここに来てる。昨日から入院してるみたいだから、僕は受付の人に部屋の場所を聞き、初めて会う事になる二人と連れて階段へと歩き始めた。
 「…それにしてもラツェル君、どうして病院なのだ? 」
 「“ワイワイタウン”なら分かるのだけれど…」
 あっ、そっか。そういえばキュリアさん達って、シルクがいなくなったことは知らないんだよね? 背が高いスパーダさんは、コツコツと蹄の音を響かせながら僕に訊いてくる。二人には会わせたい人がいる、ってしか言ってないから、疑問に思うのも無理ないと思うけど…。スパーダさんは昨日来たばかりだから仕方ないとして、キュリアさん達も一昨日に出発したから事情は知らない。だからこの様子だと、キュリアさんはシルクのお見舞いに行く、そう思ってるんだと思う。
 「僕も人伝に聞いただけなんですけど、昨日からここの病院に入院してるみたいなんです」
 僕もどこを悪くして入院してるのかは知らないけど、とりあず知ってる事だけを二人に伝える。一段一段が低い階段を二段飛ばしで登りながら…。それで会う彼の部屋は二号室…、階段から二番目に近い左手の部屋だから、登りきってすぐにその前に立ち止まる。そこの引き戸をコンコン、と二回ぐらい前足でノックし…。
 「ウォルタ君、僕だけど入るよ」
 その中にいる彼に向けて、短く呼びかける。
 「うん、いいよ」
 するとすぐに何か月かぶりに訊く声が、いつもの調子で返ってきた。引き戸を開けたそこにいるのは…。
 「…ラテ君、久しぶりだね」
 「ウォルタ君も」
 僕達の親友のうちの一人で、ミズゴロウのウォルタ君。窓際のベッドに備え付けられたテーブルで何かを書いていたらしく、前足をそこに添えた状態で答えてくれていた。
 「大怪我して入院した、って聴いたんだけど、大丈夫なの? 」
 「うーん…、僕は相部屋でもいいって言ったんだけど、院長が聞かなくてね…」
 あぁ、あの人かぁ…。結構頑固だって聞くけど、やっぱりそうだったんだね…。でも元気そうだから、安心したよ。アーシアさんからあまり訊いてなかったから、僕はすぐにウォルタ君にこう訊ねてみる。低めのベッドだからすぐに分かったけど、入って傍に言った感じだと右の前足を骨折したんだと思う。…けど彼は一度目線を上げて何かを考えてから、不満があったらしく院長さんの愚痴を呟き始める。
 「翼…、じゃなくて前足と検査入院だけなのに、個室って大げさすぎない? 」
 「あははは…、確かにね。でも今のウォルタ君なら、分からなくもないかな」
 「ライトさんにもそう言われたよ」
 あっ、やっぱり? だけどウォルタ君ってラスカでは凄く有名な考古学者だから、要人扱いされても仕方ないんじゃないかな? ウォルタ君の言う通り大袈裟な気もするけど、院長の気持ちも分からなくもない。病院側からすると大口の患者って事になるから、検査入院でも個室に居てもらいたいんだと思う。…それか“ワイワイタウン”の総合病院で一昨日に重症患者が行方不明になった…、その関係で患者の管理を強化してるのかもしれないけど…。でもウォルタ君の事を思うと気の毒だったから、僕はつい苦笑いを浮かべてしまった。
 「…ええっとお話し中悪いのだけれど…、ラツェル君、この子が…」
 「あっ、はい! 」
 そっ、そうだった! 世間話より先にウォルタ君の事を紹介しないと…! 久しぶりに会えたからつい話し込んじゃったけど、僕は遠慮気味に話しかけてきたキュリアさんの一言で我に返る。そのお陰で思い出せたから、僕は短く声をあげてから彼の事を紹…。
 「僕も二人の事は分からないですけど、来てもらったから名乗った方がいいですね。…考古学者のウォルタ、っていいます」
 あっ、ウォル君、自分で…。連れてきた二人に僕が紹介しようとしたけど、ほんの少しの差で本人に先を越されてしまう。よく考えたらウォルタ君自身も知らないはずだけど、慣れてるみたいですぐに話し始める。立場上こういう事が多いのかもしれないけど、彼は手短に自分の事を紹介する。目線もスパーダさんとキュリアさん、交互に二人に向けていた。
 「考古学者…、珍しい職業ね? 」
 「俺は今日一人会ってるのだけど、中々いないのだからな。どこかで聞いたようなきがするのだけど…」
 「確かにね」
 そういえば、フライの事は考古学者、って紹介したっけ?
 「ウォルタ君は僕の一つ下の十七なんですけど、探検隊連盟から公認をもらえているんです。…最近だと、“ルデラ諸島”の解決者で“導かれし者の軌跡”の執筆者の一人、って言った方が良いかもしれませんね」
 あともう一人はシルクだけど、今はそれどころじゃないからなぁ…。聞き慣れない職業だと思うから、キュリアさんは興味深そうに訊き返してきた。確かにキュリアさんの言う通り、“ラスカ諸島”は考古学者だけじゃなくて学者そのものの人口が少ないと思う。ルデラの方はどうか分からないけど、スパーダさんは普通に返しているから、もしかしたらそこそこいるのかもしれない。僕自身は、少ないっていうイメージはあまりないけど…。
 それでウォルタ君自身の自己紹介だと説明不足の様な気がしたから、僕は彼の紹介に補足を加える。元々ウォルタ君の事は僕が紹介するつもりだったから、最近の事も交えて説明してあげる。近況は訊けてないから分からないけど、確かベリーがウォルタ君は伝説の集まりに参加するつもりらしい、ってハイドさんとアクトアに戻って来た時に言っていた。だけど伝説絡みの事は言う訳にはいかないから、僕はルデラとラスカ、両方で有名な事を伝える事にした。
 「るっ、ルデラの? …って事は本当に、あのウォルタなのだな? 」
 「スパーダさん? この子の事を知って…」
 「知ってるも何も、“ルデラ諸島”では知らない人はいないのだ! 」
 流石にスパーダさんは知ってるよね? 僕の予想通りスパーダさんは驚いていたけど、キュリアさんにはいまいちピンときていないらしい。一応ラスカでも本は出版されてるけど、もしかしたらキュリアさんは読んでないのかもしれない。曇った表情で首を傾げているから、本当に知らない、僕は率直にそう思う。そんなキュリアさんとは対照的に、“ルデラ諸島”出身の親方は驚きで興奮していそうな感じだった。
 「だけど筆者は…、エーフィとウォーグルだったような気がするのだけど…」
 「あぁそういえば、あの本はそっちで出してたね。…じゃあ少し待っててください。今変えますから」
 「えっ、ウォルタ君? 」
 ちょっ、ちょっと待って! ウォルタ君、そんなに簡単に明かしてもいいの?
 「まだ紹介して…」
 「ラテ君の知り合いなんでしょ? 」
 そっ、そうといえばそうだけど…、僕もそこまで深く知ってる訳じゃないんだけど…。
 「それにゼブライカさん、Mギア持ってるからギルドマスターなんだよね? 」
 「そっ、そうだけ…」
 「だから…」
 「えっ、なっ、何が…」
 一応僕は止めようとしたけど、ウォルタ君はお構いなしに目を閉じる。確かにスパーダさんはギルドマスターだけど、それでも流石に信用し過ぎだとは思う。…けどこんな風にマイペースなのがウォルタ君だから、半ば諦めてる僕がいるのも事実なんだけど…。でもよく考えたら知られて困るのはウォルタ君自身だから、本人がそれで良いならいいのかな、表情には出さなかったけど僕は密かにこう思った。
 我が道を行くウォルタ君は、僕には構わず目を閉じる。いつも通りなら意識を集中させているはずだから、すぐに激しい光に包まれると思う。案の定その通りになって、その瞬間キュリアさんは驚いたような信じられないような…、そんな感じの声をあげてしまう。一、二秒とかからないうちに光が治まり、彼は…。
 「…あれから初めて変えるけど、こっちは大丈夫みたいだね」
 もう一つの姿、ウォーグルとしての彼がそこにいた。
 「ええっ、嘘…、そんな…、でも何で…? 」
 「本にも書いてあったのだけど、本当にそうだったのだな」
 「そうですよ。夢じゃなくて、本当の事なんです。ウォルタ君は“英雄伝説”、十七代目の“真実の英雄”…。当事者としての能力の一つで、ウォーグルに姿を変える事が出来るんです」
 他にも“加護”を発動させたり技の数が少なかったりするけど…、分かりやすいのはやっぱりこれかな? 姿を変えたから僕は開き直って、取り乱すキュリアさん、何故か納得したような感じのスパーダさんに対して大きく頷く。僕も初めて知った時は驚いたけど、シルクには無い“チカラ”だから、これはこれで強力だと思う。その分技は合わせて四つしか使えないけど、ウォルタ君は水の中でも自由に行動できるし、空も飛ぶことが出来る。だからちょっと、羨ましい…、かな?
 「姿を…? でも“英雄伝説”って、シルクちゃんと同じよね? 」
 「そうですけど…、キュリアさん? もしかしてシルクの事を…」
 “チカラ”の事も知ってるのかな?
 「ええ。この間一緒に調査に行ったから、知ってるわ。伝説に関わってる人には特別な能力があるのよね? 」
 「はい。シルクは僕達の代とは違うんですけど…」
 「五千年前の人なのよね? 今は“ワイワイタウン”の病院で入院してるけれど…」
 「五千年? という事はもしかして、さっきの二人と同じ時代なのだな? 」
 「そう、なんですけど…」
 もしかしてキュリアさん、シルクと一緒にダンジョンに潜入したのかな? あんなに取り乱していたキュリアさんは、ウォルタ君が関わってる伝承の名前を聞いた途端、急に落ち着きを取り戻す。ここでシルクの名前が出てくるとは思わなかったけど、この感じだとシルク本人から聞いていたんだと思う。そうじゃないとシルクも当事者だって事は知らないし、そもそも二千年代の出身だって事も知ってるはずがない。フライとコット君の事は、スパーダさんには話したけど…。
 「キュリアさん達が出た次の日の朝には…、何故かいなくなってたんです…」
 「…えっ? ラツェル君、いなくなったって、どういう…」
 「僕も何のことかさっぱり分からないんだけど…」
 「キュリアさんは途中までは知ってると思いますけど、三日前の夜に、シルクっていうエーフィ…、ルデラの事件の解決者の一人が“弐黒の牙壌”に落ちたんです。事情があって追いかけていたんですけど、同じ目的で潜入してたアーシアさんと中で合流して、二人でシルクを救出しました。…僕達二人は対策をして潜ったんですけど、シルクはその影響で衰弱してしまっていて…。それで救出したシルクを“ワイワイタウン”の病院に搬送したんですけど、昨日の朝にはいなくなっていたんです…。すぐに捜索願を出して他の知り合いにも一緒に探してもらってるんですけど、まだ見つかってなくて…。…それで一つ訊きたいんですけど、スパーダさん、保安協会から通達は言ってると思うんですけど、何か分かりますか? 」
 「うーん、俺は昨日の夕方まではパラムにいたのだけど、そういう依頼は無かったのだな」
 「えっ…。でもそれって変じゃない? 母さんから聴いたんだけど、人探しの依頼って、遅くても出されて三時間後にはギルドに伝えられるはずですけど」
 「そうよね? シルクちゃんのあの様子ならさらわれたとしか考えられないけれど、それなら尚更不自然よね? 」
 「…なのだ。パラムに残ってるリオリナ…、パラムの副親方に訊いても同じだと思うのだけど…。…もしかすると、“エアリシア”の捜索願の方が手一杯で、保安協会も手が回っていないのかもしれないのだな」
 「…だと良いんですけど…」




  つづく……

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想