4-7 水への船内で

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 殺戮生物との戦闘を始めた僕達三人は、様子を見ながら作戦を練る。
 ベリーが技をコピーして斬りかかったけど、異常なぐらい硬くて弾き返されていた。
 けれど僕の黒い眼差しで縛りながら攻めたから、次第に戦況が好転していく。
 その間にティル君が弱点を見つけてくれたから、一気に攻めて倒すことが出来た。
 [Side Unknown]




 「…ジク、…件の殺人事件の首謀者が…、お前だったとはな…」
 「首謀者とは人聞きの悪い…。そもそも囚われの貴様が言えた口か? 」
 「ジク様、予定通りデアナ諸島より到着したとの事です」
 「うむ、ご苦労だった」
 「ジク、お前は何をするつもりだ? 」
 「…古いよしみだ、貴様には特別に教えてやろう。明日、パラムを―――」
 「…リナリテア家も堕ちたな」
 「リナリテアは本来こういうものだ。…だが、エアリシア親方の貴様にも働いてもらうぞ」
 「ハァ? そんな事、する訳…」
 「構わん。貴様、ムナール殿の“・・の首輪”を持ってこい。コイツで試す」
 「かしこまりました」
 「…喜べ、貴様は儂の忠実な隷となるのだ」
 「俺が、お前の? そんな事、死んでもゴメンだ! 」
 「そう怒るな。寧ろ光栄な事だと思うがなぁ! 」
 「ジク様、お待たせしました。こちらが“・・の首輪”になります」
 「うむ、ご苦労だった。…なぁに、貴様はただそこに居ればいい。貴様は―――からな」
 「何…、だと? だがそ…」
 「案ずるな、貴様は何も考えなくていいのだからな」



――――


 [Side Ratwel]




 「ティル君、今日は本当に助かったよ。ありがとう」
 「どういたしまして」
 「討伐だけじゃなくて支援活動まで手伝ってくれたから、リオナさんも助かった、って言ってたよ! 」
 「支援活動は…、職業柄多いから当然の事かな」
 それでもやっぱり、してくれるのとしないのでは凄い違いだよ。力仕事も多かったしね。殺戮生物を倒せた僕達は、一息ついてから村に帰還した。頂上で休んでから下山したから、それからしばらくは村の救援活動を手伝っていた。四足の種族の僕だけは居住区への給仕を手伝っていたけど、ベリーとティル君は支援物資の運搬をしていたらしい。…それを夕方の五時ぐらいまで手伝っていて、最終便の時間が迫ってるからって事で、切り上げてハク達のギルドに戻る事になる。だけど時間がギリギリだったから、パラムタウンまでは全速力で走ってきていた。
 「あはは…」
 「えー、間もなく水の大陸、ワイワイタウン行きの乗船受付を開始します」
 「あっ、もう乗れるみたいだね」
 「じゃあ俺達も行こっか」
 「うん! 」
 何か最近走ってばかりなような気がするけど、まぁいっか。何とか間に合って待合室で待っていた僕達は、まちに待ったアナウンスに耳を傾ける。僕達以外にもワイワイタウン行きの船に乗る人がいたらしく、近くに座っていた二、三人ぐらいが順番に立ちあがる。だから僕達もそれに続き、下ろしていた腰を上げる。ベリーとティル君は椅子から立ち上がってだけど、僕達三人は乗船口へと話しながら歩く。
 「ええっと、三名ですね。よい船旅を」
 「はい、ありがとうございます」
 四番目に並んで順番を待ちながら、僕は着いてから買っておいた三人分のチケットを取り出す。いつもはライルさんに乗せてもらってるけど、今回はそうじゃない。“ニアレビレッジ”に行く前に聴いた事だけど、久しぶりに“カピンタウン”に行って古い友達に会う約束をしていたらしい。明後日まで旅行に行くつもりみたいで、草の大陸の沿岸を一通り巡るんだとか…。
 話が少し逸れたけど、バッグから三人分の乗船券を取り出した僕は、右前足で掴んだそれを係のハスブレロさんに手渡す。ティル君達が会釈しながらゲートをくぐるのを待ってから、僕達は停泊している船にぴょんと跳び乗った。
 「…ねぇラテ? 船使うのっていつ以来だっけ? 」
 「うーん…、一年ぶりぐらい…、じゃないかな? 」
 「もうそんなに経つっけ? 」
 「って事は、ラテ君達っていつも…」
 「あっ、ラテ君! ベリーちゃん達も、今帰るところなんやな? 」
 「うん。…えっ? 」
 ちょっ、ちょっと待って! 何でここから乗ってきたの? 船に乗って通路を進みながら、僕達は思い出話をしながら席を探す。パラムタウンが始発じゃないから、既に何組かのお客さんが席に着いていた。それでも混んではないから、すぐに四人掛けの席に着くことが出来た。椅子に跳び乗って前足を揃えて座ったんだけど、一息ついたところで僕達は急に声をかけられる。咄嗟に答えたからつい頷いちゃったけど、後で振り返るとそこには予想外の人がそこにいた。何故なら…。
 「はっ、ハク? カピンタウンに行ったんじゃなかったの? 」
 「うん、確かに行ったで」
 そこにいたのは、探検隊協会の本部の会議に出席したはずの、ハク…。うしろにもう一人ハクリューがいるから、多分あの人はハクの弟さんだと思う。
 「だけどハクさん? 会議が終わったらすぐに帰る、って言ってたような気がするんだけど…」
 「そういう事になってましたからね」
 もう一人は誰か分からないけど、弟さんを合わせた三人は通路を挟んで隣の席に着く。二人のハクリューとゼブライカ、っていう組み合わせだから目立ってるけど、そのもう一人も誰か分からない、っていう感じで居辛そうにハクと僕達の間で視線を行き来させていた。
 「まぁね。ウチは明日の朝礼で言うつもりやったんやけど、会議で色々と決まってな、その関係でそのままパラムのギルドに寄っとったんよ」
 「そうなの? 」
 「はい」
 「…だけどハク? この人は誰なの? マスターランクだとは思うんだけど…」
 バッグに付いてるバッジがそうだからね。それならどこのチームの人なんだろう? 驚いている僕達とは違って、ハクは揚々と今日の事を話してくれる。会議で決まった事は明日話してくれると思うけど、それ以上に僕、多分ベリーだと思うけど、一緒にいるゼブライカさんの事が気になってしまう。多分会議関係の人だとは思うけど、僕は種族がゼブライカの人に心当たりはない…。一応僕の相づちにはハクの弟さんが応えてくれたけど、首を傾げてるから多分ベリー、それからこの人もいまいち分かっていないんだと思う。すぐにベリーがハクに訊いていたから、僕達はその人の事をすぐに知る事になった。
 「あぁスパーダの事やな? スパーダはウチらの見習い時代の同期。今はパラムタウンの親方をしとるんよ」
 「おっ、親方なの? それにパラムタウンって、名門のギルドだよね? 」
 「そっ、そうなの? 」
 「うん! 僕もハク達を手伝うようになるまで知らなかったんだけど、ラスカでは二番目に歴史が長いギルドなんだよ」
 僕達が卒業したトレジャータウンも有名だけど、パラムタウンには負けるからなぁ…。
 「そうやな」
 「だな。俺は六代目の親方なのだけど、ハク達と成長してきた、って言ってもいいのだな。…っと、紹介遅れたけど、見ての通りゼブライカのスパーダ、っていうのだな。俺は誰ともチームは組んでないのだけど、副親方と行動してきた、て言ってもいいこかもしれないのだな」
 「リオリナとは色々あったでな! …まぁそういう訳やよ」
 「そっ、そうなんだ…」
 「…だけどハク? この三人と仲良さげだけど、どういう関係なのだ? 」
 「おおっとすまへん、そういゃあラテ君達のこと、全然話せてなかったね。マフォクシーのティル君は違うんやけど、ウルトラランクのチーム悠久の風。ブラッキーの彼がラツェル君で、ワカシャモの彼女がベリーちゃん」
 「悠久の風…、確か“星の停止事件”を解決した、有名なチームなのだな? 」
 「あっ、はい。僕達だけで解決した訳じゃないですけど…」
 本当はシルクとフライ、それからハク達とギルドの先輩たちのお蔭なんだけど、僕達のチームだけが独り歩きしちゃってるからなぁ…。結果的にハクが司会するようなかたちで、僕達はお互いの自己紹介をする。ゼブライカの彼、スパーダさんがハクの同期とか、僕は色んなことにビックリしたけど、この感じだと多分スパーダさんも僕達と同じだと思う。情報が多くて整理しきれないけど、スパーダさんはハク達とは修行時代の同期で、今はパラムのギルドの親方をしている。これは僕の予想だけど、スパーダさんはソロで活動しているから、チームは組んでいない。だけど副親方と組むことが多いか…。
 「私達の事、知ってくれてたんですね! 」
 「そうなのだ! ハクから会うたびに訊いていたし、悠久の風の功績は風の大陸でも有名なのだからな」
 「ウチらもリルの事をよく聴いとったでな」
 「リル…? リルって、私達の後輩の? 」
 「そうやよ。パラムの副親方がリルの従姉やからな」
 「ええっ、そっ、そうなの? 」
 「そうなのだな」
 りっ、リル君の…? そんな話、一言も聴いた事無かったんだけど? チームの事を知ってくれていて少し恥ずかしかったけど、この様子だとベリーは凄く嬉しがっていると思う。いつも以上に声が弾けてるから、相当なんだと思う。…だけどこの余韻に浸る間もなく、僕達はまたハク達に驚かされてしまう。何故ならよく知った後輩のリオルの事だったから、僕とベリーは揃って声をあげてしまった。




  つづく……

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