3-2 緊急搬送

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 何とかシルクを救出した僕達は、脱出した先の黒の花園でイベルダルのイグレクさんと合流する。
 イグレクさんの“チカラ”でシルクの状態を診てもらったけど、それは絶望的な内容だった。
 親友を失う事に落胆してしまったけど、アーシアさんのお蔭で気を持ち直すことが出来た。
 諦めていない彼女と一緒に説得した事で、シルクを救うためにイグレクさんに強力してもらえことになった。
 [Side Ratwel]



 「…ラテ、これからどこに向かえばいい? 」
 「ワイワイタウン…、水の大陸のワイワイタウンまでお願いします! 」
 あの街なら緊急外来も受け付けてるから、大丈夫なはず…! 生死の境を彷徨っているシルクを乗せてから、イグレクさんはすぐに飛び立ってくれる。もちろんブラッキーの僕達も乗せてもらってるけど、イグレクさんは全然体制を崩していない。人助けはあまり性に合わない、って言ってたけど、乗せ慣れてるって事は案外していたのかもしれない。こんな事を思う状況じゃないけど、お人好しなんだなぁ、僕はイグレクさんに対してこういう感想を抱いた。
 …それで黒い花畑を離陸してから、イグレクさんはすぐに僕に問いかけてくる。その時にはどの街に行くか決めていたから、その問いかけにすぐに声をあげた。
 「ワイワイタウンですか? 一番近いカピンタウンじゃダメなのです? 」
 「はい…。カピンタウンにも病院はあるんですけど、この時間帯では受け付けてないんです。それにもし受け付けてもらっても、今は風の大陸の災害で人手が足りてないんで、他の街に回されてしまいます」
 「先日の土砂災害だな? 」
 カピンタウンで診てもらえたらいう事無いんだけど、タイミングが悪すぎるから…。アーシアさんは僕の頼みに、首を傾げながら訊ねてくる。アーシアさんが訊いてきた事が正論だけど、今はそれだと手遅れになってしまう。一番良いのは医療設備が充実しているパラムタウンに行く事だけど、ニアレビレッジの復興支援で出払ってしまっている。リリーさんもパラムタウンの医者だけど、そういう訳でニアレビレッジに赴いていた。この事情を知ってたから、僕はシルクの脈を測りながら早口でアーシアさんに説明した。
 「そうです! …アーシアさん、ちょっと手伝ってください! 」
 「はっはい! 」
 「イグレクさんも、ちょっと力がかかるけど耐えてください! 」
 「ん? ああ、俺は構わんが、何をするつもりだ? 」
 シルク…、せめて着くまでは耐えてよ…! 眼下に早朝の海が広がり始めたところで、僕はこんな風に声を荒らげる。耳をつけて心音も確かめていたけど、冗談抜きでマズイ状態になってきてしまっている…。だから僕は、する事を話す前に、簡単な身振りでアーシアさんにしてほしいことを伝える。すると彼女は、半信半疑ながらも、シルクを仰向けにし、かつ落ちないように支えるのに手を貸してくれた。
 背中にかかる力が変わるから、僕は立て続けにイグレクさんにも声をかける。シルクの尻尾をイグレクさんの背に沿わせるように寝かせたから、言わなくても気づいたと思うけど…。だけどこれからする施術のためには必要な事だから、僕はその予告の意味も含め声をあげる。当然イグレクさんは不思議そうに訊き返してきたから…。
 「心肺蘇生です! 」
 僕はその方法の名前を一言で言い放った。それと同時に、僕はシルクに応急措置をとれる体勢になるように移動する。仰向けに寝かせたシルクに馬乗りになり、両方の前足をシルクの肋の真ん中あたりに沿える。左前足を下にし、その上に右を重ねるようにして、その一点に最大の圧力がかけれるような姿勢になる。誰かに教えてもらった覚えは無いけど、何故かこの方法を最初から知っていた。記憶を無くしてるから何とも言えにけど、この時代ではあまり知られてる方法じゃないから、僕が人間だった時に身につけたのかもしれない。
 「アーシアさん、今度はシルクが動かない様に押さえてください! 」
 「はいっ! 」
 「じゃあ…、いきます! 」
 前足だと難しいけど、今はそうも言ってられない! 立て続けに指示を出してから、僕はすぐに施術を開始する。
 「一、二、三、四…」
 瞬間的に前足に全体重をかけ、それを一定の早いペースで続けていく。
 「…二十七、二十八、二十九、三十。…」
 三十回連続で頬骨を圧迫し、いっしゅんだけその手を止める。その間に僕は、閉じたシルクの口を前足で少し開け、そこから直接息を深く長く、二回吹き込む。傍からだとキスしてるように見えるけど、こうしないと患者の体中に酸素が回らない…。異性のシルクにしてるから恥ずかしいけど、それ以上にシルクを助けたい、っていう想いの方が強いから、全然気にならない。
 「一、二、三…」
 それを僕は、ワイワイタウンの病院に着くまで、何度も何度も繰り返した。



――――



 [Side Ratwel]



 「…ラテ、着いたぞ」
 「ありがとうございますっ! ラテさん! 」
 「うん! 」
 ここまで来たら、あとはシルクが頑張ってくれるだけだね…。イグレクさんが全速力で飛んでくれたから、予定よりも早くワイワイタウンに辿り着くことが出来た。詳しい時間は分からないけど、太陽の高さからすると、三十分から四十分ぐらいだと思う。その間もずっと胸骨圧迫を続けてたから、前足が結構痛い…。だけどそうも言ってられないから、僕はイグレクさんが着陸してくれた人通りのない広場に、シルクを背負った状態で降りる。ずっと手伝ってくれてたアーシアさんも僕に続き、直接見た訳じゃないけどぴょんと跳び下りていた。
 「…ラテさん、シルクさんは大丈夫そうですか? 」
 「うーん…、何とも言えないけど、体温は下がりきってないから、多分…」
 冷え切ってないけど、際どいかもしれないね…。ここまで乗せてくれたイグレクさんにぺこりと頭を下げてから、僕達は近くの病院目指して一気に駆け出す。まだ早い時間だから殆ど人影は無いけど、これが昼間だったらちょっとした騒ぎになってたかもしれない。だけど今は静まり返っているから、僕達は何も気にせず全力で駆け抜ける事ができた。
 シルクが落ちないように走っていると、並走するアーシアさんが僕に尋ねてくる。角を左に曲がりながら、僕はありのままの状態を彼女に伝える。専門家じゃないから正確には分からないけど、水みたいに冷えてないから、まだ辛うじて大丈夫だと思う。脈もほんの少しだけ戻ってるような気がするから、命の瀬戸際でシルクも頑張ってくれているはず…。
 「…兎に角、すぐそこが病院だから診てもらいましょう! …すみません! すぐに診てください! 」
 「…はっ、はい! どなた…」
 「エーフィのこの人ですっ! 」
 シルク、あとは病院でしてもらおう! だからシルク、あともう少しだよ! 降りた場所から二分も走ると、この街の総合病院が見えてくる。アクトアタウンに行くのに慣れ親しんだ街だから、僕は一切迷わず目的の施設に辿り着く。二十四時間開いている通用口を蹴破る勢いでくぐり抜けると、間髪を入れず僕は声を荒らげこう呼びかける。深夜業務の終わりがけって事もあって、その受付のペロリームを叩き起こしてしまった。
 「きゅっ、急患? 先生、急患です! 大至急お願いします! しょっ、少々お待ちください! 今先生を呼んできますから! 」
 頼みます! 言葉を遮ったアーシアさんのこの一言で、受付の彼女は慌てて奥に呼びかける。かと思うと、若干取り乱しながらロビーの奥の方へと駆けだそうとする。だけ三歩進んだところで慌てて足を止め、一歩振り返り、僕達に一言付け加える。そのまま彼女は、一度止めていた足を、再び進めてバックヤードへと走っていった。
 「…ここまで来れば、大丈夫ですよね? 」
 「多分ね…。…アーシアさん、暫くシルクを頼んでいいですか? 」
 「いいですけど、どこへ行くのです? 」
 「アクトアタウンです。そこにチームメイトと友達がいるから、呼んできます! 」
 「あっラテさ…」
 とりあえず病院には着いたから、今度はシリウス達に伝えないと…! 受付の人が去って静かになったところで、アーシアさんが僕に声をかける。救出してからの目標は達成した事になるから、多分シルクの容態の事も含めて訊いてきたんだと思う。だから僕は、一度近くのソファーにシルクを下ろしてから、同族の彼女に質問を返す。そもそもほ発端はダンジョン内でアーシアさんから聴いたから、分かってるつもりではいる。だから僕は、次にするべきことを考え、アーシアさんにこう頼み込む。元々僕はシリウスに頼まれている身だから、その報告を兼ねて…。彼女は首を傾げながらも頷いてくれたから、僕はすぐに行動を開始する。駆けだす背中にアーシアさんは何かを言おうとしてたけど、僕は構わず朝の街へと跳び出した。



――――


 [Side Unknown]




 「…うむ、ご苦労だった」
 「…ですけど市長、本当にするつもりなんですか? 」
 「有能な協力者を得た訳だ、ここで泳がせてきた奴らを潰さずしていつすると言うのだ」
 「その通りですけど、それだと…」
 「構わん。儂に従わないのなら、儂の敵である事に変わりない。ムナール殿の手案を測るいい機会…。リ・を失うのは惜しいが、所詮彼奴も出来損ないの反逆者…。そのために可決させた法案…、儂の妻も心待ちにしていた事だ。今晩中に行うよう準備を進めるがいい」
 「…かしこまりました」



  つづく……

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