『夜霧』 2

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Asmuo リドリアル・ドイル

「私のは『夜霧』。以後、宜しくお願い致します」

そうドラミドロが口にした名前。その名は、俺が確かに耳にしたことのある名前だった

「『夜霧』ってお前・・・てことは・・・」

と、そんな俺の言葉を、相手のドラミドロが遮ってくる

「おっと。互いの詳しい詮索は無しにしましょう・・・。それに、分かっているはず、ですし」

「・・・そうだな。それに、今は依頼主と探偵の関係だ。お前が何者であろうと、金さえ払ってくれるなら仕事はしよう。・・・もちろん、傷害、殺しは無理だが」

俺がそう伝える。が、俺の意図を知ってか知らずか、『夜霧』は笑いながら答える

「いやいや、そんなことじゃないですよ。単純に私の知り合いを探し欲しいんです」

と、案外と『夜霧』から聞かされた仕事内容は、簡単なものだった

「ポケモン探し・・・?」

「そうです。古い友人で、私の命の恩人でもあるんですが・・・まあ、そんなことより、引き受けてくださいますね?」

割と焦っているのか、少し食い気味に夜霧は聞いてくる

「ああ・・・もちろん、相応の対価があるならやろう」

忘れちゃいけない。どんな相手であっても、報酬は支払ってもらう。それは探偵業の掟だ

「もちろん、お支払いしますよ。前金で金貨20枚、成功報酬は白金貨10枚、どうだ?」

その額を聞いた途端、俺は驚愕した

「前金で金貨20枚・・・?!まじかよ」

「ええ。大真面目です」

探偵が受けるポケモン探しの報酬は、成功報酬金貨15枚ほどが相場と言われている。昔俺が調べ上げた結果だ。だが、俺が驚愕したのはそこだけではない

「前金・・・お前、ポケモン探し程度だぞ?言っちゃ悪いが、成功報酬すら払われないようなことがある業務だぞ?相場分かっていってんのか?」

そう、何よりも驚いたのは、前金が出る、ということである。しかもその前金が相場の成功報酬よりも高いとあれば、驚くのも無理はないだろう

「面白いことを聞くんですね」

と、相手は笑っているが・・・

「いやいや、コレ、意外と重要な問題だぞ?後から「やっぱり払えません」とか言われても困るしな」

そう俺が念を押す、というよりも、確認するが、相手はそれでも笑っている

「大丈夫ですよ。確実に払います。それに、〔ウチ〕が何やってるかは、貴方もご存知の通りでしょう?」

うっ・・・それを言われるとなかなか言い返せないな・・・

「まあ、そんな感じです。あの方がいなくなってから、結構うちも荒れてましてね。探そうにも、今は誰も手が離せない状態が続いていましてね・・・どうしたもんかと思っていたんですけど、まあ、それなら本職の方に探してもらえばいいんじゃないかな、と」

唐突に流暢な語り口になったが、コイツ、結構苦労しているのかもしれない・・・

「そんなわけで、一応上役な私がここに来たわけですよ」

なるほど

「事情は分かった。まあ、断る道理もないしな」

その言葉に、喜びを隠そうともしない夜霧。双方の合意に至るまではあと少しだ

「じゃ、早速だが。契約をかわそう」

その提案に、体を乗り出しつつ夜霧が応じる

「では!」

「ああ、受けてやるよ。で、だ。この紙が契約書だ。全部読んだら、ココにサインを書いてくれ。あとで俺も書く」

苦笑気味に俺が差し出した契約書を受け取ると、夜霧は椅子に深く腰掛けなおし、内容を読み始めた。契約書の内容はこんな感じだ

【契約書

 1,契約主(依頼主)は、依頼内容を確実に伝え、探偵がそれを理解している

 2,依頼主は、依頼完了時点で、探偵側が納得のできる成功報酬を払える状態である

 3,依頼主は、いかなる理由があっても、探偵側の調査、およびそれに類するすべての探偵活動を妨害、またはそれに値する行為を、どんな方法であっても行ってはならない

 4,依頼主から依頼の中断を申し入れた場合、探偵側はその時点でそこまでの調査結果を報告し、依頼主側はその報告に見合った報酬を渡さなければならない

 5,探偵側は、いついかなる場合でも、依頼主を脅したり、不当に依頼主を生命活動やその他の危機に脅かしてはならない

 6,探偵側は、完全守秘義務を前提とし、情報が漏れた場合は、最初に疑われなければならない

 7,探偵側は、依頼を遂行し、それに見合った報酬を受け取ることを可能とする。それに際し、不当な調査、報告などをせず、必ずどんな場合でも、真実を報告しなければならない。ただし、依頼主から報告を拒まれた場合などは、この報告義務は失われるものとする

 8,依頼主側、探偵側共に、依頼に際し、双方がこの契約書をよく理解し、どちら共の押印、またはサインをもって、依頼を受け付けるようにする。どちらか一方の合意がない場合、この契約は直ちに破棄されなければならない

 9,上記の契約書の内容の他に何か規定を設けるのであれば、それは双方の合意がなければならず、その場合はこの契約書に書き足し、いついかなる場合でも依頼主側と探偵側が1枚ずつ厳重に保管しなければならない

 10,双方どちらかに命の危機があった場合、契約はいったん取りやめにし、その時点で双方が対面しなければならない。これは、双方の安全を確認するものであり、絶対の効力は有さないものとする

                                        以上】

と、そんな感じだ。師匠直伝で俺が勝手にアレンジしているが、一応今のところトラブルはない。内容が小難しいためか、簡略化したものの方が好まれているが、俺はこのガッチガチの文体が結構好きだったりする

「なるほど。よく考えつくものだな」

「俺じゃねえがな」

契約書をひとしきり読み終えた夜霧は、2枚の契約書にサインをしつつ、そのまましゃべり続ける

「紙をこうも惜しげなく使うとは、なかなか儲かってるらしいな」

「そりゃどうも。だが、それを調べて俺のところに来たんだろう?こっちからしてみたら、お前らの金の出どころの方がよっぽど気になるが」

「はっはっは。成程。確かにそれもそうだ。無礼を詫びる。なかったことにしてくれ」

「いや、べつにそっちと戦争始めるわけでもねえから、いいけどよ」

と、そんな無駄話をしている間に夜霧が2枚とも書き終えた。それを俺は手元に回し、俺もサインを書いて行く。手慣れた作業だが、失敗するわけにもいかない

「さて、と。こっちがお前が管理する方だ。書き足しはしないでくれ」

その言葉の意味を瞬時に悟ったのか、俺から手渡された紙と、そしてもう一方の紙を眺めながら夜霧が答える

「本当によく考えつくな。うちの団でも実践していいか?」

おっと、そう来たか

「ああ、べつに構わねえぞ。ただ、俺が始めた、とかいう噂は流すんじゃねえ」

「心得ている」

よろしい

「ま、これで取り敢えず契約は交わされた。じゃ、ここからが本題だ」

と、契約書を鞄に突っ込みながら、俺は話を切り出す

「そのポケモン・・・ま、あのお方、について、聞かしてくれ」

まだ帰るには長そうだ。妙に張り詰めた空気を入れ替えるようにため息を一つ。さて、頑張るかね










「さーて、終わった終わった」

「では、よろしくお願いしますね」

「おう。任せときな」

どうにかこうにかと会談を終わらせた俺たちは、店の外に出る

「本日はありがとうございました」

と、夜霧は俺に頭を下げてくる、が。いや、違うだろ

「待て待て。まだだろ。俺はまだ頼まれただけだ。これからだって」

俺の言葉を受け、俺の頭上までも下げられなかった頭をあげた夜霧は

「何かありましたら、何なりとご通達ください。うちの団でできることはなんでもしましょう」

「ま、もしかしたら使わさせてもらう・・・かもな」

「では、私はこれで。またお会いしましょう」

そう言い残して去っていく夜霧。なかなかにあっさりした奴だが、そこまで暇でもなかったのだろう。むしろ、俺のために費やした時間はなかなかに多かったはずだ。ご愁傷様

「・・・うへ~、めっちゃ遅くなったな・・・。帰るか」

特に誰に聞かれるでもない独り言をつぶやきながら、夜霧からもらった情報の入ったバッグを大事に抱える

「さてさてさーて、帰りますか」

メンドクサイ仕事にはなりそうだ。時間もかかるだろうし、何よりなかなかに危険な仕事

「でも、金はいいんだよなあ」

情報、という名の前金は一括で俺のバッグの中にリスポーンした。そんなものを果たして手放すか。危険と隣り合わせの幸福。今を生きて金を逃すか。それとも、死を覚悟で莫大な金を手に入れるか。何が大事か考えた俺のとった行動は

「つまりはそういうことだ」

寝よ











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