『始動』

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Asmuo リドリアル・ドイル

夜も更ける。帳が降りる

『OPEN』を『CLOSE』に戻し

リビングの電気を消し、寝室の天国へと潜りこむ。音速を超えたまどろみに、抗うことなく呑まれようとしたが

「おっと・・・日記書くか」

どれだけ眠くとも、疲れていても、週間ごとの習慣は欠かさない(ドヤ)。業務用でもある訳だから、欠かすわけにもいかないが

「よっと・・・」カチカチッ パチッ

空にある2つの月よりも明るい雷の石2つを打ち鳴らして明かりをつける

「そろそろ変え時だな」

そんなことを呟きながら妙に重い本のページを開き、羽ペンにインクを付けつつ何を書くか思案する



【龍月 8日   名〖リドリアル・ドイル〗】



取り敢えず月の初めだから、とノリで月日と名前を書いた。さて、早くもネタ切れ、夜に回す頭はない



【 今週はドタバタとした仕事はなく、落ち着いた1週間だった。永遠にこんな日が続け、と思うが、それだと俺が生きていけないので、適度に事件が起こってほしい。むしろ起これ】



息子が行方不明とか言ってお金持ちのマダムが飛び込んでこないかな、とも思ったが、よくよく考えると、お金持ち、という時点で何か事件に絡んでいるのは明白だな。子供が大好きな奥様が全財産持って飛び込んで来い



【よくこんな性格で探偵が続いていると思う】



おっと、いらんことを書いてしまった。ガリガリと仕事用の羽ペンで願望に横線を引きつつ

「書いた文字が消せるペンとかねぇかな」

無理だ、ということが分かっていても、ついつい考えてしまう。俺だけではないはずだが・・・

ゴーン・・・ゴーン・・・

その時、壁に掛けてあった時計から、重々しい音が鳴る。完全な深夜の合図であり、もう寝ろ、という神のお告げだ

「もう・・・ゴールしても・・・いいよね・・・」

ほぼうつろになった半目で、確認もせずに日記を閉じ、その勢いでそのまま再び天国へと逃げ込む。ココが俺の終の棲家

「ま、明日のことは明日考えればいいだろ」

この言葉が明日を脅かすことも知らず(主に食料面)、俺は・・・意識を投げ出・・・










翌日

始業ギリギリに起きた俺は、慌てて毛づくろいをし、コーヒーを片翼に『CLOSE』を『OPEN』に反転させる

「にっが・・・マジかよ」

適当に入れ過ぎたコーヒーにスティックシュガーをぶち込みつつ、焼きあがったパンを口に放り込んで、何とか朝の支度を終えた


時は9時。寝すぎ、俺


そういえば、昨日は何を日記に書いたんだっけか、と思いつつ、乱雑に机の上に出しっぱなしになっていた日記のページを開き、再度顔をしかめた

「・・・書き直しか?これ」

相当な眠気だったのだろう。文字がかすれたりよれたりしていて、ほとんど何が書いてあるかわからない。最悪ページを破り捨てることも考えたが、パラパラと前のページを見返していると意外と似たようなページが大量発生していたため、いつものことか、と思い直した

それにしても、平和である。この街、イツゴシティが特に治安がいいわけではない。他の街よりも防犯意識は高いだろうが、それでも毎日誰かが殺されているし、ギャングたちが巣くっている場所もある。いかにこの事務所兼自宅が街の近くにあるからと言って、それが仕事の消滅になっているとは考えられない

持て余した羽にペンを絡めて、決して無駄遣いをしてはいけない紙に地図を描く。職業病にもなりつつある地図描きだ

街の名前や道の名前と共に、その街の情報を重ねて描いて行った



【町】

ロゼタウン 小さな町。多分最も平和。そもそもポケモン自体が少ない。生まれ故郷

イチイシティ ロキ山脈の中腹から麓にかけて位置するそこそこ大きな街。鉱石採掘場が観光地

ドヴァータウン 人工島を有し、加工を産業とする町。イチイより大きいが、住んでいるポケモンがイチイよりも少ない

トリデタウン 昔の情緒が残る町。戦のあとなどが生々しく残っている場所もある

フィーアタウン 川、海、山に囲まれ、都心部にも近いことから高級住宅街となっている町。憧れ

イツゴシティ フィギアド地方最大の都市。すべての情報、ものが届く。俺が住んでいるのもここ

ロムシティ 工学が発展した街。街の至る所に絡繰りを使用した器械と呼ばれるものがある

セナタウン 星がきれいに見えるといわれ、天文学が栄える町。その昔隕石が落ちてきたとか

ヤツハシティ 食べ物がおいしい。甘いものとか。わざわざフィーアタウンから買いに来る奴がいるくらいには美味しい

ココナツ島 島。特に何かがある訳ではないが、避暑地になったりする。ヤツハシティから行ける



その町に住んでいる、もしくはいたポケモン達から聞いたものだから、信憑性は高いはずだ。調べるつもりはないが。こういうところで職業ゆえの情報収集能力が生きてくる。まあ、紙に落書きしてるだけなんだが



【道・水道】

第1番公道 イツゴシティとイチイシティをつなぐ道路

第2番公道 イツゴシティとロムシティをつなぐ道路

第3番公道 イツゴシティとヤツハシティをつなぐ道路

第4番公道 イチイシティとドヴァータウンをつなぐ道路

第4番水道 イチイシティとドヴァータウンをつなぐ水路

第5番公道 イチイシティとヤツハシティをつなぐ道路

第6番公道 イツゴシティとドヴァータウンをつなぐ道路

第7番公道 ヤツハシティとセナタウンをつなぐ道路

第8番公道 ロムシティとセナタウンをつなぐ道路

第9番公道 イツゴシティとトリデタウン、フィーアタウンの3つをつなぐ道路

第10番公道 ロムシティとフィーアタウンをつなぐ道路

第11番公道 ドヴァータウンとトリデタウンをつなぐ道路

第12番水道 ヤツハシティとココナツ島をつなぐ水道。最近完成した

第13番公道 イチイシティとロゼタウンをつなぐ道路。現在計画が進行中



ちょっと文字がつぶれて見づらくなったが、まあ、こんなもんだろう。さらにそこに書き足してゆく



【その他】

ロキ山脈 ロゼタウンを囲むように突き上げている山脈。この地方で最も高い山がある。詳しい高さは分からないが、明らかに高い

バレル湾 イチイシティとドヴァータウンの間にある湾。ドヴァータウンは、この湾の上に人工島を形成している

フィー・ドット平原 ドヴァータウンとトリデタウンを結ぶ道、第11番公道がある平原。廃墟や遺跡のようなものも見られる

カンデラ岬 トリデタウンの先にある岬。フィーアタウンに海から物を運ぶ者たちへの道しるべとなる

オームの森 イツゴシティとフィーアタウンの間にある森。昔から不可思議な事が起こるとされていて、第9番公道は、この森を避けるように作られている

メート川 フィーアタウンの中心や、ロムシティの近くを流れる、この地方で一番長い川。いうほど長くない

ヘルツォ台地 平たい岩がいくつもせり出している台地。物珍しい奴では、ここで住んでいる奴もいるらしい



色々と余計な事も書いたが、大体こんな感じだ。我ながらうまくできた、と、自分の頭上に掲げて頷いた









暇だ







具体的に言うと、1週間ぐらい前から猛烈に暇だ。まったく仕事が入ってこない。いや、俺、つまり私立探偵のところに仕事が入ってこないということは平和、ということではある。警察が解決できなかったもの、警察に相談できないもの、のような事件が舞い込んでくることがよくあるが、そういうものがないというのは、単純にいいことではある


だが、それは一般市民と警察のお偉いさんだけの考えだ。俺はよくない


まず、仕事がなければ金がもらえない。金がもらえなければ食い物にもありつけず、この家も住めるか危うくなる。ああ、仕事が入る、というのは直結して俺の生活なのである。つまり、適当な仕事をしてお金が欲しい。あー、お金欲しい。寝てるだけでお金入らないかなー

と、一応こういう時の為に、多額の貯金はしてある。探偵というものは時代と共に移り行く職業だ。いついかなる時でも仕事になるとはさすがの俺も考えていない。それに、仕事がない時の対処法、というものもある

俺は、つい30分ほど前に開けたばかりの事務所の『OPEN』の掛け看板を『CLOSE』に戻し、机の引き出しから1枚の手紙を取り出す。ふと何故か中を読みたくなって、何年も前に切られた封を開け、中に目を通した


【拝啓  リドリアル・ドイル様

   こんにちは このような形で依頼を出すことになってしまい、申し訳ありません

  しかし、どうか、こうするしかない私の状況をご理解ください

  今、私は、貴方の生まれ故郷、ロゼタウンにいます。貴方が生まれたときと変らない

  とてものどかなところです

   これから、私は、色々な場所を旅します。様々な花を見つけ、ポケモン達とふれあい

  それでも同じ空を見ながら旅をしたいと思ってます

   そこで、探偵になった貴方に依頼、というよりも、お願いがあるのです

  すぐでなくて構いません。仕事が開いた時で構いません

  暇なとき、私と会ってはいただけませんか? 何年後でも構いません

  もちろん、無茶でわがままなお願いだとはわかっています。それでも、私には

  旅をすることも、貴方と会うこともどちらも譲れないものなのです

  あなたが今どこにいるかは分かりません。探偵になった、ということだけ聞きました

  もしも、貴方がまだ いつでも 貴方でいてくれるなら

  いつか会いに来てくれると信じているから。どうかよろしくお願いいたします

                         追伸 貴方の妹 リドリアル・シール  】


つぶれたり、汚かったり。決してお世辞にもキレイとは言えない字だが、懐かしい文字。確かに俺の妹の字だった

俺の妹は、生まれつき体が弱かった。詳しいことはここでは色々と省くが、俺がロゼタウンを出た後もその病弱な体に悩まされていたと聞いている。だから、この手紙がペリッパー便で運ばれてきたときにはうれしくて事務所を飛び出したほどだ。病弱だった妹が、旅に出る、と

そのあとも、仕事の合間を見つけて色々と探してみたが、今日まで妹の痕跡は見つけられていない。この地方での旅の死亡率は優に20%を超える、と言われている。理由は様々だが、無残な最期を迎える者も少なくない。俺は、この手紙が届いた後、その手の仕事の依頼に対しては覚悟を持って対応している。一度、死んだチルタリスの身元調査をしてくれと依頼されたことがあり、この時は現場を見るまでは気が気ではなかった。遺族には申し訳ないが、少しほっとしてしまった

さて、こうつらつらと手紙の経緯について思い返したが、これ以上この場にとどまっていても妹の情報は出てこないだろう。妹の情報を集めるために続けていた探偵だが、そろそろ潮時だ。そもそも、仕事が1週間入らなかったら仕事を辞める、ということも決めていた

「だったら」

と、軽い腰を浮かせた俺は、貴重品や食料などの備品のチェックを始めてみる。仕事を辞める、と言っても、この家を売り払う訳ではない。それこそ路頭に迷い、下手したら妹より先に命がおじゃんだ。そんなことにはならないよう、少なくともここが安全であるように、備品のチェックを進める。足りなさそうなものを紙に書きつつ整理をしていく。単純作業の為、とてもつらい。つらみ





全部の備品のチェックを終え、足りないものの買い出し覆えると、すでに時刻は午後の6時を回っていた

「あー・・・こりゃ、始動は明日からだな」

昔から独り言が多いと言われている俺の言葉を待っていたいたかのようにドアがノックされる

コンコンッ

さして急いでるようなノック音でもないので、俺はどうやって依頼を断ろうかと思案しつつ、そういえば普段はこの時間はまだ事務所は開いているはずだな、と思い返す。さて、どうやって追い返してやろうか・・・

「あー、すまないが、今日の営業はもう・・・」

そういいつつ俺がドアを開けると、意外にもそこには見知った顔がいた

「なんだ、エリトラか」

俺がエリトラ、と呼んだ相手、ヤミカラスは、楽しそうに鳴きながら2度頷くと、首に下げていたカバンを地面に落とした。どうやら、自分で拾って読め、ということらしい

「お前、いつもそうだな」

「クアッ♪」

変わる気はなさそうだ、と苦笑いをしながら。先ほど買ってきたチョコレートを奴の方に投げてやる。鋭いくちばしに納まるソレをろくに確認もせず、俺は手紙を開いた

「ん?宛名がねえのか。事件か?」

手紙の両側をペラペラと確認しながら、ま、いっかと手紙を読み始めた


【 初めまして このような形の依頼、申し訳ない

  さて、前置きはこのあたりにして

  明日の夜22時。イツゴシティの4番街の店『タントーク』まで来ていただきたい

  それでは、明日会えることを楽しみにしている                 】



4番街『タントーク』、と言えば、そこそこ名の売れた店である。4番街、というのがそもそもいい場所であるから、罠や釣りなどの危険性はあまりないといっても過言ではないだろう

「エリトラ、これ、誰からもらったんだ?」

俺は、勝手に家に上がり込んで俺の備品を漁り尽くしているエリトラに非難の目を向けながら訊ねる。まあ、答えは大体わかっているのだが・・・

「ん~?うんにゃ~、覚えてないよ~」

この野郎。今夜の晩御飯にしてやろうか

「ま、まあいい。サンキュ」

「ん~。じゃあまたね~」

そう言って、やっとエリトラは飛び立っていく。もう夜の為、闇夜カラスである。名前負けしていない

「・・・滑空しろよお前」

そんな言葉を夜に飛ばして、俺はドアを閉める

「また買いに行かなきゃな」

それと、妹探しも少し後になりそうだ、とため息をついて







【のちにこの日が、私にとっての『始動』の日となるのだった】









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