第四十五話 絆の力

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お待たせしました。第四十五話です。

…魂が浮いていた……


燃えるような温かみを持った橙色の魂が……


それはふわふわと空を舞いながら……


何かを求め右往左往していた……


やがて……


目的のものが見つかると……


その魂は吸い込まれるように……


まだ僅かに命の鼓動を残す……


蒼き闘士の身体へと沈んでいった……

◆◆◆

[第四十五話 絆の力]

「何だ…?」

宿敵を倒し、トレジャータウンを去ろうとしていたダークライは、突如背後に何かの波動を感じ、振り返った。

「あれは……」

激突の地……トレジャータウン中心部から明るい波動が伝わってくる。ダークライにとって、この世界に不必要な明るい波動が……

「何が起こっている…?」

何か嫌な予感がするダークライ。居ても立っても居られず、踵を返し、引き返した。


「ちっ…傷に触る……」

近付けば近付くほどに強くなる謎の波動。仄かな温もりを持つそれはダークライからしてみれば嫌悪感の塊以外の何物でもなかった。

やがて先刻まで激闘の繰り広げられていた忌まわしき地へと再び戻ったダークライ。其処で真っ先に異変に気付いた。

「どういう事だ…?ハヤテの亡骸は…!」

其処にある筈の、自身の手で仕留めた筈の、ハヤテの姿が見えないのだ。あるのはハヤテの作った血溜まりのみ。

「何処だ!ハヤテ…ぐはっ…!」

大声で叫ぶダークライの体に突然衝撃が走り、そのまま吹き飛ばされ壁に全身を叩きつけた。

「うぐ…この感じ…!」

衝撃と同時に感じた強力な気配。ダークライにとっては二度と感じる事はなかった筈の気配。

「何故…生きている…!ハヤテ!」

ダークライの睨む先で仁王立ちする存在……それはダークライが己自身の手で仕留めた筈のハヤテだった。

だが、何処か様子がおかしい。

「何だ…?その姿は……」

その手、その足の先は炎のように赤く、頭部に揺れる4本のフサはより長くなり、そして大きく揺れている。そして何より目立つのは筋肉の細く締まった強靭な体。

(待て……何処かで見た事がある……確か……)

ダークライは痛む腹部を押さえつつ、壁に背を預けながら浮き上がった。

「お前が地に伏してから…私が再びここに戻るまでの間に…何をした…!」

「簡単に言えば、『絆の力を受け取った』かな。」

「…?どういう意味だ…?」

「お前には無縁の、新たなる進化だ。」

「……!」

その言葉を聞いてピンときたダークライ。大きく変わったハヤテの姿もあり、思惑は確信に変わったようだ。

「そうか……それが…メガ進化…!」

「メガ進化」……それはポケモンの通常の進化の限界を突破した新たなる進化の事である。進化は一時的なものである代わりに、攻撃力や防御力など、其々の力が数段階上昇する。ルカリオのハヤテの場合、一般的に「メガルカリオ」と呼ばれる。

しかし殆んどのポケモンたちはメガ進化したポケモンを見た事がない。そもそも存在が知られているくせにメガ進化する手段自体は知られていないために、最近ではメガ進化自体が架空のものではないかという疑惑まで生まれているほどだ。また、運良くメガ進化しても、力を上手く制御出来ず、最後は暴走してしまう為、真の意味で進化する事が出来ない。

「噂には聞いていたが、まさか目の前で見せられるとはな……だが死にかけのお前が突然の変化……何をした…!」

助かる見込みがないことはダークライ自身が直接その目で確認している。動けそうな状況でなく、特別な道具を持っているわけでもない。それでもハヤテがメガ進化した理由が、ダークライには理解できなかった。

驚きや焦りなど、様々な感情の入り混じった顔と声でダークライは叫ぶが、ハヤテはそれに返答せず、ダークライから広大に広がる暗い空へと視点を変更した。

(ありがとな。ツバサ……)

遠い空を見つめるハヤテ。其処には辺りの薄暗さの要因となった闇とそれが入り混じった濁り雲のみがあり、ダークライが見ても何も見えなかったが、ハヤテには何か見えているのかもしれない。

「決着をつけようか、ダークライ。お前には今の私は倒せない。」

ダークライを真っ直ぐに見据え、挑発するかのような口調でそう言ったハヤテ。普段のダークライならすました顔で受け流すか軽く反論するだろうが、今のハヤテは言葉に表した事を現実にしそうなオーラを醸し出しており、言葉を返そうに返せない。

「これが…ツバサと私との絆の力だ!」

言うなりハヤテは瞬時にダークライの側へ移動し、体をひねりながらダークライへと強烈な回し蹴りを繰り出した。ダークライは体勢を低くして辛うじて避け、蹴りの一撃は背後にあった石柱に命中した。

ズゥン…!

石柱はひび割れたところから石の砕ける音を立てながら前に倒れ、両者を強制的に後退させた。が、ハヤテは後退後すぐに前方へ跳び、石柱を越えた先で空中からダークライに向けて連続で蹴りを入れた。

「う…ががっ!」

メガ進化して何倍にも強化されたハヤテの蹴りを連続で受けたダークライの防御は崩れ、力強い一撃をダークライはまともに受けてしまい、その場に崩れ落ちた。その隙にハヤテは後ろへ跳び退き、先ほど蹴り倒した石柱に手を掛けた。

「は…あっ…!」

石柱が地と擦れ、ズリズリと音を立てる。ハヤテは石柱を脇に抱えると低い掛け声と共に立ち上がった。

「お…おおっ……」

直径およそ30センチ、重さ数百キロもあろう、白い石製の円柱を苦にせず持ち上げたハヤテ。思わず感情が声に表れたダークライを見下ろすと、石柱全体を波導で覆い尽くした。

「はあああっ!」

石柱を前方に向け、それを抱えたままハヤテが突進する。石柱は波導に包まれているためすり抜けて回避する事が出来ず、ダークライは《守る》で防御した。

「無駄だ…!」

石柱は《守る》状態のダークライに激突し、あまりの威力にダークライは防御したまま押し出され、石柱ごと建物を幾つも打ち破った。

「ちっ…!」

その時に聞こえた舌打ちは、ダークライを仕留め損なったハヤテのものか……頑強な防御でも攻撃を抑えきれなかったダークライのものか……

(技でもない…ただの攻撃で我が防御に張り合うとは…!)

《守る》のお陰でダメージは無いが、技を発動した自身が石柱の一撃で吹き飛ばされた……その事実がメガ進化の強さと恐ろしさを物語っている。ダークライの頬に冷や汗が流れる。

(!、来る…!)

ダークライの蒼い瞳には、石柱を抱えたまま空中に跳び上がるハヤテの姿が映っていた。ハヤテは空中で石柱を投げ出すと、棍棒で一瞬のうちにバラバラにした。そしてそれらをダークライに向けて次々に足蹴りした。

「鬱陶しい…!」

ダークライは闇で短刀を幾つも作り出し、飛んで来る石塊へと放った。石塊を包む波導を闇で消し去り、残った石塊は自身のすり抜ける能力で回避するつもりだ。

「…むっ…!」

ダークライの睨みつけるその先に石塊と共に飛んで来る青い存在が見える。このままではまずい……そう思ったダークライは後方に退避した。


ハヤテは石塊の中に降り立ち、辺りを見渡した。そして前方のやや離れた所にダークライの姿を確認すると、棍棒を両手で横向きに構えた。

「神速…!」

その一言と共にハヤテは消え、次の瞬間にはその姿はダークライの目前にあった。避ける間もないダークライ。構えた棍棒がダークライの腹部にめり込んだ。

「待て…がはっ!」

唾を飛ばし、棍棒に腹部を圧迫されながら、勢いに任せて押し出されるダークライ。そのまま吹き飛ばされ、自らが作った瓦礫の山に突っ込んだ。

「がっ…はっ…はっ…!」

強烈な腹痛がダークライを襲う。外傷による痛みではなく、内臓へのダメージから来る痛み……身体的にも精神的にも響くそれに、ダークライは息を荒げながら必死にそれを逃がそうとしていた。

「ぐ、う…おのれ…!」

やがてある程度痛みを抑えると、ダークライは恨めしそうな目で、近づいて来るハヤテを見た。それと同時に陰に隠した片手に闇の短刀を10本ほど作成し、隠し持った。

「この…程度で…!」

そう言いながら、ダークライは《影分身》を使用し、もう一体の自分を作り出す。それと同時にハヤテが拳を振り上げ突進して来た。

「くそ…投げろ!」

ダークライは隣の分身にそれだけ叫んだ。分身はその意図を理解し、指示に従いダークライを掴んで全身を使って横に投げ飛ばした。

ボンッ!

投げた反動でよろめいた分身に、突っ込んで来たハヤテが衝突し、分身は一瞬で白煙と化した。投げられたダークライはハヤテからやや離れた所で素早く体勢を立て直すと、先ほど作っておいた闇の短刀をハヤテ目掛けて力一杯投げつけた。

「これで少しは…!」

効くはずだ!と似合わないセリフを言おうとしたダークライだったが、続かなかった。投げた短刀のある変化を見せつけられたからだ。

「…!?」

なんと短刀がハヤテに近づくごとに形を失って行き、遂にはハヤテに当たる前に完全に崩れて霧状になってしまったのだ。

「何故………まさか…全身から波導が…?」

「その、まさか、だ。」

ダークライの言った通り、ハヤテの全身からは常に波導が溢れ出していた。闇の短刀はその波導を吸収し、形を失っていたのだ。だが本来ルカリオはメガ進化しても、全身から波導が溢れ出るような事はない。進化過程が通常のものとは違っている以上、これもまた通常のものとは違う、ハヤテのメガ進化のみが備える特性なのかもしれない。

ハヤテは地面に落ちた僅かに形を残す闇の短刀を踏み潰した。短刀は粉々に砕け、霧状になって消えた。

「これでお前は闇も使えない。力の差が十分理解できただろう。諦めろ。」

そう言うとハヤテは握り拳で勢いよく地面を殴りつけた。途端、地面は中心に拳の跡を残し、大きくへこんだ。

「く……」

その勢いと威圧感にたじろぐダークライ。反論しようにも突きつけられた言葉は全て事実。返す言葉が見つからない。そもそもこの状況で反論する事はまさしく負け犬の遠吠えに近しく、ダークライのプライドがそれをする事を許さないだろう。理由がどちらにせよ、ダークライがこの場で反論する事は無かった。

「今度こそ決着だ。長く続くお前との因縁…ケリをつけよう。」

棍棒を真っ直ぐダークライに向け、そう言ったハヤテ。そしてゆっくりと歩み出した。

「ぐ……う……」

思わず後退りするダークライ。そして直ぐに自分の行動…敵を前に逃げようとしている事に気付き、舌打ちした。

「…良いだろう……決着をつけよう!」

自分の哀れな行動を否定する様にそう叫んだダークライだが、ハヤテにはただの強がりにしか聞こえなかった。

「ふっ……」

ハヤテは口元に僅かに笑みを浮かべると、棍棒を正面方向の空へ高く投げ飛ばし、同時に《神速》で急加速し、足を前に向けダークライに強烈な蹴りを打ち込んだ。

「あぐっ…!」

両腕で防御したダークライだがそれでも衝撃は全身に伝わり、吹き飛ばされた。ハヤテは勢いそのまま前に飛び出すと、足を前に突き出しながら止まり、ちょうどその位置に落ちてきた棍棒を上手くキャッチした。そして再び前方へ跳ぶと、飛ばされた先で息を荒げるダークライ目掛けて棍棒を振り下ろした。

ダークライは跳んで来るハヤテの姿に気付き、地面に転がっていた金属棒に手を伸ばした。

ガキィン!

鈍い金属音が響き渡る。ハヤテの振り下ろした棍棒と、ダークライが咄嗟に振り上げた金属音が衝突したのだ。

ダークライは棍棒を押し返すと、金属棒を握ったまま後退し、ハヤテと距離をとった。

(このメガ進化、恐らくそう長くは持たないだろう……。ならば効果が切れるより早く、ダークライを…!)

ハヤテは両腕に力を入れると、地を蹴ってダークライとの距離を一瞬で詰め、棍棒を振り回した。

キィン!カァン!キィン!ガキッ!………

ハヤテの素早い棍棒攻撃に、ダークライはただ防御するしかなく、派手に金属音を打ち鳴らしながら奥へ押されていく。そして徐々に金属棒の耐久度も落ちていき、やがて、

パキン…!

金属棒は軽い音を立てて根元から折れてしまった。

「なっ…⁉︎しまっ…!」

慌てて別の策を取ろうとするがそれをハヤテがさせるはずも無く……

「がはっ!」

ハヤテの棍棒の一撃をまともに受けてしまったのだった。

◆◆◆

「うぐぐ……おのれ……」

目の前で自信を見下ろす宿敵とは対照的に、地面に手をつき息を荒げる情けない姿をさらけ出し、その怒りと悔しさでギリギリと歯を鳴らすダークライ。

(くそ…もう一度あの作戦で…!)

ダークライは地面についた手を握りしめると、キッと正面のハヤテを睨み、その手と腕を横向きに振り、土を飛ばしながらある技を発動した。

「ダークホール!」

それは先ほどハヤテを苦しめた技のひとつ…《影分身》と合わせて絶大な効果を発揮した《ダークホール》だ。周囲が一気に闇色に染まる。ハヤテが一瞬怯んだ隙に、ダークライは能力で地面をすり抜け隠れた。

(…消えたか……)

一方のハヤテも波導で見渡す事により、ダークライの気配が消失した事に気づき、状況から地中にいるだろうと推測した。

(さて…何処から出てくるか……)

闇による攻撃は不意打ちをもってしても不可能だという事は分かっているはず。先ほどと同じ状況を作り出しても、同じ作戦は通用しない。

(私が波導を感知している事も分かっているはず……それでもダークホールを使用したのはつまり……っと、言ってるそばから出て来たか………)

振り向いたハヤテの視界の先には地面より浮き出てくるダークライの姿。ダークライは両手を合わせて前に出し、《悪の波動》を放った。

(この空間のうねりではどこに来るか分からんな……なら…!)

「波導弾!」

ハヤテは威力を抑えた波導球を手の中に幾つか形成すると、それを前方の黒いうねりへ向けてバラバラに投げ放った。

ボゴォン!

そのうちの1つが上手くうねりに当たり、爆発した。白煙が一気に巻き起こり、ハヤテの視界を白く染め上げる。

「くっ…」

思わず腕で顔を隠すハヤテ。周囲は白煙に覆われ、ダークライの姿はおろか、周りの景色ですら全て白に塗りつぶされた状況だったが、自身へ向けて吹く風が白煙を押し流し、直ぐに視界は晴れて来た。

「…分身したか……。」

それと同時にダークライの気配が前方だけでなく、四方八方から感じられるようになった。それが《影分身》である事は、ダークライと幾度も拳を交えたハヤテには容易に想像できた。

やがて完全に煙は晴れ、互いに姿が見えるようになった。

「ふ……やはりな……」

ハヤテはダークライの様子を見て、愉快そうに鼻で笑った。予想通り、ダークライは《影分身》を使い、ハヤテの周囲を囲んでいた。白煙の中に突っ込んで来なかったのはメガ進化したハヤテを警戒しているからだろうか。

「在り来たりな状況だが、其処からどうするつもりだ?ダークライ。」

本来ならば苦戦、場合によっては絶体絶命とも言えるこの状況でも、問い掛けるハヤテの声には余裕の念がこもっていた。そしてそれは劣勢に追い込まれた中で必死に突破口を探っているダークライを少しながら戸惑わせるという効果も持っていた。

「…本当ならここから一斉にお前に斬りかかりたいところだ。が、全身から殺気を溢れさす今のお前には何をされるか分からぬからな……。近づかぬ様に、攻撃するのだ…!」

正面のダークライはそう叫んでニッと口元を歪ませた。と、同時に両手を前に、手の平をハヤテに向けると、その中に黒く渦巻く闇の塊が発生した。

「おっと、逃げようなんて考えるなよ?」

いつの間にかハヤテの頭上には別の分身が浮き上がり、跳んで避けようとしていたハヤテに向けて他の分身と同様に闇の塊を発生させた手の平を向けた。

「食らえ…!悪の波動!」

全てのダークライたちが一斉にそう叫び、その他に渦巻く黒の波動をハヤテに向けて一気に放った。

(…この量を1つずつ相手にするのは面倒だな……。特殊技である以上、物理技で返すのはなし…!だが「波導弾」も「ラスターカノン」も全方向への攻撃は出来ない……。この波導を使って何か出来ないか…?)

大波の様に唸る黒い攻撃が迫る中、ハヤテは脳内で一瞬ともとれる速度で思考を繰り返していた。その内、己が手に持つ波導に包まれた棍棒を持ち上げた。

(折角メガ進化したんだ。こいつを使ってみるか。)

思考を終えたハヤテは棍棒を腰の高さで刀の様に構えると、それを居合の様に大きく振り切った。

ゴオオオオッ…!

するとハヤテから溢れ出し、その周りを漂っていた波導が棍棒の波導に、絡まる様に結び付き、波導はハヤテを中心に、ハヤテを覆いながらまるで竜巻のように回転し始めたのだ。その回転速度は凄まじく、《悪の波動》は次々にその波導に呑み込まれ、消えていった。

「はああああっ!!」

その竜巻の中で、ハヤテは棍棒を再び腰の高さで構えると、今度は自身を一周する様に大振りした。すると棍棒を包む波導が鋭く変化し、竜巻の波導を巻き込みながら1つの斬撃となり、竜巻と共にダークライたちに襲いかかった。


ボン!ボボボン!

斬撃に体を真っ二つにされた分身たちが白煙に変わる音が響き渡る。斬撃と竜巻も消え、ハヤテは相当な量の波導を消費した、筈だが未だその身体からは尽きる気配を感じさせない程の波導が溢れ出している。

「上にいたお前が本体だったか。今ので確実に倒せたと思ったが、残念だよ。」

ニヤニヤ笑いながら上を見上げるハヤテ。対するダークライは自身を持って放った技を破られ、焦りの表情がはっきりと表に出てきている。

「いつまでも戦いを続ける気は無い。今度は私がお前を倒す番だ。」

一瞬にして表情を元に戻したハヤテは、その場で垂直に跳び上がり、宙返りしながら空中のダークライに逆さ蹴りを叩き込んだ。そして落下、手から着地し、素早く体勢を整えると落ちて行くダークライの元へ走りながら、棍棒に大量の波導を纏わせた。

「もう一度同じ技を使おう。これで終わりだ。」

ハヤテはそう叫ぶと、棍棒を大きく振り回し、波導の竜巻を発生させた。地面に落ち、起き上がったダークライは竜巻に気付くと、攻撃を受けてボロボロになった身体を引きずりながら、竜巻の進行方向から離れた。

「止めておけ。この竜巻からは逃げられない…!」

そう言うとハヤテは棍棒の波導を伸ばし、竜巻と繋げた。そしてその状態で棍棒を振ると、

ゴオオオオッ…!

竜巻の進行方向が徐々に変化し、逃げるダークライを追うように大きく曲がったのだ。ダークライは更に逃げようとしたが、竜巻の進行速度は異常に早く、ダークライが確実に逃げ切る時間など無に等しかった。

「くそ…!こんな所で倒れる私では…!」

逃げ切れぬと判断したダークライだが、やはり諦めるという選択肢は存在しない。ダークライは立ち止まり、その場で振り向くと、目前に迫る竜巻を見据え、両腕を胸の前で組んだ。

「守る…!」

瞬時にダークライの全身がアクアブルーの防御壁で覆われる。更に壁の中で闇を使って自らの体に鎧を着せた。波導の前には闇など壁にすらならないが、無いよりはマシであろうという、ダークライなりの考えなのだろうか。

ゴオオオオッ…!

竜巻がダークライを呑み込んだ。激しく大回転する波導の竜巻の破壊力の凄まじさは誰が見ても一目でわかるほどだ。

「よし…破られない…!」

それだけの破壊力を持つ竜巻に攻撃されながらも、ダークライを包む壁は耐え続け、中のダークライを守り続けている。

「残念だったなハヤテよ!やはりお前の力は私には及ばない!」

強力な攻撃を防げている事で、少しばかり自信を取り戻したダークライは調子に乗ってハヤテを挑発している。対するハヤテだが、大量の波導を一気に使用した事でかなりの疲労感が体に押し寄せている。メガ進化したとはいえ、使用する波導の量にも目安があったという事だ。

「くそ……まだ……まだ…!」

ハヤテはふらつく身体を鞭打ち、棍棒を通して竜巻に更に自身の波導を送り込んだ。それにより竜巻は更に大きく、強化されていく。だが、それでもまだ防御壁を破るには足りない。

(負けたく…ない…!)

「は…はあああああっ!!」

その思いは力となり、またハヤテを動かすための原動力にもなった。ハヤテは雄叫びを上げながら波導の繋がった棍棒を振りかざし、竜巻に斬りかかる勢いで突っ込んでいく。

バキィッ!

「なっ!ハヤテ!?」

渦巻く竜巻の中に突如現れたハヤテの姿に、ダークライは驚き、防御壁の中で後退しかけた。それに一切目もくれず、ハヤテは全力で棍棒を壁へ叩きつけた。

「…ぐっ…!」

だが、それでも壁は壊れない。

「フッ……フハハハハ!止めろハヤテ!見苦しいぞ!」

先ほどまでの焦りはどこへ消えたのか、態度を一変させてハヤテを罵りにかかるダークライ。それでもハヤテは棍棒にかける力を緩めない。

「止めろ止めろ!所詮お前の言う平和など絵空事!お前の力など……


……何処へも!届きはしない!」


「……届かない…だと…!」

ダークライのその言葉はハヤテを強く刺激した。

「届かないのは……」

ハヤテの紅い目が、怒りによって更に強く燃え上がる。

「…お前だぁ!!」

ハヤテのその叫びがタウン中に響き渡ると共に、言葉にすると『ゴオッ』というような、強烈な殺気が発せられた。

「……!」

ダークライはその威圧感と共に身体を前から押されるような圧迫感を感じた。実際にそうなってはいないのだが、ハヤテの放った殺気がダークライにそう認識させたのだ。

「うおおおおおっ!!」

ハヤテは残る力を全て振り絞り、手に握る棍棒に全力をかけた。そして、

ピキ……

「ん…?」

パキ…パキッ…!

「なっ…!?」

ダークライの《守る》による防御壁が、棍棒の当たる部分を中心に、徐々にひび割れ始めたのだ。

「馬鹿な…!この壁を破るなど…出来るはずが…!」

「これが現実…!…お前の…負けだ!」

ダークライは慌ててひび割れた部分を闇で補修しようとしたが、大量の波導の前には最早何の意味のない。

「ま…待てハヤテ!ここで私を倒しても…私の思想を継ぐ者はいつか…必ず現れるぞ…!」

「ならば私の思想を継ぐ者も現れる。そしてその野望を完全に打ち砕く!」


バリバリバリ………

防御壁は完全に砕け散った。ダークライを守るものは何も無くなった。

「ああ………あああっ…!」

竜巻…ハヤテの棍棒の一撃……波導による一斉攻撃がダークライを…襲った。

「ギ…ギャアアァァァァァ!!!!」

◆◆◆

「はぁ……はぁ……」

全ての力が出し切られ、戦闘前の静けさを取り戻したトレジャータウン。その中心…瓦礫すら無くなりボロボロとなった中心部でハヤテは力なく腰を下ろしていた。

「終わった…か……」

普通に考えてもあり得ないような量の波導を使い果たし、バテバテになったハヤテ。既にメガ進化も解け、傷こそないが激闘の跡を醸し出している。

「この私が……敗れた………こんな……馬鹿なことが………」

その側ではダークライが、全身傷だらけの痛々しい姿となって倒れていた。両手を左右に広げ、小石や砂の散る地面に横たわるその姿からは、この世界を支配しようとした帝王としての威厳は全く感じられない。

「ぐ……お前さえいなければ……お前さえいなければ今頃は世界は私の物に…!」

「どう喚こうがこれが現実……お前の負けだ。」

殆んど動かない体で無念の表情を見せるダークライを、ハヤテはそう言って一蹴した。

「おのれ…!次こそは……」

「次など無い。現に……自分の体の変化に気づかないのか?ダークライ。」

「何…?」

ハヤテにそう言われて、初めてダークライは自らのみに起こる異変に気付いた。

「な…何だこれは…!?何が起こっている…!」

ダークライの体が端から徐々に、無数の細かい光の粒となって消え始めたのだ。既に指先や頭部の先端は光となって消滅している。

「この世界が…お前という存在を拒絶しているのさ……。秩序を乱し続けたお前をな……。それは誰にも止めることが出来ない……自然の現象だ……。」

「そんな馬鹿なことが………いや、敢えて否定しないでおこう………そうかもしれんからな……。」

「…ふっ……やけに素直になったな。死ぬのが怖くでもなったのか。」

「フン……笑え……この惨めな私を………」

ダークライはハヤテから目を逸らし、消え行く自分の手を虚ろな目で眺めた。

「何事にも、壮大なる目的を達成する為には信頼できる仲間の存在が不可欠…!…お前はそれを作らず、敵ばかり増やし続けた……。それがお前の敗因だ……。」

「……フン……まだこの場において、私に説教か……。くだらん………」

そう言うとダークライは自らの放った闇に覆われた薄暗い空を見上げ、ゆっくりと目を閉じた。消滅する事による痛みは無いが、消えゆく部分の感覚が徐々に無くなっていく事による気持ち悪さは感じ得ないだろう。

「だが……私を倒した事の褒美として……闇の解除法ぐらいは教えようか……。」

「ああ……当然だ…!」



「そうか……あの玉にそんな使い方が……嘘ではあるまいな?」

「今更出任せなど言ってどうする………だが、やるなら急ぐべきだな……犠牲を増やしたくないのならな……。」

掠れた声でそう言い切ったダークライ。だが、明らかにハヤテの気を引く一言があった。どう言う事だ…!ハヤテがそう聞くと、ダークライは僅かに目を開けて答えた。

「私は…もう…死ぬ………だが…闇は…消えない………」

「何だと…!?」

「制御者を失った闇は…暴走する………感情という…概念はない………ただの…猛獣………」

ダークライの体はその殆どが光となって消滅し、その意識も薄れ、持ち堪えるのがやっとの状態だった。

「痛みも死も恐れず……闇を駆使して襲ってくる殺戮者………(まさ)しく……『闇の暴走』…!」

「おい待てダークライ!それはどうすれば鎮められる!」

「さらばだハヤテ………あの世で…また…会お…う………」

「お、おい待て!」

絞り出すような声でそう言ったダークライに、ハヤテはそれを制止する様に手を伸ばした。だが、

パリン………

その手がダークライに触れた瞬間、ダークライの体は、まるでガラスを割ったかの様な音と共に光となって消えてしまったのだ。

「ダークライ…!」

更に、

「ガアアァァァァァ!!」

突如トレジャータウンに、魔物か何かが叫んだと思わせる様な大音声が響き渡ったのだ。それはハヤテの後方、崩れかけた建物の裏から聞こえてきた。似合わず、ビクッと体を震わせたハヤテ。直ぐにそこへ向かおうとしたが、その必要はなかった。

ドガァン!

その建物が吹き飛び、後ろからポケモンが飛び出してきた。手には闇の槍を持ち、全身から邪悪なオーラを放ち、何よりも目立つのは炎よりも赤く光る二つの瞳…!

「そうかこれが……『闇の暴走』…!」

そのポケモンは闇の槍を大振りしながら、ハヤテへ向かって突っ込んで来る。だが感情がないと言うのも本当の様で、その攻撃はダークライのものに比べれば余りにも単調であった。

「ただ振り回すだけの攻撃……これなら当たらずに…!」

ハヤテは上手く体を動かしながら、振り回される槍の攻撃を避けていた。その内、攻撃の一発が跳ぶだけでは避けられないところに来た。
だが当然それに当たるつもりはなく、ハヤテは棍棒を使って完璧に防御した、はずなのだが、

「…うぐっ…!」

槍がぶつかった瞬間、ハヤテの体に途轍もない衝撃が走ったのだ。棍棒を構えたまま蹌踉めくハヤテ。尚もそのポケモンは槍を振り回し、執念深くハヤテを狙って来る。

「アアァァァッ!」

今度は槍を真っ直ぐ突き込んで来た。それに対しハヤテは棍棒を矛の様に使い、槍の軌道を変える作戦に出た。しかし、

ドスッ…!

「がああっ…!」

槍は棍棒を貫くと、その先のハヤテの右肩に突き刺さったのだ。直ぐに棍棒で槍を押さえながら引き抜いたハヤテ。傷口からはドクドクと鮮血が溢れ出る。

「ぐ……なんて力だ…!これは反撃しなければやられる…!だが…これ以上傷付けるわけには…!」

共に抜かれた棍棒は鋼鉄の硬度を誇るが、闇はそれさえも貫き、棍棒はひび割れ、その中心には綺麗な風穴が開いている。

「逃がしてくれるつもりは…無さそうだな…!」

再び槍を持って迫って来るそのポケモン。ハヤテは棍棒を構えて対するが、次の瞬間、

ドカッ!

突如そのポケモンは横に吹き飛び、血を吐きながら倒れ、動かなくなった。砕けた闇の槍が転がる。

「…あれは…!」

それと共に、瓦礫を跳び越えやって来るポケモンを、ハヤテは知っていた。

「カクレオン…!やはり彼までも…!」

そのポケモンはカクレオンといい、トレジャータウンで商店を営んでいる。ハヤテもその店をよく利用しており、互いに馴染み深い存在であった。

カクレオンは自分の周りに闇の短刀を数本浮かせながら、ハヤテには一切目をくれず、つい今し方吹き飛ばしたポケモンの方に歩いていた。その足取りは決して安定したものではなく、倒れるのではないかと疑わせる様にフラフラと歩くが、真っ赤に染まった二つの瞳からは、狂気に似た何かを感じる。

「相手をしている暇はない……今の内に…!」

この場から離れようとハヤテが背を向けたその時、

「ガアアァァッ!」

「なっ!?」

耳をつんざく程の叫び声と共に、何かが正面から飛んで来たのだ。それはハヤテの腹に飛び込み、同時に、

「うぐっ…!」

ハヤテは腹部に激痛を感じたのだ。咄嗟にそれを蹴り飛ばし、距離をとった。

「くそっ…!やられた……」

ハヤテの腹部には2本の闇の短刀が刺さっていた。そして正面に見える自分を刺したポケモンは……

「薔薇色の体…弟のカクレオンだな…!」

書き忘れたが、カクレオン商店の経営者は1匹ではない。カクレオンは兄弟で商店を経営しているのだ。兄のカクレオンは通常色の緑色、そして弟のカクレオンは薔薇色、つまり色違いだ。

「ぐ……はあっ…!」

腹部に刺さった2本の短刀は触るだけでも激痛をもたらすが、ハヤテは歯を噛み締めながら一思いに短刀を引き抜き投げ捨てた。急所は外れているが、出血は止まっておらず、放置すれば危険な状況だ。

「フーッ…!フーッ…!」

弟のカクレオンは再び闇の短刀を構え、ハヤテに迫って来る。腹を刺された手負いの状態ではまともに戦う事はおろか、攻撃を回避する事さえも難しい。最悪の事態も想定できる中、ハヤテは少しでも防御しようと棍棒を横に構えた。が、その時、

「ウガアアァァァッ!!」

弟のカクレオンに向かって、叫び声を上げながら兄が突っ込んでいったのだ。そのまま兄と弟は取っ組み合いになり、互いに闇の武器をぶつけ合いながら走り去っていった。

「馬鹿な……兄弟だぞ…?」

闇によって感情を奪われると、例え仲間や家族であってもその区別がつかず、場合によっては手をかけてしまう。兄のカクレオンは槍を振り回す町のポケモンにハヤテを刺した弟を襲い、結果的にハヤテを救う事となったが、それも救援のための行動ではなく、目の前の存在に無差別に攻撃を仕掛けようとする感情がない為の行動だった。

そして2匹がその場を去った事で、一点に集中していたハヤテの意識が分散し、聞きたくもない声が聞こえる様になってしまった。

「ギャアアァァァ!」

「ウオオオォォォ!」

「ウガアアァァァ!」

トレジャータウン全域におぞましき叫び声が響き渡る。続いて建物を押し退け町のポケモンたちが飛び出す。その中には自分のよく知るポケモンもいるが、皆、その瞳は真っ赤に染まっている。

「こ…これは……」

あるポケモンが斬り倒された。また別のポケモンの首が飛ぶ。数匹のポケモンたちが爆発と共に吹き飛んでいく。

恐らくトレジャータウンだけでなく、この世界全域の闇に支配された全てのポケモンたちが同じ状態にあるだろう。

「あ…悪夢だ…!」

闇に支配されたポケモンたちの殺し合い……それこそ本当の「悪夢」だった…!

いかがでしたでしょうか。残り2話。もう少しお付き合いください。
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感想

お名前:エルレイド さん
話がポケダン超より重い…読んでいてその世界観に引き込まれてしまう良い作品だと思いました。(なんか、上から目線ですみません。)
書いた日:2019年02月12日
作者返信
ご覧いただきありがとうございます。「味方がいない」「皆に追われる身」みたいなシチュエーションが個人的に気に入っていて、それに色々付け加えた結果、ある意味で閲覧注意みたいな話になってしまいました(笑)。
書いた日:2019年02月15日