第三十六話 ツバサの真実

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お待たせしました。第三十六話です。

[第三十六話 ツバサの真実]

「師匠…?親…!?」

ツバサの返答は「かつては仲間同士だったが裏切った。」というハヤテの予想を大きく超えたものだった。

「正確には『親代り』だ。俺には親がいなかったからな。」

ツバサはあまりのハヤテの驚き様に、ハヤテを落ち着かせようと正しく説明するが、それでもハヤテを驚愕させるには十分すぎた。

「俺とダークライの関係を詳しく説明するには俺の過去の話をしなければならない。長くなるだろうが聞いてほしい。」

その場にドサッ、と腰を下ろしたツバサ。少しの間、目を閉じて気持ちを整えると、重そうな口を開いた。

◆◆◆

気づいた時には1匹だった。俺の周りには誰もいなかったんだ。

ツバサ:…?…⁇

誰かと暖かい時を過ごした様な感じはある。其処から俺は捨てられたのか、或いははぐれたのか、冷たい洞窟の中で俺は1匹だった。

ツバサ:パパは…?ママは…?

その時の俺は3歳ぐらいだったと思う。そう……緑の里でアカネちゃんが語った過去と同じ境遇なのさ……。敢えて違いを言うとすれば、親の顔を知っているか否か、だ。

ツバサ:うう…寒い……

幼い俺は洞窟の寒さに震えていた。何処に行けばいいのか、何をすべきなのか、全く分からなかった。ただ洞窟の隅っこで小さくなって目の前の不安に怯える事しか出来なかった。

ヒュオオオッ……

凍える様に冷たい風が幼い肌に突き刺さり、同時にそれとは別の冷たい感覚を体に感じた。今思えばあれは雪だったんだろうな。ただその時は寒いという感覚しか感じられなかったが。

ツバサ:うう……う…………

今と違って俺の体は寒さに耐えきれるほど強くない。容赦なく打ち付ける吹雪は着実に俺の意識を奪っていった……


仄かな温もりが体を覆い、俺の意識は現実へと戻ってきた。目を開けずして感じるそれは、いつか感じた事のある感覚……懐かしく…暖かい……

⁇:目が覚めたか。全く、あんな所にいれば凍えるのも当然だろうに。

再びまどろみの中へと落ちようとしていた俺は、突然聞こえてきたその声にビクリと体を震わせた。それは不意を突く様に発せられた声と起きていることに気づかれていた事、それらに対する驚きなのだろう。

ツバサ:…………………?

俺はゆっくりと目を開いた。寝ぼけ眼でぼやける視界の中に黒いものと白く揺らめくものが映る。それがはっきりと見えると同時に俺は叫び声を上げて飛び起き、しっかり足を踏み込むのも忘れて一心不乱に前へと突っ走しろうとし、案の定、その場に盛大にこけたんだ。今思えば、随分と恥ずかしい転び方だったな。

⁇:何を1匹で遊んでおるのだ。大人しくできないのか。

一瞬で目が覚めた俺の前にそれがふわふわと浮いている。俺はビクビクとただ怯える事しか出来なかった。

⁇:安心しろ。私はお前に危害は加えない。お前の味方だ。

その言葉の意味を幼い俺は理解できなかったが、落ち着きのあるその声は俺からそれに対する恐怖心を少なからず薄れさせた。

ツバサ:お…おじさん誰…?

ダークライ:おじさん、か……そうだな、「ダークライ様」と呼びなさい。それが私の名だ。

ダークライとの出会い……それは俺の運命を変えた大きな出来事であり、同時に悪夢の前兆でもあったんだ……

◆◆◆

ダークライによれば、吹雪の中、たまたま飛び込んだ洞窟の中で俺を見つけた、とのこと。かなり危険な状態だったそうで、俺を囲む様に抱きかかえながら急いで拠点へと戻ってきたそうだ。その点では、俺はダークライに感謝しなければいけない。
それからすぐに元気を取り戻した俺はそこで、3匹のポケモンを紹介された。

ダークライ:ここが今日からお前が私たちと暮らす場所だ。

ツバサ:わあ…!

辺り一面の花畑。温もりを運ぶそよ風。それを囲む様に並ぶ緑の数々。何もかもが初めて見る光景だった。幼いから当たり前、だとしても、オトナでもなかなか見れるものではない。

ツバサ:本当に…ここで暮らせるの!?

ダークライ:ああ。…それよりまだ名前を聞いていなかったな。なんと呼べばいい?

ツバサ:ボクの名は…ツバサ。ツバサって呼んで。

ダークライ:ツバサか。いい名だ。……時にツバサ……何故お前はあんな所で倒れていたのだ?

ツバサ:分からない……分からないんだ…!パパも…ママも居なくて……ボク…!

そこで俺の目から、抑えていた涙が一気にこみ上げてきた。滝の様に、汗の様に流れ落ちる涙。もう、無理だった。

ツバサ:ううっ…うわあああっ……

抑えを失った涙はその量を増やし、留まることを知らなかった。ダークライはそんな俺を後ろから、

ギュッ……

優しく抱きしめてくれたのだ。

ツバサ:ダークライ…様…?

ダークライ:良いのだツバサ。全て吐きだせ。この私が側にいる。

恐ろしげな印象を持つダークライ……だがその体から感じた温もりは本物だった。それは俺から悲しみが全て流れ出し、その身体が震えることを忘れるまで…感じ続ける事が出来たのだ。


やがて落ち着きを取り戻した俺に、ダークライは3匹のポケモンを紹介した。

ダークライ:左から、フシギダネ、ピチュー、ゼニガメだ。これからお前と共に暮らしていく仲間として、仲良く頼むぞ。

ピチュー:えっと…ツバサ、だっけ?これから宜しくね!

ニカッと白い歯を見せるピチュー。その後ろで恥ずかしそうに隠れるフシギダネと、自分を興味津々に見つめるゼニガメ。俺自身にも恥ずかしさはあったが、しかし何よりも「トモダチ」と言える存在が出来たことの喜びの方が大きかった。だから俺はすぐに皆と打ち解けれたのだろう。

今から19年前、俺が3歳の頃の出来事だった。この時ピチューは5歳、フシギダネとゼニガメは4歳であった。

俺は3歳以前の事は殆んど覚えておらず、実の親からの温もりでさえ、どの様なものだったかが完全に記憶の中から消え失せていた。それ故にダークライから受けた愛情を新鮮なものに感じ、ダークライを新たな親として受け入れる事が出来た。時より実の親の事が心配になるが、ダークライを「新たな」親ではなく、「唯一の」親と感じる様になった頃からその心配は次第に無くなり、見えざる記憶の中へ沈んでいった。俺たちを時には褒め、叱り、そして共に笑ってくれたダークライは、父親でもあり、母親でもある、そんな存在だった。

3匹のポケモンたちとの関係も良好だった。俺とピチューたちはまるで兄弟の様に育ち、友達でもあり家族でもある、深い繋がりを持っていた。正直、この3匹がいなければ、俺は現在の明るい性格にはなれていなかっただろう。3匹と一緒にいると、いつの間にか俺の顔から笑顔が溢れ出していたのだ。

ダークライからは愛情以外にも戦い方やダンジョンの事など、様々な分野から多くの事を学んだ。特に戦闘術については厳しく、それでも的確な指導で俺たちは少しずつだが、強くなっていったんだ。まあ、俺は4匹の中では一番弱かったけどな。

それからは、ダンジョンのポケモンたちに襲われたり、ピチューがピカチュウに進化したり、いろいろあったが楽しく過ごす事ができたよ。だが、それから8年後、俺が11歳になった頃、天国は地獄へと大きく姿を変えてしまったんだ……

◆◆◆

ツバサ:んん…おしっこ……

夜、なかなか寝付けなかった俺は、用を足しに外へ出た。そして4匹の共同部屋へ戻る途中、俺はダークライの部屋の前を通りかかった。

ツバサ:まだ起きてるのかな……ダークライ様……

中から話し声がする。俺は悪いと思いつつも好奇心には勝てず、僅かに開いている扉の隙間から中を覗いた。
中ではダークライと、数年前からここで俺たちの世話をしてくれているムウマージがいた。何か話をしている様だが聞こえない。俺はよく耳を澄ませてその話を聞いてみると、

ダークライ:ムウマージよ、計画は滞りなく進んでいるな?

ムウマージ:カイリキーやグライオンなど、様々なポケモンに闇を憑依させ世に放ちました。時が来れば、何時でも闇を発動させる事が可能です。

ツバサ:(闇…?何の事をしてるの…?)

ムウマージ:時に、ダークライ様。あの4匹にここまでの愛情を注いでしまって…大丈夫なのですか…?闇に影響が出る事は……

ダークライ:それなら問題ない。対象が如何なる感情を持っていようが、闇は発動できる。それに私が奴らに愛情を注いでいる様に見えるか?

ムウマージ:フフッ、見えませんね。よく見れば。見事な演技です。

ツバサ:(えっ…!どういう事…?)

ダークライ:奴らはただの駒だ。時が来れば私に忠実な殺戮兵器と化すだろう。その時は近いぞ。

ムウマージ:しかしここまで時間を掛けてまで奴らを育てるよりも、その辺のポケモンに闇を憑依させる方が遥かに早いのでは?

ダークライ:闇についてはまだ分からぬ事が多い。よく研究する必要がある。奴らを育てたのは、その一環だ。

もう何も考えられなかった。俺はあまりの驚きにその後のダークライとムウマージとの会話は頭に入って来なかった。フラフラと部屋に戻り、倒れる様に横になった。忘れよう……。俺はそう思って目を閉じた。

だがダークライのあの言葉はあまりに衝撃的だっただけに、頭から離れる事はなかった。結局それが原因で翌日も早朝に目が覚めてしまった。

ツバサ:(ダークライ様は…ボクたちのことを…!)

考えれば考えるほど苦しくなる。俺は1匹で抱え込む事も出来ず、その場で3匹を起こした。

ピカチュウ:何だぁ…?まだ早いだろ……。

フシギダネ:どうかしたのか?

眠い目をこする3匹に、俺は昨夜のダークライの話をした。

ピカチュウ:なん…だって…!

フシギダネ:ツバサ、それは本当か?

俺はフシギダネを見つめると、一度だけ深く頷いた。予想通り、3匹とも唖然としている。だが俺の目を見て、それが嘘でもない事も理解した様だ。

ピカチュウ:…それが事実なら、俺たちの身も危ない。だが…信じられない……。仮にも、俺たちを育ててくれたポケモンだぞ……。

ツバサ:でも本当に言ってたんだよ…?

ピカチュウ:それは分かってる。お前はこんな嘘はつかないからな。だが俺は、直接ダークライ様から本当の事を聞きたいんだ。

ピカチュウはそう言うと、小走りで扉へと向かう。フシギダネとゼニガメも後に続いた。俺もその後を追おうとしたが、ふと何かが気になって、自分たちが何時も探検時に使っているバッグを手に取った。


ピカチュウ:ダークライ様はまだ部屋にいるだろう。俺が部屋に入って真実を確かめるよ。

⁇:何の真実を確かめるのだ?

ダークライの部屋へ向かおうとした俺たちだったが、部屋を出たところで聞き慣れた声が耳に入り、ビクリと身体を震わせた。

ピカチュウ:ダ、ダークライ様……

ダークライ:今朝は随分と早いな。そんなにやりたい事でもあったのか?

ピカチュウ:ダークライ様……

自分たちの目の前を塞ぐダークライにピカチュウは一瞬怯んだ様子を見せたが、すぐに立て直し、ダークライを真っ直ぐに睨みつけた。

ピカチュウ:俺たちを駒にしている事と……俺たちへの愛情も全て演技だというのは本当ですか…!?

ダークライ:何……?

ピカチュウ:それと……闇というのは…何なのですか!?

ダークライ:…………………

ピカチュウ:答えてください!

ダークライ:フ……フフ……

ピカチュウの強い口調での問いかけに、ダークライは閉じた口元から笑い声を漏らした。

ピカチュウ:ダークライ様…?

ダークライ:ピカチュウよ。どこからそんな事を聞いたのだ?そんな出任せを。私がお前たちにそんな事をする筈が無いだろう。

ピカチュウ:ダークライ様……

ダークライ:さあ、早く行くぞ。今日もトレーニングをせねばならぬだろう。さあ……

ダークライはピカチュウに手を差し伸べ、ピカチュウもその手を取ろうとした。だが俺はその手を、あるものに気づくと、横からピカチュウを掴んで手前に力任せに引っ張った。すると次の瞬間、

ズドン!

自分の横に何か巨大なものが落ちてきた。それは地面にめり込み、舞い上がった砂塵がパラパラと降ってくる。

ダークライ:ほう…これに気づくとは……見事だ。

ピカチュウ:な、何を……

ダークライ:一度見せてしまった以上、名前ぐらいは教えなければな。

ダークライはそう言うと、手に持つ真っ黒な大刀を振りかざした。

ダークライ:お前の気になる闇……それはこの大刀の事だ。全物質の持つ固有の振動、つまり「波導」の量で硬度が変化する。と言っても、お前たちには分からぬだろう。だが、既にお前たちにも闇は憑依している。とっくの昔からな。

ピカチュウ:そんな…じゃあ……

ダークライ:お前の言う通り、お前たちへの愛情も全て演技だ。お前たちは私の駒でしか無い。…だが、秘密を知ってしまった以上、お前たちを駒として置いておくわけにもいかないな。

スッ……

ダークライがゆっくりと大刀を振り上げる。だがピカチュウは身体をガクガクと震わせるばかりで避ける気配が無い。想定できていた事とはいえ、やはりショックが大き過ぎる様だ。

ツバサ:フシギダネ!ゼニガメ!

俺は2匹の名を叫び、ピカチュウを彼らの方へと突き飛ばした。その僅かに後に、大刀は俺の鼻先を掠め、硬い地面を大きく抉った。

ダークライ:小癪な……

ダークライは、標的をピカチュウから俺に切り替え、大刀を縦横無尽に振り回した。俺はジャンプしたり、その場に屈んだりして辛うじてそれを避けていた。

ゼニガメ:ピカチュウ!しっかりしろ!

その間にゼニガメは呆然とするピカチュウの頬を叩き、ピカチュウもようやく意識を鮮明に出来た様だ。そして事態に気づくとすっくと立ち上がり、

ピカチュウ:みんな!逃げるぞっ!

大声でそう叫んだ。その一言を皮切りに俺たちは一斉に行動を開始した。まずダークライに標的にされている俺を救う為に、フシギダネがダークライ目掛け、《葉っぱカッター》を繰り出し、大量の葉っぱはダークライの顔面を直撃した。ダメージこそ大した事無いが、目潰しには十分だ。ダークライが視界を遮られている間に俺はダークライの攻撃範囲から離れ、同時に俺の後ろではゼニガメが地面に何かを仕掛けた。

ピカチュウ:よし!走れ!

ピカチュウを先頭に俺たちはダークライから離れていく。ダークライは葉っぱを振り落とし、その後を追うが、

カチッ…ドゴオォォン!!

何かスイッチを入れた様な音、そして激しい爆音がすぐ後ろで響いた。

ゼニガメ:やった!成功だ!

ツバサ:何をしたの…?

ゼニガメ:「罠の玉」で地面に「爆破スイッチ」を作ったんだ。押したら爆発する罠だ。

ピカチュウ:やったなゼニガメ!だがダークライはこの程度では倒せないはず!今の内に急いでここから脱出だ!

俺たちは走る。この地獄から逃げ出す為に。……いや、この場所を「地獄」と言うのは止めておこう。何故ならこの先で、俺たちは今とは比較にならないほどの「地獄」を味わう事になるのだから……

いかがでしたでしょうか。ああ……次回めちゃ長い……
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