第三十三話 樹海の中で

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

お待たせしました。第三十三話です。
[第三十三話 樹海の中で]

「まだ微熱はあるが…寒気や疲れは…無いな。」

ハヤテの額に手をやりながら、ツバサはふむふむと自分の顎をさすっている。

「ああ…昨日に比べれば体も幾分楽だ。移動に問題は無い。」

よっこらせっ、と腕をつきながらハヤテは起き上がった。

「ありがとな、みんな。」

ハヤテはバシャーモ、ジュカイン、そしてツバサの顔を見回しながら笑顔で礼を言った。

「気にすんなよ。仲間だろう。」

「そうそう。俺たちはお前に幾度となく助けられてきたのだからな。」

「1匹で抱え込まず、たまには俺たちを頼ってくれよ?そうされる方がなんか嬉しくてさ。」

ハヤテを囲み、曇り無い笑顔でにししと笑う3匹。彼らの中には、ハヤテに無理をしてほしく無いという思いと、自分たちもハヤテの為に何かしたいという強い思いがあったのだ。

「…ああ…。」

ハヤテも彼らの笑顔に、微笑みで返した。


「それで、ここからの進路だが…ツバサ、分かるか?」

「この先は森が深くなり、地面の高低差も大きい。つまりいきなり崖になっているところや、大穴が開いているところもあるということだ。」

ツバサが淡々と説明する。それを聞いてバシャーモが前に身を乗り出した。

「ちょっと待て。それでは移動が困難では無いのか…!?特にハヤテには……」

「だからこそ、だ。移動が困難になるというのは敵も同じだ。深い森、崖や大穴は姿を隠すのには絶好の場所だしな。それにそれ以外の道はむしろ遠回りになる。かえって敵に見つかりやすくなるだけだ。」

ツバサはいつもと違う、真面目な顔を変える事無く、声に力を込めてそう言い切った。その気迫はバシャーモをも黙らせてしまった。

「それと…ジュカインから何か報告事項があるんだってな?」

「ああ。ハヤテを襲ったレスキュー探検隊は3匹だったよな。お前らと別れた時、俺とバシャーモはそいつらに追われてな。その時は機動力とバシャーモの炎技で逃げ切る事ができたんだがな……そいつらの話から分かった事が1つあってな。」

そう話すジュカインの顔は不安がどっと押し寄せたように曇っている。

「俺たちの首を狙って結成された討伐隊は、ギルドから4匹、レスキュー探検隊から4匹らしいんだ。」

「4匹ずつ…?だが来たのは……」

「ああ、レスキュー探検隊は3匹しかいない。それとその3匹は会話の中で、『例のポケモン』という言葉を使っていた。」

「例のポケモン、か…嫌な感じだな……」

同じレスキュー探検隊の仲間に向かって、『例のポケモン』と言う呼び方はしない。ギルドの仲間でもない、とすると敵は何者なのか…?

「とにかく、敵が何者かわからない以上こちらも迂闊には動けない。いつもの事だが、慎重に行くぞ。」

そう合意すると、ハヤテたちは荷物を持って立ち上がった。しかし、その話題にあった「例のポケモン」は、ハヤテたちがそれを口にすると同時に、この森の何処かに姿を現したのだが、ハヤテたちがそれを知る由はない……

◆◆◆

これより少し前…闇の火口では……

ダークライ:どうだ、奴らの討伐作戦は上手くいっているか?

ムウマージ:現在のところは順調とのこと。確実に奴らの体力を削っています。ただレスキュー探検隊が疲弊状態のハヤテの抹殺に失敗したとの連絡が。

ダークライ:フン…奴らは3匹で行動しているというのに情けないものだ。

ムウマージ:全くです。

ダークライ:時に奴はどうだ?自分は動かぬと強情していたが。

ムウマージ:それについてですが、余りにも動かないので闇の締め付けを強くしようとしたところ、怯えた様子で討伐作戦への参加を承諾しました。

ダークライ:神と言われても所詮はポケモンだ。脅せば簡単に崩せるものだ。

ムウマージ:ええ。しかしレスキュー探検隊の空いた部分にこのポケモンを補充するとは…やはり本気なのですね。

ダークライ:そんな事、言わずとも分かっているだろう。それより奴はあの森にはどれ位で着きそうか?

ムウマージ:もう間もなく到着の見込みです。

ダークライ:そうか。…フフ…奴ら驚くだろうな……恐怖に歪む顔…それを間近で見られないのが残念だ…フフ…フフフフフ………

◆◆◆

木々がうねうねと、まるで樹海のように覆い茂っている。ハヤテたちはその下を辺りを警戒しながら慎重に進んでいた。ルカリオの種族はその身長に合わず、体重がかなりあるのでハヤテも極力歩くようにしていた。それでも超えられない土手や穴などはツバサたちが手分けして抱えていた。その為ここまでは移動に大した問題は生じていなかった。

ただハヤテは万全の状態でないが故、波導を上手くコントロール出来なくなっている。戦闘面でも差し支えある他、その戦闘に出くわさぬ様に敵の位置と判別をつける為の波導をキャッチする力まで落とされている。何者か不明な「例のポケモン」はもうこの森に来ているのだろうか。そこを移動する中で、ハヤテにとって波導を使えない事が唯一かつ最大の不安だった。

「其処から左は急斜面になっている。足元に気をつけろよ。」

「この辺りは結構ぬかるんでいるみたいだ。滑らない様にな。」

「ポケモンだ!俺が倒す!」

先頭を歩くツバサの的確な指示が飛ぶ。ハヤテたちにはっきりと聞こえながらも、決して辺りに響き渡らないその声は、今この場で最も信頼できる安心の声となっていた。

(ツバサ……張り切ってるな。私の代わりを完璧にこなせている。)

いつもより新鮮な目で皆を指揮するツバサを見て嬉しく思うハヤテは、その口元が自然と緩んでいくのに気付かなかった。


「待て、止まれ…!」

飛ぶ様に進んでいた一行はツバサに制止され足を止めた。何かに気づいた素振りのツバサは事情を聞こうこするハヤテの口を塞ぎながら、前方に目配せをした。

「気をつけろ…プクリンたちだ…!」

ツバサの睨む方向には崖を挟んで広大な草原が広がっているのだが、その中をプクリンたちはガサガサと動いていた。

「ヤバいな…今当たるのは……」

いるのはプクリンの他、ペラップにバクオングにキマワリ、レスキュー探検隊のエンブオー、ジャローダ、ダイケンキ。討伐隊のメンバーが勢揃いしていた。幸いにも向こうはまだこちらの存在には気づいていない様である。

「とにかく離れよう。『例のポケモン』もいなさそうだ。」

そう言うとツバサは崖と反対の方向に体を向けた。その時、

トン……

側にあった少し大きめの石に、足をぶつけてしまった。その石は僅かな衝撃でバランスを崩し、転がり始めた。

「しまった…!」

気づいた時にはもう遅かった。石は緩やかな傾斜を加速しながら転がっていき、そのまま崖に飛び出すと、

ガン!ゴン!ガン…!バキン……

壁のあちこちに当たり、鈍い音を響かせながら落下していった。

「!、今の音は…!」

「親方様!崖の向こう側を!」

「見つけたぞ!ハヤテ!ツバサぁ!」

敵がハヤテたちの存在に気付き、一斉に追いかけてくる。だが崖を挟んだこの場所を越えることはそう簡単ではない。

「見つかったか…!だがここに来るには時間がかかるだろう。急いで逃げる...ぞ…!」

「なっ…!?」

ツバサもハヤテも……バシャーモたちも絶句した。地響きを鳴らして目の前に落ちてきた存在……木々をへし折りこの場に降臨したいつか見たことのある時の神……

「久しいな……ハヤテ、ツバサ。」

時間ポケモン……ディアルガは目を細め、そう一言口にした。
いかがでしたでしょうか。元々のタイトルは「例のポケモン」でした、が余りにもアレだったので変更しました。意外とタイトルって決めるの難しいんです……

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