第三十二話「仲間の温もり」

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遅れました。第三十二話です。

[第三十二話 仲間の温もり]

眩しいほどに照りつける光の中で、熱気を放つ2匹のポケモンが対峙していた。

「いいタイミングじゃねぇか、ツバサ。もう少し遅く来れば絶望を見せつけることができたのによ。」

エンブオーは表情を崩してカカッと笑うが、赤く光るその目は全く笑っていない。

「ゲッホゲッホ…はぁ……ツバサ…よくも…!」

喉元を押さえ、咳き込みながらダイケンキは起き上がると、右足のもう一本の足刀に手をかけた。

「不意打ちはもう効かぬ!ハヤテの前にお前をころ…!」

唾を吐く勢いでツバサに食いかかるダイケンキの右頬を何かが掠めた。王者の風格を示す白いの髭が数本、まるで枯れ葉のように舞い落ちる。

「それ以上、喋るな。」

冷ややかな目でダイケンキを睨むツバサ。その手は何かを放ったような状態で真っ直ぐにダイケンキに向けられていた。そしてダイケンキの顔の横には木に突き刺さった淡黄色に光った足刀が。ツバサは足刀をダイケンキに投げ、動きを封じたのだった。

「さて、後はお前らだけ……と言いたいところだが、こっちもハヤテが動けねぇ。ここは退かせてもらうぜ。」

ツバサはその場にへたり込んでしまったダイケンキからエンブオーたちに視線を移し、ハヤテの足の怪我を確認しつつ、抱きかかえた。

「俺たちがそれをさせないことぐらい、分かるだろ。」

そう言うと同時に、ツバサとエンブオーは同時に《火炎放射》を放った。2つの炎はぶつかり合って広がり、両者を挟んで大きな壁となった。

「ふふ…威力はエンブオーの方が上のようね。」

ジャローダが蔦を口に当てて笑っているが、確かに炎の壁は次第にツバサの方に倒れるように迫っている。ツバサはハヤテを抱えたまま後ずさりしていたが、その顔に焦りの色はなかった。

(オーケー……エンブオーは火力を上げているな。敵の威力が上ならば、敵は余計な攻撃を仕掛けない…!)

そう、ツバサは少しずつ火力を弱めながら後退し、相手に負けているように見せかけていたのだ。そしてある地点まで下がったところで、ギラリと目を光らせ敵のおおよその位置を確認すると、大きく翼を揺らして飛び上がり、《火炎放射》を止めると同時に体を回転させながら斬撃を放った。

「エアスラッシュ…!」

発生した幾つもの空気の刃は次々に炎の中に飛び込み、それを突き抜け、完全に油断している様子の2匹に襲いかかった。

「んなっ!?」

「きゃあっ!」

2匹は斬撃を受けて豪快に吹き飛ばされた。《エアスラッシュ》は飛行タイプの技。エンブオーはそれ程でも無いが、ジャローダにとっては弱点を突かれる痛い攻撃となる。とはいえ相手も同じレスキュー探検隊。弱点を突いたところで簡単に倒れる相手では無い。

(よし、今だ!)

それを見たツバサは彼らに背を向けると、大きく翼をはためかせた。

「待てっ!逃がすか!」

「私にやらせて!」

傷を受けたジャローダはそれでも怒りのこもった目でツバサを睨みつけ、エンブオーの前に出ると同時に《リーフストーム》を放った。

「ぐっ…ツバサ…気をつけろ…!」

ハヤテが苦しそうに忠告するが、ツバサは特に気にする様子もなく飛び続ける。相変わらず焦る様子を見せない。

「大丈夫だ。俺を信じろ。」

ニカッと歯を見せるツバサのその一言。それはいつもの陽気なツバサの声ではなく、いかなる事態をも打開してきた時の威厳ある野太い声。ハヤテはそれを聞いて僅かに驚いた様子を見せ、口を閉じた。それはツバサに威圧され怯んだ訳ではない。ツバサのパートナーであり、何よりもツバサを信頼しているからこそ、ハヤテも全てをツバサに任せることにしたのだ。

「ジャローダが使ってきたのはリーフストームだろ?あれなら遠距離狙えるからな。だが飛んでいる奴に使うべきじゃないな。おまけに俺には2、3割程度分しかダメージ入らねぇよ。」

そう言うとツバサは大きく蛇行しながらの飛行を始めた。下から見るとフラついているか、遊んでいるようにしか見えないが、ツバサにとっては立派な回避行動である。事実、大量の葉が飛び交っているが、其れ等の殆んどがツバサを通り過ぎて落ちていく。何枚かは当たっているが、ツバサにとっては蚊に刺された程度にしか感じられない。と、言うよりツバサには攻撃の痛みよりも、むしろ抱えるハヤテの胸のトゲが時より自分に当たる感覚の方が痛いのだ。

「な、言っただろ。…さてと、こっからはスピード上げてくぜ。」

ツバサは勝ち誇ったようにニッと笑うと、体を前に傾け速度を上げた。ツバサに強く抱えられたハヤテは背中からの風の冷たさと、手や腹を覆う温かさを同時に感じ、身震いしながらぎゅっと目を閉じる。地上で悔しがるエンブオーたちの姿が目蓋の裏に浮かんだ。

そこでツバサはある事に気付いたようだ。

「…今思ったんだがハヤテ、お前、熱もあるのか?」

今気づいたのか!?、とツッコミを入れたくなるハヤテ。だがそんな事を言う気力もなく、ハヤテはコクリ……と顔だけを動かした。

「やっぱりか……じゃあ速度落とした方が良いか?」

「…大丈夫だ…。私の事なら気にするな…!」

こうなるとハヤテは断固として譲らない事をツバサは知っている。だからこそ敢えて説得せず、「少しの間、我慢してくれ。」と一言言うと、ハヤテを力強く抱え込んだ。


やがて速度と高度を落としたツバサは、辺りを気にしながら1つの洞窟に入っていった。その洞窟は木々に囲まれ、パッと見たところでは存在が分からないような、隠された場所にあった。

「…よし、着いたぞ。」

ツバサの落ち着いた声にハヤテも少しずつ目を開ける。そこそこ広いが風を感じない限り奥まで続いている様子はない。

「ここは…?」

「昨日入ったのとは別の洞窟だ。ここなら見つかり難いしスペースもある。洞窟の中では上の方の部類だな。」

ツバサは得意げに語りながら、ハヤテを藁床の上に寝かせる。

「ツバサが見つけたのか…?流石だな。行動が早い。」

「いやぁ…実はここ見つけたの俺じゃないんだ…。」

ハヤテから目を逸らしながら恥ずかしそうに頬をかくツバサ。じゃあ誰が……とハヤテが言おうとした時、

「ツバサ。ハヤテ見つかったんだな。」

「その様子だと色々あったようだな。大丈夫か?」

入り口から2匹のポケモンが入ってきた。それは、

「バシャーモ…ジュカイン…!無事だったのか…!」

「なんとかな。て言うかお前の方が無事じゃなさそうだろ。かなりしんどそうだが…。」

「ああ…お前たちと別れた後な……」

ハヤテは自分とツバサの逃避行劇を語った。それを聞いた一同の表情は納得や哀れみ、同情が入り混じったわからないものになっていた。

同時にツバサも、ハヤテと別れた後どうしていたのかを語ってくれた。それによると、気づいた時には自分は空を飛んでいたらしく、別れた場所に戻ってもハヤテの姿は無く、ハヤテがどの洞窟に入ったのかも分からないので、仕方なく空から仲間を探し回っていたとの事。その途中でバシャーモたちと合流し、彼らが見つけておいたこの洞窟の位置を確認した上で、ハヤテの捜索を行っていたという訳だ。

「とにかく!ハヤテの怪我と風邪をいち早く治す!これが最優先事項だ。」

「俺は木の実の調合方を知っている。無論、怪我や風邪に効くやつもな。俺に任せてくれ。」

「俺は水汲みをしてくるよ。俺ならこの森でも機動力を生かしきれる。」

「よし、ジュカインは薬、バシャーモは水汲みを頼む。俺は薪や藁みたいな必要な物を集めてくる。」

影のリーダー、ツバサの的確な指示を受け、各々が動き出す。ハヤテはそれを何処か安心しきった目で見ていた。


夜も深くなった頃、4匹は洞窟の中で静かに眠っていた。ふと、目が覚めたハヤテは寒気を感じて身震いした。

「ん…どうした?ハヤテ。」

眠い目をこすりながらツバサが起き上がる。

「済まない、起こしてしまったか…。だが何でもない。大丈夫だ…。」

ツバサにこれ以上の迷惑はかけたくないと思い、敢えて平穏を装うハヤテだが、どうやらツバサは全て理解してしまったようで……

「そうか。じゃあ、こうすれば不安も何も無くなるな。」

ツバサはハヤテを自分の元に引き寄せると、ぎゅっ…と抱きしめたのだった。

「ちょ…!待て…ツバサ…!」

恥ずかしそうに慌て、ハヤテは抜け出そうとするが、ツバサはハヤテの体に腕をまわし、動きを抑制する。

「普段ならおかしな光景だが、身体を温めるという目的なら問題ないだろ?じゃ、お休みな。」

そう言うとツバサは目を閉じ、再び寝息を上げ始めた。ハヤテは再度、抜け出そうともがいていたが、それが無駄だと悟ると、観念したように腕を下ろした。するともがいていて感じられなかったツバサの温もりが、じんわりと背中から伝わってきたのだ。

(…温かい……)

温もりは少しずつ身体中に広がっていった。ハヤテを震えさせていた寒気はいつの間にか消えていた。それと同時に、ハヤテを再び眠気が襲う。

「…ありがとな…ツバサ…。」

仄かな温かさと安らぎを与えてくれた存在に感謝しながら、ハヤテもゆっくりと目を閉じた。既に夢の中にいるツバサにその声が届くはずもないが、ツバサの口元は僅かに曲がっていた。

◆◆◆

[プクリンのギルド メンバー]

プクリン(♂)
「プクリンのギルド」の親方。
陽気な性格で一人称は「僕」。弟子たちや家族、友だちから「何を考えているのか分からない。」と言われている。かつては一流の探検隊として活躍していたらしく、事実、自分のギルドからハヤテやツバサのような逸材を輩出した他、チャームズやレイダースのような世界に名を馳せる探検隊とも親交がある。なかなか表に出さないが、親方と言われるほどの実力もちゃんと有している。また、プクリン独自の謎の力が発動でき、「たあああーーーーーっ!!」と叫べば衝撃が起こり……

ペラップ(♂)
「プクリンのギルド」のメンバー。
プクリンの一番弟子であり、ギルドでも最古参。会計係と情報係を兼任しており、実質的にギルドを取り仕切り、プクリンの右腕として活躍している。楽天的な性格のプクリンとは正反対に、厳格で口うるさいが、面倒見の良さも持ち合わせている。

バクオング(♂)
「プクリンのギルド」のメンバー。
1年ほど前にドゴームから進化できたらしい。声が非常に大きく、それを利用した攻撃を得意とする。

キマワリ(♀)
「プクリンのギルド」のメンバー。
ハヤテたちをよく気にかけてくれていたポケモン。10年前当時からギルドの中でも相当な実力者であり、今もその腕は健在。

[レスキュー探検隊 メンバー]

エンブオー(♂)、ダイケンキ(♂)、ジャローダ(♀)
レスキュー探検隊メンバー。
レスキュー探検隊最強と言われるチーム。3匹とも幼馴染の関係。ダークライに討伐隊として選抜され、ハヤテたちを抹殺しに来た。

いかがでしたでしょうか。自分これ編集してて途中までバシャーモたちの存在忘れていました……
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