第二十九話 悪夢は続く

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

お待たせしました。第二十九話です。
[第二十九話 悪夢は続く]

「デンリュウ…!」

突如、背後に現れたそのポケモンに対し、ハヤテたち4匹はすぐさま戦闘態勢をとった。

「おやおや、そんなに硬くならなくても。せっかちですねぇ。」

フフッと笑うデンリュウ。その目を閉じてしまえば普段のデンリュウと変わりないのだが、その身体から発せられるオーラは変わらない。

「貴方達が犯した罪……それはパルキアを使い、ワイワイタウンを壊滅させた事です。言わずとも分かってますよね?」

全く身に覚えのない罪を着せられている。トレジャータウンの時と同じだ。

(やはり…闇に洗脳されている…!)

「デンリュウ!目を覚ませ!」

「目ならとっくに覚めていますよ。……さて、2択です。投降するか反抗するか……1つを選び、1つを切り捨てなさい。」

デンリュウの問いに対し、ハヤテたちを押し退けツバサが出てきた。

「随分と偉そうに言うがな……そいつはもちろん……」

ドンッ!!

「反抗するに決まってるだろう?」

ツバサとデンリュウは同時にその拳をぶつけ合った。ビリビリと空気が震える。

「…残念です……。」

デンリュウはそう一言言うと、ため息をついた。そして、

「ならば、覚悟なさい。」

デンリュウの目つきが鋭いものに変わり、その手に入る力が一気に増した。ツバサは両手でその手を掴み押し返すが、デンリュウの力はその上を行っていた。

「強すぎる……だろっ…⁉︎」

ツバサはなんとか押さえていたが、耐えきれなくなり体を横にずらしながらその手を弾いた。それによりデンリュウは硬い石壁に突っ込む事になったが、臆する事もなくその体を起こした。

「フゥ…痛いですねぇ……」

デンリュウはからかうようににっこりと笑みを浮かべながら、体についた砂を叩いて落とした。壁は大きく陥没しているが、デンリュウには痛む様子も、それを堪える様子もない。

「信じるべきでは無かったですね。指名手配されていても貴方達の事だから、何かの間違いだろうと信じていたのですが、その考え自体が間違いだという事をここに行動で示してくれるとは……」

思わず表へ飛び出してしまったハヤテたちの耳に、広場の方から乱れた大勢の足音が飛び込んできた。その中にはクチートもいる。ブイゼルも、アーケンも、他にも見知った顔が多く見える。

「…ポケモン調査団…!」

「私1匹で貴方達の相手をする事なんで出来ませんよ。レスキュー探検隊(あなた方のお仲間たち)と同じように、此方でも討伐隊を結成してみました。どうです?」

得意顔のデンリュウと少し焦った様子のハヤテ。対照的な2匹が睨み合う。

「ハヤテ……こいつらまとめて相手にしても勝機は無いぞ…。」

「分かっている……どうにか隙をついて逃げるぞ…!」

「そんな聞こえる声で言って大丈夫なんですか?まあ、言わずとも分かってますがね。」

ポケモンたちの集団が迫る。この状況で囲まれれば逃げ道はどんどん少なくなる。

(行くぞ、お前ら…!)

ハヤテは顔だけを後ろに向け、ツバサたちに目配せする。

「させませんよ!」

飛び上がったデンリュウがハヤテ目掛け、《エレキボール》を放つ。しかし、やはりデンリュウの動きはいつもより鈍い。『闇は使用者の技の発動速度を遅らせる』という弱点からは逃れられなかったようだ。

「ツバサ!バシャーモ!ジュカイン!」

掛け声に応じ、ツバサはハヤテを抱えて飛び上がり、バシャーモとジュカインはそれぞれ傍にそれた。本来なら命中率100%の痺れる電気の塊はハヤテのいた場所に叩きつけられ、辺りの塵を舞い上げながら炸裂した。バシャーモとジュカインは素早く建物の上に飛び乗ると、屋根を伝い一気に門から外へ飛び出した。

「逃がしません!ハヤテ!貴方だけでも!」

デンリュウが空中のハヤテたちに再び《エレキボール》を放つ。避けられないと悟ったハヤテは、ツバサの背に乗りながら体を後ろに向けると、《波導弾》で相殺した。

「ぐおっ……流石デンリュウだ……。電気のエネルギーがこっちにまで伝わってきたぜ……身体がビリビリいってやがる。」

ツバサはそう言いながら飛行速度を上げた。地上からは尚もしつこくデンリュウたちが攻撃を仕掛けているが、ハヤテたちとは既にかなり距離ができている。飛行能力が優れたツバサが、それだけの距離からの攻撃を避ける事は造作もない事だった。

「ダンチョー!あいつら、もうあんな遠くに!」

ブイゼルが慌てた様子で声を荒げるが、デンリュウは至って冷静だ。

「大丈夫ですよ。我々が追わずとも、彼らには既に追っ手が張り付いているのでね。」

そう一言言うと、デンリュウはハヤテたちの消えた森をじっと見つめていた。


一方、ハヤテたちは森の中で一際大きな木の陰に体を隠しながら、辺りの様子を伺っていた。

「どうやらデンリュウたちは追ってきてはいないようだな……」

取り敢えずは逃げられたという事にホッと安堵する4匹。だがハヤテはすぐに表情を元に戻す。

「さて、ダークライが一連の事件の首謀者だという事が分かった以上、我々は早急にダークライを倒す必要がある。」

「それは勿論だが……ダークライが何処にいるかなんて分かるのか?」

ツバサのその疑問にバシャーモが答える。

「闇の火口だ。我々はそこから指示を受けていた。」

「闇の火口か……あの後もずっと拠点にしていたとは……もっと調べておくべきだったな。」

「後悔するのは後だ。ダークライの居場所が分かった以上、俺たちは今からそこへ向かう!」

「だが用心しろ…!デンリュウたちが追ってこないという事は、別の追っ手が迫っている場合もある。もしくはこれ自体がダークライの罠という事もある。慎重に行くぞ。」

ハヤテは低い声でそう言った。その後4匹は森を攻略するための作戦や情報を共有した後、トレジャータウンの方向へと進みだした。ここから闇の火口へ行く前に、一度トレジャータウンの状況を確認しておきたいというハヤテに皆が賛同したからだ。


しばらく進むと、突然ハヤテが何かの気配を感じ、足を止めた。

「どうしたんだ…?いきなり止まって……」

「しっ!何かが来る…!」

ハヤテは木々の生い茂る前方を睨む。ツバサの目には深緑しか映らないが、すぐにそれが何なのかに嫌でも気づかされる事になった。

「ハ〜ヤテ〜!ツ〜バサ〜!」

聞き覚えのある声とこの口調、そして飛び出してきたピンク色の物体。

「あれは…ギルドの親方じゃ……」

バシャーモやジュカインでも知っている有名なポケモン。

「やはり…来たか…!プクリン…!」

◆◆◆

「久しぶりだね!ハヤテ!ツバサ!」

親方こと、プクリンは無垢の笑顔で2匹目掛け突っ込んできた。

「おっと…!」

2匹は飛び退いてそれを避け、プクリンはその後ろの木に強烈な体当たりをして止まった。木は大きく陥没し、プクリンに怯えるように揺れ、木の葉を散らしている。

「2匹とも、僕を避けるなんて酷いよ!」

頬を膨らませ、少し怒った様子のプクリン。その目は赤く光っており、やはり闇に洗脳されてしまったのだと分かる。

「そんな2匹にはお仕置きしないとね!」

そう言うとプクリンは口を大きく開け、「はあっ…!」と息を吸い込んだ。

「まずい…!この場から離れろ!」

何かを悟ったハヤテは大声でそう叫ぶと、一気に駆け出しプクリンから離れた。

「ううう……たあああーーーーーーーっ‼︎」

次の瞬間、プクリンを中心に強烈な衝撃波と揺れが発生し、周りの木を次々に粉砕した。それは離れた位置を走るハヤテたちにも届いた。

「う…うわああっ!」

大きな揺れがハヤテたちのバランスを崩す。たちまち立っていられなくなり、その場に膝をついてしまう。

ドォン…ドォン!

遅れてそこに衝撃波が到達し、ハヤテたちを襲った。

「飛ば…される…!」

ツバサは地面に伏せ、土に埋もれた岩を懸命に掴んで耐えた。


やがて、衝撃波が収まり、ツバサは顔を上げた。

「うわ…酷いことを……」

辺りはツバサに凄まじい惨状を見せつけていた。木々はバラバラに砕け、その破片は伏せていたツバサにも降りかかっている。地面も所々が抉れている。この辺りに住むポケモンたちも、何匹か巻き込まれたようだった。恐らく空から見ると、深緑色の森の中に、大きく土の色をした穴が空いているように見えるだろう。

「そうだ…!ハヤテは…!あいつらは…!」

体に付く木片を叩きながら、ツバサが辺りを見回すと、自分よりも後ろの方に倒れるハヤテの姿が目に入った。

「あっ!ハヤテ!大丈夫か!?」

ツバサが駆け寄りハヤテの頬を叩くが、ハヤテは目を覚まさない。今の衝撃波で木か何かに強くぶつかって気を失ってしまったのだ。

「あいつらは…!」

見回すが、近くにバシャーモとジュカインの姿はない。今の混乱ではぐれてしまったのだろう。

「ハ〜ヤテ〜!ツ〜バサ〜!逃がさないよぉ!」

プクリンがこちらに迫ってくる。その後ろにはぺラップにバクオングにキマワリに……

「くそっ!見てる暇はねえっ!早く逃げねえと!」

ツバサは両手でハヤテを抱え込むと、翼を大きく広げ、高い位置まで飛び上がり、そのまま前方に向かって急降下した。これによりスピードが上がり、見る見るうちにプクリンたちとの距離がついていく。

(あとは低空飛行して見つからないように……)

速度をそのままに、ツバサは高度を下げると、木々の間を上手くすり抜けながら、飛び続けた。


しばらく進むと、前方に洞窟が見えてきた。

(しめた…!あそこなら身を隠せそうだ!)

そう思うと突然、疲れと眠気がどっと押し寄せ、身体が重くなったような気がした。無理もない。これだけのスピードで、尚且つハヤテを抱えたまま飛んでいたのだから。

(は…早く洞窟の奥へ……)

落ちそうになる自分の体にゲキを入れ、ツバサはふらふらと洞窟の中に飛び込んで行った。
いかがでしたでしょうか。

気絶とか…ハヤテ弱ぇ……

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