第二話 悲しみの過去

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

お待たせいたしました。第二話です。今回は里で出会った少女の過去に触れていきます。
[第二話 悲しみの過去]

「ごめんなさい、いきなりお父さんなんて呼んでしまって……」

少女は少し恥ずかしそうに謝った。

「お父さんってどういう……」

「ツバサ、待てっ!」

ハヤテはツバサを引き寄せ、耳打ちした。

「あの子は心に傷を負っているかもしれない、下手に質問すると、その傷を広げてしまうかもしれない。」

「ああ、そうか、すまない。」

ハヤテは向き直り、少女に言った。

「紹介するよ、こっちはツバサ、レスキュー探検隊のメンバーにて私の唯一のパートナーだ。」

一息置いて、

「それで君はあの里では誰と暮らしているのかな?」

少女は俯き、言った。

「1匹です。」

「えっ…?」

「わたし、あの里では1匹で暮らしているんです。」

「さ、寂しくないのか?」

ツバサが少し遠慮がちに聞いた。

「寂しくはないです。みんないるから、1匹で暮らしていてもよくみんな来てくれるから……」

少女は少し間をおいて、語り始めた。

「わたしは緑の里で育ちました。両親のいないわたしを育ててくれたのはツバサさんと同じ、リザードンのおじさんでした。」

(なるほど、だからツバサを見てお父さんと言ったのか)

「わたしは3歳の頃、両親に捨てられたんです……邪魔だって言われて…どこにも行けずに森をさまよっていたんです。お腹が空いて動けなくなって、他のポケモンたちに襲われそうになった時、わたしを助けてくれたポケモンがいたんです。それがリザードンのおじさんでした。
おじさんはわたしを実の娘のように接し、育ててくれました。わたしもそのおじさんを実の父親と思うことができました。おじさんと暮らすのはとても幸せで…ずっと続けばいいなと思ってたのに……」

少女の手はまた震えていた。ハヤテはそれに気づいたが、どうしても声をかけることができなかった。

「まさか…あんなことが…あんなことが…起こってしまうなんて……」

少女は目に涙をため、消え入るような声で言った。

「あんなことって…!」

ツバサが半ば驚いた顔で尋ねた。少女は歯をくいしばって答えた。

「わたしのお父さんは…お尋ね者のポケモンに殺されたんです……」

◆◆◆

12年前のことです。3歳のわたしは突然、両親に森に連れてこられ、そこに投げ捨てられました。

バクフーン父:お前は邪魔なんでな、ここに捨ててやるよ!死にたくなければ勝手に生きろ!殺さないだけでも感謝しろよ!

バクフーン母:ちょっと、そんな言い方ダメよ。ごめんなさいね、あなたにあげるご飯はないの。1匹で生きてちょうだい。

3歳のわたしにはなんて言っているのか理解できませんでした。ただ、「邪魔だ。」という言葉だけが記憶として残りました。

バクフーン父:おい、行くぞ。

バクフーン母:ええ、わかったわ。
ごめんね、さようなら。

両親が立ち上がり、歩き始めました。幼いわたしは追いかけようとしましたが、その姿は少しずつ遠ざかっていきます。

ヒノアラシ:待って!待って!パパ!ママ!置いてかないで!

その時わたしはそう叫んだのでしょう。けれども、両親は足を早め、とうとうその姿は見えなくなってしまいました。

ヒノアラシ:うっ、うわあああん‼︎
パパあっ!ママあっ!何処おっ!


それからわたしは、ただあてもなく歩いていたんだと思います。気がつくとわたしはお腹が空きすぎて倒れてしまっていました。そして周りにはたくさんのポケモンが……

ヒノアラシ:お腹空いて…前、見えなく…なって…きた…死んじゃう…のかな……

わたしの意識はそこで途切れました。自分はここで死んだと思っていたんです。もう目覚めることはないと……


でもわたしは目覚めたのです。

◆◆◆

次に目覚めた時、そこにあったのはいつも見てきた森の風景ではなく、白い天井でした。

ヒノアラシ:…ここは……

わたしはここは「あの世」だと思い、ほっぺたをつねってみました。

ヒノアラシ:痛い!…えっ、痛い…?

そう、痛かったんです。つまり夢じゃないんです。だとしたら、ここは何処なのかな?考えていると向こうから足音が聞こえできました。わたしはビクビクしながら見ていると、カーテンをくぐってある1匹のポケモンが入ってきました。それがリザードンのおじさんだったのです。

リザードン:目が覚めたかい、大丈夫か?何処か痛いところはないか?

ヒノアラシ:おっ、おじさん、誰?

リザードン:わたしはリザードン、ここは緑の里だ。君、森の中で倒れていたんだよ?危うく森に住むポケモンたちに攻撃されるところだった。何があったんだい?

わたしは不思議とそのリザードンに対して、怖さとか怪しさとか感じなかったんです。おかしいですよね、知らないポケモンなのになんとも思わないって。

わたしは自分のことをそのリザードンに全て話しました。すると、そのリザードンは涙を流しながら、

リザードン:ならここに住みな!君は今日からわたしの娘だ!

そう叫んだのです。幼いわたしはその言葉の意味がよくわからなかったんですけど、なんとなく良い言葉だなっていうことはわかりました。すると自然と笑みがこぼれてきて……

それからわたしはこの里で暮らすことにしました。リザードンのおじさんはわたしのことを本当の娘として育ててくれた……わたしも最初はそのリザードンのことをおじさんと呼んでいたのですが、一緒に暮らしていくうちに、いつの間にか「お父さん」と呼ぶようになっていました。里のポケモンたちもみんな優しくて、お父さんと暮らす日々は幸せでした。


……あんなことが起きるまでは……

◆◆◆

あれはわたしがお父さんと暮らし始めてからもう10年近くたったある日のことです。わたしとお父さんは森に木の実を取りに行きました。そこは「広大な森」と呼ばれるダンジョンですが、そこに住むポケモンは大して強くなく、気の弱いポケモンばかりだったので、子どものわたしでも入ることができるのです。お父さんと一緒に木の実を取りに行くことは毎日の日課であり、わたしたちの楽しみでもありました。

リザードン:今日はこの辺で取るぞ、ヒノはそこらへんの木の実を取ってきてくれ。わたしはあの高いところの木の実を取るよ。

ヒノアラシ:は〜い。

この時、わたしはお父さんよりたくさんの木の実を取ってお父さんを驚かそうと考えたのです。

ヒノアラシ:えへへ、お父さんの驚く顔、早く見たいなぁ。

より多くの木の実を取るために、わたしは森の奥、奥深くへと入ってしまったのです。

夢中で木の実を集め、もうこれ以上持てなくなった時、わたしは森の奥へと入ってしまったことに気づきました。

辺りを見回しても、ここが何処かわかりません。わたしは森の中で迷子になってしまったのです。

ヒノアラシ:おっ、お父さん!お父さん!何処にいるのーっ!

しかし叫んでも自分の声が響くばかり、風の吹く音しか聞こえません。わたしは怖くなりましたが、歩けば何処かにたどり着くと思い、何処に行けば出られるかもわからないまま歩き始めました。

しばらく歩いていると急に、広くなった場所に出てきました。ここからならお父さんに聞こえるかも、そう思い大声で叫びました。

ヒノアラシ:お父さーん!わたしはここにいるよ!何処なのおっ!

しかし、その時、

⁇:へぇ、いい声出すじゃねぇか。

背中がぞくっとしました。ゆっくり振り返ると、そこには2匹のポケモンが笑いながら立っていました。

ヒノアラシ:だっ、誰なの?

カイリキー:俺か、俺はカイリキー、そしてこいつがグライオンだ。

グライオン:俺たちはSランクのお尋ね者よ。

お尋ね者…お父さんが言ってた……世界には悪い事をして追われているポケモンがいるって……そのポケモンたちのことをお尋ね者と呼ぶって……じゃあ…まさか…この2匹って……

ヒノアラシ:あなたたち、悪いポケモンなの?

カイリキー:まあ、そうだな。それでお前……

ダッ!

カイリキーの話を聞かず、走り出しました。

ヒノアラシ:(早く逃げないと、あの2匹、何するかわからない!)

でも、

カイリキー:ヘヘッ、逃げられると思ってるの〜。

ガシッ!

ヒノアラシ:ひっ!離して!離してよ!

わたしはあっさりと捕まってしまいました。逃げようとしたけどカイリキーの力が強く、逃げられませんでした。

カイリキー:ひっひ〜、さてどうしてやろうかね〜。

グライオン:なぁカイリキー、こいつよく見ると可愛いな。こいつを売れば金になるんじゃねぇか?

カイリキー:いい考えだ、そうしよう。

ヒノアラシ:やだっ、やめて、離して!

そうして、連れて行かれそうになった時でした。

⁇:火炎放射っ!

ゴオオオッ!

カイリキー:あっ、アチィィッ‼︎

ヒノアラシ:おっ、お父さん!

リザードン:ヒノ、大丈夫かっ!

なんと、お父さんが助けに来てくれたのです。お父さんは火炎放射で2匹を攻撃し、その隙にわたしは逃げることができました。

ヒノアラシ:どうしてここが?

リザードン:森でお前を探してたらな、お前の叫び声が聞こえたんでな。急いで飛んできたわけよ。それより下がってろ、奴らは強いぞ!

カイリキー:その通り、俺たちに勝とうなど考えるな。ここで殺されておしまいだ。

グライオン:そいつを置いてとっとと消えな、そうすれば命だけは助けてやるよ。

しかし、お父さんは2匹の元へ飛び出しました。

カイリキー:ヘヘッ、死ぬ気ありか。

グライオン:上等だ、相手になってやるぜ!

お父さんは腕に炎を纏う(まとう)と、

リザードン:喰らえ!『炎のパンチ』!

ボオッ…バキッ‼︎

カイリキー:おおっ!

グライオン:アチッ!

見事、炎のパンチは2匹に当たりました。お父さんは再び腕に炎を纏うと、

リザードン:もう一発、受けてみろ!

カイリキーに向かって飛びました。
しかし、

ガシッ

リザードン:うっ!

カイリキー:馬鹿め、同じ手には二度も引っかからないんだよ!

カイリキーに腕を掴まれてしまったのです。

カイリキー:見ての通り、俺には腕が4本ある。つまり2本腕がふさがっていても、もう2本は使えるってことだよ!お前はもう逃げられない。てなわけで…『クロスチョップ』!

ヒュン!ズババッ!

リザードン:があああっ!

カイリキー:…からの、『マッハパンチ』!

バシィッ!

リザードン:うぐっ、ゲホッ!

カイリキーの二連続攻撃が動けないお父さんのお腹に入り、お父さんは苦しそうにもがいています。

ヒノアラシ:お、お父さん……

その時、わたしはただ立ちすくむことしかできませんでしたが、お父さんが血を吐いたのが見えると、身体が勝手に動いたような感覚でカイリキーの元へ走り出しました。

ヒノアラシ:お父さんを離せぇっ!

どんっ!

カイリキー:イテッ!

わたしの『体当たり』は、カイリキーにはそれほどのダメージにもなっていませんが、カイリキーはわたしが攻撃してきたことに怒りだしました。

カイリキー:こっ、このくそガキがぁ!

バキィッ!

ヒノアラシ:あぐっ……

わたしはカイリキーに蹴り飛ばされてしまいました。

リザードン:ううっ…やめろ…ヒノには手を出すな……

カイリキー:ふん、俺に手を出したそいつが悪いのさ。おいグライオン!そのガキはもう要らねぇ!殺れ!

グライオン:おうよ!

グライオンはわたしを捕まえ、その大きな腕を構えました。

グライオン:安心しろ、一思いに殺してやるよ。

ヒノアラシ:あっ…あああ……

グライオン:死ね…『シザークロス』。

リザードン:ヒノっ!

わたしは目を(つむ)り、震えていました。しかし、攻撃するような音は聞こえても痛みは感じないのです。恐る恐る目を開けると……

ヒノアラシ:おっ、お父さん!

わたしの前にはお父さんが立っていました。お父さんは目を閉じ、歯を食いしばり、ぶるぶると身体が震えています。

ヒノアラシ:お父…さん…?

次の瞬間、お父さんは血を吐いて地面に(ひざまず)きました。

ヒノアラシ:お父さん!しっかりして!
お父さん!

グライオン:へぇ、こいつをかばって代わりに攻撃を受けるとは。面白い、ならお前から死ね…!

リザードン:…せない……

カイリキー:ん?なんだって?

リザードン:ヒノに…手は…出させない…!

ゴオオオオッ…!

お父さんが2匹を睨むと同時に、その周りに突如、大きな炎が巻き起こり、あっという間に2匹を包み込んでしまいました。

カイリキー:アチッ、アチッ、ぐわぁぁぁっ!

グライオン:あああっ!なんだっ!

カイリキー:かっ、川だ!川に飛び込めっ!がああっ!

2匹は一目散に走り去って行きました。


ヒノアラシ:お父さん…ねぇお父さん!しっかりしてよ!

リザードン:はぁ…はぁ…ごめんな…わたしは…お前を守ることが…できなかった……お前に…怪我を負わせてしまった……

ヒノアラシ:そんなこと無い!お父さんはあの2匹からわたしを守ってくれた!
お父さんはわたしのヒーローなんだよ……

リザードン:ふふ…そう言ってくれて…嬉しいよ……お前と出会うまで…わたしは孤独だった……お前は…わたしの孤独の時間を…埋めてくれた……お前と…出会えて…幸せだった……

ヒノアラシ:そんなこと言わないで!また一緒に暮らそうよ!

リザードン:ふふっ…ヒノ…ありが…とう…な……

それがお父さんの最後の言葉でした。

ヒノアラシ:お、お父さん?

涙を流しながら、お父さんは静かにあの世へと旅立って行きました。

ヒノアラシ:お父さん……ううっ…うわっ…うわああああん……

それからのことはよく覚えていません。

目が覚めた時、わたしは再び白い天井が真っ先に目に入りました。

ヒノアラシ:(もしかして…!向こうからお父さんが…!)

しかし、いくら待ってもそのカーテンをくぐるポケモンはやって来ませんでした……

これが2年前、わたしに起きた出来事なのです……

◆◆◆

[緑の里の住民]
ヒノアラシ(♀)
緑の里で暮らす少女。15歳。
丁寧口調で話す。愛称はヒノ。攻撃され、倒れていたところをツバサに救われた。壮絶な過去を持っている。

リザードン(♂)
かつて緑の里で暮らしていたポケモン。
42歳没。12年前、森で倒れていたヒノアラシを助け、以降自分の家に住ませた。2年前にお尋ね者に襲われ、ヒノアラシの目の前で命を落とす。
いかがでしたでしょうか。擬音が多く使われているのもこのころの特徴です。改めて見てみると恥ずかしくなる……

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