第十九話 悪魔の支配者

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

お待たせしました。第十九話です。
[第十九話 悪夢の支配者]

「うっ!」

広場から調査団本部へと走っていたデンリュウは突然、何かを感じ立ち止まった。

「ダンチョー?」

ペロッパフがデンリュウの様子に驚き、足を止めて駆け寄った。

「なんでしょう……この…おぞましい……冷たい感じは……」

強烈な威圧感を持つパルキアとは違う、別の何かをデンリュウは感じ取った。

「ダンチョー……なんか寒気がするぞ……。」

アーケンもデンリュウと同じ、何かを感じているようだ。

「引き返します!」

デンリュウたちは踵を返し、元来た道を駆け出した。

◆◆◆

一方、広場では、ハヤテとダークライが睨み合っていた。

「全く、久しぶりだな。ハヤテ。」

ダークライは、ハヤテを見下ろしながら、フッと笑った。

「ダークライ…!お前はあの時、パルキアの攻撃を受け、記憶を失ったはず……たとえ生きていたとしても、記憶を失ったお前に出来ることは無い!」

ハヤテは強い口調でダークライを責め立てる。

「…確かにあの時、私は時空ホールに入ると同時にパルキアの攻撃を受けた。そして記憶を失い、そのまま何処かの時代へ飛ばされた。」

ダークライは表情を崩さない。

「だが、記憶を失ったというのは、あくまでお前たちの推測に過ぎない。」

「…!?」

「簡潔に言うと、私は記憶を失ってはいない。そしてパルキアの攻撃も受けていない。」

「何だと…!」

ツバサが驚きの声を上げる。2匹とも、ダークライを完全に仕留めたと思っていたのだ。

「私の最終目的はこの世界を暗黒で支配すること。それはハヤテ、お前がこの世界に来るずっと前から計画していたことだ。
そしてお前が現れた。ジュプトルと一緒にな。私はお前たちを仕留めようと攻撃したが、お前はジュプトルを庇い、ポケモンになった。ここまでは以前、話しただろう。」

ダークライは淡々と言葉を続ける。

「この時私はなめていた。お前の力を。まさかお前がここまで強くなるとは思いもしなかった。もともと人間だったのだから戦闘能力は高くならない。そう思っていた。
だが、お前はツバサと出会い、メキメキと強くなっていった。そう、暴走するディアルガに果敢に立ち向かい、星の停止を止めてしまうほどにな。全く持って、予想外だったよ。」

空中から彼らを見下ろすダークライの視線は、背筋が凍えるほどに冷たい。経験の浅いポケモンであれば、文字通り、凍えたように動けなくなっていたのかもしれない。

「私は計画を改め、様々な策を考えた。クレセリアに扮してお前たちを精神的に追い詰める、パルキアを使って抹殺を図る、私自身が集団でお前たちを襲う、などな。
だが、お前たちはその全てをかわした。クレセリアの邪魔もあったしな。そこで、私は最後の手段を取った。
思い出してみろ。私がお前たちに敗れたあの時、私は時空ホールで逃げようとした。それと同時にパルキアも現れた。
おかしいと思わないか?何故私が逃げる寸前に奴が現れたのかを?もっと早く現れていれば私を仕留めることも出来たのかもしれぬのに。」

目を閉じ、フフッ……と僅かに笑うダークライ。

「どういうことだ…!」

キッとハヤテはダークライを睨みつける。ダークライは、ハアッ……とため息をつき、冷たい視線を2匹に向けた。

「…簡単な話さ。私がパルキアを操っていたということだ。」

◆◆◆

「操っていただと…!」

「ああ、その当時からな。」

ハヤテはその場にどっかと座り込んでいるパルキアを見た。その視線に気づいたパルキアが、見るなと言わんばかりにハヤテを睨み返した。

「先ほども言ったが、私のこの計画はずっと前から考えていたものだ。無論、邪魔も入るだろう。だから私はそれに対抗しうる様々な策を考え、実行した。
はっきり言って、私のこの計画の最大の敵はお前たち2匹だ。私の考えたあらゆる策を、次々に破って行ったからな。この策は、お前たちを抑えるための全ての策を破られた時の、保険として講じていたものだ。使うことはないだろうと思っていたがな。」

ダークライはふよふよと浮きながら、次第にハヤテたちの元へ近づいてくる。ハヤテたちは警戒しつつ、相手の動きを見る姿勢だ。

「まあ待て、まだお前たちを倒すつもりは無い。真実ぐらいは話しておいたほうがいいと思ってな。私の使った最大の『策』のな。」

ニヤリ……と不敵な笑みを浮かべるダークライに、ハヤテは背筋に悪寒が走るのを感じた。

◆◆◆

「10年前、突然パルキアがお前たちを襲撃したあの日……思い出したか?」

あの日……それはかつて、まだハヤテたちが進化する前、つまりサメハダ岩で暮らし始めて間も無い頃の出来事だった。サメハダ岩で休んでいたハヤテたちを、突然パルキアが襲撃し、空の裂け目へと連れ去った。パルキアは「ハヤテたちを消せば、空間の歪みは元どおりになる。」というダークライの言葉に巧みに操られ、ハヤテたちを殺そうとしたが、その直前にクレセリアに止められ、真実を告げられた。

「ああ……お前が裏から手を回し、全てを引き起こしたあの事件か……。」

「フッ……そうだな。間違いでは無いな。」

ダークライは余裕そうな表情を浮かべ、小さく不吉な笑みをこぼした。

「あの事件は私がパルキアに虚偽の情報を流したことで起こったが、同時にその時のパルキアは闇に憑依されていた状態でもあったのだ。」

「何だと…!」

「いや、言い方が違うな。『私が』闇を憑依させたのだ。10年前にな。」

その話が事実なら、パルキアは10年前の時点で、既に闇による支配を受けていたという事になり、ハヤテたちを襲った時のパルキアは、闇の支配を受けた状態だったということになる。

「…だが、そんなことをしてもクレセリアに気付かれるはずだ。」

「確かにな。だから私はパルキアに憑依させた闇を少なくし、感知できないようにしたのだ。おかげでパルキアを洗脳することしかできなかったがな。」

「…我々を襲う前から計画していたのか…?」

「勿論だ。だからこそ、ここまで時間がかかってしまった。」

ダークライはそこで、フゥッ……と一息つくと、真実を語り出した。

◆◆◆

「…10年前、暴走するディアルガをお前たちが止め、星の停止が阻止された時、私は非常に焦ったよ。すぐに対策を練った。幾つもな。その内の一つがこれだ。『10年越しの復讐』とでも名付けようか。
おっと……そう騒ぐな。何をしたか教えてやるよ。
パルキアがお前たちを襲撃する前日、私はパルキアの元へ向かい、パルキアに自身に協力するように迫った。無論、計画の内容を知ったパルキアに断られる事を前提としてな。
私はパルキアと戦闘になり、隙をついて微量の闇を憑依させた。闇はすぐにパルキアの脳内へと移り、そこで固定された。
そして私はパルキアから私の記憶を消し、眠らせたパルキアの夢の中にクレセリアの幻影を使って現れ、お前たちの事を告げたのだ。その後はパルキアの動きを傍観し、お前たちがパルキアに追い詰められた所で、クレセリアに扮し、姿を現した。
あとはお前たちの記憶の通りだ。お前たちにとどめを刺す寸前に本物のクレセリアに邪魔され、私はまたもや策を破られる事になってしまった。
その後、お前たちが闇の火口に来る間に、私はパルキアを洗脳し、完全に私の駒とした。そこでパルキアに、もし私が負けた時のための、ある作戦を命令したのだ。
『お前は私の敵のふりをして現れ、私が時空ホールに入ると同時に私に当たらぬように技を放て。』とな。
事実、戦闘には負けたが、パルキアの働きで私は怪しまれずに逃げ切る事ができた。『1日後』の世界へとな。そこで私は部下であるムウマージと再会した。
驚いただろう?だが考えてみろ。『未来』とは、たった1日後でも、1時間後でも、はたまた1秒後でも、『未来』なのだ。当然の事だろう?それからあの時、私は未来と過去のどちらに行くのかわからない、とも言ったが、無論、あれも嘘だ。
闇の量を最小限にしたお陰で、クレセリアに気づかれず、裏で安全に暗躍を重ねる事が出来た。このパルキアをはじめとする多くのポケモンを闇で支配する…それが私の最終目標なのだ!」

◆◆◆

…強力な威圧感を放つ有名探検隊のリーダーと闇王と呼ばれる実力未知数の伝説ポケモンの睨み合い……広場は異様な雰囲気を醸し出していた。

「…つまり、かつて我々にやられたのも、闇王として多くのポケモンを操っているのも、全て1つの作戦だったという事か…!」

「そういう事だ。」

「トレジャータウンを襲撃したのもお前だな?」

「ああ。奴らを倒した後で、闇を憑依させた。帰ってきたお前たちに怪しまれぬように、パルキアにしたように微量の闇で記憶だけを操作し、お前たちが追い出された後で、完全に支配したのだ。奴らの目は赤くなかっただろう?目の色の濃さは憑依している闇の多さで変わるからな。僅かしかなければ目の色もほとんど変わらない。」

「という事は、やはりあの時の視線は……」

ハヤテはかつてトレジャータウンで感じた、自分たちへの視線と謎の感覚を思い出した。

「ああ、やはり感じていたか。すぐに波導で感知していればよかったものを。」

「くっ…!」

事実を言われ、言い返せなくなったハヤテ。ダークライが更に追い討ちをかける。

「フン……やはりこの程度か……。だからトレジャータウンを守る事も出来なかったのだ。情けないものだ。」

自分がトレジャータウンを襲った事を棚に上げ、ひたすらに侮辱を繰り返すダークライに対し、ハヤテは怒りを抑え平静を保っているが、ツバサは怒りで今にも飛び出しそうであった。

「そうだ、トレジャータウンから『元』お前たちの部下のポケモンを向かわせたのだが……」

ダークライは瓦礫と共に倒れるバシャーモたちを横目で見る。

「やはり使い物にならなかったな。流石、『レスキュー探検隊』だ。」

「ぐっ…!ふざけるなぁ!!」

その一言でツバサの怒りは頂点に達した。ツバサは地を蹴って、物凄いスピードでダークライに接近する。

「待て!ツバサ!それでは奴の思う壺だ!」

ハヤテが制止するが、怒りで我を忘れたツバサには届かない。

「フフッ…バカめ……。」

ダークライが横に伸ばした手を、ツバサ目掛け突き出す。その途端、

「ぐっ…!?」

ツバサの目の前に、目の色を真っ赤にさせたパルキアが……

「ドラゴンクロー!!」

パルキアは右手を上げると、ツバサ目掛けて振り下ろした。
いかがでしたでしょうか。やたら分割されていたダークライの台詞を一つにまとめたら長ったらしくなってしまいました。

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