第十一話 闇の力

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お待たせしました。第十一話です。流血表現とかありますので注意。

ザッザッザッザッ……

地の枯れ葉や枝の軋む音が響きわたる。森の中を1つの影が駆け抜ける。

「はあ…はあ…い、急がねぇと……」

その影、ツンベアーは荒い息を立てながら森の中を激走していた。

「早く…アレの…準備を…しなければ……」

ツンベアーは走りながら、薄気味悪い声で笑っている。

「ククッ……アレを…あいつらに…見せた時の…反応が楽しみだ…ククッ……」

森の中に…不気味な笑い声が響き渡った……

[第十一話 闇の力]

「ヒノちゃん、神殿まであとどれくらいだい?」

「もうちょっとです。此処はそんな長いダンジョンじゃないので。」

ハヤテたちも森の中を走り、逃げたツンベアーを追っている。ハヤテがここである疑問に気づく。

「そういえば、ここのポケモンたちは我々を見ても襲ってこないな……怯えているようにも見えるが……」

「ツンベアーら盗賊団を恐れているんだ。本当はそれなりの実力があったのだが、ツンベアーはそれ以上の強さでこのダンジョンを制圧したのさ。」

ガブリアスが淡々と解説する。その説明によると、この森は全体がダンジョンとなっており、ダンジョン名は「聖域の森」とのこと。かつてはここに住むポケモンたちは皆、なかなかの実力があり、独自に部隊の様なものも作られていたが、5年前にツンベアーの襲撃を受け、手も足も出ずに壊滅させられたという。

「…それ以来、ここのポケモンたちはツンベアーに従事しながら暮らしている。(おとこ)は力仕事でこき使われて、(おんな)や子どもは食料生産や資源の提供、挙句は盗賊団の性処理の道具にまでさせられた。当然、そんな状況では修行もできず、結果ここのポケモンたちは弱くなっていったのだ。」

「そうだったのか……」

ハヤテは周りのポケモンたちを、同情的な目で見まわす。ポケモンたちはハヤテの目線に一瞬隠れるも、影から顔だけを出してこちらを覗いている。

「なら、尚更早く、ツンベアーを倒さねばな。」

「勿論俺も同じ気持ちだ。急ぐぞ。」

◆◆◆

「ハヤテさん!ダンジョンの出口です!神殿はすぐそこですよ!」

「そうか!よし、行くぞ!」

バッ!

空気を鳴らし、ハヤテたちは森から飛び出した。そして、

「何だ…ここは…?」

「これが、『隠された神殿』…なのか……」

ハヤテたちは驚きの声を上げた。薄暗い森を抜けた先、そこには壮大な神殿があったのだ。白色の石の柱が、真ん中の通路を挟んで立ち並んでいる。その奥には、同じ白色の石材で作られた大きな神殿があった。

(あれ以外には建物はない……ツンベアーはあそこにいるようだな……)

「ヒノちゃん、ここからは危険だ。隠れていてくれ。」

ハヤテはヒノアラシに隠れるよう促したが、

「大丈夫です。もうツンベアーも怖くありません。」

ヒノアラシは強気でそう言った。

「しかし……」

「味方は多い方がいいでしょう?それにわたしはみんなを助けたい!里のみんなも、ダンジョンのポケモンたちも!」

ヒノアラシはそう叫んだ。ハヤテはだが…と言いかけたが、ヒノアラシの叫びから何かを感じ取ったのか、途中で口をつぐんだ。

「…分かった。だが相手はツンベアーだ。他とは桁違いに強い。更にツンベアーからは何か嫌な感じがしたんだ……。あれは…そう…トレジャータウンで感じたような……」

「トレジャータウン?」

ガブリアスが話に割って入る。

「ああ、そう言えばふたりにはまだ話してなかったな。実は……」

ハヤテはトレジャータウンが襲撃されたこと、何者かによってその罪が自分たちに着せられていること、追っ手をかわしながら、真相を暴くための旅をしていることを2匹に話した。

「そうか、そんなことが……」

ガブリアスは驚きと同情の入り混じった表情でハヤテを見つめた。

「この里に寄ったのはほんの偶然さ。だが、里で起こっている事件を放っておくわけにはいかないのでね。」

ハヤテはヒノアラシを見つめ、小さく笑い掛ける。

「それで…そのトレジャータウンで感じた何かと同じ気配をツンベアーから感じるのか?」

「ああ、間違いない。同じ気配だ」

ガブリアスの質問に、ハヤテは強く頷いた。

「とにかく急ごう、こうしているうちにもツンベアーは何をするか分からない。それにツンベアーから感じる気配も気になる。」

ハヤテたちは駆け足で神殿へ向かった。

◆◆◆

「ふう……これで回復完了…と。」

同じ頃、神殿の中ではツンベアーが、自身の回復をしていた。そこにハヤテたちが突入してきた。

「ツンベアー、やっと追いついた!もう逃げられない!観念しろ!」

神殿内にハヤテの声が響きわたる。

「くっくっく…やっと来たか、遅かったな。」

ツンベアーもハヤテの方を見遣った。

「その様子では…体を回復させたな。」

「当然だろ?それにお前らも回復してるじゃないか。」

ハヤテとツンベアーの言い合いがヒノがツンベアーに叫んだ。

「みんなは…里のみんなはどこなんですか!」

ツンベアーは少女の方を向くとニヤリと笑った。

「そうだったな、面白いものを見せると言ったな、そいつらと一緒に見せてやるよ。」

そう言うと、ツンベアーはパンパンと手を叩き何処かに合図を送った。すると、ツンベアーの後ろの巨大な扉が音を立て始めた。

ズズズズズ……!!

「さあ、見てみろよ!これが俺の見せたかったもの!最終兵器、『巨大大砲』だ!」

開いた扉の向こう……そこには巨大な白の大砲があった…!

◆◆◆

「巨大大砲だと…!」

ハヤテは目を細め、ツンベアーを睨んだ。ガブリアスも同様にツンベアーを睨みつけ、ヒノアラシは驚きで声が出せない。

「そんなものを使って…何をするつもりだ!」

「無論、里を完全支配するため、いずれは世界を手に入れるため、だ。まだ試したことはないがな。」

ハヤテの問いかけにツンベアーは不敵に笑って答えた。

「この世界に…戦争を仕掛ける気か…!そんなことをすればどうなるか分かっているのか…!」

「勿論、俺1匹の力じゃどうにもならないさ。だからこいつらを連れてきたんだよ。」

ツンベアーが「おい」と呼びかけると、大砲の後ろから里のポケモンたちがおどおどと出てきた。周りを盗賊団のポケモンに囲まれている。

「緑の里は別名『物作りの里』と呼ばれていてな、手先の器用なポケモンが多いわけよ。だからこいつらを攫って武器を作らせてみたのさ。思った通り、すげぇのが出来たよ。さて……」

ツンベアーが一歩前に踏み出す。ハヤテたちは防御の構えをとった。

「話だけじゃ退屈だろう。そろそろ殺りあおうぜ。」

そう言うとツンベアーは腰に巻いていたバッグを端へ投げ捨てた。

「バッグを……なんのつもりだ?」

「邪魔なだけさ。それより見せてやるぜ……俺の新しい力…!」

ツンベアーは腰を落とすと体に力を入れた。時より腕や膝がビクビクと振動しており、相当に力を込めていることが分かる。

「くっ!この力は…!」

ハヤテはツンベアーの力を以前にも感じていた。それはかつてトレジャータウンで感じたもの、そして今しがた、神殿前で感じた力そのものだった。

「ぐぐ…が…がっ……」

ところがツンベアーは唸りながら、地面に跪いてしまった。頭を抱え、苦しそうである。

(力が…身体に馴染んでいないのか?だとするとチャンスは今だが……)

この時、ハヤテはすぐにでもツンベアーを攻撃したかったのだ。だが、

(足が…震えている…!まさか、ツンベアーに対し恐怖を感じているのか…?この私が…!)

プクリンのギルドや有名探検隊たち、その他多くのポケモンたちを押さえつけ、トレジャータウンを屈服させた謎の力、その未知なる強大さに対しハヤテは動けなかったのだ。

「くうっ…馬鹿な……」

「ああ…そんな……」

それはガブリアスやヒノアラシも同じだった。

「こんな力…感じたことも……」

ハヤテより年上であるガブリアスですら感じたこともなかった。



「ぐぐ…くっ……」

しばらくすると不具合が治まったのか、ツンベアーはその場で大きく深呼吸をした。

「くっくっくっ…やっと…やっとこの力を存分に発揮出来る……」

そう言うと顔を上げたツンベアー。

その目は…紅色に…染まっていた……

◆◆◆

光が差し込み、神殿内はとても明るい。だが、ツンベアーの紅い目は、その明るさの中でも、ひときわ目立って見えた。

「何だ、その目は……」

「くくっ、新たな力だ。」

ツンベアーはポキポキと手を鳴らしながら答えた。

「どうやってその力を手に入れた…!」

ハヤテは強い口調でツンベアーを威嚇する。だが、ハヤテは動けない。これまでディアルガやパルキア、ダークライらと激戦を繰り広げてきたハヤテですら、謎の何かに恐怖を感じているのだ。

「どうやって手に入れたと言われても……いつの間にか使えるようになってたんだからな……便利だから良いのだがな。」

ツンベアーはハヤテの威嚇にも動じていない。その態度がハヤテを余計に苛立たせた。

「トレジャータウンを襲ったのもお前か!」

ハヤテは苛立ちと仲間を傷つけられたことへの怒りを込め、叫んだ。だが、ツンベアーは、

「トレジャータウン?襲った?知らねえな。」

よそ見をしながら平然とそう言ったのだ。その態度にハヤテは更に苛立つも、同時にツンベアーの言葉が嘘でないことも感じ取っていた。

「それより、始めようぜ。今度は互いに拳のぶつけ合いでよ。」

全身から闇のオーラを放ちながら、ツンベアーはニヤニヤとする。

「くっ…!」

まだハヤテの震えは治らない。

「来ないんならこっちから行くぜ!」

ブォッ!

途端、風を切る音とともにツンベアーが消えた。

(早い!道具を使ってないのに!)

ハヤテは辺りを見渡すが、ツンベアーの姿を確認出来ない。高速でこの空間内を移動しているのだ。

「くっ…何処へ消えた……」

「はっは、此処だ、よっ!」

バキッ!

「ぐがっ!」

突然現れたツンベアーによって、ハヤテは殴り飛ばされてしまう。

「ハヤテさん!」

ヒノはハヤテの元へ駆け寄ろうとしたがハヤテは起き上がり、それを制した。

「峰打ちだ。だが動くことも出来なかったか。当然だろうがな。」

ツンベアーが紅い目を光らせ、笑う。だがハヤテも、ツンベアーの方を向くとニッと笑った。

「ああ、だが殴ってくれたおかげで恐怖心が吹っ切れた。」

ハヤテはゆっくりと立ち上がった。ガブリアスも立ち上がり、身構える。

「やっと動ける…いくぞ!」

「威勢がいいな。俺を倒す気でいるようだが…」

ツンベアーはハヤテたちを見回しながら、なおも不敵な笑みを崩さない。

「…俺の力はこんなものではないぞ……」

言い切った瞬間、ツンベアーの姿が一瞬にして消えた。

「ハヤテ!」

「分かっている!」

ハヤテは目を閉じ、神経を集中させる。後頭部の4つのフサが浮き上がり、青いオーラが発せられているようにも見える。

(ツンベアーは…左…後ろ…右…前…左…我々の周りを高速で回っているようだな。何処から仕掛けてくるか……)

ハヤテはツンベアーの波導をキャッチし、彼の動きを読みつつ、棍棒に波導を纏わせ、防御と反撃の構えをした。



ブォォォォォッ……

ツンベアーの高速回転によって砂埃が渦のように捲き起こる。

「……………」

ハヤテは黙ったまま動かない。ツンベアーの動きを追っている。

「…そこか…!」

不意にツンベアーがハヤテに向かって突っ込んできた。

「動きは読めているぞ!」

ハヤテは棍棒で防御するが……

バキ!バキッ!

「がはっ!なっ!?」

ツンベアーの拳は棍棒を突き抜け、ハヤテに直撃した。ハヤテは投げ飛ばされ、壁に全身を叩きつけられてしまった。

「動きは読めていても、それに対抗できなければ意味は無いな。」

カン!カララン……

2つに折れた棍棒が転がる。ツンベアーはそれを蹴り飛ばす。

「俺の力は分かっただろう。だが俺はお前らを逃がさない。」

ツンベアーは今度はガブリアスとヒノアラシに目を向けた。

「命乞いをしても無駄だぜ。俺はお前らを…殺す…!」

ポキポキ指を鳴らしながら、ツンベアーはおぞましい笑みを浮かべた。

「うっ……」

ツンベアーの顔を見たガブリアスは、一歩後ずさりする。

「さあいくぜ…闇の力…解放……」

ツンベアーのその一言とともに、ツンベアーの体から黒く細い帯のような物が何本も飛び出し、ゆらゆらと揺れている。いや、あれは体から飛び出してるのではなく、体の周りを囲む黒い渦から飛び出しているのだ。

「ガハハ…俺の力…闇の力…ヤミノ……」

(理性が利かなくなってる…?力が感情を押しているのか…!?)

ガブリアスは変わりゆくツンベアーを見て冷や汗を流す。

「グググ…ハッ…!」

ズザザッ!

次の瞬間、ツンベアーは《高速移動》を使ったかのような速度で消え……

「!?」

ガブリアスの目の前に現れた。

「オレノ…イカリ……」

バギィッ!

鈍い音とともに、ガブリアスの体が宙をまった。

「ああっ…!」

ヒノアラシが口を押さえ小さく悲鳴をあげる。

「ウグ…グ…ガァッ‼︎」

ツンベアーから発せられる闇の力がいよいよ大きくなり、その目もより強く紅い光っている。

「ググ…スベテ…ホロボス…!」

途端、ツンベアーを取り囲む闇の帯が
ムチのようにしなりながら、勢いよく回転し始めた。

ダンッ!ボコッ!ドゴッ!

それは地面を叩き、壁に穴を開け、ポケモンたちを襲った。

バシッ!バンッ!バシッ!

闇がハヤテを打ち、ガブリアスを打ち、ヒノアラシを打った。

「うわあっ!があっ!」

「わあああ!」

「たっ、助けてくれっ!」

闇は囚われている里のポケモンたち、更には神殿にいる盗賊団員をも襲った。

「ぐっ…無差別攻撃か……」

ハヤテは怒りで歯を食いしばる。壁にもたれかかりつつ、フラフラになりながら立ち上がった。

「ツンベアー!そのポケモンたちには手を出すな!逃がしてやれ!」

ハヤテは闇に操られたツンベアーは更に危険と判断し、ツンベアーの注意を自分に引きつけると同時に、里のポケモンたちに逃げるようにとの意味を込め、叫んだ。里のポケモンたちはその声を聞き、一斉に出口へ向けて、走り出した。

ツンベアーはハヤテの叫びに反応して動きを止め、ゆっくりとハヤテの方を向いた。

「オレノ…テキ…スベテ…コロス……」

ツンベアーは闇の帯を1つに合体させた。帯は空中をゆらゆらと怪しく揺れている。

「ウガアアッ!」

叫び声とともにツンベアーは闇の帯をハヤテに飛ばす。ハヤテはそれを《波導弾》で迎え撃った。

ドゥンッ!

爆音が響く。

「ぐっ…」

ハヤテの《波導弾》は闇の帯を打ち消すことが出来ず、帯の軌道を僅かに変えた。その帯は、

「ギリギリ…だったな……」

ハヤテの頬をかすめ、壁を貫通した。

(この硬い石壁を…なんて威力だ……)

ズズ……と音を立て、壁から帯が引き抜かれる。そこに空いた穴からは外の風景がよく見える。

(あれを食らうと…確実に殺られる……何としても避けなければ……)

ツンベアーは帯をムチのように振り回し始めた。そしてそれをハヤテに向かって投げとばす。

ボコッ!ボガッ!バコッ!

ハヤテはそれらをなんとか避けるも、次第に端へと追い詰められてゆく。

「ハヤテさん!」

ツンベアーが壁際のハヤテに詰め寄ったその時、ヒノアラシがツンベアーへ突撃し、ツンベアーに向けて《体当たり》を繰り出した。

ドンッ!

「グッ……」

それは決して大きなダメージを与える攻撃ではなかったが、ヒノアラシはツンベアーの足に後ろから攻撃を仕掛けたので、ツンベアーはバランスを崩し、

ズズゥゥン!

受け身も取れず、後ろへ倒れた。

「はぁ…ありがとう、ヒノちゃん。また、助けられたね。」

ハヤテはヒノアラシに礼を述べつつ、倒れているツンベアーから間をとった。

「うぐぐ…俺は…何を…?」

ツンベアーは頭を押さえながらゆっくりと起き上がった。

(自我が戻ったのか…?だとすると危険度は先ほどより…だが警戒して……)

「ツンベアー、お前は操られていたんだ、闇の力によってな。」

ハヤテは攻撃の構えをとりながら、ツンベアーにその身に起きたことを説明した。

「闇…あれが俺の思考を奪ったのか……」

ツンベアーはふらつきながら立ち上がった。

「ツンベアー、闇の力の危険度は実感できただろう。もう悪事は止めろ。」

ハヤテはツンベアーに投降するよう呼びかけるが、

「…ならば、俺が闇を操れればいいってことか……」

「なっ…違う!降参しろと言っているのだ!これ以上闇を使用してもお互いが傷つくだけだ!」

「関係ねぇよ、闇は戦闘にはなかなか便利なんでな。」

ツンベアーはそう言うと、再び体に力を込めた。腕や足が振動し、ツンベアーの体を黒いベールのようなものが囲んだ。

「くっ…なら、発動する前に食い止める!」

ハヤテは足に波導を集中させ、ツンベアーに強烈な蹴りを入れる。だが、

「足が…動かない…!」

ツンベアーの両手は下がっている。だが、ツンベアーの顔面を叩いた足が、その体勢のまま、ピクリとも動かないのだ。

「くくくくっ…やっとまともに発動したか……予想以上に時間がかかったな。」

足を何かに掴まれたハヤテは、動けないまま、持ち上げられる。ハヤテは逆さにされ、揺らされながら自身の足を見た。そこには、

「闇の…手だと…!?」

そう、ハヤテの足を掴んでいたのはツンベアーの操る闇だったのだ。

「俺は闇を完全に操れるようになったのさ……ここまで来るのにかなり時間を要したがな。」

ツンベアーは分裂させた闇の帯の一本を手の形状に変化させ、自分自身の手を動かすことなく、ハヤテの蹴りを止めていたのだ。

闇の帯でハヤテを吊るしながら、ツンベアーは他の帯を棒状にし、先端を針のように尖らせ硬化させた。更にツンベアーはその闇に氷技の力を込めながら、ヒノアラシの方を向いた。

「さて、想定内であったとはいえ、俺の暴走を止めてくれた嬢ちゃんにはありがたく思ってるよ。だから、」

「仲間を失う苦しみの無いよう…真っ先に殺してやるよ……」

次の瞬間、闇の棒がヒノアラシめがけ一斉に飛んだ。

「ツンベアー!止めろ!その子は関係無い!」

ハヤテが必死に叫ぶが、ツンベアーは聞く耳を持たない。ヒノアラシは完全に腰が抜けてしまい、動けなかった。

「止めろと…言ってるだろう!」

ハヤテは吊るされた体勢から、ツンベアーの顔面に《波導弾》を撃ち込む。だが、

「フン…効くか」

ツンベアーは盾状に展開した闇でそれを防御した。

「お前は…邪魔だ!」

そう言うとツンベアーはハヤテを垂直に投げ上げ、落ちてきたところに強烈なパンチを叩き込み、壁まで飛ばし、叩きつけた。

「ぐはっ……」

ハヤテはへこんだ壁からずり落ち、体へのダメージで動けなくなってしまった……

◆◆◆

冷気を放つ闇がヒノアラシの目前まで迫る。

「嫌…死にたくない……」

強く閉じられた目から一滴、涙がこぼれたその時、

ドンッ!

少女の体に強い衝撃が加わり、少女は勢いのまま地面を転がった。

「うう…何…?」

ヒノアラシが目を開けると、

「えっ…?」

先ほどまで自分がいたところに倒れるガブリアスの姿が目に入った。

「何で……」

そこにいるのか、そう言おうとしたが、あるものが目に入り絶句した。

「ああ…そんな……」

倒れているガブリアスの下……白色の石が赤く染まっている。そしてツンベアーが放った闇の棒……それが刺さっているのは……

「ガブリアス……お前…!」

ハヤテは傷だらけの体を動かし、ガブリアスの元へ這おうとするが、体が動かない。

ズズッ……

ガブリアスから闇の棒が引き抜かれる。刺さっていた部分は冷気によって血も凍りついている。

「どうして…わたしを…?」

少女の問いに、ガブリアスは力なく笑って答えた。



「お前が…好きだからさ……」



ズキッ……

(うっ……)

その言葉を聞いた途端、少女を鋭い頭痛が襲う。

ズキッ…ズキッ……

(痛い……)

頭痛に次いで、目眩までしてきた。

(な、何で……)

視界がぼやける中、少女の脳裏に何かが映った。

(これは…昔、お父さんとハハコモリさんと一緒に行った高原……)

その風景の中では、少女とリザードンとハハコモリが3匹でピクニックを楽しんでいる。

そこに「何か」がやってきた。3匹はそれを笑顔で迎えている。それは酷く歪み、判別が出来なかった……

……………………………………………

風景が変わった。今度はみんなで追いかけっこをして遊んでいる。少女は「何か」に追いかけられ、無邪気に笑いながら、逃げている。

その「何か」も酷く歪んでおり、それが何なのかは分からない。

……………………………………………

また風景が変わった。今度は雪山を少女と「何か」が歩いている。やはり「何か」は歪んでいる。

(これは…わたしの知らない風景……)

ヒノアラシはその風景を知らなかった。分かるのは、それがかなり昔のことだということだけだ。

その風景の中で、「何か」はヒノアラシに話しかけている。

「なあ、お前は俺が怖くないのか?」

「うん!おじさんのことが大好きだもん!」

少女はニコッと微笑んだ。

「ねぇ、おじさんはどうしてわたしを助けてくれるの?」

「ん?聞きたいか?」

少女はニコニコ笑っている。「何か」はそれを見て、ふふっと笑声をもらし、言った。



「俺も、『お前が、好きだからさ』。」



「あー、おじさんわたしの真似したなー!」

「真似じゃないさ、本当のことだって。」

「うふふ、冗談だよ。」

……………………………………………

(わたし…何で忘れてたんだろう……)

自分の心の中のぽっかりと空いた隙間でヒノアラシは溢れる涙を止めることもせず、うずくまっていた。

(でも、全て思い出した…)

ヒノアラシの記憶の中の「何か」、その歪みが消えていった。

(ピクニックの時にやってきたポケモンも、わたしと追いかけっこで遊んでくれたポケモンも、わたしに好きだと言ってくれたポケモンも!

…誰なのか…思い出した!)

強い思いを乗せ、少女は勢いよく立ち上がった。

(わたしの…わたしの名前は…!)

……………………………………………

◆◆◆

ポタッ……

闇の棒から一滴の血が滴る。赤く濡れる棒は空中をゆらゆらと揺れている。

「がははっ!まさかお前が庇うとはな!俺はてっきりハヤテだと思っていたがな!」

ツンベアーが腹を抱えて笑っている。

「それよりもどうしたんだ?そいつを刺してから動かなくなったな、嬢ちゃんよ。」

本当は今、ヒノアラシの意識は心の中にあり、ガブリアスの一言がヒノアラシの記憶の中で連鎖反応を巻き起こしているのだが、それをツンベアーは知る由も無い。

「まぁ、いいや。先に死にたいというのならそいつから殺してやろう。まだ息はあるようだしな。」

ツンベアーは闇の棒をもはや虫の息のガブリアスへ向けた。

「ぐっ…止めろ!ツンベアー!」

ハヤテは必死に体を動かし、地面を這おうとする。

「無駄さ、今度ばかりは助け船は来ない。お前は護るべきものを守れないのさ!」

ツンベアーのその一言にガブリアスが反応し、僅かに体を動かした。

「護るものも守れない……それは違うな……ハヤテは…何の関係も無い…俺たちのことを…必死になって…助けようとしてくれた……助け船が…来ないのは…お前だ…!『今度も』…お前の負けだ…!ツンベアー!」

時より咳き込みながらも、ガブリアスはそう叫んだ。

「ちっ、減らず口を……だったら俺の言ったことが正しいことを証明してやるよ!」

闇の棒が再びガブリアスめがけ発射される。

「ここまでか……すまないな……何もできなくて……」

聞こえるか聞こえないか程の声で誰かに向けて呟くと、ガブリアスは静かにその眼を閉じた……




「何も出来なくなんか無い!」



突如、神殿内に響き渡った声に、ガブリアスは閉じた眼を開き、ツンベアーは闇の棒を止め、声のした方を向いた。ハヤテもその方を見ると、

「ヒノ…ちゃん…?」

「何だぁ、あの青色の炎は?」

「ヒノ…!」

声の主、ヒノアラシは真っ直ぐにツンベアーを睨んでいる。その体からはかつて見た青色の炎が上がっていた……

◆◆◆

「あれは…『白陽の力』……だが、以前と様子が違う……」

ハヤテはヒノアラシの『白陽の力』を以前にも見ている。だがその時見た状態と今の状態が一致していない。

「あの時はただ技として放った炎が青色だった……だが今度は全身から……」


ツンベアーは闇の棒をヒノアラシに向けた。

「誰かと思えばお前か……なんか知らんうちに随分と見た目が変わったが……今更何のつもりだ?」

「わたしはみんなを護りたい……あなたなんかに里の平穏を壊されたくない!」

「なんかとは酷い言われようだな、だったら護ってみろよ!」

ツンベアーは闇の棒を真っ直ぐヒノアラシに放つ。

「もう誰も……」

闇の棒がヒノアラシに迫る。

「失いたくない!」

その途端、

ゴオオオオッ!

とてつもない熱気と覇気がヒノアラシから放たれた。

「くっ…何という熱気だ…!これは……」

凄まじい熱気で、ハヤテはヒノアラシを直視するとこが出来ない。

その熱気はヒノアラシに迫る闇の棒を止め、粉砕した。

「なっ、何だとっ!」

ツンベアーはこの予想外の事態に唖然としている。

「わたしは、あなたを許さない!」

次の瞬間、ヒノアラシは炎を纏ったまま、ツンベアーへ向けて突撃した。

「くっ…闇の防御!」

ツンベアーは目の前に自分の背丈を越す大きな闇の壁を作った。

「こいつの耐久力は抜群だ!お前の力でも破れはしない!」

ツンベアーは勝ち誇ったような笑い声をあげる。

ドオンッ!!

ヒノアラシは闇の壁に激突した。

「無駄だ!諦めろ!」

ヒノアラシの勢いが少しずつ落ちていく。

「所詮、お前らは俺には勝てないんだよ!」

ツンベアーのその言葉に、ヒノアラシは歯をギリギリと食いしばった。

「わたしは…負けない!」

その時、ヒノアラシの体の炎が大きく燃え上がり、

ピキ…ピキ……

「んんっ?」

バキィン!

「あっ!ばっ、馬鹿な!」

闇の壁を破壊した。そしてそのまま炎がツンベアーを襲った。

ゴオオオッ!

「ぎっ…ぎゃああああっ!!」

炎の勢いは止まらず、神殿の壁や天井に押し上げ、吹き飛ばした。


「うっ…傷が……」

その様子を呆然と見ていたハヤテだが、よく見ると戦闘で受けた傷が少しずつ塞がっていく。

それはガブリアスも同じだった。

「ううっ…何だ……体が…楽に……」

ガブリアスがゆっくりと起き上がる。その体には、血の跡はあっても傷は無かった。


炎の勢いが治まり、瓦礫が散乱する中、ヒノアラシは炎を纏って立っていた。側にはツンベアーがゴロゴロとのたうちまわっている。

ピカッ!

その時、ヒノアラシの体が光りだした。

「うっ、これは…まさか……」

その光は神殿の外で戦況を見ている里のポケモンの元にも届いた。


しばらくして光が治まると、そこには、

「えっ、わたし…?」

青色の炎を纏ったマグマラシが立っていた。

◆◆◆

「どういうことだ?進化は『光の泉』でしか出来ないはずだが……」

「白陽の力が関係しているのかもしれない。俺もよく知らないがな。」

ハヤテとガブリアスはマグマラシの元へ行く。

「あっ、ハヤテさん!大丈夫ですか?」

「私は大丈夫だが、ヒノちゃん…いや、マグちゃんと呼ぶべきかな?」

「ふふっ、何でもいいですよ。それよりも……」

マグマラシはガブリアスの方を向いた。

「わたし、ずっと忘れてたんです……でも、全て思い出した…ガブおじさん!」

そう呼ばれ、ガブリアスははっと驚いた。

「何でか、ガブおじさんのことだけ忘れてて…ごめんなさい……」

「いや、それは……」

ガブリアスは何かを言いかけたが、

「ウガアァァ!!」

突如、もの凄い叫び声が響き渡った。。

「ガァッ!ふざけやがって!」

ツンベアーだった。瓦礫を蹴り飛ばしながら、怒り狂っている。

「もういい!あの里はいらねぇ!全部消してやる!」

ツンベアーはそう叫び、巨大大砲の元へ跳んだ。

「しまった!止めろ!ツンベアー!」

ハヤテは叫ぶがツンベアーは大砲を構えた。

その時、

「砂嵐!」

ガブリアスがツンベアーの周りに砂嵐を発生させた。思わず目を閉じるツンベアー。その隙にガブリアスはツンベアーに急接近し、ツンベアーを大砲に押し付け、「縛り玉」で動きを止めた。

「ガブリアス!」

「ガブおじさん!」

ガブリアスは《砂嵐》を解除し、ハヤテの方を見た。

「ハヤテ、俺たちを助けてくれてありがとよ。おかげで俺は大切なものを護ることができた……」

次いで、マグマラシの方を見る。

「ヒノ…いや、マグ……よく頑張ったな……。この里を護るために必死で戦った……もう以前の弱いお前じゃない……立派に成長したな。」

「ガブおじさん……」

「だが、ごめんな……全てを思い出したお前と…また別れることになってしまうなんてな……」

「えっ……」

ガブリアスのその言葉に動揺するマグマラシ。それはハヤテも同じだった。

ガブリアスが何かを取り出した。

「それは『ワープ玉』、ガブリアス、何をするつもりだ……」

「お前たちをここから逃がす。」

ガブリアスのその一言で、どうやらハヤテは全てを悟ったようだ。

「待て!ガブリアス!そんな事をしても……」

ハヤテはガブリアスの元へ向かおうとしたが、ガブリアスによって「防壁の玉」で透明な壁を張られてしまった。

「いいんだ、ハヤテ。これが俺の『償い』だ……」

ガブリアスは悲しげな顔をする。

「ハヤテさん…ガブおじさんは何を…?」

まだマグマラシはガブリアスの真意に気づいていない。

「私たちをここから逃がし、1匹で全てを終わらせるつもりだ……」

ハヤテはあえてガブリアスの本心に直結する言葉を使わなかったが、マグマラシもハヤテの言葉の意味を理解したようだ。

「ガブおじさん!そんな事しないで!一緒に帰ろうよ!」

マグマラシの悲痛な声が響く。

「…こんな事になってしまったのは俺の責任だ……だが最後に立派なお前を見れてよかった……」

ガブリアスは真っ直ぐにマグマラシを見つめた。

「なぁ、マグ。記憶が戻ったのなら…最後に聞かせてくれ…お前の『本当の名前』を。」

ガブリアスはゆっくりとワープ玉を持った手を上にあげる。

(やはり本名ではなかったのか…ヒノアラシは……)

ハヤテはあえて何も言わなかった。

「わたしの名前は…わたしの名前は……」

マグマラシは俯きながら口を開く。そして、顔を上げると目に涙を浮かべ、叫んだ。


「わたしの本当の名前は『アカネ』!わたしは『アカネ』だよ!」


ガブリアスはその名前を聞き、一筋の涙を流し、そして満面の笑みを浮かべた。

「ありがとな…アカネ……」

ガブリアスはワープ玉を2匹へ向け、発動した……

「俺は…幸せだ……」

飛ばされる寸前、ハヤテはその一言が聞こえたような気がした……

◆◆◆

ヒュオッ!

「聖域の森」の出口……2匹はそこにワープさせられた。周りには捕らえられていた里のポケモンたちもいる。

「ガブリアス…!」

遠くに神殿が見える。ツンベアーを大砲に押し付けるガブリアスの姿が辛うじて見える。

「ハヤテさん!あれを!」

マグマラシの少女、アカネが空を指差す。そこには、

「…あれは隕石!まさか!」

《流星群》、それがガブリアスが最後に繰り出した大技だった。無数の隕石は神殿めがけ、真っ直ぐに降り注ぐ。
そして……

ドオオオオン!!

もの凄い爆音が空気を切り裂いて辺り一帯に響き渡る。

「ぎゃああああああっ!!」

その中でツンベアーの断末魔とも言える叫び声が聞こえてきた。

「ああ、そんな…ガブおじさん……」

アカネが呆然と倒れこむ。

「ガブおじさぁぁぁん!!」

少女の悲しい叫び声が響き渡った……

いかがでしたでしょうか。巨大兵器とか自分、何考えてたんだろうって読み返して改めて思いました。文章量が多かったので編集も大変でした。
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