救助を求むる者あらば 1

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読了時間目安:9分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

ここからが本編となります。
主人公はイーブイと、もう1匹のポケモン。
楽しんでいただけたら幸いです。
「おーい! 早く早く!」
 あわただしい声がした。声の主であるポケモン――ブイゼルは、ふだんは目標を前にしてもめったな事では大声を張り上げたりはしないはずのポケモンだった。彼の体毛にはオレンジと白が配されており、首まわりにはすっぽりと太めの首輪をはめたようにブイゼル特有の浮き袋があった。二本の足で立ち、ほっそりとした尾は根元で二またにわかれている。
「なになに、どうしたのっ!?」
「意識が無いんだ! ピカチュウ、緊急帰還してくれ!」
 ブイゼルのもとにあわてて駆け寄ってきたもう一匹のポケモンが、ブイゼルからの指示に応えるまえにぐったりと地面に倒れ伏している一匹のポケモンを見た。
 ピカチュウと呼ばれたそのポケモンは、やや濃い黄色の体毛に、こげ茶色の横じまを数本、背中にはしらせている。二本の耳はすっと長い。それとは対照的に、尾はかみなりをかたどったかのようにギザギザと折れ曲がっている。尾の先端は、メス特有の丸みを帯びたハート形の窪みがある。背はブイゼルよりも若干低いようだ。
 ブイゼル、ピカチュウとも、同じ青色のスカーフを首に巻いていた。
 倒れているポケモンは、彼らと同じほどの体格だった。見たところ外傷は無いようだが、呼吸が不規則だった。息をすってはくたびに上下する背中が、小刻みに鳴動している。
「りょうかいっ! ――でも、依頼の救助は? ルイ・・・・・・ブイゼルはどうするの?」
 ピカチュウはすぐに彼女みずからがルイと呼ぶブイゼルに同意すると、銀色のバッジを取りだし最後に疑問を口にした。
「大丈夫、一匹でこなせるから。・・・・・・頼んだよ、ユウ!」
「・・・・・・りょうかい!」
 ピカチュウことユウは、倒れているポケモンに触れ銀色のバッジを胸に念じた。するとまもなく、光のカーテンが彼女と倒れたポケモンを包みこみ、ゆっくりと消えていった。

 おおきな湖が空からの強烈な光を反射し、それを囲む山々をより青く映えさせる。これほどの日差しが湖を照らしていては、湿り気をおびた空気によってむせ返るような暑さを感じそうなものだ。しかし多くのポケモンたちが住まう湖畔の集落には、どこから訪れるのか涼やかな風が通り抜けていく。
 集落にはいくつもの建物がならび、そこを出入りしているポケモン達が笑いあう姿を見ると、この場所に平和がもたらされている事を感じさせた。ところどころ、商売を営むためだろうか、木でくみ立てられた棚や荷台が戸外に設置された建物もあった。
 ここに暮らすポケモンの種類も、多種多様だった。くさやみずタイプのポケモンこそ似合いそうなこの町――町と呼んで差し支えないだろう――だが、いわ、ほのお、はがね、ゴーストタイプなどが当たり前のように歩いたり、浮遊したりしている。
 『本来の救助』を終えてブイゼルのルイが帰還した先は、この町でもひときわ大きい三階建ての建物だった。
 建物の一階部分は大きめな出入口が開け放しになっていた。いや、開け放しなのではなく、そこにはもとより扉がなかった。さらに、最上階にあたる三階部分の壁にも、大型ポケモンが一匹は楽に通れそうな足場付きの穴があいている。雨がはいりこむのを防ぐためだろうか、こちらには木製の扉がついている。
 ルイが、救助したポケモンとともに、建物のすぐそばへと不思議な光とともに現れた。そのまま、一階の出入口へとポケモンをまねきいれる。
「とくに怪我はないようだけど・・・・・・念のため、休んでいってくださいね」
 ルイは、静かでゆったりとした温かみのある声で、まだ幼ないクモのような姿をしたポケモン、イトマルに語りかけた。イトマルは照れたように目元をほころばせてみせ、出入口から入ってすぐに広がる大部屋に設けられた、藁のベッドに向かっていった。
 大部屋ではイトマルの他にも、何匹かのポケモンがベッドで休んでいた。けがの治療をしているポケモン、べそをかきながら何かをうったえているポケモン、それをなだめるポケモンもいた。
 要するに、ここは町周辺のエリアで倒れたポケモンを救助して連れ帰り、かんたんな治療や休憩場所を提供する、救護所の役割をもっているのだった。
 ルイとユウはこの建物のメンバーとして所属し、二匹で『LUCKS』(ラックス)というチームを名乗り、活動していた。この建物のメンバーはその役割をもってそこを『救助基地』や、単純に『基地』と呼んでいた。『基地』はもうひとつ重要な用途があるが、その事情は救助のそれとやや複雑にからみ合っている。 
 ルイは迷子になっていた間にたまった疲れを追いやるよう、気持ちよく寝息をたて始めたイトマルを見届けると、先に戻っているだろうパートナーのユウを探した。
 ルイはあの後、イトマルの救助を続行している最中もずっと、倒れていたポケモンとその状況に抱いた違和感を解消できないでいた。
 ここらでは見かけないポケモンだった。そのうえ、今回彼をみつけた場所は特に気性が荒いポケモンが住みついている場所ではなく、この町からもそう離れていたわけではない。他のポケモンに襲われて、とか道に迷って、とかいう理由で倒れていたとはどうも考えにくかった。よほど遠くから来て、町を目の前にして倒れた旅のポケモンだったのだろうか。
 頭の中をモモンの実のヘタでつつかれるような感覚を無視できないでいたルイは、いつもより急いで救助を終えてきたのだった。
 ルイが治療をしている仲間にユウの居場所を尋ねると、緊急帰還し連れてきたポケモンとともに、二階に上がっていったという。
(救助したポケモンを二階に・・・・・・? どうしたんだろう・・・・・・?)
 ふだん救助して連れ帰ったポケモンは、処置担当のポケモンが建物の一階で診ることになっている。その方が素早く診られるし、わざわざけがをしたポケモンを抱えて二階まで上がるのも大変だった。特に、緊急を要するときはそんなことをしていられるはずがなかった。一階の入り口が大きめにつくられているのも、たとえ大型のポケモンが搬送されてきても、スムーズに入れるようにしているためだった。
 そういうわけで大抵の救急用具や治療具などは一階にそろっているのだが、二階に運んだということは何か理由があるんだ、とルイは確信した。
 さっきまでの違和感とその理由がうまくシンクロすれば、すっきりするんだけど。そんなことを考えているうちに、二階のフロアにいるユウを見つけた。
「ルイ! 早かったね。どうだった? イトマル君は無事?」
 二階に上がってきたルイに気づいたユウは、ピカチュウにしては長めの耳をぴんと立て、救助を終えたらしきパートナーにのもとに駆け寄った。
「うん・・・・・・特に怪我もないみたいだったし・・・・・・すぐ連れ帰ってきたよ」
 ことも無げにそう言うと、ルイは二本の尻尾をゆらしながら、少し微笑んでみせた。
「さすがルイちゃん♪ ゆくゆくはルカさんかカイナさんだね!」
 そう、ユウが明るくからかうと、ルイは少し大きめのかばんをぱかっ、と開けて見せた。救助出発前にいくつか用意したはずの『しゅんそくのたね』や『てきしばりだま』が、すっかり無くなっていた。何もかもがうまくいったわけじゃなかったよ、というサイン。
 ユウはルイと顔を見合わせると、笑いあった。
 ふと、それどころじゃなかったと、ルイは我にかえった。
「そうだ・・・・・・ユウが連れ帰ったポケモンは? ずっと気になってたんだけど・・・・・・」
 ルイからの当然の疑問に、ユウはすこし耳をたらしながら答えた。
「それがね。あの後ここに戻って診てもらったんだけど、あの子、ちょっと珍しい症状なんだって」
 珍しい症状。それが、二階に運んだ理由なのかな。ルイは続けて聞いた。
「一階じゃ手に負えなかったってことだよね・・・・・・? そんなにひどいの・・・・・・?」
 予想以上に事態は重かったんだ、そう思ったルイは、真剣な表情にもどっていた。それを見たユウは焦りながら、首をふった。
「う、ううん。さっきね、カイナさんが降りてきて診てくれたから、けがは心配ないよ。『すぐには無理かもしれないけど、数日もたてば体力ももどるよ』、って」
 命に別状はない、それを聞いたルイは、沈みかけていた気分に空気を吹きこんだよう、すこし表情が柔らかくなった。
 なら、何が珍しい症状だったのか。いや、いまユウは『けがは』心配ない、と言っていた。ほかに何かあるということだろうか?
 その真意を聞く前に、ユウはちょっと困ったといった目でルイを見て、つけ加えた。
「ただね・・・・・・あの男の子、イーブイっていうポケモンみたいなんだけど、その・・・・・・倒れてた以前の記憶がないんだって、カイナさんが・・・・・・」

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