第参拾参話 The truth painted in a lie

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読了時間目安:13分
エルフィ「嘘で塗り固められた真実、皆が信じている常識も嘘かもしれないね」

「……そうですよね、レディさん」

 僕はレディさんの顔をジッと見つめ、そう宣言した。僕に集中していた皆の目線は、レディさんに集中するが、当のレディさんは全く表情を崩さず、僕の言葉にゆっくり首を傾げた。

「何をおっしゃっているのやら。私には到底不可能ですよ」
「そうよ、レディは常に私と一緒にいたし、開店前も8:30からは貴方と居たり、事務所のカメラに映っていたじゃない」
「ええ、そうですね。そりゃあ、そうですよ。だって、犯行時刻は、僕達が誤認していたものなんですから」
「誤認? 間違っていたってことか?」
「ええ、僕とレディさんがルナのロッカーに服がある事を確認した8:30から、ルナが来てロッカーを見た13:00までの間が犯行時刻……これ自体が間違えだったんですよ」
「何を馬鹿な事を。貴方だってちゃんとルナの服がある事を確認したでしょう?」
「ええ、しましたね。“洋服”は、ですけど」

 一瞬、レディさんの表情が強張ったのを僕は見逃さなかった。

「ハコモさん、確認の為に聞きます。“技術さえあれば”ルナの今来ている服は作れるんですね?」
「……? ええ、そうよ、それが……!」

 ハコモさんが僕の言いたい事を理解し、驚愕の感情が顔にでる。

「レディさんは、自分でルナの服と同じものを作ってきて、それを僕に見せる事で犯行時刻を誤認させたんです。ご丁寧に、間違えたと言ってルナのロッカーを開けてまで、ね」
「じゃあ何? 犯行時刻は8:30以前だって言うの?」
「そうですよ、ハコモさん。監視カメラの8:30以前……そうですね、レディさんが来た時から再生をお願いします」
「え、ええ。分かったわ」

 ショックからか、フラフラと足取りが覚束ない様子でハコモさんは監視カメラの映像を流す。その映像には、僕の思った通りの映像が流れていた。

8:18 レディさんが裏口からの扉から事務所に入って、そのまま更衣室がある扉から出ていく様子が事務所内の監視カメラに映っている。
8:20 レディさんが更衣室の扉から戻って、そのまま裏口への扉から出る様子が事務所内の監視カメラに映っている。
8:30 僕と一緒に裏口からの扉から入ってくる様子が事務所内の監視カメラに映っている。

「犯ポケがしたであろう行程は“更衣室に向かう”“窓から服を出す”“外に向かう”“服を回収して裏口からアトリエに行く”“破いた服を更衣室の窓から入れる”“更衣室に戻りルナのロッカーに入れる”。この行程だと、更衣室に向かう映像が2回あって、外に出る映像が1回あれば可能です。まず更衣室に向かう1回目、8:18の出来事です。そして外に出た8:20の映像。この時点で、ルナの服装は窓から出しており、外から回って回収した後、その服をアトリエでビリビリに引き裂き、再び更衣室の窓から中に入れる、という監視カメラに映らない行程を行なっている訳です」
「更衣室に向かう2回目はどうしたのですか、私と貴方が会ってしまった以上、更衣室にはロッカーに入っていない状態の洋服があるでしょう?」

 声が震えている、自分でも見苦しい反論だと分かっているのだろう。申し訳ないけど、容赦する気は無い。

「2回目の更衣室に向かう最中に、偶然にも早く来てしまった僕と出会ってしまったんですよ。元々、ルナの服が無事である事を誰かと確認する為に準備はしていたんでしょうが、まさかここまで早く来るとは思っていなかったレディさんは、僕にある事を言うんです」
「ある事? それは一体何だ?」
「“エルフィさん、一応ガスの元栓がしまっているか確認お願いしますか”ってね。このまま僕が更衣室に向かってしまえば、窓から更衣室に入れた服がバレてしまう、だからレディさんは僕に元栓を確認する様に指示して、その間にレディさんはボロボロの服を回収し、ルナのロッカーに入れた。思えばおかしいですよね、普通ガスの元栓は前日に閉まっているか確認している筈ですし、ロッカーを間違えたのはともかく、わざわざ見せびらかすかのように自分で作った服を見せつけますかね?」
「…………確かに、それはおかしな話だわ」
「そして、何よりレディさん。ラッチーさんを疑ったり、ルナさんの自作自演だと言い出したのは貴方ですよね。まるで自分の犯行を隠す為に誰かに押し付けようとして。結果、それが自分の首を絞める事になりましたけど」
「…………わ、私が怪しいのは分かりましたわ。ですが、私が服を破いた瞬間は映っていないですし、ルナの自作自演じゃないと証明するのも出来ないですよね」
「……最初の議論に戻りましょう、犯ポケは何故ルナの服装を破いたのか?」
「それは、ルナに恨みがあるからじゃないのか? だから知り合いである俺達が呼ばれたんだろ?」
「ええ、そうですね」
「それが一体なんだと言うんですか!?」
「……気付いていますか、レディさん。貴方、この話し合いの最中、ルナの事をずっとルナって呼んでいるんですよ」
「そんなの気分の問題でしょう!」
「いいえ、貴方は少なくとも昨日はルナの事をルナさんと呼んでいた。もしも貴方が犯ポケじゃなくて心に余裕があるなら、普段通りにルナさんと呼んでいたでしょう」
「それだけで私が犯ポケ扱いですか! 呼び方を変わった程度で!!」

 レディさんに溢れていた気品というものは、今や全く見る影もない。いい加減、レディさんに犯行を認めて貰う為にトドメの証拠を突きつけよう。

「所で、レディさんの作った謂わばアリバイの為の服はどこに置いたんでしょうね?」
「え? そんなのルナのロッカー……に入れちゃダメだね」
「レディさんは、開店から閉店までずっとハコモさんといたから、レディさんが自分で作った服を隠す為の時間は限られます」
「分かったぞ、エルフィちゃんと着替えてた時間だな?」
「ええ、僕にその服を見せて、服の無事を確認させた後、ルナのロッカーにしまう振りして……」

 僕の考えが正しければ、そう思いながらレディさんのロッカーの前に立つ。そして、そのロッカーを思いっきり開け放つ。

「自分のロッカーに、しまった訳です」

 そこには、ルナの服そっくりの服が乱雑に置かれていた。その瞬間、レディさんは膝を崩して、顔を覆った。

「……これが、事件の真相です」
「…………レディ、本当なの?」
「……ええ、そうです、そうですよ……私が、犯ポケです…………」

 最早言い逃れは不可能と感じたのだろう、レディさんは自身の犯行を認めた。

「どうして、こんな事をしたの?」
「私は……貴方に憧れていました……この店で副店長を、いつかは店長を任せると聞かされた時は……とても嬉しかった。……だけど、貴方はルナに期待している。私のデザインを、何一つ採用してくれないで、ルナがデザインを出した服を採用して、私に着させた。だから、許せなかった! 私は、結局ルナの様に期待されていないと!」

 レディさんが着ている服、それはルナがデザインしたものだった。誰よりもハコモさんを慕っていたレディさんは、ルナのデザインが認められた事で、何かが壊れてしまったのだろう。ハコモさんも、ルナも、何か思う所があるのか、神妙な顔で黙っている。キノさんは気まずそうな顔で、同じ様に黙っていたが、ラッチーさんだけはケロンとした表情でレディさんに近付き、自身のふわふわの体毛で、レディさんの頬を叩いた。

「…………っ」
「あんた、そんな程度でルナの服を無茶苦茶にすたの?」
「な、何が分かるんですか……貴方に……!」
「分かるわよ!! 私なんて、ハコモさんにデザインを見せてはダメだしを喰らうのよ! それを直しても、まだダメだしするの! 私の没デザインなんてもう100を超えたわ! だけど私は評価されているルナを妬む事も嫉む事もしないわ! どうしてだか分かるかしら!?」
「………………」
「ダメだしをされているって事は、その分学べるって事よ! 評価されているルナはそこには気付けないんだもの! それなら、いつしかルナの立場を奪うのも問題じゃないでしょう!?」

 ラッチーさんの魂の叫びは、レディさんの涙を止め、顔を上げさせた。

「自分の力を上げるのは確かに難しい。でもね、相手の力を陥れようとするには、自分の力が落ちる可能性を危惧しなければ出来ないのよ。見える茨の道と、見えない茨の道。誰しもが見えないからってそっちを歩もうとする。だけどね、それが間違いなの。見えないって事は、分からないって事。分からないって事は、不安って事よ。不安に怯えながら生きるなんて、嫌でしょう?」
「……そう、ですね。こんな気持ちになるなら……やらなければよかった……」

 レディさんの、その悲痛な顔付きは嘘を付いている様には思えなかった。……とは言え、ここからは僕の出る幕じゃない。ここからは、レディさんと、ルナ、ハコモさんの問題だ。
 レディさんの顔をジッと見つめながら、腕を組んでいたハコモさんは、ゆっくりと口を開いた。

「……ボロボロになった洋服は、どう直しても元のデザインにはならない。それは、信頼にも同じ事が言えるのは分かるわね」
「…………はい」
「…………だけど、その洋服がまた違ったデザインを見せてくれる。今回の事で、貴方の気持ちが痛い程分かったわ。今回の事がなければ、一生気付かないくらいに」

 ハコモさんは何か負い目を感じる所があるのか、複雑な表情を浮かべて自身の頭を掻く。

「……私は、今回の事は不問にしてあげようと思うわ。甘いんじゃないかって言われても、私はデザインの為には鬼になれるけど、デザインを好きな子には鬼になれないわ」
「……私も、レディさんを許そうと思います。私、ハコモさんに認められて天狗になっていた。このままじゃ、ずっと天狗のままだと、そう思ったんです。だから、気付かせてくれてありがとうございます」
「や、やめてくださいよ……私は、私は……」

 レディさんに微笑みかけるハコモさんとルナに、ついに耐えきれなくなったのかレディさんの瞳からは大粒の涙が溢れ出す。

「やれやれ、これにて一件落着って奴か」

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 そんなこんなで一悶着はあったものの、僕は激動のアルバイトを終えた。最終日には、皆に惜しまれつつ、また遊びに来てねと優しい言葉をかけてもらった。僕自身もいい経験になったし、お金も手に入った。これでようやく憧れのアルセ・ウヌス図書館に行けるってものよ。
 そうそう、そう言えばハコモさんに新しい服を作ってもらったのだ。一緒にメイド服の方も押し付けられそうに、というか押し付けられたけど、スーツとインバネスコート、そして鹿撃ち帽。ハコモさんが、“これなら名探偵だ”とデザインしてくれたのだ。まぁ、流石に普段いつも着る訳じゃないけど、たまに家の中で着て、名探偵ごっこを楽しんでいたりする。
 メイド服はタンスの肥やしだよ、2度と着る事は無い。

Q:エルフィ君、前に悪タイプ以外なら考えている事を読み解く事が出来るって言ってませんでした?
A:エルフィ「……それで犯ポケを確定させても、犯行を認めさせなきゃ意味が無いでしょ?」
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感想

お名前:しろあん さん
はい、外れました((
いや、レディさん死ぬほど怪しいな、とは思ってたんですけれど、どうやって犯行に及んだのかが分からなかったのです!!(更衣室に行ったタイミングがエルフィと一緒の一回だけだと思いこんでいたから)
ちなみに私の答えはラッチーさんでした。理由はなんか私怨がありそうだと思ったからです((
やり方は8:30以降に窓が開いてるのを外から確認したラッチーさんが、衝動的にアトリエに侵入、「にせ」のボロ服を作成して着替えの際に入れ替えたのかな、と・・・(よくよく考えれば、ハコモさんでも服を作るのに1時間掛かるのに、それより早く製作するのは不可能ですね)

とにもかくにも真相が解明され、一件落着となったようで良かったです!そして私は最後のラッチーさんの強い情熱に心を打たれました。疑ってゴメンナサイ。
次回も楽しみにしていますー
書いた日:2018年05月16日
作者返信
作る側としては別解が出ない様にしつつ、尚且つ犯ポケをすぐに特定出来ない様に頑張ったつもりなので、楽しんでもらえて何よりです。(授業を聞かず、時間表と店の見取り図と睨めっこした甲斐がありました)
書いた日:2018年05月16日