四足歩行という問題-1

※作品によって表示に時間がかかります
読了時間目安:6分

 朝が来た。ポケダン世界、二日目。窓を覗くと曇り空。すぐ近くに砂浜のある大通りがあった。ちらほらと見えるのは人影ならぬポケモンの影。相変わらずのポケモン達の世界だ。体もルクシオのまま。

 結局夢オチなんてことはなかった。いや、これから唐突に夢から覚めるという可能性もあり得るかな。

 起きた時点での心情はいまひとつなものだった。昨日はレンテ達に恥ずかしい所を見られてしまったな、とか、相変わらず見世物の世界なんじゃないか、とか。それにやはり気持ちが落ち着かないとはいえ、世界を救うという行為をしないという決断に若干の罪悪感は感じてしまう。まあ、まだ何も起こっていないから杞憂であることを願いたいんだけど。

 ここで考えれば考えるほど深みにはまっていく感覚に俺は気づく。こんなことを考えても仕方ない。こういう時はとりあえず、シャワーだ。なんとなくだが、人間の頃も気持ちの整理のためにシャワーを浴びていた覚えがある。ケラシアさんに浴びれる場所があるか聞いてみよう。



 ケラシアさんにシャワーの場所を聞くと、嬉しいことに宿内にあった。お風呂まであるらしい。「え? お風呂まであるんですか?」と聞くと「どちらも人間の皆さんの発案ですよ」とのこと。霧の大陸に降りた人間の方々、最高だな。



 ということで浴室(男性用と女性用に分かれていた。無論男湯)に来てシャワーを浴びたのだが…… 四足特有の問題に至る。

「やばい。体拭けない」

 頭にタオルを乗せ、水を滴らせながら、ロッカールームの前で俺は立ちすくんでいた。

 そう。体をブルブル震わせない限り、体の水気を取れない問題。一応前脚を手のように使って物(今回の場合はタオル)を持つことができるのだが、それでは後ろの方に届かない。えぇと…… 流石に(元)人間としての尊厳があるので体ブルブルは避けたい。けど、するのが常識なら、終わる。

 どうしよう、これ。ほとんど常識だろうし、聞くのもためらわれるし、何より近くにポケモンがいない。えぇ…… 体震わせるか? 震わせるのか、俺!? いや、他のポケモンが来るかもしれないし、もし拭いてもらうのが常識なら恥ずかしすぎて死ぬ。どうする? 俺、震えてみるか、ポケモンが来るのを待つか「あぁ、すみません。通ります」

 目の前から声がかかる。思わず上を向くと、声の元はルカリオ。格好いい。彼はもう一度俺に向けて話した。

「ちょっと通りたいんだけど、いいですか?」

 完全に一回目は聞けていなかっただけに俺はかなり焦って答えながら退く。

「あっ! すみません! すみません!」

 ごめんなさいね、と言いながらルカリオは俺の前を通る。その時だ。

「……ドライヤー苦手なんですかね? お拭きしましょうか?」

 救世主かと思った。やはり体ブルブルの選択肢はなかったようで、しなくてほっとした。

 そして、風呂場の壁に取り付けられた機械がドライヤーだというのには全然気づかなかった。



 おい。ポケモンの世界にも機械あるじゃん。どういうことだよ。



----------



「けど、まさか子供じゃあるまいし、体を拭かれるとは思わなかった。それに機械もあるとは思わなかった」

 木の実のソースのかかったカットオレンを食べながら、俺は少し不機嫌顔でレンテにそう呟いた。

「あぁ。詳しくは知らないけどドライヤーは『ねっぷう』っていうワザをため込んでおいてボタンを押すと一定時間少しずつ出してるって話だね。機械で温風を作ってるわけじゃないよ」

「いや、それほとんど機械っていう次元だから。絶対頭いい元人間が作ったろ」

「うん」

「やっぱりな」

 レンテの「当然だよ?」と言うような軽い「うん」に俺は答えた。

「それに大丈夫だよ。時々ドライヤーが苦手なポケモンはいるよ」

「でも少し恥ずかしいわ…… あぁ、辛い」

「でもなんだかんだでそのルカリオさん、コウさんだっけ、とは意気投合したんでしょ? 良かったじゃん」

「まぁそうだけどさ……」

 そう。そのルカリオのコウさんとは体を拭いてもらってる間にシャワーの良さやお互いの身の上話(元人間は流石にバラしていない)をして仲良くなった。なんだかんだで二枚目のポケモンと友達になれて嬉しいし、「探検に誘ってもらったら駆けつけるよ」とも言って下さった。でも、体拭いてもらって繋がる、って。このシチュエーション誰得だよ、本当に。結構恥ずかしい。



「まあそれは置いといてさ、今日まず行きたいところがあるの。ご飯食べたらすぐ付いてきてもらってもいい?」

「行きたいところ? まあ、いいけど」

「良かった! じゃあしばらくしたら宿の入り口前に集合で!」

 レンテは笑顔でそう答えると、食べ終わったカットオレンの食器を厨房まで運んで二階へと戻っていった。
前に戻るもくじ次へ進む

読了報告

 読了報告及び評価をするにはログインが必要です。

感想フォーム

 この小説は感想を受け付けていますが、感想を書くにはログインをしている必要があります。

 そのため、感想を書くにはアカウントを所有している必要があります。

感想

 この小説には感想がついていません。