愛は世界を救わない

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 鈍色の空へ書き殴る止めどない白線。


 「やまないね」


 カイオーガを復活させたかのような大雨に、『せせらぎの丘』は蓄えた水を溢れさせんばかりだ。


 「雨は好き?」
 「キライ」
 「(きたな)い、から?」


 近隣住民は既に避難済み。やせいポケモンの大半も安全なところへ逃げ去り、湖に残ったのは少女一人と獣2匹。


 「――ねぇミヅキ」
 

 長雨に負けず劣らずの沈黙が、ふと切れる。
 少女は見る。粗暴な白線を。眼前で赤い殺気放つ魚群を。そして


 「さっさと帰ろ」


 隣で濡れた笑み溢す、ウルトラビーストを。





▷◐◁◈愛は世界を救わない◉▷◐◁




 
 
 「……分かるわ、フェロ。寒いし眠いし冷たいし。シューズだってもうぐしょぐしょ」
 「ボクだって(はね)が重い」
 少女が脚を上げる。ぶら下がるは両足を巻き込み溺死した、自慢のトレッキングシューズ。
 ビーストは躰を細かく振動。半透明の翅から無数の水滴が転がり落ちる。さながら薄幸少女の緩やかに下がる目尻から、泪の儚く落ちるように。
 心なしか強くなった、雨。このままだとグラードンでも出てきそうだな、と少女は思う。というか願う。あー早く終わりますように。そして早く帰れますように。ぬくぬくのオフトゥンにインして朝までぐっすり眠れ「ぎょえーっ!!!」

 魚群(ヨワシ)は、吼えた。ささやかな祈りを掻き消すかのような咆哮。それは水を走り森を抜け遠く町まで達するだろう。怯える町へ。ぬらりとした巨躯を振動、否震動が、伝い、滴が水面(みなも)がびりり震えた。とっとと始めたいらしい。雨のわんさか降っているうちに。
 少女は沈考する。今行けばオフトゥンならぬ敵の懐へインすることになる。後の展開は(マンキー)でも分かる。
 戦況、圧倒的不利。
 「あーもう限界。帰りたい」
 とはいえフキゲンなのは隣も同じで。
 「フェロ、果報は寝て待てって言うでしょ? 今は天気を」
 「カホーがなんなのか知らないけど」
 振り返ったビーストは
 「寝て待つのは、ボクのやり方じゃないな」
 全時空いち美しい、咲みを



 迅



 置いてきぼり
 に。し、
 駆けた。超速。舞い上ぐ飛沫。咲みの残りを誰も見ていない。少女の目は、水上を走る美しすぎるケダモノへ。
 「ぎょいえーっ!!!」
 魚群の両目は後悔している。よりによって今日、(まなこ)を担当するんじゃなかった。追えない。見えない。目にも止まらぬ両脚の動き。体勢低く。廻旋速く。雨より早く。天翔けた飛沫の波へ還るより、(はや)く。
 片脚は水面(みなも)を離れ、ひらり。180cm25kgの痩躯は軽やかに、跳ね。
 「ぎょやいえーっ!!!」
 それは真白き額より放たれた。らしい。空っぽの口へぶち込まれた〈きあいだま〉に、顎のヨワシが四散する。追って(まなこ)を眩ます水沫(みなわ)。左脚の可憐な悪戯。
 追撃。〈どくづき〉。情けはいらぬ。ばらばらになった口許に、集まろうとせんヨワシへ突っ込む。堪らずこぼるる艶やかな笑み。右脚を染める妖しき紫。ヒールは真青き額を射抜いた。
 いとも容易く(むれ)は離散。
 本体はしぶとく我慢。崩壊する顔面の背後、尾のヨワシらが泡沫(うたかた)に紛れ狙いを定める。恍惚と(まなこ)を突き突き突きまくるケダモノ、そのがらんどうの双翅めがけ、海ごと剥がした〈アクアテール〉を
 「右ィっ!」
 痩躯よじらせ避ける。
 僅差で。
 ヒールは空を蹴り上げた。雨だけを切った魚群の分厚い尾ひれ。の。先に。天使のように。降り立つ。


 「はい、おしまい」


 悪魔の笑みを携えて。




 ちゅどーん!!!
 という効果音の似合いそうな2発目の〈きあいだま〉、その威力が僅か弱まったことを、一人と1匹だけが知っていた。
 「ぎょあえーっ!!!!!」
 魚群は呻いた。それは水を走り森を抜け遠く町まで達するだろう。歓喜に湧く町へ。ぬらりとした巨躯から1匹、また1匹が、離れ、滴が水面(みなも)がわらわら震えた。やっとこさのチャンスらしい。〈たんどくのすがた〉(独りぼっち)へ戻った隙に。
 波紋に隠れ、どさくさに紛れ、少女はラプラスを乗りまわす。手綱を解く。立つ。照準を合わす。曇天の眼が獲物を見つめる。安全な、だが確実に入る距離を保って、未だ(オーラ)纏う超獣(ウルトラポケモン)


 誰も知らない、ボールを投げる。







 「ミヅキ」
 「ん?」
 「痛い」
 「知ってる」

 180cm25kgのウルトラビーストは水面にぷあぷあ浮かんでいた。黄金(こがね)冠した頭の先、(たお)やかな触覚を雑に掴まれ、引っぱられ。
 しばらくの、沈黙。触覚に加え降り注ぐ陽射が痛々しいほどの晴れ。ラプラスはゆったり泳ぐ。アローラの気まぐれな神が寄越した祝福を、一心に浴びるかのように。

 「手応えは?」
 少女は問う。
 「半額以下」
 ビーストは答える。
 「それ、絶対スイレンの前で言わないこと」
 少女は笑う。
 「はいはい」
 ビーストもつられ、笑う。


 片手に手綱を、片手に触覚を握る少女は名をミヅキという。後ろに浮かぶは超野獣(ウルトラビースト)、フェローチェ。
 「とりあえず、」
 彼女らの目的はひとつ。いや、ふたつ。アローラに蔓延る『超獣(ウルトラポケモン)』を捕えること。そして
 「これで一週間は食事に困らないね」
 温かい飯を喰らうこと。






時は未知 舞台はアローラ
チャンピオン生まれし島を襲う
新たな脅威はウルトラポケモン
奴らを捕獲し飯のタネにする
最強少女とウルトラビースト
一人と1匹 合わせて名づけて
〈ウルトラ・ポケモン・ハンターズ〉!!

『世界なんて、救わねぇ!!!』





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感想

お名前:きとら さん
うひょーっフェローチェさんかっこいい!
ヨワシの群れとの戦いも小江戸さんらしさ炸裂といいますか、非常に軽快で爽快感溢れるスピーディーな展開でしたね! フェローチェの流れるような技が目に浮かぶようで…アクアテールをかわす描写のなんと見事なこと!
今後戦闘シーンを書く際にはいくらか参考にさせて頂きたく…!
世界を救わない少女とフェローチェの物語、続きを楽しみに待っています!
書いた日:2017年10月10日
作者返信
きとらさん
おひゃーっ早速の感想感謝ですっ! フェロ(フェローチェ)は実戦でも素早さ重視なところがあるようで、速さをどう表現するか今も四苦八苦しております笑
物語はまだまだ始まったばかり、今後とも応援いただければ幸いです!  小江戸
書いた日:2017年10月12日
お名前:円山翔 さん
ウルトラポケモンという聞き慣れない単語を噛み砕いて解釈してようやく一つの答えに辿り着いたわけなのですが、なるほど!主ポケモンを捕獲しようと……!
ウルトラビーストではないかと思い、しかし既にフェローチェを仲間にしている時点でウルトラビーストの線はなさそうだと思っていましたが、これは驚かされました。Buckarooのお二人同様、掛け合いのテンポが軽快で、良いコンビだなぁと思ってしまいました。
……実はまだゲームではここまで辿り着いていないんですが、ヨワシってぎょえーって鳴くんですね。魚影からきた鳴き声でしょうか……戦闘中の一つ一つの動きが美しいんです。空想の中で、その光景を目で追ってしまうんです。私もこんな美しい戦闘が書けるようになりたいなと思いました。
書いた日:2017年10月12日
作者返信
円山さん
感想感謝です! そしてネタバレ失礼しました!←
戦闘シーンへのお言葉も嬉しい限りです。指示されて動く普通のポケモンバトルと違い、フェロが勝手に暴れ回る(笑)ので、今後も分かりやすくかつ臨場感のある描写を心がけたい所存……
UPの詳細も後日明らかにされる予定です。続きも読んでいただければ嬉しくてフレアドライブします! 改めまして、感想ありがとうございました!  小江戸
書いた日:2017年10月12日